わにの恩返し(わにのおんがえし)

昔話

あらすじ

むかしむかし、川の近くに心優しい若者が住んでいました。

ある日、若者は川辺で傷ついたわに(地域によっては龍や大蛇として伝わる)を見つけます。村人たちが止めるなか、若者は見返りを求めることなく、わにを助けました。

やがて元気になったわには川へ帰っていきますが、若者から受けた恩を忘れてはいませんでした。

「受けた恩を忘れないこと」「見返りを求めない優しさは、巡り巡って返ってくること」を伝える昔話です。


本文

むかしむかし、川の近くの小さな村に、一人の若者が住んでいました。

若者の暮らしは決して豊かではありませんでしたが、困っている人や生き物を見ると放っておけない、とても優しい心の持ち主でした。

ある日のことです。

若者が川辺を歩いていると、少し先の草むらに何か大きなものが倒れているのが見えました。

「なんだろう?」

そっと近づいてみると、そこにいたのは大きなわにでした。

わには体に傷を負い、ぐったりと横たわっています。

そのことを知った村の人々は、若者を止めました。

「危ないから近づいてはいけないよ。」

「元気になったら、お前が襲われるかもしれないぞ。そのままにしておいた方がいい。」

若者も、初めは少し怖くなりました。

けれど、苦しそうに横たわるわにを見ていると、どうしてもそのまま立ち去ることができません。

「でも、こんなに苦しんでいるんだ。困っているなら助けてあげたい。」

若者はおそるおそるわにに近づきました。

そして傷についた泥や汚れをきれいにし、川の水をくんでは何度も体にかけてやりました。

「もう少しだからな。元気になるんだぞ。」

若者は毎日のようにわにの様子を見に行き、傷の手当てを続けました。

すると、わには少しずつ元気を取り戻していきました。

やがて自分の力で立ち上がれるようになると、わには若者の顔をじっと見つめました。

まるで何かを伝えようとしているようでした。

そして、ゆっくりと川へ入っていきます。

若者が見送るなか、わには一度だけ振り返ると、そのまま深い川の中へ姿を消していきました。

それから数日がたった、ある日のことです。

若者は川へ出かけていました。

ところが、思いがけず困ったことが起こり、どうしたものかと川辺に立ち尽くしてしまいました。

「困ったな……。」

そのときです。

川の水面が、ゆらりと揺れました。

次の瞬間、大きな影が水の中からゆっくりと近づいてきます。

ざぶん。

水しぶきとともに姿を現したのは、あの日、若者が助けたわにでした。

若者が驚いていると、さらに信じられないことが起こりました。

「あなたは、以前、私を助けてくれた人ですね。」

「えっ……?」

若者は目を丸くしました。

「わにが話をしている!」

わには静かに若者を見つめました。

「あなたの優しさを、私は忘れていません。」

そして言いました。

「傷ついて動けなかった私を、あなたは何も求めず助けてくれました。今日は私があなたを助ける番です。」

そう言うと、わには再び川の中へ潜っていきました。

しばらくすると、水面に大きな波紋が広がりました。

わにが戻ってきたのです。

その口元には、美しく輝く宝物がありました。

「これは、あなたに差し上げます。」

若者は驚きました。

「こんな立派なものを、私がもらっていいのですか?」

わにはうなずきました。

「あなたは見返りを求めず、私を助けてくれました。」

「だからこそ、私も心からあなたにお礼をしたいのです。」

若者は、わにの気持ちをありがたく受け取りました。

けれど、その宝物を自分だけのために使うことはしませんでした。

食べるものに困っている人がいれば分け与え、暮らしに困っている人がいれば手を差し伸べました。

村のためにも宝物を使い、少しずつ人々の暮らしを豊かにしていきました。

やがて村中に、若者とわにの話が広まりました。

ところが、その話を聞いた一人の欲張りな人が考えました。

「そうか。わにを助ければ、宝物がもらえるのか。」

その人が欲しかったのは、わにを助けることではありません。

宝物でした。

「それなら、私もわにを助けたことにすればいい。」

欲張りな人は川へ行き、わにを探しました。

そして、宝物をもらおうと、無理やりわにを捕まえようとしたのです。

すると、わには静かにその人を見つめました。

「あなたは、なぜ私を助けようとしているのですか?」

欲張りな人は答えることができません。

わには言いました。

「優しさは、何かをもらうためにするものではありません。」

その言葉を聞いた欲張りな人は、恥ずかしくなってうつむきました。

若者がわにを助けたとき、宝物のことなど少しも考えてはいませんでした。

ただ、目の前で苦しんでいる命を助けたい。

それだけだったのです。

欲張りな人は、ようやく自分の間違いに気づきました。

それからというもの、村では困っている人がいれば互いに声をかけ、助け合うことが増えていきました。

そして村の人々は、若者とわにの話を語り継ぎながら、こう言うようになりました。

「本当の宝物は、優しい心だ。」

おしまい。


登場人物

  • 若者
    貧しい暮らしのなかでも優しい心を忘れず、見返りを求めることなく傷ついたわにを助ける主人公。
  • わに
    若者に助けられた恩を忘れず、後に宝物を持ってきて恩返しをする不思議な存在。地域によっては龍や大蛇として語られることもあります。
  • 欲張りな人
    若者が宝物をもらったと聞き、自分も同じように宝物を手に入れようとする人物。わにの言葉から、優しさの本当の意味に気づきます。

教訓

  • 見返りを求めず、困っている人や生き物に手を差し伸べる優しさの大切さ。
  • 誰かに助けてもらったとき、その恩や感謝を忘れないこと。
  • 自分の利益のためにする親切と、相手を思ってする親切は違うこと。
  • 誰かを思う気持ちは、巡り巡って自分や周囲の人たちにも返ってくること。

親子で話したいポイント

  • 村の人たちが止めたのに、若者はどうしてわにを助けたのかな?
  • 若者は、宝物をもらえると知っていたら同じように助けたと思う?
  • 若者は、もらった宝物をどうして自分だけのために使わなかったのかな?
  • 誰かに優しくしてもらって嬉しかったことはある?
  • 「ありがとう」と思ったとき、どんな方法で相手に伝えられるかな?

保育士向け活用ポイント

  • 思いやりについて考える題材に
    「困っている相手を見たとき、どうする?」と問いかけることで、相手の気持ちを想像する活動につなげられます。
  • 見返りを求めない親切について考える
    若者と欲張りな人の行動を比べながら、「同じように見える行動でも、気持ちは同じかな?」と子どもたちと話し合えます。
  • 感謝や恩返しをテーマにする
    「誰かにしてもらって嬉しかったこと」「自分が誰かにしてあげたいこと」を話し合うことで、日常生活のなかの感謝に目を向けられます。
  • 命や生き物との関わりを考える
    傷ついたわにを助ける場面から、生き物を大切にすることや、命への思いやりについて考えるきっかけになります。

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