むかしむかし、大きな山をはさんで二人の神様が暮らしていました。
山の東には赤神。
山の西には黒神。
赤神は真っ赤な衣をまとい、岩を持ち上げるほどの力を持っていました。
困っている人を見るとすぐに助けに向かう、勇敢な神様でした。
一方、黒神は真っ黒な衣をまとい、とても物知りな神様でした。
星の動きや風の流れ、川の水の行方まで知っていると言われていました。
しかし、二人は仲が良くありませんでした。
赤神は言います。
「難しいことを考えている暇があるなら、まず動けばよいのだ。」
すると黒神は答えます。
「力だけで解決しようとするから失敗するのだ。まず考えることが大切だ。」
会えばいつもこんな調子でした。
村人たちも、
「赤神さまは頼もしいけれど少し短気だなあ。」
「黒神さまは賢いけれど慎重すぎるなあ。」
と話していました。
そんなある夏のことでした。
何日も何日も雨が降り続きました。
山の木々は水をたっぷり吸い込み、川は今まで見たこともないほど大きく膨れ上がりました。
村人たちは不安そうに空を見上げます。
「このままでは川があふれてしまう。」
「田んぼも家も流されてしまうぞ。」
その夜、とうとう川の水が堤を越え始めました。
村中が大騒ぎになりました。
知らせを聞いた赤神はすぐに立ち上がりました。
「よし!わしが川をせき止めてやる!」
赤神は山へ駆け上がると、大きな岩を次々と持ち上げ、川へ運び始めました。
一つ、二つ、三つ。
巨大な岩が川へ積み上がっていきます。
けれど、水の勢いは想像以上でした。
岩を積んでも積んでも、水はその隙間をぬって流れてきます。
「くそっ!これでは間に合わん!」
赤神は歯を食いしばりました。
その頃、黒神も山の上から川を見つめていました。
黒神は風の向きと川の流れをじっと観察していました。
そして気づいたのです。
「このままでは川の流れが村へ向かってしまう。しかし、山の北側へ水を逃がせば助かるかもしれない。」
黒神は急いで赤神のもとへ向かいました。
「赤神よ、岩を積む場所が違う。」
「何だと?」
「ここを止めても無駄だ。もっと上流で川の向きを変えるのだ。」
赤神は眉をひそめました。
「そんなことをしている時間はない!」
しかし黒神は静かに言いました。
「私を信じろ。」
赤神は少し考えました。
そして大きくうなずきました。
「わかった。やってみよう。」
赤神は黒神の指示する場所へ向かいました。
そして大きな岩を運び始めます。
黒神は風の向きと水の流れを見ながら、
「もう少し右だ!」
「次はそこを積め!」
と声をかけました。
二人は夜通し働き続けました。
やがて夜明けが近づいた頃。
ゴォォォッ!
川の流れが少しずつ変わり始めたのです。
水は村ではなく、北側の広い原っぱへ流れていきました。
村人たちは歓声をあげました。
「助かった!」
「村が流されずにすんだ!」
赤神はその場に座り込み、大きく息を吐きました。
黒神も珍しく笑顔を見せました。
赤神が言いました。
「お前の知恵がなければ村は助からなかった。」
すると黒神は答えました。
「いや、お前の力がなければ岩を運ぶことはできなかった。」
二人は顔を見合わせました。
そして初めて声をあげて笑ったのでした。
それ以来、赤神と黒神はよく力を合わせるようになりました。
大雪が降れば赤神が道を開き、黒神が安全な道を考えました。
日照りが続けば黒神が雨雲を呼ぶ方法を探し、赤神が山を越えて雲を運びました。
村人たちは二人の神様をとても大切にしました。
毎年秋になると、収穫を祝うお祭りが開かれます。
村の東には赤い旗。
村の西には黒い旗。
そして祭りの最後には、子どもたちがこう叫ぶのでした。
「赤神さま、ありがとう!」
「黒神さま、ありがとう!」
山の上では今日も二柱の神様が村を見守っています。
力のある者と知恵のある者。
違うからこそ支え合える。
赤神と黒神は、それを村人たちへ教え続けているのでした。
おしまい。
登場人物
- 赤神
力持ちで勇敢な神様。困っている人を放っておけない性格。 - 黒神
知恵深く慎重な神様。物事をよく観察してから行動する。 - 村人たち
山のふもとの村で暮らしている人々。
教訓
- 人にはそれぞれ得意なことがある。
- 力だけでも知恵だけでも大きな問題は解決できない。
- 違いを認め合い、協力することが大切である。
親子で話したいポイント
- 自分の得意なことは何かな?
- お友だちの得意なことは何だろう?
- 一人では難しくても、みんなで協力してできたことはあるかな?
保育士向け活用ポイント
- 「協力」「役割分担」「チームワーク」をテーマにした活動につなげやすい作品です。
- 運動が得意な子、製作が得意な子など、それぞれの良さを認め合う活動の導入として活用できます。
- 異年齢保育やグループ活動の前の読み聞かせにもおすすめです。


コメント