あらすじ
むかしむかし、モンゴルの広い草原に、スーホという心優しい少年が暮らしていました。
ある日、スーホは草原で弱っている白い子馬を見つけます。
スーホはその子馬を家へ連れて帰り、大切に育てました。
やがて白い子馬は美しく立派な馬へと成長し、スーホとはどこへ行くにも一緒の、かけがえのない存在になります。
ところが、二人はある出来事によって悲しい別れを迎えることになります。
それでも、スーホの白い馬への思いは消えることなく、やがて人々の心に残る大切な楽器へとつながっていきました。
「大切な存在を思う気持ち」「命とのつながり」「愛情や絆の尊さ」を伝えるモンゴルの名作です。
本文
むかしむかし、
どこまでも広がるモンゴルの草原に、スーホという少年が住んでいました。
見渡すかぎりの草原。
遠くには、なだらかな山々が見えます。
風が吹くと、
さわさわ、さわさわ。
緑の草が波のように揺れました。
スーホは家族と一緒に羊を育てながら暮らしていました。
暮らしは決して豊かではありませんでしたが、スーホは心の優しい少年でした。
毎日、羊たちを草原へ連れていき、一匹一匹の様子をよく見ながら世話をしていました。
動物を大切にし、困っている人がいれば手を差し伸べる。
そんな少年でした。
ある日のことです。
スーホがいつものように草原を歩いていると、遠くに白いものが見えました。
「なんだろう?」
近づいてみると、そこにいたのは一匹の白い子馬でした。
子馬は一人ぼっちでした。
体は弱り、元気もありません。
スーホはそっと子馬のそばへ近づきました。
「かわいそうに。」
そして、優しく声をかけました。
「もう大丈夫だよ。」
「僕が大切に育ててあげるからね。」
スーホは白い子馬を家へ連れて帰りました。
それから毎日、スーホは子馬の世話をしました。
食べ物を与え、
水を飲ませ、
汚れた体をきれいにしてやりました。
「たくさん食べて、元気になるんだよ。」
スーホが優しく声をかけると、白い子馬も安心したようにスーホを見つめました。
日がたつにつれて、子馬は少しずつ元気になっていきました。
そして、何年かたつころには、美しく立派な白い馬へと成長していました。
真っ白な毛は、太陽の光を浴びるときらきらと輝きました。
そして何より、白い馬はとても速く走ることができました。
スーホが背中に乗ると、
タッタッタッタッ――。
白い馬は草原を風のように駆け抜けます。
スーホと白い馬は、いつも一緒でした。
草原へ羊を連れていくときも、
遠くへ出かけるときも、
スーホのそばには白い馬がいました。
言葉を交わすことはできなくても、二人にはお互いの気持ちが分かるようでした。
スーホにとって白い馬は、ただの馬ではありません。
大切な友だちでした。
そんなある日のことです。
王様が大きな大会を開くことになりました。
「一番速く走った者には、娘との結婚を認めよう。」
その知らせは、遠くの草原にまで届きました。
スーホも白い馬と一緒に大会へ参加することにしました。
大会の日。
たくさんの馬と人々が集まりました。
どの馬も立派で、速そうな馬ばかりです。
けれど、スーホは白い馬を信じていました。
「一緒に頑張ろう。」
スーホが白い馬の首を優しくなでると、白い馬は力強く地面を踏みました。
やがて競走が始まりました。
馬たちは一斉に走り出します。
ドドドドドッ――。
たくさんのひづめの音が草原に響き渡りました。
スーホの白い馬も、力いっぱい走りました。
風を切り、
ほかの馬を一頭、また一頭と追い越していきます。
「行け!」
スーホの声に応えるように、白い馬はさらに速く走りました。
そして――。
見事、一番になったのです。
スーホは白い馬の首を抱きました。
「やったね。」
けれど、王様は喜びませんでした。
優勝したスーホが、貧しい暮らしをしている少年だと知ったからです。
王様は約束を守りませんでした。
スーホと娘との結婚を認めようとはしなかったのです。
それどころか、王様は美しく立派な白い馬を見て、自分のものにしようとしました。
スーホは言いました。
「この馬は、私の大切な友だちです。」
「お金や物と同じではありません。」
けれど、王様は聞き入れませんでした。
白い馬は、スーホから引き離され、連れていかれてしまいました。
スーホは白い馬の姿が見えなくなるまで、じっと見つめていました。
白い馬もまた、何度もスーホのほうを振り返りました。
それからしばらくして――。
白い馬は、スーホのもとへ帰ろうとしました。
どうしても、もう一度スーホに会いたかったのでしょう。
白い馬は遠く離れた場所から、草原を走り続けました。
走って。
走って。
ただスーホのいる場所を目指しました。
けれど、その途中で白い馬は傷ついてしまいました。
それでも止まりません。
広い草原を越え、
長い道を走り、
白い馬はついにスーホのもとへ戻ってきました。
「白い馬!」
スーホは驚いて駆け寄りました。
ずっと会いたかった白い馬です。
けれど、その体は傷つき、もうほとんど力が残っていませんでした。
スーホは白い馬を抱きしめました。
「帰ってきてくれたんだね。」
白い馬は、安心したようにスーホのそばにいました。
「ありがとう。」
「ずっと一緒にいてくれて、ありがとう。」
スーホは何度も白い馬に声をかけました。
けれど、白い馬はそのまま力尽きてしまいました。
スーホは深く悲しみました。
いつも一緒に草原を走った白い馬。
小さなころから大切に育ててきた白い馬。
スーホにとって、かけがえのない友だちでした。
白い馬がいなくなっても、一緒に過ごした日々を忘れることはできませんでした。
草原を吹く風の音を聞けば、白い馬と駆けた日々を思い出します。
遠くまで続く草原を見れば、隣に白い馬がいるような気がしました。
スーホは思いました。
「もう一度、白い馬をそばに感じたい。」
そして、白い馬の毛や骨を使い、一つの楽器を作りました。
それが、モンゴルの伝統楽器、馬頭琴でした。
スーホが馬頭琴を手に取り、弓を動かすと、美しい音色が響きました。
その音は、どこまでも続く草原を吹き抜ける風のようでした。
スーホは馬頭琴を弾きながら、白い馬と過ごした日々を思い出しました。
一緒に草原を駆けたこと。
白い子馬を初めて見つけた日のこと。
いつもそばにいてくれたこと。
草原の人々も、その音色に耳を傾けました。
静かな草原に、馬頭琴の音が響きます。
風に乗ったその音は、どこまでも遠くへ流れていきました。
そしてスーホは、白い馬との思い出を胸に、馬頭琴を弾き続けました。
おしまい。
登場人物
スーホ
モンゴルの草原で暮らす心優しい少年です。弱っていた白い子馬を助け、大切に育てます。成長した白い馬とは深い絆で結ばれます。
白い馬
スーホに助けられ、大切に育てられた馬です。成長すると、とても速く走れる立派な馬になります。スーホを信頼し、離れ離れになってもスーホのもとへ帰ろうとします。
王様
身分や権力を重んじ、競走で勝ったスーホとの約束を守らず、白い馬を自分のものにしようとする人物です。
王様の娘
王様が開いた大会をきっかけに、スーホと関わる人物です。
教訓
- 大切な存在との絆は、何にも代えられない。
- 命あるものを思いやり、大切にする心を持つことが大切。
- 相手を自分の所有物としてではなく、一つの大切な存在として尊重することが大切。
- 大切な存在との思い出や愛情は、形を変えて心の中に残り続ける。
親子で話したいポイント
- スーホは、どうして白い子馬を助けたのかな?
- スーホと白い馬は、どんな気持ちで一緒に暮らしていたのかな?
- 白い馬は、どうしてスーホのところへ戻ろうとしたのだろう?
- 大切な友だちや家族に、どんなことをしてあげたい?
- 目には見えなくても、心にずっと残るものには何があるかな?
保育士向け活用ポイント
保育者と子どもの関係を考えるうえでも、日々の関わりを積み重ね、子どもにとって「安心して戻ってこられる存在」であることの大切さを振り返るきっかけになります。
「命を大切にする心」「思いやり」「大切な存在との絆」について考える題材として活用できます。
スーホが弱った白い子馬を助け、大切に育てる姿から、命あるものへの優しさや責任について考えるきっかけになります。
スーホと白い馬がお互いを大切に思う姿を通して、「大切な存在とは何か」を子どもたちと話し合うことができます。
悲しい別れを扱う物語でもあるため、読み聞かせでは子どもの年齢や経験に配慮しながら、感じたことを無理に言葉にさせず、余韻を大切にすることも重要です。
劇遊びや音楽活動とも相性がよく、馬頭琴の音色やモンゴルの草原、暮らしや文化に興味を広げる活動にもつなげられます。


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