けちくらべ

昔話

あらすじ

むかしむかし、隣り合う二つの村に、「日本一のけち」と言われるほどの節約家が住んでいました。

一人はそうべえ、もう一人はごんすけ。

どちらも「自分のほうが節約上手だ」と譲らず、とうとう二人は、どちらが上かを決める「けちくらべ」を始めます。

はじめのうちは、ものを最後まで使い切る立派な節約自慢でしたが、負けたくない二人の競争は、だんだんおかしな方向へ。

そんな二人が、仲良くおにぎりを分け合う子どもたちの姿を見て、大切なことに気づいていく、愉快で心温まるお話です。

本文

むかしむかし、山のふもとの小さな村に、そうべえという男が住んでいました。

そうべえは朝から晩までよく働く、真面目な男でした。

けれど、村では働き者であることと同じくらい、もう一つ有名なことがありました。

それは、とても節約家だということです。

古くなった着物に穴があけば、布を当ててつくろいます。

また穴があけば、またつくろいます。

何度でも直して、もうどうにもならなくなるまで着続けました。

紙を使う時も、一度書いただけでは捨てません。

「裏がまだ白いじゃないか。もったいない。」

くるりと裏返し、そこにもびっしり文字を書きました。

夜に使うろうそくも同じです。

短くなっても捨てません。

「まだ火がつく。まだ使える。」

最後の最後まで、大事に使いました。

そんなそうべえを見て、村の人たちは言いました。

「そうべえさんは、本当にものを大切にする人だねえ。」

そうべえは得意そうに胸を張りました。

「使えるものを捨てるなんて、もったいないからな。」

ところが、山を一つ越えた隣の村にも、そうべえに負けない節約家がいました。

名前をごんすけといいます。

ごんすけもまた、ものを粗末にすることが大嫌いでした。

ご飯を食べれば、茶碗についた米粒を一粒も残しません。

「お米一粒だって、大切な食べ物だ。」

切れた縄があれば、捨てずに結び直します。

「結べば、まだまだ使える。」

薪を燃やす時も、大きな薪が小さな炭になるまで使い、その炭も最後まで燃やしました。

村の人たちは感心していました。

「ごんすけさんほど、ものを無駄にしない人はいないね。」

ごんすけも得意そうに言いました。

「当たり前だ。使えるものは最後まで使わなくちゃな。」

そんなある日のこと。

二つの村を行き来していた旅人が、そうべえとごんすけの話を聞きました。

「ほう。こちらの村にはそうべえという節約家がいて、隣の村にはごんすけという節約家がいるのか。」

旅人は面白そうに言いました。

「いったい、どちらが日本一の節約家なんだろうねえ。」

その一言が、村人たちの間であっという間に広まりました。

「そうべえとごんすけ、どっちが上なんだ?」

「そりゃあ、そうべえだろう。」

「いやいや、ごんすけにはかなわないよ。」

やがて、その話は二人の耳にも入りました。

そうべえは腕を組みました。

「決まっている。私のほうが節約上手だ。」

それを聞いたごんすけも黙ってはいません。

「何を言う。私のほうが上に決まっている。」

「では、比べてみるか?」

「望むところだ。」

こうして二人の「けちくらべ」が始まりました。

話を聞きつけた村人たちも集まってきます。

「さあ、どっちが勝つかな。」

「これは面白くなりそうだ。」

まず、そうべえが胸を張りました。

「私は、ろうそくがこんなに短くなるまで使うぞ。」

そう言って、指先ほどしか残っていないろうそくを見せました。

村人たちは、

「ほう。」

と感心します。

ところが、ごんすけは鼻で笑いました。

「まだまだだな。」

「なんだと?」

「私は昼間、ろうそくなんて使わない。」

ごんすけは窓をぱっと開けました。

「お日さまの光があるじゃないか。」

「なるほど!」

村人たちはうなずきました。

そうべえは少しくやしそうです。

「ならば、これはどうだ。」

そうべえは自分の着物を指さしました。

あちらにもつぎ。

こちらにもつぎ。

「私は着物に穴があいても、何度でも直して使う。」

「おお、確かに。」

すると、ごんすけが言いました。

「私はもっと使うぞ。」

「どうするんだ?」

「まず兄が着る。小さくなったら弟が着る。それでも着られなくなったら、布を切って雑巾にする。」

村人たちは、

「そこまで使うのか!」

と感心しました。

そうべえはますます負けたくなくなりました。

「まだまだ!」

ごんすけも、

「こっちだって!」

二人のけちくらべは、どんどん続いていきました。

ところが――。

だんだん、競争がおかしな方向へ進み始めます。

そうべえが言いました。

「私は、おかずがなくても飯を食える。」

「どうやって?」

「隣の家で魚を焼いていたら、その匂いをかぎながらご飯を食べるんだ。」

「うーん、いい匂いだ。」

そう言って、そうべえは白いご飯をぱくぱく食べる真似をしました。

村人たちは笑い出しました。

「匂いだけかい!」

すると、ごんすけが負けじと言いました。

「私は匂いすらいらん。」

「では、どうする?」

ごんすけは一枚の紙を取り出しました。

そこには、おいしそうな魚の絵が描いてあります。

「この魚の絵を見ながら飯を食う。」

村人たちは大笑いです。

「はっはっは!」

「それじゃ、本物のおかずを食べたことにならないよ!」

しかし、二人は真剣でした。

「私はお茶の葉を三回使う!」

そうべえが言えば、

「私は五回だ!」

と、ごんすけ。

「五回も使ったら、ただのお湯じゃないか?」

村人が言っても、二人は聞きません。

そうべえは自分の履き物を見せました。

「私は穴のあいた履き物だって、そのまま履くぞ!」

すると、ごんすけは得意そうに履き物を脱ぎました。

「私は履き物そのものを履かない!」

「なに?」

「裸足なら履き物が減らないだろう。」

「そこまでやるのか!」

村人たちは、もう感心しているのか、あきれているのかわかりません。

そうべえもごんすけも、

「まだ負けないぞ。」

「こっちだって。」

と張り合い続けました。

ところが、ろくなおかずも食べず、薄いお茶ばかり飲み、裸足で歩き回っていたものですから、二人ともすっかり疲れてしまいました。

「腹が……減ったな。」

そうべえがつぶやきます。

「私もだ……。」

ごんすけも、お腹を押さえました。

ぐうううう……。

二人のお腹が同時に鳴りました。

村人たちは大笑いしました。

「そんなに我慢して、何のための節約なんだい。」

「うるさい。」

そうべえとごんすけは、力なく答えました。

その時です。

少し離れたところから、子どもたちの楽しそうな声が聞こえてきました。

「お腹すいたね。」

「おにぎり食べよう!」

二人が見ると、何人かの子どもたちが木の下に座っています。

一人の子が包みを開きました。

けれど、おにぎりは一つしかありません。

「一つだけか。」

そうべえがつぶやきました。

すると、一人の子どもがおにぎりを二つに割りました。

「はい。半分こしよう。」

「いいの?」

「うん。一緒に食べたほうがおいしいもん。」

「ありがとう!」

二人の子どもは、半分ずつになったおにぎりを持って、にこにこ笑いました。

「いただきます!」

ぱくっ。

「おいしいね。」

「うん!」

その様子を、そうべえとごんすけは黙って見ていました。

自分たちは、どちらが少なく使えるか。

どちらが我慢できるか。

どちらが「けち」でいられるか。

そんなことばかり競っていました。

けれど、目の前の子どもたちは、たった一つのおにぎりを分け合いながら、とても幸せそうに笑っています。

そうべえがぽつりと言いました。

「私は、ものを無駄にしないことが一番大切だと思っていた。」

ごんすけもうなずきました。

「私もだ。」

「だけど……。」

そうべえは子どもたちを見ました。

「大切にすることと、ただ使わないことは違うのかもしれないな。」

「そうだな。」

ごんすけも笑いました。

「誰かと分け合うことまで惜しんでいたら、何のためにものを大切にしているのかわからない。」

二人は顔を見合わせました。

そして――。

「はっはっはっ!」

同時に笑い出しました。

「ずいぶん、おかしな競争をしてしまったな。」

「ああ。裸足になる必要なんてなかった。」

「魚の絵を見ながら飯を食う必要もな。」

「それを言うなら、匂いだけで飯を食うのも同じだろう。」

二人が笑うと、周りの村人たちも笑いました。

それから、そうべえとごんすけは競争するのをやめました。

もちろん、ものを大切にすることまでやめたわけではありません。

着物に穴があけば、きちんとつくろいます。

食べ物も残しません。

使えるものは最後まで大切に使います。

けれど、困っている人がいれば、

「これを使いなさい。」

と分けてあげるようになりました。

食べ物が足りない家があれば、

「一緒に食べよう。」

と声をかけました。

そうべえとごんすけは、節約の自慢をするよりも、誰かの役に立てた時のほうが、ずっとうれしそうに笑うようになりました。

そして二人は、以前とは違う意味で、

「ものを大切にする人」

として、村のみんなから慕われるようになったそうです。

おしまい。

登場人物

  • そうべえ
    ものを最後まで大切に使う節約家。ごんすけに負けたくないあまり、だんだん極端な節約をするようになります。
  • ごんすけ
    そうべえに負けない節約家。負けず嫌いで、そうべえよりさらにすごい節約をしようと張り合います。
  • 村人たち
    二人のけちくらべを面白がりながら見守る人々。だんだんおかしくなっていく二人の競争に、笑ったりあきれたりします。
  • 子どもたち
    一つのおにぎりを自然に分け合い、そうべえとごんすけが大切なことに気づくきっかけをつくります。

教訓

  • ものを大切に使うことと、何でも惜しむ「けち」は同じではない。
  • 節約は我慢を競うことではなく、必要なものを大切に使うこと。
  • 自分の持っているものを誰かと分け合うことで生まれる豊かさもある。

親子で話したいポイント

  • 「節約」と「けち」は、どんなところが違うと思う?
  • そうべえとごんすけのけちくらべで、一番おかしかったのはどこ?
  • 子どもたちは、どうして一つのおにぎりを分け合ったのかな?
  • 家の中で、ものを大切にするためにできることはある?
  • 誰かと何かを分け合って、うれしかったことはある?

保育士向け活用ポイント

そうべえとごんすけの大げさなけち自慢は、掛け合いを楽しみやすく、劇遊びや読み聞かせでも子どもたちが参加しやすい題材です。

「ものを大切にすること」と「必要な時にも使わないこと」の違いを、ユーモラスな物語を通して考えられます。

食べ物を残さない、紙や製作素材を必要以上に使わないなど、日常の保育から環境やSDGsについて考える導入にも活用できます。

おにぎりを分け合う場面から、「貸して」「どうぞ」「一緒に使おう」といった共有や譲り合いについて話し合う活動につなげられます。

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