あらすじ
むかしむかし、一匹の犬が大きなお肉をもらいました。
犬はうれしくてたまらず、お肉をしっかりとくわえて家へ帰ることにしました。
ところが、帰り道にある橋の上から川をのぞくと、そこには自分と同じようにお肉をくわえた犬がいるように見えます。
しかも、その犬がくわえているお肉のほうが大きく見えました。
「あっちのお肉も欲しい!」
そう思った犬は、大きな勘違いをしてしまいます。
「欲張りすぎないこと」「今持っているものを大切にすること」を伝えるイソップ童話の名作です。
本文
むかしむかし、あるところに一匹の犬がいました。
ある日のことです。
犬は、大きなお肉をもらいました。
「わあ!」
犬は目を輝かせました。
とてもおいしそうなお肉です。
犬はうれしくてたまりません。
「今日はごちそうだ!」
「家へ帰って、ゆっくり食べよう。」
犬はお肉をしっかりと口にくわえ、家へ向かって歩き始めました。
てくてく。
てくてく。
犬はごきげんです。
歩きながらも、お肉のことが気になって仕方ありません。
「早く食べたいな。」
「きっと、とってもおいしいぞ。」
けれど、ここで食べてしまうのはもったいない。
犬はお肉を落とさないよう、しっかりとくわえ直しました。
家までの道を進んでいくと、小さな橋が見えてきました。
橋の下には、きれいな川が流れています。
さらさら。
さらさら。
水は透き通り、空の色や周りの木々を映していました。
犬は何度も通ったことのある橋を、その日もいつものように渡り始めました。
とことこ。
とことこ。
橋の真ん中まで来たときです。
犬は何気なく橋の下を見ました。
すると――。
「ん?」
川の中に、一匹の犬がいるではありませんか。
犬は立ち止まりました。
「あれ?」
川の中の犬も、こちらを見ています。
しかも、その犬も口にお肉をくわえていました。
犬はじっと川をのぞき込みました。
川の中の犬も、じっとこちらを見ています。
犬が少し首を傾けると、
川の中の犬も首を傾けました。
けれど犬は、それが自分の姿だとは気づきません。
犬の目は、川の中の犬がくわえているお肉に釘づけでした。
「あの犬も、お肉を持っている。」
犬は自分のお肉と、川に映っているお肉を見比べました。
ゆらゆらと揺れる水面のせいでしょうか。
川の中のお肉は、自分がくわえているものよりも大きく見えました。
「あっちのお肉のほうが大きそうだ。」
犬は思いました。
「いいなあ。」
最初は、自分のお肉だけで大満足だったはずです。
ところが、川の中のお肉を見ているうちに、だんだん欲しくなってきました。
「ぼくのお肉もおいしそうだけど……。」
「あっちのお肉も欲しいな。」
犬はさらに川をのぞき込みました。
「二つあったら、もっとたくさん食べられるぞ。」
そう考えると、もう川の中のお肉が欲しくてたまりません。
犬は思いました。
「よし。」
「あの犬を驚かせて、お肉を取ってやろう。」
犬は川の中の犬に向かって、大きな声で吠えようとしました。
「ワン!」
その瞬間――。
口が大きく開きました。
そして、
ポチャン!
「あっ!」
くわえていたお肉が、犬の口から落ちてしまいました。
お肉は川の中へ落ち、そのまま流されていきます。
「待って!」
犬は慌てて橋の下をのぞきました。
けれど、お肉はどんどん遠ざかっていきました。
犬はどうすることもできません。
「そうだ!」
「あっちの犬のお肉がある!」
犬はもう一度、水面を見ました。
ところが――。
さっきまで見えていた犬は、どこにもいません。
もちろん、大きなお肉もありません。
水面には、困った顔をした一匹の犬が映っているだけでした。
犬はじっとその姿を見つめました。
首を傾けると、水面の犬も首を傾けます。
そこでようやく気づきました。
「あれは……ぼくだったんだ。」
川の中にいたと思っていた犬は、自分の姿でした。
大きく見えたお肉も、自分がくわえていたお肉が水面に映っていただけだったのです。
犬はがっかりしました。
橋の上に、ぽつんと座り込みました。
「せっかく大きなお肉をもらったのに……。」
もう、お肉はありません。
最初は一つのお肉で大喜びしていたのに、もう一つ欲しいと思ったばかりに、その一つまでなくしてしまったのです。
犬はしばらく、流れていく川を眺めていました。
さらさら。
さらさら。
川は何事もなかったように流れています。
「もっと欲しいと思ったばかりに、せっかくのお肉までなくしてしまった。」
犬はしょんぼりしながら立ち上がりました。
そして、今度は何もくわえずに家へ帰っていきました。
おしまい。
登場人物
犬
大きなお肉をもらい、喜んで家へ持ち帰ろうとする主人公です。川に映った自分のお肉を見て「もっと欲しい」と思ったことで、持っていたお肉まで失ってしまいます。
川に映った犬
犬が川の水面に見つけた、もう一匹の犬です。その正体は主人公自身の姿ですが、犬はすぐには気づかず、別の犬がお肉を持っていると勘違いします。
教訓
- 欲張りすぎると、今持っている大切なものまで失ってしまうことがある。
- ほかのものばかり気にせず、今自分が持っているものを大切にすることが大切。
- 「もっと欲しい」と思ったときには、本当に必要なのか一度考えてみることも大切。
- 見えているものが、いつも自分の思った通りとは限らない。
親子で話したいポイント
- 犬は、どうしてお肉を川へ落としてしまったのかな?
- 川の中にいた犬は、本当は誰だったのかな?
- 犬は最初、お肉をもらったときどんな気持ちだったと思う?
- 「もっと欲しい」と思ったことはあるかな?
- 今、自分が持っている大切なものには何があるかな?
保育士向け活用ポイント
保育者自身にとっても、「まだできていないこと」だけではなく、子どもが今できていることや、すでに持っている力に目を向ける大切さを振り返るきっかけになります。
「物を大切にすること」「欲しい気持ちとの付き合い方」について考える読み聞かせとして活用できます。
「もっと欲しい」という気持ちそのものを否定するのではなく、「今持っているものはどうしよう?」「本当にもう一つ必要かな?」と考えるきっかけにつなげることができます。
おもちゃや遊具の貸し借り、順番を待つ場面など、子どもたちの日常生活と結びつけやすい物語です。
水面に映った自分を別の犬だと思い込む場面から、「見たものだけですぐに決めつけない」という視点にもつなげられます。
短く分かりやすい物語なので、低年齢の子どもへの読み聞かせや、劇遊び・ペープサートなどにも取り入れやすい作品です。


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