あらすじ
海が急に荒れ始めたとき、船の前に大きな黒い影が現れるといいます。
それが「海坊主」です。
夜の海に突然現れ、船を沈めようとする恐ろしい妖怪として、昔の船乗りたちに語り継がれてきました。
本文
むかしむかし、海で魚を取って暮らす船乗りたちがいました。
ある夜、船は沖へ出ていました。
空にはたくさんの星が浮かび、海は鏡のように静かでした。
「今日は穏やかな海だな。」
船乗りたちは安心しながら、仕事を続けていました。
ところが、しばらくすると妙なことが起こりました。
さっきまで頬をなでていた風が、ぴたりと止まったのです。
帆も動きません。
波の音まで、まるで消えてしまったかのようでした。
「……おかしいな。」
船乗りの一人が、暗い海を見つめました。
辺りはしんと静まり返っています。
聞こえるのは、船板がきしむ小さな音だけです。
そのときでした。
海の向こうに、ぼんやりと黒い影が見えました。
「何だ、あれは?」
最初は、遠くに浮かぶ岩のようにも見えました。
けれど、その影は少しずつ、少しずつ近づいてきます。
近づくにつれて、影はどんどん大きくなっていきました。
やがて、それは船よりもはるかに大きな、真っ黒な姿となって海の上に立ち上がりました。
「海坊主だ!」
誰かが叫びました。
海坊主は、暗い海からぬうっと姿を現し、船を上からのぞき込んでいます。
顔のようなものは見えているのに、その表情はよく分かりません。
ただ、大きな黒い影だけが、じっと船を見下ろしていました。
次の瞬間、静かだった海が突然うなり始めました。
ざああああっ!
大きな波が船にぶつかります。
船は激しく傾き、船乗りたちは必死に縄や船べりにつかまりました。
「落ち着け! 慌てるな!」
船長が大声で叫びました。
「帆をたため! 船を波に向けろ!」
船乗りたちは恐怖をこらえながら、力を合わせました。
風にあおられないよう帆をたたみ、波に飲まれないよう船の向きを変えていきます。
その間も、海坊主はすぐそばにいました。
波の向こうから巨大な影が現れては消え、また船の近くに姿を見せます。
「来るぞ!」
大きな波がもう一度押し寄せました。
船は大きく揺れましたが、船乗りたちは必死に耐えました。
やがて、海を覆っていた黒い影が少しずつ薄くなっていきました。
海坊主の姿は、夜の霧に溶けるように消えていきます。
それとともに波もおさまり、風の音も静かになっていきました。
しばらくすると、雲の切れ間から再び星が見えました。
船乗りたちは、誰も言葉を発さず、暗い海を見つめていました。
そこにはもう、海坊主の姿はありませんでした。
おしまい。
登場人物
船長
船を守り、仲間に指示を出す人物。
船乗りたち
海坊主に出会い、力を合わせて危機を乗り越えようとする人々。
海坊主
夜の海に現れるとされる巨大な妖怪。
教訓
自然を甘く見ない。
危険なときほど、落ち着いて行動する。
仲間と協力して安全を守ることが大切。
親子で話したいポイント
海坊主が出たら、どうする?
海や川で遊ぶときに気をつけることは何?
怖いときに、みんなで協力すると何ができる?
保育士向け活用ポイント
水遊びやプール、海での安全について考える導入に活用できます。
妖怪の話をきっかけに、「自然の怖さ」と「危険なときにどう行動するか」を子どもたちと考える教材にもできます。
小豆洗い(あずきあらい)|世界の名作・昔話(日本の妖怪)
あらすじ
夜の川辺から、「小豆を洗っているような音」が聞こえてくるという話があります。
「ショキ、ショキ、ショキ……。」
けれど、いくら探しても音の正体は見つかりません。
昔の人々は、夜の川から聞こえる不思議な音を「小豆洗い」という妖怪の仕業だと考えました。
本文
むかしむかし、ある村の近くに、小さな川が流れていました。
昼間は水がきらきらと光り、子どもたちも遊びに来る穏やかな川でした。
ところが、夜になると、その川では不思議な音が聞こえることがありました。
「ショキ、ショキ、ショキ……。」
まるで誰かが、ざるの中で小豆を洗っているような音です。
けれど、夜の川辺には誰もいません。
村人たちは首をかしげました。
「こんな夜中に、誰が小豆を洗っているんだろう?」
「川のそばに誰かいるのか?」
そんな噂が広がるうちに、一人の若者が言いました。
「今夜、俺が見に行ってみよう。」
その夜。
月が雲の間から、ぼんやりと川を照らしていました。
若者は一人で川へ向かいました。
辺りは静かで、草むらから虫の声が聞こえるだけです。
若者は川のそばに立ち、じっと耳をすませました。
しばらくすると――。
「ショキ、ショキ、ショキ……。」
聞こえてきました。
若者は息をのみました。
確かに、川の方から聞こえています。
「本当に小豆を洗っているみたいだ……。」
音を頼りに、若者は少しずつ川へ近づいていきました。
けれど、そこには誰もいません。
月明かりの下を、水だけが静かに流れています。
「おかしいな……。」
若者が立ち止まると、また音がしました。
「ショキ、ショキ、ショキ……。」
さっきよりも近く聞こえます。
若者は暗い川面をのぞき込みました。
けれど、人影もありません。
「小豆を洗っているのは誰だ?」
若者が思い切って声をかけました。
すると――。
ぴたり。
音が止まりました。
辺りは急に静かになりました。
若者は動かず、その場で待ちました。
風が吹き、川辺の草がさわさわと揺れています。
しばらくすると、今度は少し離れたところから、
「ショキ、ショキ、ショキ……。」
また、あの音が聞こえてきました。
若者の背中がぞくりとしました。
誰もいないはずなのに、音だけが川辺を動いているように聞こえます。
「これは、普通の音じゃない……。」
若者はそれ以上近づくのをやめ、急いで村へ戻りました。
話を聞いた村人たちは顔を見合わせました。
そして、一人の老人が静かに言いました。
「それは、小豆洗いだよ。」
それからというもの、夜の川辺で、
「ショキ、ショキ、ショキ……。」
という音を聞いても、村人たちはむやみに近づかなくなったといいます。
おしまい。
登場人物
若者
川の音の正体を確かめようとする人物。
小豆洗い
川辺で小豆を洗うような音を立てるとされる妖怪。
村人たち
昔から妖怪の話を語り継ぐ人々。
教訓
夜の川や水辺には危険がある。
見えないものほど、慎重に考えることが大切。
自然の音をよく聞き、観察する力を育てる。
親子で話したいポイント
小豆を洗う音に聞こえたのは、なぜかな?
夜の川が危険なのは、どうして?
身近な音から妖怪を考えるなら、どんな妖怪にする?
保育士向け活用ポイント
音遊びや自然観察の導入に活用できます。
「聞こえた音から何を想像する?」という問いから、子どもたちが自由に妖怪や物語を考える表現活動にもつなげられます。


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