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あらすじ
夜になると村はずれの川の方から、
「小豆をとごうか、人をとって食おうか。」
という恐ろしい声が聞こえてくると言われていました。
村の子どもたちはみな、その声を恐れて日が暮れる前には家へ帰っていました。
ある日、勇気のある若者が、その声の正体を確かめに行くことを決意します。
果たして、本当に恐ろしい化け物がいるのでしょうか。
本文
むかしむかし、山と川に囲まれた小さな村がありました。
昼間は鳥の声が響き、子どもたちの笑い声が聞こえる、とても穏やかな村でした。
けれど、日が沈み、あたりが暗くなるころになると、村人たちは急いで家へ帰ります。
子どもたちは外で遊ぶのをやめ、大人たちは戸を閉め、火を囲んで静かに過ごしました。
なぜなら、夜になると村はずれの川の方から、不気味な声が聞こえてくるからです。
ザッ、ザッ、ザッ。
水をかき混ぜるような音が聞こえたあと、
「小豆をとごうか。」
少し間をおいて、
「人をとって食おうか。」
と、低くしわがれた声が響くのです。
村の子どもたちは、その声を聞くたびに布団にもぐり込みました。
「早く寝ないと、あずきとぎ婆に連れていかれるぞ。」
大人たちもそう言って子どもたちを家へ帰しました。
いつしか村では、夜に外へ出てはいけないという決まりのようになっていました。
そんな村に、太一という若者が住んでいました。
太一は畑仕事を手伝う働き者でしたが、少し好奇心が強いところがありました。
ある日、太一は村の人たちに言いました。
「みんな、本当にあずきとぎ婆を見たことがあるのかい?」
すると村人たちは顔を見合わせました。
「いや、見たことはない。」
「声だけは聞いたことがある。」
「昔からそう言われているんだ。」
太一は不思議に思いました。
「見たことがないのに、どうしてみんな怖がるんだろう。」
その夜、太一は提灯を持って川へ向かいました。
村人たちは慌てました。
「やめろ!」
「食べられてしまうぞ!」
けれど太一は笑いました。
「もし本当に恐ろしい化け物なら逃げてくるさ。」
夜の道は昼間とはまるで違いました。
風が木を揺らし、葉っぱがカサカサと音を立てています。
川の近くまで来ると、水の流れる音が聞こえました。
そして、
ザッ、ザッ、ザッ。
何かを水で洗うような音が聞こえてきました。
太一は思わず足を止めました。
その時です。
「小豆をとごうか。」
声が聞こえました。
太一の背筋に冷たいものが走ります。
「人をとって食おうか。」
太一は提灯を握りしめました。
けれど、逃げませんでした。
勇気を出して声のする方へ進みます。
すると、月明かりの下に一人のお婆さんが座っていました。
お婆さんは大きな桶の前に座り、本当に小豆を水でといでいたのです。
ザッ、ザッ、ザッ。
赤い小豆が水の中で転がっています。
太一は驚きました。
「お婆さん?」
お婆さんは顔を上げました。
「なんだい、こんな夜更けに。」
「あなたが、あずきとぎ婆なのかい?」
お婆さんは目を丸くしました。
「そう呼ばれることもあるねえ。」
「人を食べるって本当なのかい?」
するとお婆さんは大笑いしました。
「まさか。」
お婆さんは笑いながら言いました。
「昔、この川の近くは流れが速くてね。夜に子どもが近づくと危なかったんだよ。」
「だから大人たちは、怖い話を作って子どもたちを近づけないようにしたんだ。」
太一は驚きました。
「そうだったのか。」
お婆さんは桶の中を見せました。
そこには明日の赤飯に使う小豆が入っていました。
「村のお祭りが近いからねえ。」
太一は安心しました。
次の日、太一は村の人たちに話しました。
「お化けなんかじゃなかったよ。」
けれど、お年寄りたちは笑いました。
「そうかもしれないな。」
「でも怖い話のおかげで、子どもたちは危ない川へ近づかなかった。」
太一も納得しました。
怖い話には、ただ人を驚かせるだけではない理由があったのです。
それからも村では、
「あまり遅くまで遊ぶんじゃないよ。」
と言われるたびに、子どもたちは思い出しました。
川のそばで小豆をとぐ、お婆さんの姿を。
そして今日もどこかの村で、
ザッ、ザッ、ザッ。
という音とともに、
「小豆をとごうか。」
という声が聞こえているのかもしれません。
おしまい。
登場人物
- 太一
好奇心旺盛な若者。村の噂の真相を確かめようとします。 - あずきとぎ婆
夜の川辺で小豆をといでいるお婆さん。村の人たちから恐れられています。 - 村人たち
昔から伝わる言い伝えを信じて暮らしている人々です。
教訓
- 噂や思い込みだけで判断してはいけない。
- 本当のことを知るためには、自分で確かめる勇気も大切である。
- 昔の言い伝えには、人を守るための知恵が隠れていることがある。
親子で話したいポイント
- 怖いと思っていたけれど、本当は違った経験はあるかな?
- なぜ大人は危険な場所へ行かないように言うのだろう?
- 昔の人はどうやって子どもたちを守っていたのかな?
保育士向け活用ポイント
- 「約束やルールには理由がある」という話し合いにつなげやすい作品です。
- 夏の怪談あそびや、おばけ製作の導入として活用できます。
- 年長児クラスでは、「噂」と「事実」の違いについて考える活動にも発展させることができます。


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