炭焼き長者(すみやきちょうじゃ)

昔話

あらすじ

むかしむかし、深い山に囲まれた村に、炭を焼いて暮らしている貧しい若者がいました。

若者は毎朝まだ暗いうちから山へ入り、木を切り、炭窯の火を守りながら、来る日も来る日もまじめに働いていました。

けれど、どれだけ働いても暮らしは決して楽にはなりません。

それでも若者は不平を言わず、困っている人がいれば自分にできることをして助けていました。

そんなある冬の日。

雪の降る山道で、若者は寒さに震えて倒れている一人の旅人を見つけます。

自分の暮らしにも余裕がない若者でしたが、旅人を小屋へ連れ帰り、炭火で体を温め、食べ物や温かいお茶を分けました。

やがて春になると、都から良質な炭を探す役人が村へやってきます。

それをきっかけに、貧しい炭焼きだった若者の暮らしは少しずつ変わり始めるのでした。


本文

むかしむかし、深い山々に囲まれた小さな村がありました。

村のまわりには大きな木々が生い茂り、そのさらに奥には、昼でも薄暗いほど深い森が広がっていました。

その山のふもとに、小さな小屋が一軒ありました。

そこに、一人の若い炭焼きが住んでいました。

若者の暮らしは、とても質素なものでした。

小屋の中にあるのは、古い布団と小さな囲炉裏、いくつかの鍋や器くらいです。

着物には何度もつぎが当てられ、草履もすっかりすり減っていました。

けれど若者は、毎日よく働きました。

朝は、空にまだ星が残っているころに起きます。

「さて、今日も始めるか。」

冷たい水で顔を洗い、斧を担いで山へ向かいます。

山へ入ると、炭にするための木を選び、一本ずつ切り出しました。

切った木は運びやすい長さにそろえ、炭窯まで運びます。

何度も何度も山道を往復する、大変な仕事でした。

木を炭窯へ詰め終えると、今度は火を入れます。

炭焼きは、ただ木を燃やせばよいというものではありません。

火が強すぎれば、木は炭になる前に燃え尽きてしまいます。

弱すぎれば、よい炭にはなりません。

若者は窯から出る煙の色や匂いを確かめながら、火加減を調整しました。

「まだ少し早いな。」

夜になっても、仕事は終わりません。

ぱち……。

ぱちぱち……。

暗い山の中で、炭窯の火だけが赤く光っています。

若者は眠い目をこすりながら、何度も窯の様子を見に行きました。

そうして何日もかけて、ようやく炭が出来上がります。

黒く、硬く、よく火の持つ炭です。

若者はそれを背負って村へ下り、町の商人へ売りました。

けれど、手元に残るお金はほんのわずかでした。

食べ物を買い、道具を直せば、ほとんど残りません。

それでも若者は、愚痴を言いませんでした。

仕事を終えて小屋へ戻ると、囲炉裏の前に座り、

「今日も無事に働けた。」

「それだけでありがたい。」

と笑うのが口ぐせでした。

村の人たちも、そんな若者のことをよく知っていました。

重い荷物を運んでいるおばあさんを見かければ、

「持ちますよ。」

と声をかけます。

山道に倒れた木があれば、自分の仕事の合間に片づけました。

「自分だって大変なのに。」

村人がそう言うと、若者は笑いました。

「困ったときは、お互いさまですよ。」

そんな若者でした。

やがて秋が過ぎ、山に冬がやってきました。

ある日の午後。

朝から灰色だった空から、白い雪が降り始めました。

ちらちらと舞っていた雪は、次第に強くなっていきます。

山道も、

木の枝も、

炭焼き小屋の屋根も、

あっという間に真っ白になりました。

「今日は早めに戻った方がよさそうだ。」

若者は仕事を切り上げ、小屋へ向かいました。

風も強くなってきました。

ひゅううう……。

雪が顔に吹きつけます。

若者が山道を歩いていると、少し先に黒いものが見えました。

「なんだろう?」

最初は倒れた木かと思いました。

けれど近づいてみると、人でした。

「大丈夫ですか!」

一人の旅人が、道ばたに倒れていたのです。

着物には雪が積もり、体は寒さで震えています。

「しっかりしてください。」

旅人はうっすら目を開けました。

「寒くて……もう歩けない……。」

若者は空を見上げました。

雪はますます激しくなっています。

このままでは危険です。

「私の小屋はすぐそこです。」

若者は旅人の腕を自分の肩へ回しました。

「立てますか?」

「すまない……。」

「ゆっくりで大丈夫です。」

若者は旅人を支えながら、雪の中を一歩ずつ歩きました。

小屋へ着くと、すぐに囲炉裏へ炭を入れました。

ふうっ。

ふうっ。

赤い火が少しずつ大きくなります。

やがて小さな部屋に、じんわりと暖かさが広がりました。

「さあ、ここへ。」

若者は旅人を囲炉裏のそばへ座らせました。

濡れた着物を乾かし、自分の持っていた毛布を渡します。

それから鍋に湯を沸かしました。

「大したものはありませんが。」

若者は温かいお茶と、残っていた食べ物を旅人へ差し出しました。

旅人は驚きました。

小屋を見れば、この若者が決して裕福ではないことはすぐにわかります。

「これは、あなたの分では?」

「まだありますから。」

本当は、それほど残ってはいませんでした。

それでも若者は笑いました。

「今は体を温めることの方が大切です。」

旅人は両手で茶碗を包みました。

温かさが冷えきった指先へ伝わっていきます。

「ありがとう。」

旅人は何度も頭を下げました。

その夜、外では雪が降り続きました。

ごうっ。

ごうっ。

風が小屋を揺らします。

けれど小屋の中では、炭火が静かに赤く燃えていました。

旅人はその暖かさに包まれ、ようやく安心して眠ることができました。

翌朝。

雪はやんでいました。

雲の切れ間から朝日が差し込み、山一面の雪がきらきらと光っています。

旅人はすっかり元気を取り戻していました。

「本当に助かりました。」

「もう大丈夫ですか?」

「ああ。」

旅人は小屋を出ると、すぐ近くにある炭窯を眺めました。

窯からは細い煙が立ち上っています。

風のない冬の朝。

煙はほとんど揺れることなく、まっすぐ空へ昇っていました。

旅人はしばらく、その煙を見つめていました。

「あなたの炭窯の煙は、とても美しい。」

若者は不思議そうな顔をしました。

「煙ですか?」

「ああ。」

旅人は笑いました。

「まっすぐ空へ昇る煙は、まじめに仕事をしている人の証だ。」

若者には、その言葉の意味がよくわかりませんでした。

「そういうものですかね。」

旅人は小さく笑いました。

そして若者へ深く頭を下げます。

「この恩は忘れません。」

「そんな、大したことはしていませんよ。」

「それでもだ。」

旅人はそう言い残し、雪の残る山道を下っていきました。

若者は旅人の姿が見えなくなるまで見送りました。

それからまた、いつもの暮らしへ戻りました。

木を切り、

炭窯へ運び、

火を入れ、

煙を見ながら炭を焼く。

春が近づき、山の雪も少しずつ解けていきました。

木々の芽が膨らみ、小鳥の声が聞こえるようになったころ。

村へ一人の役人がやってきました。

立派な着物を着た役人は、村人たちを集めて尋ねました。

「この辺りに、腕のよい炭焼きはいないか?」

村人たちは顔を見合わせました。

役人は続けます。

「都では今、多くの炭が必要になっている。」

「火持ちがよく、煙の少ない、質のよい炭を作れる者を探しているのだ。」

すると、一人のおじいさんが言いました。

「それなら、山のふもとの若者だ。」

「毎日、本当によく働いている。」

別の村人も言いました。

「あの若者の炭なら間違いない。」

「長く燃えるし、煙も少ない。」

「それに、仕事をごまかすような男じゃない。」

村人たちは、次々と若者の名前を挙げました。

役人は若者の炭焼き小屋を訪ねました。

「炭を見せてもらえるか。」

「どうぞ。」

若者は出来上がった炭を差し出しました。

役人は一本手に取ります。

硬さを確かめ、

割れ方を見て、

実際に火をつけてみました。

しばらくすると、役人の顔が変わりました。

「これは見事だ。」

火持ちがよく、

嫌な煙も少なく、

熱もしっかりと続きます。

「これほどの炭を作れる者を探していた。」

役人は若者に言いました。

「ぜひ、都へ納めてほしい。」

若者は驚きました。

「私の炭を、都へ?」

「ああ。」

「お願いできるか?」

若者は少し考えました。

そして頭を下げました。

「私の炭で役に立てるのなら、喜んで。」

それから、若者の炭は都へ運ばれるようになりました。

最初は少しだけだった注文も、

「この炭はよく燃える。」

「煙が少なくて使いやすい。」

と評判になり、次第に増えていきました。

若者一人では作りきれなくなるほどです。

そこで若者は、村の人たちにも声をかけました。

「一緒に炭を作りませんか?」

仕事を探していた人たちが手伝うようになりました。

若者は自分が覚えてきた炭焼きの方法を、惜しまず教えました。

「火は強くしすぎないこと。」

「煙の色をよく見るんです。」

「焦らないことが大切です。」

やがて村では、たくさんの良質な炭を作れるようになりました。

若者の暮らしも、以前とは比べものにならないほど豊かになっていきました。

けれど、若者は急に立派な着物を着たり、大きな屋敷を建てたりはしませんでした。

相変わらず朝早く起き、炭窯の様子を見に行きます。

そして、自分に余裕ができると、今度は村のためにお金を使いました。

雨が降るたびにぬかるんでいた山道には石を敷きました。

川を渡るのに苦労していた場所には、丈夫な橋を架けました。

冬になると、食べ物に困っている家へ炭や米を届けました。

村人が言いました。

「そんなに人のために使ってしまっていいのか?」

若者は、いつものように笑いました。

「私一人が豊かになっても仕方ありません。」

「みんなが暮らしやすくなる方がいいでしょう。」

そんなある日のことです。

村の入り口に、立派な馬車がやってきました。

「誰だろう?」

村人たちが集まってきます。

馬車の扉が開き、一人の男が降りてきました。

若者はその顔を見て、目を丸くしました。

「あっ……。」

男も笑いました。

「久しぶりですね。」

それは、あの雪の日に山道で倒れていた旅人でした。

「あなたは……!」

旅人は以前とは違い、立派な着物を身につけていました。

若者は驚きました。

「いったい、どうして?」

旅人は頭を下げました。

「実は私は、都で働く役人なのです。」

「役人?」

「あの日、山を越えて別の土地の炭焼きを調べに行く途中で、雪に遭ってしまいました。」

若者は、春に村へやってきた役人のことを思い出しました。

旅人は続けます。

「あなたに助けてもらったあと、私は都へ戻り、良質な炭を探す者にこの村のことを伝えました。」

「でも、なぜ私を?」

若者が尋ねました。

旅人は炭窯の方を見ました。

今日も煙が、空へ細く昇っています。

「私はあの日、あなたの人柄を見ていました。」

「自分の暮らしにも余裕がないのに、見ず知らずの私を助けてくれた。」

「食べ物を分け、炭を惜しまず使い、朝まで休ませてくれた。」

若者は少し照れたように笑いました。

「困っている人を見つけたら、助けるのは当たり前だと思っただけです。」

旅人もうなずきました。

「だからこそです。」

「大きな仕事を任せるなら、炭を作る腕だけでは足りない。」

「約束を守り、ごまかさず、人を大切にできる者でなければならない。」

そして、若者の手を取りました。

「あなたなら信頼できると思ったのです。」

若者は自分の手を見ました。

木を切り、

炭を運び、

火を守り続けてきた手です。

傷があり、硬くなった手でした。

旅人は笑いました。

「良い仕事は、良い心から生まれるものです。」

その日の夜。

若者の家には村人たちが集まり、久しぶりににぎやかな食事になりました。

昔、若者が助けた旅人。

若者の仕事を都へつないだ人。

一緒に炭を焼くようになった村人たち。

みんなが同じ囲炉裏を囲んで笑っていました。

月日は流れました。

若者の作る炭は、遠くの町でも知られるようになりました。

村には仕事が増え、人々の暮らしも少しずつ豊かになっていきました。

いつしか村の人たちは、若者のことを、

「炭焼き長者」

と呼ぶようになりました。

「長者さま。」

そう呼ばれるたび、若者は困ったように笑いました。

「私は今でも、ただの炭焼きですよ。」

年を重ねても、若者は山へ入りました。

そして、ときどき若い炭焼きたちと一緒に窯の前へ座り、煙を見上げました。

ある日、一人の若者が尋ねました。

「長者さまは、どうしてそんなに豊かになれたのですか?」

炭焼き長者は、少し考えました。

そして山の向こうへ続く道を眺めました。

雪の日に旅人と出会った、あの道です。

「さあなあ。」

長者は笑いました。

「ただ、目の前の仕事を一生懸命やって、困っている人がいたらできることをした。」

「それだけだよ。」

炭窯から、細い煙が立ち上っていました。

風のない空へ、

まっすぐ、

まっすぐ。

長者はその煙を眺めながら、静かに笑いました。

山には今日も、炭を焼く香りと、人々の楽しそうな声が広がっていたそうです。

おしまい。


登場人物

  • 炭焼きの若者
    貧しいながらも毎日まじめに働く主人公。自分に余裕がなくても困っている人を助け、仕事にも決して手を抜きません。やがて良質な炭が認められ、「炭焼き長者」と呼ばれるようになります。
  • 旅人
    雪の日に山道で倒れていたところを若者に助けられます。実は都で働く役人で、若者の仕事ぶりと人柄を信頼し、その後の人生につながるきっかけを作ります。
  • 役人
    都で必要となる良質な炭を探して村を訪れます。村人から若者の評判を聞き、その炭の品質を確かめて都への納入を依頼します。
  • 村の人たち
    若者が貧しかったころから、そのまじめな仕事ぶりや優しい人柄を知っている人々。若者が炭作りを広げるようになると、一緒に働きながら村を豊かにしていきます。

教訓

  • 毎日の小さな努力を積み重ねることが、やがて大きな結果につながることがある。
  • 誰かに見られているからではなく、自分の仕事に誠実であることが信頼につながる。
  • 人への優しさは、見返りを求めなくても思いがけない形で人との縁を生むことがある。
  • 本当の豊かさは、お金や物だけではなく、信頼できる人とのつながりや、誰かと支え合えることの中にもある。

親子で話したいポイント

  • 若者は、自分も貧しいのにどうして旅人を助けたのかな?
  • 炭を作るために、若者はどんなことを頑張っていた?
  • 村の人たちは、なぜ役人に若者をすすめたのだろう?
  • 旅人は、若者のどんなところを「信頼できる」と思ったのかな?
  • 誰も見ていなくても頑張っていることはある?
  • お金や物以外の「豊かさ」には、どんなものがあると思う?

保育士向け活用ポイント

  • 仕事や働くことへの興味につなげる
    木を切る、窯へ入れる、火を調整するなど、炭焼きの仕事が具体的に描かれています。勤労感謝の日や「いろいろな仕事」をテーマにした活動の導入として活用できます。
  • 努力を積み重ねる大切さを考える
    若者が一度の幸運で豊かになるのではなく、毎日丁寧に炭を作り続けていたことが認められる物語です。「続けて頑張ること」について考えるきっかけになります。
  • 信頼関係について考える
    村人が若者を役人にすすめたのは、普段の仕事ぶりや人柄を知っていたからです。「信頼されるってどういうこと?」という話し合いへつなげられます。
  • 昔の暮らしや炭について知るきっかけに
    炭がどのように作られ、昔の暮らしの中でどのように使われていたのかを調べる活動へ発展させることができます。実物の炭を観察したり、木と炭の違いを比べたりする活動にもつなげられます。

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