あたま山

日本の昔話

あらすじ

むかしむかし、何でも「もったいない」と惜しがる、とてもけちな男がいました。

ある春の日、男は大好物のさくらんぼを食べていましたが、種を捨てることさえもったいなくなり、とうとう全部飲み込んでしまいます。

すると翌朝、男の頭から小さな芽が出ていました。

芽は日に日に大きくなり、やがて頭の上には立派な桜の木が育ちます。

満開の桜を見つけた町の人々は、男の頭の上で花見を始めてしまいました。

さらに桜の木がなくなったあとには池までできて――。

落語としても知られる、奇想天外でおかしな昔話です。

本文

むかしむかし、ある町に、それはそれはけちな男が住んでいました。

男は何でもかんでも惜しがる性分でした。

ご飯を食べれば、茶碗についた米粒を一粒残らず食べます。

薪を使えば、灰になるぎりぎりまで燃やします。

着物が破れれば何度でも縫い直し、履き物に穴が開いても、

「まだ履ける、まだ履ける」

と、いつまでも使い続けました。

道に縄の切れ端が落ちていれば拾い、

「何かに使えるかもしれん」

と家へ持ち帰ります。

町の人たちは、そんな男を見て言いました。

「物を大切にするのは良いことだけどねえ」

「あそこまでいくと、ちょっと行き過ぎじゃないか」

けれど男は気にしません。

「捨てるなんてもったいない。使えるものは何でも使うんだ」

そう言って、得意そうにしていました。

そんなある春の日のことです。

男は市場で、赤くつやつやしたさくらんぼを見つけました。

「これはうまそうだ」

値段を聞くと、男はしばらく悩みました。

けれど、どうしても食べたくなり、とうとう買って帰りました。

家に着くと、さくらんぼを一粒つまみました。

ぱくり。

「うまい!」

もう一粒。

ぱくり。

「これはうまいなあ」

甘酸っぱい実が気に入って、男は次から次へと食べました。

ところが、食べ終わるころになると、男は手のひらに残った種をじっと見つめました。

「うーむ……」

普通なら捨てるところです。

けれど、けちな男には、それができません。

「この種を捨てるのはもったいない」

植えておけば、いつかさくらんぼの木になるかもしれません。

しかし、庭へ植えるために穴を掘るのは面倒です。

男は種を眺めながら、しばらく考えました。

「どうしたものかなあ……」

そして、ぽんと手を打ちました。

「そうだ!」

男は嬉しそうに言いました。

「飲み込んでしまえば、捨てずにすむじゃないか」

男は種を口へ放り込みました。

ごくん。

もう一つ。

ごくん。

「これなら一つも無駄にならない」

ごくん。

ごくん。

男は残っていた種を、すべて飲み込んでしまいました。

そして、その日は何事もなく眠りました。

ところが翌朝。

「ん……?」

目を覚ました男は、頭のてっぺんに妙な違和感を覚えました。

むずむず。

むずむず。

「なんだ?」

頭をかこうと手を伸ばすと、指先に何かが触れました。

「ん?」

男は慌てて鏡をのぞき込みました。

すると――。

頭のてっぺんから、小さな緑色の芽が一本、ちょこんと生えていたのです。

「な、なんだこれは!」

男は驚いて頭を触りました。

確かに芽です。

引っ張ってみようとしましたが、

「いたたたた!」

頭まで引っ張られるように痛みます。

「まさか……昨日飲んだ種か?」

男は心配になりました。

けれど、芽は痛くもかゆくもありません。

「まあ、そのうち枯れるだろう」

そう思い、放っておくことにしました。

ところが翌日。

芽は昨日よりも大きくなっていました。

その次の日には、さらに伸びました。

三日後には小さな枝が出てきました。

「おいおい……」

一週間もすると――。

男の頭の上には、立派な木が生えていました。

「これは困ったぞ」

帽子をかぶろうとしても、枝が邪魔をして入りません。

寝ようとしても、枝が布団につかえて横になれません。

家の戸をくぐろうとすれば、

ガサッ!

「いたたっ!」

枝が引っかかります。

町を歩けば、枝が軒先にぶつかります。

それでも男は、

「まあ、せっかく生えた木だ。切って捨てるのももったいない」

と言って、そのままにしていました。

やがて春が深まってきました。

ある朝、男が目を覚ますと、頭の木に小さなつぼみがついていました。

数日後。

ぽつり。

ぽつり。

淡い桃色の花が開き始めました。

そして――。

ある暖かな朝。

男の頭の上には、見事な桜の花が咲き誇っていました。

「おお……」

男も思わず見とれました。

満開の桜は、風が吹くたびにふわりと揺れます。

その噂は、たちまち町中に広まりました。

「知っているか? 頭に桜が咲いた男がいるらしいぞ」

「頭に?」

「そんな馬鹿な」

「本当だって。見事な桜らしい」

その日の午後。

男が外を歩いていると、何人もの町の人が集まってきました。

「本当だ!」

「頭から桜が生えている!」

「こりゃ見事だなあ」

「山まで花見に行かなくてもいいじゃないか」

子どもたちも男の後ろについて歩きました。

「すごーい!」

「桜のおじさんだ!」

男は最初こそ戸惑っていましたが、みんなに褒められるうちに、だんだん得意な気分になってきました。

「まあ、見たいなら見てもいいぞ」

胸を張って町を歩きました。

ところが――。

桜が満開になると、事態は思わぬ方向へ進みました。

ある日、男が広場で休んでいると、一人の町人がござを持ってやってきました。

「いやあ、ちょうどいい場所だ」

男の頭の下に、ござを広げます。

「何をしている?」

「花見ですよ」

「花見?」

すると別の人もやってきました。

「おお、もう始めているのか」

手には弁当を持っています。

さらにもう一人。

「酒も持ってきたぞ!」

あっという間に、男の頭の周りには人が集まりました。

ござが敷かれ、弁当が広げられ、酒まで並べられます。

そして――。

「それでは、かんぱーい!」

「乾杯!」

男が何も言わないうちに、宴会が始まってしまいました。

「いやあ、きれいな桜だ」

「今年はいい花見ができたなあ」

わっはっはっは。

あはははは。

大人たちは笑い、子どもたちは男の周りを走り回ります。

「おい!」

男が怒鳴りました。

「勝手に花見をするんじゃない!」

けれど町の人たちは気にしません。

「まあまあ、そんなこと言わずに」

「きれいな桜は、みんなで楽しむものだよ」

「そうそう」

「酒でも一杯どうだ?」

「いらん!」

男はぷんぷん怒りました。

けれど翌日も、人々はやってきました。

「今日も花見だ!」

その次の日もやってきました。

「いい場所だねえ」

さらに次の日も――。

「ここなら遠くまで歩かなくてすむぞ」

朝から晩まで人が集まり、歌ったり笑ったりしています。

男はとうとう我慢できなくなりました。

「もうたくさんだ!」

男は大声で怒鳴りました。

「ここはわしの頭だぞ! 勝手に宴会をするな!」

男はござを追い払い、弁当を片づけさせ、人々を追い返してしまいました。

「もう二度と来るな!」

それから、町の人たちは男の頭へ近づかなくなりました。

「やれやれ」

男はようやく静かになったと喜びました。

ところが、しばらくすると桜の季節が終わりました。

花びらが散り、葉も落ちていきます。

男は頭の木が邪魔になり、とうとう抜いてしまいました。

「これですっきりした」

ところが、木を抜いたあとには大きなくぼみが残ってしまいました。

やがて梅雨になりました。

ざあざあ。

ざあざあ。

雨が何日も降り続きました。

すると、頭のくぼみに雨水がたまり始めました。

ぽつぽつ。

ちゃぷちゃぷ。

水は日に日に増えていきます。

気がつけば――。

男の頭の上には、小さな池ができていました。

「今度は池か!」

男は頭を抱えました。

そんなある日。

男の頭の池を見つけた子どもが叫びました。

「わあ! 池がある!」

「本当だ!」

「魚を泳がせようよ!」

「やめろ!」

男が止める間もありません。

誰かが金魚を持ってきました。

ぽちゃん。

別の子どもはザリガニを持ってきました。

ぽちゃん。

小さな魚まで放されました。

気がつけば、男の頭の池では魚たちがすいすい泳いでいました。

「わあ、泳いでる!」

「すごい!」

その噂を聞きつけ、今度は大人たちまで集まってきました。

「頭の上に池ができたらしいぞ」

「魚もいるって?」

「だったら釣りができるじゃないか」

釣り竿を持った人までやってきました。

「よいしょっと」

「おい! 何をする!」

「釣りですよ」

「わしの頭で釣りをするな!」

けれど、人々は楽しそうです。

「あっ、かかった!」

「大物か?」

「こっちにも魚がいるぞ!」

子どもたちははしゃぎ、大人たちは釣り糸を垂らします。

男の頭の周りは、またしても大騒ぎになりました。

「やめろ!」

男は怒鳴りました。

「勝手に魚を入れるな!」

「勝手に釣りをするな!」

「ここはわしの頭だぞ!」

けれど、誰も男の言うことを聞きません。

男はますます腹を立てました。

「桜のときもそうだった!」

「今度は池だ!」

「どうしてみんな、わしの頭に集まってくるんだ!」

男は怒りながら走り出しました。

「もう嫌だ!」

町を走り抜けます。

「こんな頭なんかいらない!」

さらに走ります。

「もうたくさんだ!」

ところが、あまりに腹を立てて走り回っていたものですから――。

男は足を滑らせました。

「うわっ!」

体がぐるりと回ります。

そして、そのまま――。

自分の頭にできた池へ、

ぽちゃん。

と、飛び込んでしまいました。

それきり、男の姿を見た者はいなかったそうです。

おしまい。

登場人物

  • けちな男
    何でも「もったいない」と惜しがる男。さくらんぼの種まで捨てられず、飲み込んだことから不思議な出来事に巻き込まれます。
  • 町の人々
    男の頭に咲いた桜を見物し、花見を始めたり、頭にできた池で釣りをしたりする人々です。
  • 子どもたち
    男の頭の桜や池に興味津々。池ができると金魚やザリガニを放して楽しみます。

教訓

  • 物を大切にすることと、何でも惜しがることは同じではありません。
  • 何事も行き過ぎると、思わぬ困りごとにつながることがあります。
  • 自分のものを大切にする気持ちと、周りの人と楽しさを分かち合う気持ちの両方を持つことが大切です。

親子で話したいポイント

  • 男は、どうしてさくらんぼの種まで飲み込んでしまったのかな?
  • 「もったいない」と「けち」には、どんな違いがあると思う?
  • 自分の大切なものを誰かと一緒に使ったことはある?
  • 頭から桜の木が生えてきたら、みんなならどうする?
  • このお話で一番おもしろかった場面はどこだった?

保育士向け活用ポイント

  • 奇想天外な展開が続くため、4〜5歳児を中心に楽しみやすい昔話です。
  • 「頭から桜が生えたらどうする?」「頭に池ができたら何を泳がせたい?」など、子どもの想像を広げる問いかけにつなげられます。
  • 「もったいない」と「何でも捨てられないこと」の違いを考え、物を大切にすることについて話し合うきっかけにもなります。
  • 「共有」「貸し借り」「みんなで楽しむ」といった園生活に身近なテーマへ発展させることもできます。
  • 頭の上に桜や池がある人物を描くなど、自由画や製作活動の題材としても楽しめます。

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