梅津の長者(うめづのちょうじゃ)|世界の名作・昔話(日本の昔話)

あ行

あらすじ

むかし、京都の梅津というところに、貧しい夫婦が暮らしていました。

二人は決して豊かではありませんでしたが、毎日一生懸命に働き、支え合いながら暮らしていました。

ある晩、夫が不思議な夢を見ます。

夢の中で告げられたのは、これからの幸せにつながるような知らせでした。

その夢をきっかけに、夫婦の身の回りでは少しずつ良いことが起こるようになります。

仕事に恵まれ、人とのご縁にも恵まれ、夫婦の暮らしは次第に豊かになっていきました。

それでも二人は働くことをやめず、周りの人への親切も忘れません。

やがて夫婦は立派な家を構え、人々から「梅津の長者」と呼ばれるほどになりました。

本文

むかしむかし、京都の梅津というところに、一組の夫婦が暮らしていました。

二人の家は小さく、暮らしは決して楽ではありませんでした。

朝になれば早くから起きて働き、日が暮れるころまで仕事をします。

それでも、手元に残るものはほんのわずかでした。

ある日の夕方。

夫は仕事を終えて家へ戻ってきました。

「ただいま。」

「おかえりなさい。今日もお疲れさま。」

妻が迎えます。

質素な食事を二人で囲みながら、夫はぽつりと言いました。

「今日もよく働いたなあ。」

「そうだね。」

妻は笑いました。

「いつか、少しでも楽な暮らしができるといいね。」

「そうだな。」

二人はそんな話をしながらも、不平ばかりを言うことはありませんでした。

明日になれば、また働く。

できることを一つずつ続けていく。

そんな毎日を送っていました。

ある晩のことです。

その日も夫婦は一日の仕事を終え、いつものように眠りにつきました。

辺りはすっかり静かになっています。

家の外から聞こえるのは、時折吹く風の音くらいでした。

夫がぐっすり眠っていると――。

不思議な夢を見ました。

夢の中で、夫はこれからの幸せにつながるような知らせを受けたのです。

「これは……。」

夢の中の出来事なのに、なぜかとてもはっきりと感じられました。

やがて夫は目を覚ましました。

辺りはまだ薄暗く、妻は隣で眠っています。

夫はしばらく横になったまま、夢のことを考えていました。

「なんとも不思議な夢だったな……。」

いつもの夢なら、目を覚ますとすぐに忘れてしまいます。

けれど、その夢だけは違いました。

朝になっても、はっきりと覚えていたのです。

妻が起きてくると、夫はさっそく話しました。

「なあ、昨日の夜、不思議な夢を見たんだ。」

「どんな夢?」

夫は覚えていることを妻に話しました。

妻も不思議そうな顔をします。

「何か意味があるのかしら。」

「さあ、どうだろうな。」

二人は半信半疑でした。

夢は夢です。

本当に何かが起こるのか、それともただの夢なのか、二人には分かりません。

「まあ、考えていても仕方がない。」

夫は立ち上がりました。

「今日も仕事をしよう。」

「そうだね。」

夫婦はいつものように働き始めました。

ところが――。

それからしばらくすると、夫婦の身の回りで少しずつ良いことが起こるようになりました。

ある仕事を引き受けると、それが思った以上にうまくいきました。

またあるときには、思いがけず良い品を手に入れることができました。

さらに、その仕事を通して知り合った人から、別の人を紹介してもらうこともありました。

「今度、こんな仕事があるんだが、やってみないか?」

「私たちでよければ、ぜひ。」

一つの仕事が、次の仕事につながっていきます。

一人との出会いが、また新しい出会いを運んできます。

少しずつ。

本当に少しずつ。

夫婦の暮らしは変わり始めました。

ある日、妻が言いました。

「ねえ。あの夢を見てから、なんだか良いことが続いていない?」

夫も考えました。

「たしかにそうだな。」

「不思議だねえ。」

二人は顔を見合わせました。

けれど、だからといって夫婦は、

「これでもう働かなくても大丈夫だ。」

とは考えませんでした。

朝になれば、これまでと同じように起きました。

頼まれた仕事には、きちんと取り組みました。

誰かに助けてもらえば、お礼を言いました。

困っている人を見かければ、自分たちにできることをしました。

「昔、私たちも苦労したからね。」

「困っているときに助けてもらえるのは、ありがたいものだ。」

夫婦は、暮らしが少し良くなっても、それまでの日々を忘れませんでした。

すると、また新しい仕事が舞い込みました。

「あなたたちなら、きちんとやってくれると聞いたんだ。」

「ありがとうございます。」

夫婦は喜んで仕事を引き受けました。

一つ一つの仕事を大切にしているうちに、夫婦のもとにはさらに人が集まるようになっていきました。

やがて、以前とは比べものにならないほど暮らしに余裕ができてきました。

少しずつ財産も増えていきます。

小さかった家も、やがて立派な家になりました。

それを見た村の人たちは驚きました。

「ずいぶん立派な家になったものだ。」

「昔はあんなに苦労していたのになあ。」

「いつの間に、こんなに豊かになったんだ。」

けれど、夫婦の人柄は変わりませんでした。

立派な家に住むようになっても、偉そうにすることはありません。

昔からの知り合いにも、変わらず声をかけました。

「元気にしているかい?」

「何か困っていることはないかい?」

助けを必要としている人がいれば、できる範囲で手を差し伸べました。

自分たちのもとで働く人にも、きちんと声をかけました。

夫婦は、自分たちだけが豊かになればそれでよいとは考えなかったのです。

そんな二人のことを、人々はいつしか、

「梅津の長者」

と呼ぶようになりました。

かつて小さな家で、

「いつか、少しでも楽な暮らしができるといいね。」

と話していた夫婦。

不思議な夢をきっかけに、二人のもとにはさまざまな幸運が訪れました。

けれど二人は、豊かになったあとも毎日を大切に暮らしました。

人との出会いを喜び、仕事に励み、困っている人には手を差し伸べました。

梅津の立派な家には、今日もたくさんの人が訪れます。

夫婦は昔と変わらない笑顔で、その人たちを迎えていました。

おしまい。

登場人物

夫
京都の梅津で妻と暮らす働き者の男性。貧しい暮らしの中でも仕事を続け、不思議な夢を見たことをきっかけに少しずつ運が開けていきます。

妻
夫と支え合いながら暮らす働き者の女性。暮らしが豊かになってからも、それまでと変わらず周りの人を大切にします。

村人たち
夫婦の暮らしが少しずつ変わっていく様子を見守る人々。やがて豊かになった夫婦を「梅津の長者」と呼ぶようになります。

教訓

思いがけない幸運に恵まれたときにも、それまで続けてきた努力を忘れないことが大切。

人との出会いやつながりを大切にすることで、新しい道が開けることがある。

暮らしが豊かになっても、苦しかったころの気持ちや周りの人への思いやりを忘れずにいたい。

親子で話したいポイント

夫婦は、どうして少しずつ豊かになっていったのかな?

良いことが続いても、二人が働くことをやめなかったのはどうしてだろう?

誰かに助けてもらって、うれしかったことはある?

自分に良いことがあったとき、周りの人にもできることはあるかな?

もしお金持ちになったら、それでも大切にしていたいものは何?

保育士向け活用ポイント

「働くこと」「人とのつながり」「豊かさ」について考える題材として活用できます。

夫婦が一人で豊かになったのではなく、仕事や人との出会いを一つずつ大切にしていく展開から、「いろいろな人が支え合って暮らしている」というテーマへつなげられます。

また、「どんな仕事をしている人がいるかな?」と子どもたちに問いかけ、家族や地域で働く人について考えたり、さまざまな仕事を調べたりする活動にも発展させられます。

夫婦が豊かになったあとも周りの人への親切を忘れなかったことから、「自分が誰かのためにできること」を子どもたちと話し合うきっかけとしても活用できます。

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