歌う骨|世界の名作・昔話(グリム童話)

グリム童話

あらすじ

むかし、村を荒らす恐ろしい大イノシシがいました。

困り果てた王さまは、「このイノシシを退治した者には褒美を与える」と約束します。

そこで二人の兄弟がイノシシ退治に向かい、弟が勇敢に立ち向かって見事に退治しました。

ところが兄は弟の成功をうらやみ、その手柄を自分のものにしようとします。

弟は悲しい運命をたどり、真実は長いあいだ隠されてしまいました。

それから何年もたったある日、一つの骨から作られた笛が、不思議な歌を歌い始めます。

誰も知らなかったはずの、兄弟の秘密を――。

本文

むかしむかし、ある国に大きな森がありました。

その森には、一頭の恐ろしいイノシシが住んでいました。

普通のイノシシとは比べものにならないほど大きく、太い牙を持っています。

イノシシは森から村へ現れては、畑を荒らしました。

どしん。

どしん。

夜になると、森の向こうから重たい足音が聞こえてくることもありました。

「また、あのイノシシだ。」

村人たちは戸を閉め、家の中で息をひそめました。

何人もの男たちが退治しようとしましたが、誰もイノシシを捕まえることができません。

とうとう村人たちは、王さまに助けを求めました。

話を聞いた王さまは言いました。

「このイノシシを退治した者には、褒美を与えよう。」

その知らせは国中へ広がりました。

けれど、あの恐ろしいイノシシと戦おうという者は、なかなか現れません。

そんな中、二人の兄弟が名乗り出ました。

「私たちが行きます。」

二人は森へ向かいました。

兄と弟は別々の道から森へ入り、イノシシを探すことにしました。

森の中は薄暗く、木々が空を覆っています。

ざわざわ……。

風が吹くたび、枝や葉が揺れました。

弟は慎重に森の奥へ進んでいきました。

すると――。

がさっ。

茂みの向こうから、大きな音がしました。

弟は足を止めました。

がさがさっ。

何かが近づいてきます。

次の瞬間。

「ブオオオッ!」

巨大なイノシシが飛び出してきました。

「出た!」

イノシシは地面を蹴り、弟へ向かって突進してきます。

どどどどっ。

弟は怖くなりました。

けれど、逃げませんでした。

イノシシの動きをよく見ながら、勇気を出して立ち向かいます。

激しい戦いの末――。

ついに弟は、大イノシシを退治することができました。

「やった……。」

弟は大きく息をつきました。

村を苦しめていたイノシシを、とうとう倒したのです。

弟は喜びました。

「これでもう、村のみんなも安心できる。」

そして王さまへ知らせるため、森を出ようとしました。

ところが、その途中で兄と出会いました。

「兄さん! イノシシを退治したよ!」

弟はうれしそうに話しました。

兄は驚きました。

「お前が……?」

弟はうなずきました。

「これで村のみんなも安心だね。」

けれど兄は、素直に喜ぶことができませんでした。

自分ではなく弟がイノシシを退治した。

弟が王さまから褒美をもらう。

そう考えているうちに、兄の心の中に、黒い気持ちが広がっていきました。

「どうして弟ばかり……。」

夕方になり、森の中は少しずつ暗くなっていきました。

木々の間から差し込んでいた光も消え始めます。

弟は兄を疑うことなく、一緒に歩いていました。

けれど兄は、弟の手柄を自分のものにしようと考えていました。

そして――。

弟は、悲しい運命をたどることになりました。

森の中に、弟の姿はなくなりました。

兄だけが村へ戻ってきました。

そして兄は、王さまの前で言いました。

「私がイノシシを退治しました。」

誰も、本当のことを知りません。

弟が勇敢にイノシシと戦ったことも。

弟が兄を信じていたことも。

そして、森の中で何が起きたのかも。

王さまは兄の話を信じ、約束どおり褒美を与えました。

こうして兄は、弟の手柄を自分のものにしました。

それから長い年月が流れました。

森には再び静かな時間が戻っていました。

村人たちも、あの大イノシシのことを少しずつ忘れていきました。

ある日のことです。

一人の村人が森の近くを歩いていました。

すると地面に、白いものが落ちているのを見つけました。

「なんだろう?」

拾い上げてみると、それは一本の骨でした。

村人はその骨を眺めました。

形がちょうどよかったので、笛を作ってみることにしました。

骨を削り、小さな穴を開けます。

そして完成した笛を口元へ持っていきました。

「どんな音がするかな。」

村人が息を吹き込むと――。

ひゅう……。

不思議な音が響きました。

村人は首をかしげました。

普通の笛の音とは違います。

もう一度、吹いてみました。

すると――。

笛が、歌い始めました。

村人は驚いて笛を口から離しました。

「えっ……?」

辺りを見回します。

誰もいません。

風が静かに草を揺らしているだけです。

村人は恐る恐る、もう一度笛を吹きました。

ひゅうう……。

すると、やはり聞こえてきました。

「兄が私をだました……。」

小さく、悲しそうな歌声でした。

村人の背中がぞくりとしました。

「この笛が……歌っている?」

何度吹いても、同じ歌が聞こえます。

「兄が私をだました……。」

村人は怖くなりましたが、この不思議な出来事をそのままにしておくことはできませんでした。

笛のことは、やがて村中に知られるようになりました。

「骨で作った笛が歌うらしい。」

「しかも、兄にだまされたと言っているそうだ。」

その話は王さまの耳にも届きました。

王さまは笛を持ってこさせました。

静かな部屋で、笛が吹かれます。

ひゅうう……。

そして――。

「兄が私をだました……。」

不思議な歌声が響きました。

王さまの表情が変わりました。

「これは、どういうことだ?」

昔の出来事が調べられることになりました。

あの大イノシシが村を荒らしていたこと。

二人の兄弟が退治に向かったこと。

弟がそのまま戻ってこなかったこと。

そして兄だけが帰り、自分がイノシシを退治したと話したこと。

一つずつ確かめていくうちに、長いあいだ隠されていた真実が明らかになっていきました。

本当にイノシシを退治したのは弟でした。

兄は弟を裏切り、その手柄を自分のものにしていたのです。

誰にも知られないまま消えてしまったと思われていた弟の真実。

けれど、その真実は消えてはいませんでした。

長い年月を経て、一本の骨が歌となって語り始めたのです。

すべてが明らかになったあと、森にはまた静けさが戻りました。

ざわざわ……。

木々の間を風が吹き抜けます。

そして、ときおり風の音にまじって、遠くから笛の音のようなものが聞こえたといいます。

ひゅうう……。

おしまい。

登場人物

兄
弟が大イノシシを退治したことをうらやみ、その手柄を自分のものにしようとする人物。

弟
村を苦しめていた大イノシシに勇敢に立ち向かい、見事に退治する人物。

王さま
大イノシシを退治した者に褒美を与えると約束し、のちに不思議な笛をきっかけに真実を調べる人物。

村人たち
イノシシに苦しめられていた人々。長い年月がたったあと、歌う骨をきっかけに隠されていた真実を知ります。

教訓

人をだましたり、誰かの手柄を奪ったりして得たものは、本当の成功とはいえない。

人の成功をうらやむだけではなく、その努力や頑張りを認めることが大切。

嘘で隠したつもりでも、真実がいつか明らかになることがある。

親子で話したいポイント

兄はどうして弟の成功を素直に喜べなかったのかな?

友達やきょうだいが自分より上手にできたとき、どんな気持ちになる?

誰かの成功をうらやましいと思ったとき、どうしたらいいかな?

嘘をついてしまったとき、そのあとどうすることが大切だと思う?

保育士向け活用ポイント

幼児向けに扱う場合は、兄弟の間に起こる怖い出来事を詳しく描かず、「人の手柄を自分のものにしない」「嘘をつかず正直に話す」「友達の成功を認める」といった部分を中心に再話できます。

運動遊びやゲームなど勝ち負けが生まれる活動と結びつけ、「負けて悔しい」「友達がほめられてうらやましい」といった感情そのものを否定せず、その気持ちとどう付き合うかを考える題材としても活用できます。

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