正直じいさんと欲張りじいさん(しょうじきじいさんとよくばりじいさん)

昔話

あらすじ

むかしむかし、山と川に囲まれた村に、正直で働き者のおじいさんと、少し欲張りなおじいさんが住んでいました。

正直じいさんは、決して裕福ではありませんでしたが、毎日こつこつと畑を耕し、困っている人がいれば進んで手を貸していました。

一方の欲張りじいさんは、いつも人の暮らしをうらやみながら、

「もっと楽をして、お金持ちになれないものか。」

と考えていました。

そんなある秋の日。

正直じいさんは山で罠にかかっていた一匹の子ぎつねを助けます。

するとその夜、助けた子ぎつねと母ぎつねが家を訪れ、不思議な種を置いていきました。

やがて、その種から思いもよらない実りが生まれます。

その話を聞いた欲張りじいさんは、自分も同じように宝を手に入れようと山へ向かうのでした。


本文

むかしむかし、山と川に囲まれた小さな村がありました。

春には山菜が芽を出し、夏には田んぼが青々と広がり、秋になると山々が赤や黄色に染まる、静かな村でした。

その村に、二人のおじいさんが住んでいました。

一人は、正直じいさん。

もう一人は、欲張りじいさんです。

正直じいさんの家は、小さな畑のそばに建つ古い家でした。

暮らしは決して豊かではありません。

それでも正直じいさんは、毎朝まだ朝露が残っているころに起きました。

「さて、今日も働くか。」

畑へ出ると、鍬を持って土を耕します。

ざくっ。

ざくっ。

春には種をまき、

夏には汗を流しながら草を抜き、

秋には育った野菜を一つずつ丁寧に収穫しました。

たくさん採れた日には、近所の人へ分けることもありました。

「こんなにいただいていいのかい?」

「うちだけでは食べきれませんから。」

正直じいさんは、いつも笑っていました。

村のおばあさんが重い荷物を運んでいれば、

「持ちましょう。」

と声をかけます。

道が雨で崩れていれば、誰に頼まれたわけでもないのに土を運んで直しました。

「じいさんは働いてばかりだなあ。」

そう言われると、

「今日も元気に働けるのは、ありがたいことだよ。」

と笑うのでした。

一方、欲張りじいさんはというと――。

正直じいさんの畑を眺めながら、いつも不満そうな顔をしていました。

「また、あのじいさんの畑にはたくさん実っている。」

村人たちが正直じいさんと楽しそうに話していると、

「どうして、あの人ばかりみんなに好かれるんだ。」

とぶつぶつ。

畑仕事をしていても、

「もっと楽をして暮らしたいものだ。」

町でお金持ちを見れば、

「何もしなくてもお金が入ってくる方法はないものか。」

そんなことばかり考えていました。

ある秋の日のことです。

正直じいさんは、冬に使う薪を集めるため山へ入りました。

山の木々は赤や黄色に染まり、足元にはたくさんの落ち葉が積もっています。

かさっ。

かさっ。

正直じいさんは落ち葉を踏みながら、山の奥へ進んでいきました。

薪になりそうな枯れ枝を拾っていると――。

「……助けてください。」

どこからか、小さな声が聞こえました。

「ん?」

正直じいさんは顔を上げました。

「誰かいるのかい?」

返事はありません。

風が、

さわさわ……。

と木の葉を揺らします。

すると、また。

「助けて……。」

今度は、すぐ近くから聞こえました。

正直じいさんが声のする方へ行ってみると、大きな木の根元に小さな子ぎつねがいました。

「おや。」

見ると、子ぎつねの足が罠に挟まれています。

子ぎつねは逃げようとしたのでしょう。

けれど動くたびに罠が締まり、どうすることもできなくなっていました。

「これは大変だ。」

正直じいさんは拾った薪を地面へ置きました。

「怖がらなくていいよ。」

子ぎつねは震えながら、じいさんを見ています。

正直じいさんはゆっくり近づき、罠へ手を伸ばしました。

「少し痛いかもしれないけれど、じっとしておいで。」

固い罠を両手で開きます。

「よいしょ……。」

ぎしっ。

「もう少しだ。」

そして――。

ぱかっ。

罠が開きました。

子ぎつねは足を抜くと、よろよろと立ち上がりました。

「大丈夫かい?」

正直じいさんは持っていた布を取り出し、傷ついた足へそっと巻いてやりました。

すると子ぎつねは、不思議なことに人間の言葉で言いました。

「ありがとうございました。」

「おやまあ。」

正直じいさんは驚きました。

けれど、怖がることもありません。

「もう罠には気をつけるんだよ。」

子ぎつねは何度も頭を下げました。

そして、ぴょこぴょこと森の奥へ走っていきました。

正直じいさんはその後ろ姿を見送り、

「元気になればいいが。」

とつぶやきました。

それから何事もなかったように薪を拾い、家へ帰りました。

その夜のことです。

正直じいさんが囲炉裏のそばで夕飯を食べていると――。

コンコン。

「ん?」

誰かが戸を叩きました。

こんな夜に誰だろう。

正直じいさんが戸を開けると、そこには二匹のきつねがいました。

一匹は、昼間助けた子ぎつね。

そしてその隣には、大きな母ぎつねが立っていました。

「おや、お前さんは。」

子ぎつねの足には、昼間巻いてやった布が残っています。

母ぎつねが深く頭を下げました。

「今日は息子を助けてくださり、ありがとうございました。」

「いやいや。」

正直じいさんは手を振りました。

「困っていたから助けただけですよ。」

母ぎつねは小さな袋を差し出しました。

「どうか、これをお受け取りください。」

「これは?」

袋を開けると、中には見たことのない種がいくつか入っていました。

丸くてつやがあり、月の光を受けてかすかに輝いています。

「不思議な種ですね。」

母ぎつねは言いました。

「畑へ植えて、大切に育ててください。」

「きっと、あなたの役に立つでしょう。」

正直じいさんは戸惑いました。

「子ぎつねを助けたお礼なら、こんなものをいただかなくても。」

けれど母ぎつねは、

「私たちの気持ちです。」

と、もう一度頭を下げました。

正直じいさんは、ようやく袋を受け取りました。

「それなら、ありがたくいただきます。」

子ぎつねも嬉しそうに頭を下げます。

二匹のきつねは、そのまま夜の森へ帰っていきました。

翌朝。

正直じいさんは畑の隅に、小さな場所を作りました。

土を柔らかく耕し、もらった種を一粒ずつ植えました。

「さて、何が育つのかな。」

毎朝、水をやりました。

暑い日には土が乾きすぎていないか確かめました。

雑草が生えれば丁寧に抜きました。

何日かすると――。

土の中から、小さな緑の芽が顔を出しました。

「おお、出てきた。」

正直じいさんは喜びました。

芽は日に日に大きくなりました。

茎が伸び、

葉が増え、

やがて正直じいさんの背を越えました。

「ずいぶん大きくなる木だなあ。」

季節が巡るころには、それは立派な木になっていました。

そして秋。

枝には、見たことのない丸い実がたくさんなりました。

「そろそろいいかな。」

正直じいさんは、一つだけ実を取りました。

そして、ぱかっと割ってみました。

「これは……!」

中に入っていたのは、金や宝石ではありませんでした。

つやつやとしたお米。

大豆。

麦。

そして、さまざまな野菜の種。

小さな実の中に、たくさんの食べ物と種がぎっしり詰まっていたのです。

「なんとありがたい。」

正直じいさんは手を合わせました。

その年、村では雨が少なく、作物があまり採れませんでした。

冬を越すための食べ物に困っている家もありました。

正直じいさんは、自分が食べる分だけを残しました。

そして、残ったお米や種を村の人たちへ配りました。

「うちにもいただけるのかい?」

「もちろん。」

「ありがとう。」

「これで冬を越せるよ。」

「来年の畑に種をまける。」

村の人たちは大喜びでした。

正直じいさんの不思議な木のおかげで、多くの人が助かりました。

その噂は、すぐに欲張りじいさんの耳にも入りました。

「何?」

「きつねを助けたら、不思議な種をもらっただと?」

欲張りじいさんの目が輝きました。

「その種から食べ物がいくらでも出てくる木が育った?」

欲張りじいさんはいてもたってもいられません。

「そんなものがあるなら、わしも欲しい!」

次の日。

欲張りじいさんは朝から山へ入りました。

けれど薪を拾うためではありません。

「困っている動物はいないか。」

「きつねでも、たぬきでもいい。」

「助けてやれば、きっと宝をくれるぞ。」

山の中をあちらこちら探し回りました。

しばらくすると、木の枝に何かが引っかかっているのを見つけました。

小さな子だぬきでした。

どうやら木の間に挟まり、降りられなくなっているようです。

「いたぞ!」

欲張りじいさんは駆け寄りました。

子だぬきは不安そうにじいさんを見ました。

「助けてほしいか?」

子だぬきは何度もうなずきました。

すると欲張りじいさんは言いました。

「では、宝をくれるなら助けてやろう。」

子だぬきは困った顔をしました。

「宝……?」

「そうだ。」

「きつねは不思議な種をくれたそうじゃないか。」

「お前も何か持っているだろう。」

子だぬきは悲しそうにうつむきました。

それでも欲張りじいさんは、子だぬきを木から下ろしてやりました。

「忘れるなよ。」

「お礼だぞ。」

子だぬきは小さく頭を下げると、山の奥へ帰っていきました。

その夜。

コンコン。

欲張りじいさんの家の戸が鳴りました。

「来た!」

欲張りじいさんは飛び起きました。

戸を開けると、昼間の子だぬきと親だぬきが立っています。

親だぬきは頭を下げました。

「子どもを助けていただき、ありがとうございました。」

そして、小さな種を差し出しました。

「どうぞ、お受け取りください。」

欲張りじいさんは種を見るなり、

「これだけか?」

と言いました。

親だぬきは黙っています。

「まあいい。」

「これを育てれば宝が出るんだろう。」

欲張りじいさんは種をつかむと、すぐに戸を閉めました。

翌朝。

まだ日が昇る前から畑へ出ました。

「早く育て。」

種を土へ埋めます。

「早く宝を出せ!」

たっぷり水をかけました。

次の日も水をかけました。

その次の日も、たくさん水をかけました。

「まだ芽が出ないのか?」

欲張りじいさんは待ちきれません。

土を掘り返して種を確かめました。

「あった、あった。」

また土へ戻します。

しばらくして芽が出ると、

「もっと早く伸びろ。」

と茎を引っ張りました。

枝が伸びれば、

「もっと大きくなれ。」

と無理に広げました。

正直じいさんの木と同じような実が早く欲しくて仕方がなかったのです。

けれど、木はなかなか元気に育ちません。

葉はしおれ、

枝も細く、

今にも枯れそうです。

「どうしてだ!」

欲張りじいさんは腹を立てました。

それでも、ようやく一つだけ小さな実がなりました。

「やった!」

欲張りじいさんは大喜びです。

「きっと中には宝が入っているぞ!」

まだ十分に熟していない実を、すぐにもぎ取りました。

そして勢いよく割りました。

ぱかっ。

「……。」

欲張りじいさんは目を丸くしました。

中から出てきたのは――。

草の種。

それも、どこにでも生えている雑草の種ばかりでした。

「なんだ、これは!」

欲張りじいさんは地面へ座り込みました。

「金は?」

「米は?」

「野菜は?」

「宝はどこだ!」

もちろん、どこにもありません。

欲張りじいさんはがっかりしました。

その日の夕方。

正直じいさんが通りかかりました。

「どうしたんだい?」

欲張りじいさんは、これまでのことをすべて話しました。

子だぬきに宝を求めたこと。

種をもらったこと。

早く育てようと何度も土を掘ったこと。

水をかけすぎたこと。

枝を引っ張ったこと。

そして、実から草の種しか出なかったこと。

正直じいさんは、しおれた木を見ました。

そして静かに言いました。

「わしも、きつねから種をもらったとき、宝が欲しくて助けたわけではなかったよ。」

欲張りじいさんは黙って聞いていました。

「困っているから助けただけだ。」

「種を植えたあとも、何が出てくるかは知らなかった。」

正直じいさんは土に触れました。

「芽が出たから水をやった。」

「育ってほしいから草を抜いた。」

「それだけだよ。」

欲張りじいさんはうつむきました。

「わしは……。」

しばらくして、小さな声で言いました。

「最初から、もらえる物のことしか考えていなかった。」

正直じいさんは責めませんでした。

ただ、にっこり笑いました。

「気づいたなら、それでいいじゃないか。」

「大切なのは、何をもらうかだけじゃない。」

「どんな気持ちで誰かと向き合うかなんだよ。」

欲張りじいさんは、しおれた木をもう一度見ました。

その日から、欲張りじいさんは少しずつ変わっていきました。

最初は本当に小さなことからでした。

道で会った人に、

「おはよう。」

と自分から挨拶をしました。

畑仕事に困っている人がいれば、

「少しくらいなら手伝うぞ。」

と言いました。

重い荷物を持っている人を見れば、一緒に運びました。

初めのころは、

「何かお礼をもらえるかもしれない。」

そんな気持ちが、まだ少し残っていました。

けれど、手伝った人から、

「ありがとう。」

と言われるたび、欲張りじいさんの気持ちは少しずつ変わっていきました。

――悪くないな。

誰かと一緒に働くこと。

誰かに喜んでもらうこと。

それまで欲張りじいさんが気づかなかった楽しさでした。

ある春の日。

欲張りじいさんは、あの木のそばへ行きました。

冬を越した木は、まだ細いままでした。

けれどよく見ると――。

枝の先に、小さな緑の芽がついていました。

「おや。」

欲張りじいさんはしゃがみ込みました。

今度は土を掘り返しませんでした。

枝を引っ張ることもしません。

少しだけ水をやりました。

「ゆっくりでいいぞ。」

欲張りじいさんは笑いました。

それから何年か経ちました。

二人のおじいさんは、並んで畑仕事をするようになりました。

正直じいさんが土を耕し、欲張りじいさんが種をまきます。

疲れれば、木陰に座ってお茶を飲みました。

ある日、欲張りじいさんが言いました。

「不思議なものだな。」

「何がだい?」

「昔のわしは、お金持ちになれば毎日楽しくなると思っていた。」

正直じいさんは黙って聞いています。

欲張りじいさんは村を見渡しました。

畑では人々が働き、

道では子どもたちが遊び、

遠くの家から笑い声が聞こえてきます。

「前よりお金持ちになったわけでもないのに、今の方が毎日楽しい。」

正直じいさんは、にっこり笑いました。

「そうかい。」

二人はしばらく、風に揺れる畑を眺めていました。

山から、やわらかな風が吹いてきました。

さわさわと木々が揺れます。

その山のどこかでは、あの日の子ぎつねや子だぬきも、元気に暮らしているのかもしれません。

二人のおじいさんは顔を見合わせると、また畑仕事を始めました。

村には今日も、楽しそうな笑い声が響いていました。

おしまい。


登場人物

  • 正直じいさん
    まじめな働き者で、困っている人や動物を見れば見返りを求めずに手を貸す優しい人物。子ぎつねを助けたことをきっかけに不思議な種を受け取ります。
  • 欲張りじいさん
    楽をして豊かになりたいと考え、正直じいさんの幸運をうらやむ人物。宝を目的に子だぬきを助けますが、思いどおりにはいかず、自分の行動を振り返るようになります。
  • 子ぎつね
    山で罠にかかっていたところを正直じいさんに助けられます。母ぎつねと一緒にお礼を届けにやってきます。
  • お母さんぎつね
    子どもを助けてもらったお礼として、正直じいさんに不思議な種を渡します。
  • 子だぬき
    木から降りられなくなっていたところを欲張りじいさんに助けられます。
  • 親だぬき
    子どもを助けてもらったお礼に、欲張りじいさんへ小さな種を渡します。

教訓

  • 見返りを求めずに誰かを思いやる気持ちは、自分にも周囲にも温かいつながりを生む。
  • 同じ行動でも、どのような気持ちで行うかによって意味は変わる。
  • すぐに結果を求めるのではなく、時間をかけて大切に育てることも必要。
  • 本当の豊かさは、お金や物の多さだけではなく、人とのつながりや毎日の満足の中にもある。
  • 自分の間違いに気づいたとき、そこから少しずつ変わっていくことができる。

親子で話したいポイント

  • 正直じいさんと欲張りじいさんは、どんなところが違っていた?
  • 正直じいさんは、どうして子ぎつねを助けたのかな?
  • 欲張りじいさんは、どうして子だぬきを助けたのだろう?
  • 二人とも動物を助けたのに、そのときの気持ちはどう違っていた?
  • 欲張りじいさんの木は、どうして元気に育たなかったのかな?
  • 欲張りじいさんが最後に「毎日が楽しい」と思えるようになったのはなぜだろう?
  • お金や物以外に、自分を幸せな気持ちにしてくれるものには何がある?

保育士向け活用ポイント

栽培活動と組み合わせる
種をまき、水をやり、成長を待つ物語から、野菜や花の栽培活動へ自然につなげることができます。植物の成長には時間が必要であることを、実際の体験と重ねながら伝えられます。

思いやりと見返りについて考える題材に
正直じいさんと欲張りじいさんの行動を比べながら、「同じように助けても、気持ちは同じだったかな?」と問いかけることで、相手を思いやる気持ちについて考えられます。

「すぐに結果を求めない」ことを伝える
種を大切に育てる正直じいさんと、早く実を得ようとして何度も土を掘り返す欲張りじいさんの違いから、待つことや丁寧に取り組むことの大切さにつなげられます。

失敗後の成長に注目する
欲張りじいさんを単なる悪者として終わらせず、自分の行動に気づいて少しずつ変わっていく人物として扱えます。「間違えても、そのあとどうするかが大切」という話し合いにも適しています。

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