宝くらべ(たからくらべ)

昔話

あらすじ

むかしむかし、緑豊かな国を治める殿様が、家来や村人たちに一つの問いを投げかけました。

「おぬしたちにとって、一番の宝とは何だ?」

ある者は立派な刀、ある者は金や銀、またある者は広い田畑や丈夫な家だと答えます。

そんな中、人混みの後ろにいた一人の貧しい少年が、みんなとは違う答えを口にしました。

「私の宝は、お父さんとお母さんです。」

少年が語った理由は殿様の心を動かし、やがて国中の人々が「本当の宝物とは何か」を考えるきっかけとなっていきます。


本文

むかしむかし、緑豊かな山々と、澄んだ川に囲まれた国がありました。

春には野山に花が咲き、夏には田んぼ一面に青々とした稲が育ちます。

秋になれば黄金色の稲穂が風に揺れ、冬には山々が白い雪に包まれる、美しい国でした。

その国には、人々から慕われている殿様が住んでいました。

殿様は立派なお城に住み、たくさんの家来を従えていましたが、自分の持っている金や宝石を自慢するような人ではありませんでした。

困っている人がいると聞けば話を聞き、豊作の年には村人たちと一緒になって喜びました。

反対に作物がとれない年には、

「困っている者に米を届けるのだ。」

と城の米蔵を開き、人々に食べ物を分け与えました。

そんな殿様が、ある日のこと、城の広間に家来や国の人々を集めました。

武士や商人、農家、大工、漁師など、さまざまな人たちが集まっています。

殿様はみんなを見渡すと、言いました。

「今日は皆に聞きたいことがある。」

人々は何を尋ねられるのだろうと、殿様の言葉を待ちました。

すると殿様は、ゆっくりと尋ねました。

「おぬしたちにとって、一番の宝とは何だ?」

広間がざわめきました。

「一番の宝か……。」

「それなら、やっぱりあれだろう。」

人々はそれぞれ考え始めます。

やがて、一人の武士が前へ出ました。

「私にとって一番の宝は、立派な刀でございます。」

腰に差した刀に手を添えながら言いました。

「この刀があれば、自分や大切な人を守ることができます。」

殿様はうなずきました。

「なるほど。」

次に、商人が答えました。

「私は金や銀こそ宝だと思います。」

「お金があれば、食べ物も着る物も手に入ります。商いを大きくすることもできます。」

殿様はまた、

「なるほど。」

とうなずきました。

今度は農家の人が胸を張って言いました。

「私にとっては、広い田んぼが一番の宝です。」

「田んぼがあれば米を育て、家族を養うことができます。」

大工は言いました。

「私は丈夫な家です。どんなに雨や風が強くても、家族を守ってくれる家は大切な宝です。」

漁師は、

「私は大きくて丈夫な船です。この船があるから海へ出て、魚をとることができます。」

と答えました。

ほかの人たちも次々と、自分の宝を答えていきました。

立派な着物。

大切な道具。

先祖から受け継いだ土地。

たくさんの米。

どれも、その人にとっては大切なものでした。

殿様は一つ一つの答えを聞きながら、

「なるほど。」

「それも大切な宝だな。」

とうなずいていました。

そのときです。

人混みの一番後ろで、小さな手が上がりました。

殿様が気づきました。

「そこにいる子ども。何か答えがあるのか?」

人々が振り返ります。

そこに立っていたのは、村に住む一人の少年でした。

少年の着物は古く、ところどころ継ぎ当てがあります。

裕福な家の子どもではありませんでした。

たくさんの大人たちに見つめられ、少年は少し緊張した様子でした。

それでも勇気を出して言いました。

「私も答えていいですか?」

殿様は優しく笑いました。

「もちろんだ。聞かせてくれ。」

少年は少し考えてから、はっきりと言いました。

「私の宝は、お父さんとお母さんです。」

その瞬間、広間はしんと静まり返りました。

金でもありません。

田んぼでもありません。

家でも、刀でもありません。

殿様は少年をじっと見つめました。

そして尋ねました。

「どうして、お父さんとお母さんが一番の宝だと思うのだ?」

少年はゆっくりと話し始めました。

「私の家は古いです。」

「雨がたくさん降ると、屋根から雨が漏れることもあります。」

「お金も、あまりありません。」

少年は少し恥ずかしそうに笑いました。

「でも、毎日、お父さんとお母さんと一緒にご飯を食べます。」

「今日あったことを話したり、くだらないことで笑ったりします。」

広間にいる人たちは、黙って少年の話を聞いていました。

「私が病気になったとき、お母さんは夜中までずっとそばにいてくれました。」

「お父さんも仕事から帰ってきて、何度も『大丈夫か』って声をかけてくれました。」

少年は殿様を見ました。

「お金がなくても、お父さんとお母さんがいると安心します。」

「だから、私にとって一番の宝は、お父さんとお母さんです。」

誰もすぐには言葉を発しませんでした。

殿様も黙っていました。

やがて、ゆっくりとうなずきました。

「そうか。」

そして、笑顔になりました。

「素晴らしい答えだ。」

少年は照れくさそうに頭を下げました。

その日のことは、それだけで終わりました。

けれど少年の言葉は、殿様の心にずっと残っていました。

それから数年がたったころです。

ある夜、その国を大きな嵐が襲いました。

昼から降り始めた雨は、夜になるとますます激しくなりました。

ゴオオオ……。

強い風が木々を揺らします。

雨は何日も降り続き、川の水はみるみる増えていきました。

やがて橋が流され、畑は水につかり、たくさんの家が壊れてしまいました。

嵐が過ぎ去ったあと、村の景色はすっかり変わっていました。

「家が壊れてしまった……。」

「畑も水につかっている。」

「これから、どうしたらいいんだ。」

村人たちは途方に暮れました。

しかし、一人の大工が立ち上がりました。

「壊れた家なら、おれたちが直そう。」

すると農家の人たちも言いました。

「種が流されてしまった家には、うちの種を分けよう。」

漁師たちは、

「食べ物が足りないなら、魚を届けるぞ。」

と言って船を出しました。

商人は必要な道具や布を集めました。

武士たちは崩れた道を直し、重い木材を運びました。

殿様もすぐに城の米蔵を開きました。

「米を必要なところへ届けよ。」

「家を失った者には、休める場所を用意するのだ。」

国中の人たちが、それぞれ自分にできることを始めました。

あの少年も、すっかり大きくなっていました。

少年の家族も毎日のように村へ出て、困っている人たちを手伝いました。

お父さんは壊れた家を片づけ、お母さんは食事を作り、少年は荷物を運びました。

誰かが困っていれば、別の誰かが手を差し伸べます。

「こっちは任せてくれ。」

「ありがとう。今度は私が手伝うよ。」

そんな言葉が、村のあちこちから聞こえてきました。

少しずつ道が直り、家が建ち、畑にも再び作物が育ち始めました。

ある日、殿様はあの少年を城へ呼びました。

「覚えているか?」

「昔、ここで『一番の宝は何か』と尋ねたことを。」

少年はうなずきました。

「はい。覚えています。」

殿様は言いました。

「あのとき、おぬしは家族が一番の宝だと言った。」

「はい。」

殿様は城から村の方を見つめました。

そこでは今日も、人々が力を合わせて働いていました。

「嵐で家や田畑は失われた。」

「けれど、人々は互いに助け合い、もう一度立ち上がった。」

殿様は少年に向き直りました。

「あの日、おぬしが教えてくれた宝のおかげで、この国は助け合うことができたのかもしれぬな。」

少年は少し驚きました。

そして、照れくさそうに笑いました。

「私がしたことではありません。」

「みんなが助けてくれたからです。」

その言葉を聞いた殿様も笑いました。

「そうか。」

そして、ゆっくりとうなずきました。

「その『みんな』こそ、本当の宝なのだな。」

それから、この国には一つの習わしができました。

子どもたちが少し大きくなると、大人たちはこう尋ねるのです。

「あなたの宝物は何ですか?」

ある子どもは、

「お父さんとお母さん。」

と答えました。

ある子どもは、

「おじいちゃんとおばあちゃん。」

と答えました。

「兄弟。」

「友だち。」

「一緒に暮らしているみんな。」

もちろん、大切にしている物を宝物だと答える子どももいました。

どんな答えであっても、大人たちは笑って聞きました。

そして、その宝物をなぜ大切に思うのか、子どもたちの話に耳を傾けました。

あの日、城の広間で一人の少年が口にした言葉は、長い年月がたっても人々の心に残りました。

そしてその国は、いつまでも助け合う心を大切にする国として語り継がれていきました。

おしまい。


登場人物

  • 殿様
    国の人々を大切にし、困っている人がいれば手を差し伸べる思いやりのある殿様。「一番の宝とは何か」と人々に問いかけます。
  • 少年
    貧しい暮らしをしていますが、家族と過ごす毎日に幸せを感じている心優しい少年。「お父さんとお母さんが一番の宝」と答え、その言葉が殿様や国の人々の心を動かします。
  • 家来や国の人々
    武士、商人、農家、大工、漁師など、それぞれの暮らしの中で大切にしているものを「宝」として答えます。
  • 村人たち
    大きな嵐によって被害を受けますが、それぞれができることを持ち寄り、互いに助け合いながら村を立て直していきます。

教訓

  • 本当の宝物は、お金や高価な物だけではなく、大切な人とのつながりの中にもある。
  • 自分にできることを持ち寄って助け合うことで、大きな困難も乗り越えることができる。
  • 普段そばにいてくれる家族や友だちへの感謝を忘れないこと。
  • 「宝物」が何であるかは人によって違い、それぞれが大切に思う気持ちにも価値がある。

親子で話したいポイント

  • あなたにとって、一番の宝物は何かな?
  • 少年は、どうしてお父さんとお母さんを宝物だと思ったのかな?
  • 刀やお金、田んぼも「宝物」と言えるのはどうしてだろう?
  • 嵐のあと、村の人たちはどんなふうに助け合っていたかな?
  • 家族や友だちに「ありがとう」と伝えたいことはある?
  • 大切な人のために、自分にできることは何だろう?

保育士向け活用ポイント

  • 「わたしの宝物」を考える活動に
    読み聞かせのあとに「あなたにとって宝物は何?」と問いかけ、子どもたちが大切にしている人や物、思い出などを自由に話す活動につなげられます。
  • 家族や身近な人への感謝を考えるきっかけに
    少年がお父さんとお母さんとの日常を語る場面から、「家族にしてもらって嬉しかったこと」や「ありがとうと伝えたいこと」を考えられます。
  • 助け合いについて考える題材に
    嵐のあと、大工、農家、漁師などがそれぞれ得意なことを生かして村を立て直す場面から、「みんな違うからこそ助け合える」という視点で話し合えます。
  • 絵や言葉で表現する活動へ
    「わたしのたからもの」をテーマに絵を描き、その理由を一言添えたり、みんなの前で紹介したりする活動に発展させられます。

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