十二支のはじまり(じゅうにしのはじまり)

昔話

あらすじ

むかしむかし、まだ人間と動物たちが今よりずっと近くで暮らしていたころのお話です。

ある年の暮れ、神さまは動物たちを集めて、こう言いました。

「新しい年の最初の日、私のところへ早く来た順に十二番までを、その年を守る動物にしよう。」

それを聞いた動物たちは大騒ぎ。

足の速い虎や馬は自信満々。鶏は早起きの練習を始め、猿も一生懸命に準備します。

けれど、小さくて足の遅いねずみには、ある作戦がありました。

そして迎えた元日の朝。

ねずみ、牛、虎、うさぎ、龍、蛇、馬、羊、猿、鶏、犬、猪――。

なぜ十二支はこの順番になったのでしょう。

そして、猫はなぜ十二支に入ることができなかったのでしょうか。

昔から語り継がれてきた、十二支の始まりのお話です。


本文

むかしむかし、まだ人間と動物たちが今よりずっと仲良く暮らしていたころのお話です。

山には虎や猪が暮らし、野原ではうさぎが跳ね、空には龍が飛んでいました。

人間の家のそばでは、犬や鶏、牛や馬たちが暮らしていました。

そして、ねずみや猫も今よりずっと仲がよく、顔を合わせれば話をするような間柄だったそうです。

そんなある年の暮れのこと。

神さまは、山の上のお宮から動物たちへ知らせを出しました。

「大切な話がある。みんな、集まりなさい。」

動物たちは、

「なんだろう?」

「神さまが私たちを呼んでいるぞ。」

と、次々に山のお宮へ集まってきました。

牛。

虎。

うさぎ。

龍。

蛇。

馬。

羊。

猿。

鶏。

犬。

猪。

ねずみ。

猫。

ほかにも、たくさんの動物たちが集まりました。

みんながそろうと、神さまはゆっくり立ち上がりました。

そして言いました。

「もうすぐ新しい年が始まる。」

動物たちは静かに耳を傾けます。

「そこで、新しい年の最初の日――元日の朝に、私のところへ来てもらいたい。」

「早く着いた順に十二番までを、その年を守る動物にしよう。」

一瞬、辺りが静かになりました。

そして――。

「十二番までだって!」

「絶対に入るぞ!」

「一番になるのは私だ!」

動物たちは大騒ぎです。

足の速い馬は、得意そうに胸を張りました。

「走る速さなら負けないぞ。」

虎も自信満々です。

「山道なら私に任せろ。」

うさぎは、

「ぴょんぴょん跳ねていけば、きっと間に合うよ。」

と張り切っています。

猿はその日から、木から木へ素早く飛び移る練習を始めました。

鶏は、

「元日の朝に寝坊したら大変だ。」

と、いつもより早く起きる練習をしました。

犬は、

「よし、思いっきり走るぞ!」

と尻尾を振っています。

猪は、

「まっすぐ走れば一番だ!」

と、今にも飛び出しそうな勢いです。

そんな中、一匹だけ難しい顔をしている動物がいました。

ねずみです。

「困ったなあ……。」

ねずみは自分の小さな足を見ました。

「ぼくは体も小さいし、足もそれほど速くない。」

虎や馬と競争したら、とてもかないそうにありません。

「このままじゃ、十二番までに入れないかもしれないぞ。」

ねずみは腕を組んで考えました。

そのときです。

どし。

どし。

近くを大きな牛が歩いていました。

牛はとても力持ちです。

けれど、歩く速さはゆっくりでした。

ねずみは牛へ声をかけました。

「牛さん。」

「なんだい?」

「元日の朝、神さまのところへ行くんでしょう?」

「ああ。」

牛はのんびりとうなずきました。

「私は歩くのが遅いからね。」

「みんなよりずっと早く出発するつもりなんだ。」

それを聞いたねずみの目が、きらりと光りました。

「そうなんだ。」

そして、にっこり笑いました。

「牛さん、明日の朝、一緒に行かない?」

牛は優しく答えました。

「いいとも。」

「みんなで神さまのところへ行くのは楽しそうだ。」

ねずみは、

「ありがとう。」

と頭を下げました。

その様子を近くで見ていた猫が、ねずみへ声をかけました。

「ねえ、ねずみくん。」

「なに?」

「神さまのところへ行く日は、いつだったっけ?」

どうやら猫は、神さまの話をよく聞いていなかったようです。

ねずみは少し考えました。

そして――。

「たしか、一月二日だったと思うよ。」

と言いました。

「一月二日?」

「うん。」

猫は安心したように笑いました。

「ありがとう。それならまだゆっくりできるね。」

猫は大きなあくびをすると、

「元日の朝は、のんびり寝ていよう。」

と家へ帰っていきました。

ねずみは、その後ろ姿を黙って見送りました。

そして、いよいよ大みそかの夜。

空にはたくさんの星が輝いていました。

動物たちは明日の競争に備え、早めに眠りました。

けれど牛だけは違いました。

「みんなと同じ時間に出たら、きっと間に合わない。」

牛はまだ空が真っ暗なうちに起きました。

そして静かに家を出ます。

どし。

どし。

一歩ずつ、神さまのいる山へ向かって歩き始めました。

ところが――。

牛は気づいていませんでした。

その背中には、ねずみがこっそり乗っていたのです。

「牛さんなら、ゆっくりでも休まず歩いていく。」

ねずみは牛の背中で小さく丸くなりました。

牛は何も知らず、黙々と歩き続けます。

山道を登り、

川を渡り、

長い坂道を越えました。

夜が明け始めました。

東の空が、少しずつ明るくなってきます。

「もうすぐ新しい年だ。」

牛は休みません。

どし。

どし。

一歩。

また一歩。

やがて山の向こうから、朝日が昇りました。

新しい年の始まりです。

そのころ、ほかの動物たちも一斉に神さまのお宮を目指していました。

「急げ!」

虎は力強く山道を駆けます。

うさぎは、

ぴょん!

ぴょん!

と岩や木の根を飛び越えます。

馬は風のような速さで野原を走っていました。

空では龍が大きな体をくねらせながら進んでいます。

牛はそんなことも知らず、ただ黙々と歩き続けました。

しばらくすると――。

「あっ。」

山の上に、神さまのお宮が見えてきました。

「やっと着いたぞ。」

牛は嬉しくなりました。

門の前には、まだ誰もいません。

「もしかすると、私が一番かもしれない。」

牛は最後の坂を登りました。

門はもう目の前です。

「よし。」

牛が一歩、門の中へ入ろうとした――。

その瞬間でした。

ぴょん!

「えっ?」

牛の背中から、小さな影が飛び出しました。

ねずみです。

ねずみは地面へ着地すると、

ちょこちょこちょこ!

と走り――。

「神さま! 明けましておめでとうございます!」

牛より先に、神さまの前へ飛び出しました。

神さまは目を丸くしました。

そして、声を上げて笑いました。

「はっはっは!」

「なるほど。これは一本取られた。」

神さまは言いました。

「一番は、ねずみ!」

「やった!」

ねずみは大喜びです。

そのすぐあと、牛がやってきました。

牛は少し驚いていました。

「ねずみくん、いつから私の背中に?」

ねずみは少し照れながら笑いました。

「ずっと乗せてもらっていたんだ。」

牛はしばらくねずみを見ていました。

けれど、怒りませんでした。

「そうだったのか。」

そして、のんびり笑いました。

「まあ、二番でも嬉しいよ。」

神さまが言いました。

「二番は、牛!」

そのとき――。

「うおおお!」

山道から大きな声が聞こえてきました。

虎です。

虎は最後の坂を力強く駆け上がってきました。

「間に合った!」

「三番は、虎!」

その後ろから、

ぴょん!

ぴょん!

うさぎが跳ねてきました。

「四番は、うさぎ!」

うさぎは息を切らしながら、

「やったあ!」

と飛び跳ねました。

すると突然、空から大きな風が吹きました。

ごおおおっ!

動物たちが空を見上げます。

雲の間から、大きな龍が姿を現しました。

龍はゆっくりと地上へ降りてきます。

神さまは不思議そうに尋ねました。

「龍よ。」

「お前は空を飛べるのだから、一番に着いてもおかしくなかったはずだ。」

「どうして遅くなったのだ?」

龍は答えました。

「途中で、雨が降らずに困っている土地がありました。」

「畑が乾き、人々が空を見上げていたのです。」

「それで、少し雨を降らせてきました。」

神さまは嬉しそうにうなずきました。

「そうか。」

「人を助けていたのだな。」

「五番は、龍!」

龍は静かに頭を下げました。

そのころ、山道をものすごい勢いで馬が走っていました。

「もうすぐだ!」

馬は門を目指して駆けます。

ところが――。

馬の足元に、何か細長いものが隠れていました。

蛇です。

蛇は草むらを進んできましたが、途中から馬のそばに隠れながらやってきたのです。

門のすぐ近くまで来たところで――。

するり。

蛇が馬の前へ姿を現しました。

「やあ。」

「ひひーん!」

突然現れた蛇に驚き、馬は大きく飛び上がりました。

その隙に蛇は、するすると門をくぐります。

「六番は、蛇!」

「しまった!」

馬もすぐに駆け込みました。

「七番は、馬!」

馬は少し悔しそうでしたが、

「まあ、十二番までに入れたからよしとしよう。」

と息を整えました。

そのあと、山道から三匹の動物がやってきました。

羊。

猿。

そして鶏です。

三匹は途中まで一緒に旅をしていました。

実は道の途中にある川の橋が、昨夜の風で壊れていたのです。

「どうしよう。」

羊が困っていると、猿が言いました。

「向こうまで渡れる木を探そう。」

猿は木に登り、丈夫な枝を集めました。

鶏は高いところへ飛び上がり、

「少し下流に、川幅の狭い場所があるよ!」

と道を見つけました。

羊は、

「みんなで力を合わせれば大丈夫。」

と二匹を励ましました。

三匹は力を合わせ、ようやく川を渡ることができたのです。

「もう少しだ!」

三匹は神さまのお宮へ急ぎました。

最後の坂では羊が少し先に出ました。

「八番は、羊!」

そのすぐあと、

「九番は、猿!」

「十番は、鶏!」

三匹は顔を見合わせました。

「間に合ったね!」

「一緒に来てよかった!」

神さまも、その様子を笑顔で見ていました。

残る場所は、あと二つです。

そこへ――。

「わん! わん!」

犬が走ってきました。

「十一番は、犬!」

犬は舌を出しながら、はあはあと息をしています。

神さまは尋ねました。

「犬よ。お前も足が速いのに、どうしてこんなに遅くなったのだ?」

犬は恥ずかしそうに尻尾を振りました。

「途中に、とてもきれいな川があったんです。」

「ちょっとだけ遊ぼうと思ったら……。」

「楽しくなってしまって。」

ほかの動物たちは笑いました。

「犬らしいなあ。」

さあ、残るのはあと一つ。

動物たちは山道を見つめました。

「最後は誰だ?」

しばらくすると――。

どどどどどど!

遠くから、地面を揺らすような音が聞こえてきました。

「来たぞ!」

山道の向こうから猪がものすごい勢いで走ってきます。

「どけどけー!」

猪はまっすぐこちらへ向かって――。

そのまま門の前を通り過ぎていきました。

「え?」

みんながぽかんとします。

猪は勢いがつきすぎて、お宮への曲がり道を曲がれなかったのです。

しばらくすると、遠くから、

「しまったー!」

という声が聞こえてきました。

そして――。

どどどどどど!

今度は反対側から戻ってきました。

「十二番は、猪!」

「間に合った!」

猪はその場へ座り込みました。

神さまは笑いました。

「これで十二の動物が決まった。」

神さまは集まった動物たちを見渡しました。

一番、ねずみ。

二番、牛。

三番、虎。

四番、うさぎ。

五番、龍。

六番、蛇。

七番、馬。

八番、羊。

九番、猿。

十番、鶏。

十一番、犬。

十二番、猪。

こうして、十二支の動物たちが決まりました。

ところが――。

そのころ。

猫はまだ、家の中でぐっすり眠っていました。

「すう……すう……。」

ねずみから、

「神さまのところへ行くのは一月二日だよ。」

と聞いていたからです。

次の日の朝。

猫は気持ちよく目を覚ましました。

「さて。」

大きく伸びをします。

「今日は神さまのところへ行く日だ。」

猫は顔を洗い、元気よく家を飛び出しました。

「十二番までに入れるかな。」

猫は一生懸命走りました。

山道を登り、

坂を駆け上がり、

ようやく神さまのお宮へ着きました。

「神さま!」

猫は息を切らしながら叫びました。

「来ました!」

神さまは驚きました。

「猫よ。」

「どうしたのだ?」

「どうしたって……今日は動物を決める日でしょう?」

神さまは困った顔をしました。

「それは昨日だよ。」

「……え?」

猫は固まりました。

「昨日?」

「ああ。」

「残念だが、十二支はもう決まってしまった。」

猫は信じられませんでした。

「そんな……。」

「でも、ねずみが一月二日だって……。」

そのとき猫は、十二支の一番に選ばれた動物の名前を聞きました。

「ねずみ……?」

猫の耳がぴんと立ちました。

やがて事情を知った猫は、ねずみを見つけました。

「ねずみ!」

「ひっ!」

ねずみは猫を見るなり、びくっとしました。

「どういうこと!」

猫は怒っています。

「一月二日だって言ったじゃないか!」

ねずみは小さくなりました。

「ご、ごめん……。」

「十二番までに入りたくて……。」

猫は、

「待てー!」

とねずみを追いかけました。

「ごめんよー!」

ねずみは必死に逃げました。

猫が追いかけ、

ねずみが逃げる。

それ以来、猫はねずみを見つけると追いかけるようになった――。

そんなふうに言われるようになりました。

そして十二支の動物たちは、神さまとの約束どおり、順番に一年ずつ人々の暮らしを見守るようになりました。

ねずみの年。

牛の年。

虎の年。

うさぎの年。

龍の年。

蛇の年。

馬の年。

羊の年。

猿の年。

鶏の年。

犬の年。

猪の年。

十二年が過ぎると、またねずみの年へ戻ります。

それから長い長い年月が流れました。

神さまのお宮へ向かって動物たちが競争した日のことを、今では誰も見たことはありません。

それでも新しい年がやってくるたび、人々は、

「今年は何年かな?」

と十二支の動物を思い浮かべます。

お正月になると、家族で自分の干支を話したり、その年の動物を飾ったりするようになりました。

こうして、あの日神さまのもとへ集まった十二匹の動物たちは、今でも順番に私たちの新しい一年を迎えているそうです。

おしまい。


登場人物

  • 神さま
    元日の朝、自分のもとへ早く到着した十二匹を、その年を守る動物にすると決めた存在。動物たちそれぞれの行動を見守ります。
  • ねずみ
    小さな体と知恵を生かし、牛の背中に乗って進み、最後に飛び降りて一番になります。猫には日にちを間違えて伝えてしまいます。
  • 牛
    歩くのは遅いものの、誰よりも早く出発し、休まず歩き続けます。ねずみを背中に乗せたままお宮まで運び、二番になります。
  • 虎
    力強く山道を駆け抜け、三番に到着します。
  • うさぎ
    小さな体で道をぴょんぴょんと跳ねながら進み、四番になります。
  • 龍
    空を飛べる力を持ちながら、途中で雨に困っている人々を助けたため五番になります。
  • 蛇
    馬の近くに隠れながら進み、門の前で姿を現して六番になります。
  • 馬
    足の速い動物ですが、突然現れた蛇に驚いたことで七番になります。
  • 羊・猿・鶏
    途中で壊れた橋に出会いますが、それぞれの得意なことを生かして協力し、八番、九番、十番に到着します。
  • 犬
    足は速いものの、途中の川で遊んでしまい、十一番になります。
  • 猪
    勢いよく走りすぎてお宮への道を通り過ぎ、戻ってきたため十二番になります。
  • 猫
    ねずみから日にちを間違えて教えられ、翌日にお宮へ到着します。十二支に入れなかったことを知り、ねずみを追いかけるようになります。

教訓

  • 速さや力だけではなく、知恵や工夫も物事を成し遂げる力になる。
  • それぞれが違う得意なことを持っており、力を合わせることで難しいことも乗り越えられる。
  • 自分のためだけでなく、困っている人を助けることにも大切な意味がある。
  • 人に伝えることは、相手に大きな影響を与えることがあるため、正しく伝えることが大切。
  • 十二支の物語を通して、日本で昔から親しまれてきた干支やお正月の文化に触れることができる。

親子で話したいポイント

  • 十二支の動物を順番に言えるかな?
  • ねずみは、どうして一番になることができたのだろう?
  • 牛は、歩くのが遅いのにどうして二番になれたのかな?
  • 龍は空を飛べるのに、なぜ一番ではなかったのだろう?
  • 羊・猿・鶏は、どのように力を合わせた?
  • 猫は、どうして十二支に入ることができなかったのかな?
  • ねずみが猫に違う日にちを教えたことについて、どう思う?
  • 自分の干支は何かな? 家族の干支も調べてみよう。

保育士向け活用ポイント

劇遊びや表現活動に
十二支に猫と神さまを加えることで役数が多く、クラス全体で取り組みやすい題材です。動物ごとの動きや鳴き声を子どもたち自身で考え、十二支の順番に登場する劇遊びへ発展させることができます。

お正月や十二支の導入に
十二支の順番が物語の流れの中で登場するため、お正月の行事や干支について伝える際の導入教材として活用できます。

十二支の順番を楽しみながら覚える
「ねずみ・牛・虎・うさぎ……」と、登場した順番を子どもたちと一緒に確認することで、物語と結びつけながら十二支を覚えられます。

それぞれの個性や得意なことを考える
足の速さ、力、知恵、早起き、空を飛ぶ力など、動物たちはそれぞれ違った特徴を持っています。「自分の得意なことは何だろう?」という活動にもつなげられます。

協力することの大切さを伝える
羊・猿・鶏が壊れた橋を協力して越える場面から、それぞれの得意なことを持ち寄って助け合うことについて考えられます。

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