あらすじ
むかしむかし、ある農場で一羽のアヒルの子が生まれました。
ところが、その子はほかの兄弟たちより体が大きく、羽の色も違っていました。
周りの動物たちから「変わった子だ」と言われ、仲間に入れてもらえないアヒルの子は、悲しい思いをしながら自分の居場所を探す旅に出ます。
どこへ行っても自分のことを受け入れてもらえず、寒く厳しい冬も一人で過ごしました。
そして、ようやく春が訪れたころ。
湖で美しい白鳥たちを見つけたアヒルの子は、水面に映った自分の姿を見て驚きます。
そこに映っていたのは、もう灰色のアヒルの子ではありませんでした。
「見た目だけで相手を判断しないこと」「人と違うことは悪いことではないこと」「誰にでもその人だけの良さや可能性があること」を伝える世界の名作です。
本文
むかしむかし、ある農場に一羽のお母さんアヒルがいました。
お母さんアヒルは、巣の中に並んだたまごを毎日大切に温めていました。
暖かな日差しが降りそそぎ、草むらでは虫たちの声が聞こえます。
お母さんアヒルは、子どもたちが生まれてくる日を楽しみに待っていました。
そして、ある日のことです。
たまごが少しずつ動き始めました。
ぴしっ。
ぴしっ。
殻に小さなひびが入ります。
やがて、
パカッ。
一つのたまごから、かわいらしいひなが顔を出しました。
続いて、
パカッ。
パカッ。
次々と小さなひなたちが生まれてきました。
「まあ、かわいい子どもたち。」
お母さんアヒルはうれしそうに子どもたちを見つめました。
ところが、一つだけ、なかなか割れないたまごが残っていました。
ほかのたまごより少し大きなたまごです。
お母さんアヒルは、そのたまごも根気よく温め続けました。
しばらくすると――。
ぴしっ。
ようやく殻にひびが入りました。
そして、
パカッ。
最後のひなが顔を出しました。
お母さんアヒルは、その子を見て少し驚きました。
ほかのひなたちよりも体が大きく、ふわふわした羽の色も灰色だったからです。
農場の動物たちも、その子を見ると不思議そうに言いました。
「ずいぶん大きな子だね。」
「ほかのひなたちとは違うね。」
アヒルの子は、自分の体を見ました。
確かに、兄弟たちとは少し違います。
みんなは小さくてかわいらしいのに、自分だけ体が大きく、羽も灰色です。
「どうして僕だけ違うんだろう。」
アヒルの子は悲しくなりました。
「僕も、みんなと同じだったらいいのに。」
それでもアヒルの子は、みんなと仲良くなろうとしました。
兄弟たちと一緒に歩き、
泳ぎを覚え、
農場の動物たちにも近づいていきました。
池に入れば、アヒルの子は上手に泳ぐことができました。
すいすい。
水の上を気持ちよさそうに進みます。
けれど、周りの動物たちはなかなか優しくしてくれませんでした。
「僕も一緒に遊んでいい?」
そう思って近づいても、仲間に入れてもらえないことがありました。
アヒルの子は、だんだん自信をなくしていきました。
「僕がみんなと違うからなのかな。」
「ここにいても、迷惑なのかな……。」
ある日、アヒルの子はとうとう決心しました。
「ここを出よう。」
「どこかに、僕が安心して暮らせる場所があるかもしれない。」
そうしてアヒルの子は、一人で農場を離れました。
知らない道を歩き、
草原を越え、
池や沼を渡りました。
旅の途中では、いろいろな動物たちに出会いました。
アヒルの子は、そのたびに思いました。
「今度こそ、仲良くなれるかもしれない。」
けれど、どこへ行っても、自分とは違うと言われてしまいます。
アヒルの子は、また一人になりました。
それでも歩き続けました。
やがて秋が訪れました。
空を渡る風が冷たくなり、木々の葉が赤や黄色に染まっていきます。
そんなある日。
アヒルの子が空を見上げると、美しい白い鳥たちが飛んでいました。
大きな翼を広げ、青い空をゆっくりと飛んでいきます。
「なんてきれいな鳥なんだろう……。」
アヒルの子は、飛んでいく鳥たちの姿が見えなくなるまで眺めていました。
なぜか、その姿がいつまでも心に残りました。
やがて、寒い冬がやってきました。
草原は白い雪に覆われました。
池には氷が張り、冷たい風が吹きつけます。
アヒルの子は一人で寒さに耐えながら過ごしました。
夜になると、辺りはしんと静まり返りました。
聞こえてくるのは、冷たい風の音ばかりです。
「僕は、ずっと一人なのかな。」
「どこへ行けば、僕の居場所があるんだろう。」
アヒルの子にとって、その冬はとても長く感じられました。
けれど、どんなに長い冬にも終わりはやってきます。
少しずつ雪がとけ、
凍っていた水が流れ始めました。
草の間から小さな芽が顔を出し、暖かな風が吹き始めます。
春がやってきたのです。
アヒルの子も、いつの間にか大きく成長していました。
ある春の日。
アヒルの子は、一つの美しい湖へたどり着きました。
水面は春の日差しを受けて、きらきらと輝いています。
すると――。
湖の向こうから、何羽かの白い鳥が泳いできました。
真っ白な羽。
すらりと伸びた首。
それは、以前空を飛んでいた、あの美しい鳥たちでした。
「なんてきれいなんだろう。」
アヒルの子は思いました。
「僕も、あんなふうになれたらいいのにな。」
けれど、自分のような変わった鳥が近づけば、また嫌がられるかもしれません。
アヒルの子は迷いました。
それでも、勇気を出して湖へ近づきました。
そっと水面をのぞき込みます。
そのときです。
「え……?」
アヒルの子は目を疑いました。
水面には、一羽の美しい白い鳥が映っています。
アヒルの子は後ろを振り返りました。
誰もいません。
もう一度、水面を見ました。
白い鳥も同じようにこちらを見ています。
首を動かせば、水面の鳥も首を動かします。
翼を広げれば、水面の鳥も大きな翼を広げました。
そこで、ようやく気づきました。
「これは……僕?」
灰色だった羽は、いつの間にか美しい白い羽に変わっていました。
小さかった翼も、大きく立派になっています。
アヒルの子は、アヒルではありませんでした。
美しい白鳥だったのです。
「僕は白鳥だったんだ。」
初めて、自分の本当の姿を知りました。
すると、湖にいた白鳥たちが近づいてきました。
「一緒に泳ごう。」
白鳥たちは、アヒルの子を追い払うことはありませんでした。
仲間として迎えてくれたのです。
アヒルの子は、白鳥たちと一緒に湖を泳ぎました。
すいすい。
春の光が、水面をきらきらと照らしています。
これまでずっと、自分はみんなとは違う、変わった存在なのだと思っていました。
けれど今、アヒルの子はようやく、自分が安心していられる仲間と出会うことができました。
長く寒かった冬は終わりました。
湖のまわりには花が咲き、暖かな風が吹いています。
白鳥になったアヒルの子は、大きな翼を広げました。
そして仲間たちと一緒に、春の湖をゆっくりと泳いでいきました。
おしまい。
登場人物
アヒルの子(白鳥の子)
ほかのひなたちとは違う姿で生まれ、周囲との違いに悩みながら自分の居場所を探して旅をする主人公です。成長したあと、自分が白鳥だったことを知ります。
お母さんアヒル
たまごを大切に温め、子どもたちが生まれてくるのを待つ存在です。
農場の動物たち
アヒルの子の見た目がほかのひなたちと違うことを気にし、距離を置いてしまう存在です。
白鳥たち
成長したアヒルの子を仲間として迎え入れる存在です。アヒルの子が自分の本当の姿を知るきっかけになります。
教訓
- 人と違うことは、悪いことではない。
- 誰にでも、その人だけが持っている良さや可能性がある。
- 相手の見た目だけで、その人の価値を決めつけてはいけない。
- 自分らしく安心して成長できる環境や仲間と出会うことも大切。
親子で話したいポイント
- アヒルの子は、どうして悲しい気持ちになったのかな?
- みんなと違うことは、本当に悪いことなのかな?
- 白鳥たちに迎えてもらったとき、アヒルの子はどんな気持ちだったと思う?
- 友だちの「自分とは違うところ」と「すてきなところ」を見つけたことはある?
- 自分の好きなところや得意なことは何かな?
保育士向け活用ポイント
- 「自己肯定感」「違いを認めること」「自分らしさ」について考える読み聞かせの題材として活用できます。
- 子ども一人ひとりの発達や個性には違いがあります。「みんなと同じ」を求めるのではなく、それぞれの姿や成長の過程を認めることの大切さを考えるきっかけになります。
- インクルーシブ保育の視点では、子ども自身に周囲へ合わせることだけを求めるのではなく、その子が安心して参加できる環境や関わり方を考えることにもつながります。
- 「できない子」「苦手な子」と決めつけず、今見えている姿だけでは分からない、その子の可能性や成長を長い目で捉えることも大切です。
- アヒルの子の気持ちを追いながら、「どんな言葉をかけてもらえたらうれしかったかな?」と子どもたちと考えることで、友だちへの言葉や関わり方を振り返る活動にもつなげられます。
- 自分や友だちの好きなところ、得意なこと、違うところを見つける自己紹介や表現活動にも発展できます。
保育士向けリンク
インクルーシブ保育とは?すべての子どもが安心して過ごせる環境をつくるために保育者が考えること | 保育の知見/キャリア情報局 ~保育の学び.COM~


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