あらすじ
むかしむかし、ハーメルンという町では、増えすぎたねずみに人々が困り果てていました。
家の中にも、お店にも、食べ物を置いている場所にもねずみが入り込み、町の人たちはどうしたらよいのか分かりません。
そんなある日、色鮮やかな服を着て、不思議な笛を持った一人の男が町へやって来ます。
「私なら、この町からねずみを追い払うことができます。」
男は、仕事を終えたら約束のお礼をもらうことを条件に、ねずみを追い払うことを引き受けました。
男が笛を吹くと、町中のねずみたちが次々と集まり、その音色に導かれるように町の外へついていきます。
ところが、ねずみがいなくなると、町の人たちは男との約束を破ってしまいました。
「約束を守ること」「一度交わした約束には責任を持つこと」「信頼を大切にすること」を伝える世界の名作です。
本文
むかしむかし、ハーメルンという町がありました。
町にはたくさんの家が並び、通りにはお店が軒を連ねています。
朝になると人々が行き交い、子どもたちの元気な声も聞こえてきました。
そんなハーメルンの町で、ある年のこと。
困ったことが起こりました。
ねずみが増え始めたのです。
最初は一匹、二匹ほどでした。
けれど、日に日にその数は増えていきました。
家の台所にも。
食べ物を置いている倉庫にも。
パン屋にも。
市場にも。
気がつけば、町のあちらこちらから、
ちょろちょろ。
ちょろちょろ。
ねずみたちが姿を現すようになりました。
「またねずみだ!」
「こっちにもいるぞ!」
町の人たちは追い払おうとしました。
けれど、一匹追い払っても、また別の場所から現れます。
夜になって静かになると、
かさかさ。
かりかり。
壁の向こうや床の下から、ねずみたちの動き回る音が聞こえてきました。
町の人たちは困り果てました。
「これでは安心して暮らせない。」
「いったい、どうしたらいいんだろう。」
みんなで相談しても、よい方法は見つかりません。
そんなある日のことです。
一人の見慣れない男が、ハーメルンの町へやって来ました。
男は色鮮やかな服を着ていました。
そして手には、一本の笛を持っています。
男は町の様子を見ながら、ゆっくりと歩いてきました。
町の人たちは不思議そうに男を見ました。
「旅人だろうか。」
「ずいぶん変わった格好をしているな。」
すると男は、困り果てている町の人たちに言いました。
「この町は、ねずみで困っているようですね。」
町の人たちは驚きました。
「そうなんです。」
「何をしても追い払えなくて……。」
男は手に持った笛を見せました。
「私なら、この町のねずみを追い払うことができます。」
「本当ですか?」
町の人たちは顔を見合わせました。
あれほど困っていたねずみを、本当に一人で追い払えるのでしょうか。
男は静かにうなずきました。
「ただし、一つ約束してください。」
「ねずみをすべて追い払ったら、約束のお礼をいただきたいのです。」
町の人たちはすぐに答えました。
「もちろんです!」
「ねずみを追い払ってくれるなら、約束のお礼をきちんと渡しましょう。」
男はうなずきました。
「では、始めましょう。」
男は町の大通りへ出ました。
そして、笛を口元へ運びます。
すうっと息を吸うと――。
♪ ピーッ、ピピピー……♪
美しい笛の音が、町に響き始めました。
不思議な音色でした。
高くなったり。
低くなったり。
風に乗るように、町の隅々まで広がっていきます。
すると――。
かさっ。
一軒の家の隅から、一匹のねずみが出てきました。
ちょろちょろ。
ねずみは笛を吹く男のほうへ近づいていきます。
すると、今度はパン屋の裏から。
ちょろちょろ。
倉庫からも。
ちょろちょろ。
市場からも。
家々の床下からも。
次々とねずみが姿を現しました。
「見ろ!」
「ねずみが集まってくる!」
町の人たちは驚いて見つめました。
十匹。
二十匹。
それどころではありません。
町中にいたねずみたちが、一匹、また一匹と笛の音に誘われて集まってきたのです。
男は笛を吹きながら、ゆっくりと歩き始めました。
♪ ピーッ、ピピピー……♪
ねずみたちも、その後ろをついていきます。
ぞろぞろ。
ぞろぞろ。
男が右へ曲がれば、ねずみたちも右へ。
男が左へ曲がれば、ねずみたちも左へ。
町の人たちは道の両側から、その不思議な光景を見つめていました。
「すごい……。」
「本当にねずみがついていくぞ。」
男はそのまま町の門を抜けました。
笛の音は少しずつ遠ざかっていきます。
ねずみたちも男の後を追い、町の外へ出ていきました。
やがて――。
笛の音が聞こえなくなりました。
しん……。
町の人たちは辺りを見回しました。
ねずみがいません。
台所にも。
倉庫にも。
市場にも。
あれほど町中を走り回っていたねずみたちが、一匹もいなくなっていました。
「やった!」
「ねずみがいなくなった!」
町中に歓声が上がりました。
「これで安心して暮らせる!」
人々は大喜びしました。
その日のハーメルンの町には、久しぶりに明るい笑い声が響きました。
しばらくすると、笛吹き男が町へ戻ってきました。
男は町の人たちに言いました。
「約束どおり、ねずみを追い払いました。」
「では、約束のお礼をいただきましょう。」
ところが――。
町の人たちは顔を見合わせました。
ねずみに困っていたときには、どんなことをしてでも追い払ってほしいと思っていました。
けれど、今ではもう、ねずみはいません。
一人が小さな声で言いました。
「ねずみはもういなくなったんだ。」
すると、別の人も言いました。
「あの男は、笛を吹いただけじゃないか。」
「約束したお礼は多すぎるんじゃないか?」
人々は相談を始めました。
そしてとうとう、男に言いました。
「そんなにたくさんのお礼は払えません。」
笛吹き男は黙って町の人たちを見ました。
「しかし、最初に約束しましたね。」
町の人たちは答えます。
「事情が変わったんです。」
「もうねずみはいないのだから、少しくらいいいでしょう。」
男の表情が変わりました。
怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えました。
「私は約束どおり、町からねずみを追い払いました。」
「それなのに、あなたたちは約束を守らないのですね。」
町の人たちは何も答えません。
男は静かに言いました。
「約束は、お金よりも大切なものです。」
そして、町を去っていきました。
それから数日後のことです。
朝のハーメルンの町は、いつものように人々の声でにぎわっていました。
すると――。
どこからか、笛の音が聞こえてきました。
♪ ラララ……♪
以前とは少し違う、優しく不思議な音色でした。
「この音は……。」
町の人たちは顔を上げました。
通りの向こうに、あの笛吹き男が立っていました。
男は何も言わず、笛を吹いています。
♪ ラララ……♪
その美しい音色に、町の子どもたちが気づきました。
「きれいな音。」
「どこから聞こえてくるんだろう?」
子どもたちは笛の音に耳を傾けました。
男はゆっくり歩き始めます。
子どもたちは、その不思議な音色に引かれるように後をついていきました。
「待ちなさい!」
町の大人たちは慌てました。
けれど、男と子どもたちはどんどん先へ進んでいきます。
町の外へ。
さらに、その先へ。
やがて男は、子どもたちを安全な場所へ導きました。
町の人たちは必死に追いかけてきました。
「子どもたちを返してください!」
「お願いします!」
男は笛を吹くのをやめました。
辺りが静かになります。
男は町の人たちを見つめました。
「あなたたちは、私との約束を覚えていますか?」
人々は黙り込みました。
ねずみに困っていたとき、自分たちは確かに約束しました。
男が仕事を終えたら、きちんとお礼を渡すと。
けれど、困りごとがなくなった途端、その約束を守らなかったのです。
「私たちは……。」
一人の町の人が、うつむきました。
「約束を破ってしまいました。」
別の人も言いました。
「あなたが仕事を終えてくれたのに、自分たちの都合で約束を変えてしまった。」
「申し訳ありませんでした。」
町の人たちは、自分たちの間違いに気づきました。
そして男に、約束していたお礼をきちんと渡しました。
「本当にすみませんでした。」
「これからは、約束したことを大切にします。」
笛吹き男は、人々の言葉を静かに聞いていました。
そして、にっこり笑いました。
「約束を守る町には、きっと幸せが訪れます。」
子どもたちは無事に家族のもとへ戻りました。
お父さんやお母さんたちは、子どもたちをしっかり抱きしめました。
それからハーメルンの町では、約束をするときには、その意味をよく考えるようになりました。
そして一度交わした約束は、自分たちの都合だけで破らないよう心がけました。
人々は互いの言葉を大切にしながら、安心して暮らせる町をつくっていったのでした。
おしまい。
登場人物
笛吹き男
色鮮やかな服を着て、不思議な笛を持ってハーメルンへやって来る旅人です。笛の音で町中のねずみを追い払いますが、町の人たちに約束していたお礼を拒まれてしまいます。
町の人たち
増えすぎたねずみに困り、笛吹き男に助けを求めます。ねずみがいなくなると一度は約束を破ってしまいますが、その後、自分たちの行動を振り返り、男に謝ります。
子どもたち
笛吹き男が再び町へやって来たとき、美しい笛の音に耳を傾け、その後をついていきます。町の大人たちが自分たちの約束について考え直すきっかけとなります。
ねずみたち
町中に増え、人々を困らせていたねずみたちです。笛吹き男の不思議な音色に誘われ、男の後をついて町の外へ去っていきます。
教訓
- 一度交わした約束は、自分にとって都合が悪くなったからといって簡単に破ってよいものではない。
- 約束を守ることの積み重ねが、人と人との信頼につながる。
- 誰かに助けてもらったときには、その相手への感謝や約束を忘れないことが大切。
- 自分が間違っていたと気づいたときには、それを認めて謝り、行動を改めることも大切。
親子で話したいポイント
- 町の人たちは、どうして最初は笛吹き男との約束を守らなかったのかな?
- 笛吹き男は、約束を破られたときにどんな気持ちだったと思う?
- 約束を守ってもらって、うれしかったことはある?
- 自分が約束を守れなかったときには、どうしたらいいと思う?
- 「信頼できる人」って、どんな人だと思う?
保育士向け活用ポイント
保育者自身にとっても、子どもとの約束を大人の都合で簡単に変えていないか、約束やルールの理由を子どもに分かるように伝えているかを振り返るきっかけになります。
「約束」や「ルール」がなぜ必要なのかを考える読み聞かせとして活用できます。
町の人たちが自分たちの都合で約束を変えてしまう展開から、「約束するとはどういうことか」を子どもたちと話し合うきっかけになります。
クラスの約束や生活のルールと結びつけ、「なぜこの約束があるのかな?」と考えることで、単に大人から言われたルールを守るのではなく、その意味を理解する活動へつなげられます。
町の人たちが間違いに気づき、謝って約束を果たす姿から、「間違えたら終わり」ではなく、謝ったり行動を改めたりすることの大切さについて考えることができます。
「笛吹き男はどんな気持ちだった?」「町の人だったらどうする?」など、登場人物それぞれの立場から気持ちを想像することで、共感性や社会性を育む活動にも活用できます。
笛の音に合わせて歩いたり、止まったりするリズム遊びや、登場人物になりきる劇遊びへ発展させやすい作品です。


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