幸福な王子|世界の名作・昔話

世界の名作・昔話

あらすじ

むかしむかし、ある町の広場に「幸福な王子」と呼ばれる美しい像が立っていました。

王子の像は金色に輝き、目には青い宝石、剣には赤い宝石が飾られていました。

高い場所から町を見渡していた王子は、困っている人や悲しんでいる人がたくさんいることに気づき、心を痛めていました。

けれど、像になった王子は自分で動くことができません。

そんなある日、南の国へ向かう途中の一羽のつばめが、王子のもとへやってきます。

王子はつばめに、自分の宝石や金色の飾りを困っている人たちへ届けてほしいと頼みました。

つばめは王子の願いを聞き、夜の町を飛び回ります。

「人を思いやる心」「誰かのために行動すること」「本当の豊かさとは何か」を伝える世界の名作です。


本文

むかしむかし、ある町の広場に、一体の美しい王子の像が立っていました。

像は高い柱の上にあり、町のどこからでも見ることができました。

王子の体は、きらきらと輝く金色の飾りに覆われています。

目には澄んだ青い宝石。

剣には、燃えるように赤い宝石が飾られていました。

太陽の光が当たると、王子の像はまぶしいほどに輝きました。

町の人たちは、広場を通るたびに王子を見上げました。

「なんて美しい王子なんだ。」

「町で一番立派な像だね。」

「いつも私たちを見守ってくれているよ。」

みんなは、この像を「幸福な王子」と呼んでいました。

王子はいつも、静かに町を見下ろしていました。

ある秋の日のことです。

一羽のつばめが町へやってきました。

つばめは、これから暖かな南の国へ向かう途中でした。

「今日はここで休んで、明日の朝に出発しよう。」

つばめは休める場所を探しました。

すると、広場に立つ王子の像が目に入りました。

「ちょうどいい。」

「今夜は王子様の足元で眠らせてもらおう。」

つばめは王子の像の足元に入り、羽をたたみました。

夜になりました。

町の明かりが一つ、また一つと消えていきます。

辺りが静かになり、つばめも眠ろうとした――。

そのときです。

ぽたり。

冷たいものが、つばめの頭に落ちました。

「ん?」

つばめは空を見上げました。

「雨かな?」

けれど、空には星が輝いています。

雲もありません。

「おかしいな。」

すると、もう一度。

ぽたり。

つばめは顔を上げました。

そして驚きました。

王子が泣いていたのです。

青い宝石の目から、涙が流れていました。

「王子様。」

「どうして泣いているの?」

つばめが尋ねると、王子は静かに答えました。

「私はここから、町中を見ることができます。」

つばめは黙って王子の話を聞きました。

「この町には、困っている人がたくさんいます。」

「悲しんでいる人もいます。」

「おなかを空かせている人もいます。」

王子は高い場所から、毎日そんな人々の姿を見ていたのです。

「助けてあげたいのです。」

「けれど、私は像です。」

「ここから動くことができません。」

王子の目から、また涙がこぼれました。

しばらくすると、王子はつばめに言いました。

「つばめさん。」

「お願いがあります。」

「なんでしょう?」

「私の剣についている赤い宝石を、貧しい親子のところへ届けてくれませんか。」

つばめは王子の剣を見ました。

そこには、美しく輝く赤い宝石があります。

「これを取ってしまってもいいの?」

「ええ。」

王子は答えました。

「この宝石があれば、あの親子は安心して暮らすことができるでしょう。」

つばめはうなずきました。

「わかりました。」

つばめは剣から赤い宝石を取りました。

そして羽を広げます。

ぱたぱた。

ぱたぱた。

静かな夜の町を飛んでいきました。

暗い路地を抜け、家々の屋根を越え、王子から聞いた親子の家へ向かいます。

やがて、小さな家にたどり着きました。

つばめはそっと赤い宝石を届けました。

次の朝。

宝石を見つけた親子は驚きました。

「これは……!」

二人の顔に、久しぶりの笑顔が浮かびました。

その夜、つばめは王子のところへ戻りました。

「ちゃんと届けてきたよ。」

「ありがとう。」

王子はうれしそうでした。

つばめも、なんだか心が温かくなりました。

次の日。

つばめは南の国へ出発しようと思っていました。

けれど、王子はまた言いました。

「つばめさん。」

「もう一つ、お願いがあります。」

「今度はどうしたの?」

王子は町の一角を見つめていました。

「勉強したくても、本を買うことができない子どもがいます。」

「私の青い目を一つ、その子どもへ届けてください。」

つばめは驚きました。

「でも……。」

「その宝石を取ったら、王子様の目がなくなってしまうよ。」

王子は優しく答えました。

「大丈夫です。」

「誰かが笑顔になれるなら、それが私の幸せです。」

つばめはしばらく王子を見つめていました。

そして、そっと青い宝石を一つ取りました。

「わかった。」

「ぼくが届けてくるよ。」

つばめは再び夜の町へ飛び立ちました。

ぱたぱた。

ぱたぱた。

冷たい風の中を飛び、子どものもとへ青い宝石を届けました。

子どもは目を輝かせました。

「これがあれば、本を買うことができる!」

その笑顔を見て、つばめもうれしくなりました。

王子のところへ戻ると、つばめはそのことを話しました。

王子は静かに笑いました。

それからも王子は、町を見渡しては困っている人を見つけました。

「つばめさん。」

「今度は、あの人のところへ届けてください。」

王子は、自分の体を覆っている金色の飾りを一枚ずつ外して、人々へ届けるようにつばめに頼みました。

つばめは毎日、町の中を飛び回りました。

一枚。

また一枚。

王子の金色の飾りが、困っている人たちのもとへ届けられていきます。

それにつれて、王子の像は少しずつ輝きを失っていきました。

あれほど美しく金色に輝いていた体は、だんだんと色あせていきます。

けれど、王子は悲しみませんでした。

町のどこかで誰かが笑顔になるたびに、王子はうれしそうでした。

季節は少しずつ進んでいきました。

秋が終わり、冬が近づいてきます。

冷たい風が町を吹き抜けるようになりました。

つばめの仲間たちは、もうとっくに暖かな南の国へ向かっています。

王子はつばめに言いました。

「つばめさん。」

「もう南の国へ行ったほうがいい。」

「これ以上ここにいたら、寒くなってしまいます。」

けれど、つばめは王子のそばから離れませんでした。

「大丈夫だよ。」

「でも、冬が来ます。」

王子は心配そうに言いました。

つばめは笑いました。

「あなたと一緒にいることが、今のぼくの幸せなんだ。」

王子は何も言いませんでした。

ただ、静かにつばめを見つめていました。

やがて冬がやってきました。

町には冷たい風が吹き、白い雪が降り始めました。

ひゅううう。

ひゅううう。

つばめは寒さに震えながらも、王子のそばを離れませんでした。

王子の体には、もう美しい宝石も金色の飾りも残っていません。

かつて町で一番美しいと言われた王子の像は、すっかり輝きを失っていました。

そして、つばめも寒さの中で少しずつ弱っていきました。

ある日。

つばめは王子の足元で、静かに目を閉じました。

もう南の国へ飛んでいく力は残っていませんでした。

つばめはそのまま、王子のそばで静かに眠りにつきました。

王子は、動くことのできない体で、いつまでもつばめを見つめていました。

しばらくして、町の人たちが王子の像を見上げました。

「ずいぶん古くなってしまったね。」

「前はあんなにきれいだったのに。」

「もう金色にも輝いていない。」

人々は、宝石も金色の飾りもなくなった王子の姿を眺めていました。

そのとき、一人の子どもが言いました。

「でも、この王子様は誰よりも優しかったんだよ。」

町の人たちは、その言葉を聞いて静かになりました。

王子から宝石を受け取った人。

金色の飾りに助けられた人。

夜の町を何度も飛び回ったつばめを見た人。

人々は、王子とつばめがしてきたことを少しずつ知っていきました。

そして、それから町では、困っている人を見かけると声をかける人が少しずつ増えていきました。

誰かがおなかを空かせていれば、食べ物を分けました。

困っている人がいれば、できることを手伝いました。

王子とつばめの姿は以前のように輝いてはいませんでした。

けれど、二人が残した優しさは、町の人々の心の中でいつまでも消えることなく残り続けました。

おしまい。


登場人物

幸福な王子

町の広場に立つ美しい王子の像です。高い場所から町を見渡し、困っている人たちの姿に心を痛めます。自分では動けないため、つばめに頼み、宝石や金色の飾りを人々へ届けてもらいます。

つばめ

南の国へ向かう途中で王子の像のもとに立ち寄った小鳥です。王子の願いを聞き、夜の町を飛び回って宝石や金色の飾りを人々へ届けます。やがて王子への思いから南へ行かず、冬になってもそばに残ります。

町の人々

最初は王子の美しい姿を見て「幸福な王子」と呼んでいました。王子とつばめの思いやりによって助けられ、やがて二人が残した優しさに気づいていきます。


教訓

  • 本当の豊かさや美しさは、見た目だけではなく、人を思いやる心の中にもある。
  • 誰かのために行動する優しさは、周りの人にも少しずつ広がっていく。
  • 自分にできることを誰かのために使うことも、大切な思いやりの一つ。
  • 人の価値を、持っている物や見た目だけで決めることはできない。

親子で話したいポイント

  • 王子は、どうして自分の宝石や金色の飾りを人々へ渡したのかな?
  • つばめは、どうして南の国へ行かずに王子のそばに残ったのかな?
  • 王子は宝石や金色の飾りを失ったけれど、本当に何もなくなってしまったのかな?
  • 誰かに優しくしてもらって、うれしかったことはある?
  • 困っている人がいたら、自分にはどんなことができるかな?

保育士向け活用ポイント

保育者自身にとっても、目に見える成果だけではなく、子どもの小さな思いやりや優しさに気づき、それを丁寧に受け止めることの大切さを振り返るきっかけになります。

「思いやり」や「助け合い」をテーマに、誰かのために行動することについて考える読み聞かせとして活用できます。

王子が自分の持っているものを人々へ分けていく姿から、「自分にできることを誰かのために使う」という思いやりについて子どもたちと話すことができます。

つばめが王子の願いを受け止めて行動する姿から、相手の気持ちに気づくことや、困っている人に寄り添うことについて考えるきっかけになります。

登場人物の気持ちを想像しながら、「王子はどんな気持ちだった?」「つばめはどうして残ったのかな?」と問いかけることで、共感性や他者理解につながる活動へ発展させることができます。

異年齢保育や当番活動など、日常の中にある「誰かのために行動する経験」と結びつけて活用できます。

王子が美しい飾りを失っていく一方で、人々の心に優しさが残っていく展開から、「見た目の美しさ」と「心の美しさ」の違いについて考える題材にもなります。

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