あらすじ
むかしむかし、広い森に、森の王様と呼ばれる大きなライオンが住んでいました。
ある日の昼下がり、ライオンが木陰で気持ちよさそうに眠っていると、一匹の小さなねずみがやってきました。
ねずみは夢中で走っていたため、うっかりライオンの体の上を走ってしまいます。
目を覚ましたライオンは怒ってねずみを捕まえますが、ねずみは「いつか必ず恩返しをします」と必死に頼みました。
「こんな小さなねずみに何ができる。」
そう思いながらも、ライオンはねずみを逃がしてやります。
それからしばらくして、ライオンが狩人の仕掛けた網に捕まってしまいました。
どれほど力の強いライオンでも、丈夫な網から抜け出すことができません。
そこへ現れたのは、あの小さなねずみでした。
「どんなに小さな力でも誰かの役に立つこと」「親切や助け合いの大切さ」を伝えるイソップ童話の名作です。
本文
むかしむかし、広い森に一頭の大きなライオンが住んでいました。
立派なたてがみ。
太くて力強い足。
ひとたび、
「ガオーッ!」
とほえれば、その声は森の遠くまで響き渡りました。
森の動物たちは、そんなライオンを「森の王様」と呼んでいました。
ある日の昼下がりのことです。
暖かな日差しが木々の間から差し込み、森には気持ちのよい風が吹いていました。
ライオンは大きな木の下に寝転がりました。
「今日はいい天気だ。」
「少し昼寝でもするか。」
目を閉じると、すぐに気持ちよさそうな寝息を立て始めました。
すう、すう。
森の中も静かです。
鳥の声と、風に揺れる葉っぱの音だけが聞こえていました。
そのころ、一匹の小さなねずみが森の中を走っていました。
ちょこちょこ。
ちょこちょこ。
ねずみは地面に落ちた木の実を探しながら、あちらこちらを走り回っていました。
「あっちにも何かありそうだ。」
ねずみは夢中になって走ります。
そして――。
ぴょん!
「あっ!」
ねずみは何か大きなものの上に飛び乗ってしまいました。
それは、眠っていたライオンの背中でした。
けれど、勢いは止まりません。
たたたたっ!
ねずみはそのままライオンの背中を走ってしまいました。
その瞬間――。
「ガオーッ!」
大きな声が森に響きました。
ライオンが目を覚ましたのです。
「だれだ!」
ライオンは大きな前足を伸ばしました。
ぱしっ!
「わあっ!」
ねずみは、あっという間に捕まってしまいました。
ライオンの大きな前足の下で、ねずみはぶるぶる震えました。
「お前か。」
「わしの昼寝を邪魔したのは。」
ねずみは必死に謝りました。
「ご、ごめんなさい!」
「わざとではないんです!」
「夢中で走っていて、気づかなかったんです。」
ライオンはじろりとねずみを見ました。
「こんな小さなねずみに起こされるとはな。」
ねずみはますます震えました。
「どうか、命だけは助けてください。」
「もう二度と邪魔をしません。」
ライオンは大きな口を開けました。
ねずみはぎゅっと目を閉じます。
すると、ねずみは思いついたように言いました。
「もし助けてくださったら――。」
「いつか、きっと恩返しをします!」
ライオンは一瞬、きょとんとしました。
そして――。
「はっはっはっは!」
森に大きな笑い声が響きました。
「お前が、わしに恩返しをするだと?」
ライオンはねずみを見つめました。
自分の前足よりもずっと小さな体です。
「お前のような小さなねずみに、何ができるというんだ。」
それでも、ねずみは真剣でした。
「今は何もできないかもしれません。」
「でも、いつかあなたが困ったときには、必ず助けます。」
ライオンはまた笑いました。
「はっはっは!」
「おもしろい。」
そして、大きな前足をそっと上げました。
「いいだろう。」
「今回は特別に逃がしてやる。」
ねずみは驚いて顔を上げました。
「本当ですか?」
「ああ。早く行け。」
「ありがとうございます!」
ねずみは何度も何度も頭を下げました。
「このご恩は忘れません!」
そして、ちょこちょこと森の中へ走っていきました。
ライオンはその後ろ姿を見ながら、また笑いました。
「小さなねずみが、わしを助けるか。」
「そんな日が来るものか。」
それからしばらくたった、ある日のことです。
ライオンはいつものように森の中を歩いていました。
木々の間を抜け、獲物を探しながら進んでいきます。
そのときでした。
ガサッ!
突然、足元で大きな音がしました。
「なんだ?」
次の瞬間――。
バサッ!
大きな網がライオンの体を包み込みました。
「ガオッ!」
ライオンは驚いて暴れました。
それは狩人が仕掛けていた、大きくて丈夫な網でした。
「こんなもの!」
ライオンは力いっぱい引っ張りました。
ぐいっ!
ぐいっ!
けれど、網は切れません。
暴れれば暴れるほど、網は体に絡みついてきます。
「くそっ!」
ライオンは鋭い爪を立てました。
それでも丈夫な縄はなかなか切れません。
何度も体をひねり、力いっぱい引っ張りました。
けれど、抜け出すことができません。
森の王様と呼ばれるほど強いライオンでも、網の中ではどうすることもできなかったのです。
ライオンは大きな声で叫びました。
「誰か!」
「誰か助けてくれ!」
「ガオーッ!」
その声は森の中に響き渡りました。
遠くにいた鳥たちが、一斉に飛び立ちます。
けれど、誰も助けに来ません。
「誰かいないのか!」
ライオンはもう一度叫びました。
その声を聞いた者がいました。
ちょうど近くを歩いていた、あの小さなねずみです。
「この声は……。」
ねずみは立ち止まりました。
「ライオンさんだ!」
ねずみは声のするほうへ急いで走りました。
ちょこちょこ。
ちょこちょこ。
木の根を越え、
草むらを抜け、
声のする場所へ向かいます。
やがてねずみは、大きな網に捕まっているライオンを見つけました。
「ライオンさん!」
ライオンはねずみを見て驚きました。
「お前は、あのときの……。」
「待っていてください!」
「今、助けます!」
ライオンは困った顔をしました。
「しかし、お前のような小さな体で、この網をどうするんだ?」
ねずみは答えました。
「ぼくには、大きな力はありません。」
「でも、ぼくの歯なら役に立つかもしれません。」
ねずみはすぐに網へ近づきました。
そして、丈夫な縄に鋭い歯を立てました。
カリカリ。
カリカリ。
「よいしょ。」
カリカリ。
カリカリ。
一本の縄は、ねずみにとってとても太いものでした。
それでも、ねずみはあきらめません。
少しずつ。
少しずつ。
何度も何度もかじり続けました。
やがて――。
ぷつん!
一本の縄が切れました。
「切れた!」
けれど、まだライオンは出られません。
ねずみはすぐに次の縄をかじり始めました。
カリカリ。
カリカリ。
ぷつん!
もう一本。
さらにもう一本。
ライオンはじっと待っていました。
あれほど小さいと思っていたねずみが、自分を助けるために一生懸命働いています。
やがて網に、大きな穴が開きました。
「ライオンさん!」
「ここから出られます!」
ライオンはゆっくりと体を動かしました。
そして――。
「よいしょ!」
網の穴から、無事に外へ出ることができました。
「助かった……!」
ライオンは大きく息をつきました。
そして、小さなねずみを見つめました。
「ありがとう。」
「お前がいなければ、わしはここから出られなかった。」
ねずみはにっこり笑いました。
「前に言ったでしょう?」
「いつか恩返しをしますって。」
ライオンは、あの日のことを思い出しました。
小さなねずみを前足で捕まえ、
「お前のような小さなねずみに何ができる」
と笑った日のことを。
ライオンは少し恥ずかしそうに言いました。
「お前の言ったとおりだった。」
「体が小さくても、誰かを助ける力はあるんだな。」
ねずみは笑顔で答えました。
「困ったときは、お互いさまです。」
ライオンも笑いました。
それからライオンとねずみは、とても仲の良い友だちになりました。
大きなライオンと、小さなねずみ。
体の大きさも、持っている力も違います。
それでも二匹は、お互いにできることを大切にしながら、森で仲良く暮らしていきました。
おしまい。
登場人物
ライオン
森の王様と呼ばれる大きくて力強いライオンです。最初は小さなねずみに何ができるのかと笑いますが、自分が網に捕まったときに助けられ、体の大きさだけでは相手の力を決められないことに気づきます。
ねずみ
小さな体をしたねずみです。ライオンの昼寝を邪魔して捕まってしまいますが、助けてもらった恩を忘れず、ライオンが困ったときには鋭い歯を使って網をかじり、約束どおり助けます。
狩人
森に丈夫な網を仕掛けた人物です。物語の中では直接登場しませんが、ライオンが捕まるきっかけとなる網を仕掛けています。
教訓
- どんなに小さな力でも、誰かの役に立つことができる。
- 見た目や体の大きさ、力の強さだけで相手を判断してはいけない。
- 自分にはできないことでも、誰かの得意なことに助けられることがある。
- 誰かにした親切が、思いがけない形で自分を助けることもある。
親子で話したいポイント
- ライオンは、どうしてねずみを逃がしてあげたのかな?
- ライオンは最初、ねずみの「恩返しをする」という言葉をどう思っていたかな?
- 小さなねずみは、どうやって大きなライオンを助けたのかな?
- 自分より小さな子や年下の子に助けてもらったことはある?
- 困っている人がいたら、自分にはどんなことができるかな?
保育士向け活用ポイント
保育者自身にとっても、子どもを年齢や発達だけで「まだできない」と決めつけず、その子が今持っている力や得意なことを見つけ、信じて任せてみることの大切さを振り返るきっかけになります。
「助け合い」や「思いやり」について考える読み聞かせとして活用できます。
大きくて力の強いライオンにもできないことがあり、小さなねずみだからこそできることがある展開から、「一人ひとりに違った得意なことがある」という多様性について考えることができます。
「小さいからできない」「年下だからできない」と決めつけず、それぞれが持っている力や良さに目を向けるきっかけになります。
異年齢保育やグループ活動の導入として、「自分にできること」「友だちに助けてもらえること」を子どもたちと話し合う教材としても活用できます。
ねずみが助けてもらったことを覚えていて、ライオンが困ったときに行動する姿から、感謝する気持ちや相手を思いやる気持ちについて考えることができます。


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