赤いくつ|世界の名作・昔話(アンデルセン童話)

世界の名作・昔話

あらすじ

むかしむかし、小さな町にカレンという心優しい女の子が住んでいました。

ある日、カレンはとても美しい赤いくつを手に入れます。

初めは大切に履いていたカレンでしたが、いつしか「みんなに赤いくつを見てほしい」という気持ちが強くなり、心の中は赤いくつのことでいっぱいになっていきました。

ところがある日、不思議な声が聞こえたかと思うと、赤いくつを履いたカレンの足が勝手に踊り始めます。

止まりたいと思っても、くつは止まってくれません。

踊り続ける中で、カレンは自分が忘れていた大切なものに気づいていきます。

「本当に大切なものは何か」「思いやりや感謝の気持ちを忘れないこと」を伝える世界の名作です。


本文

むかしむかし、小さな町にカレンという女の子が住んでいました。

カレンは心の優しい女の子でした。

家はあまり豊かではありませんでしたが、毎日を大切に過ごしていました。

困っている人がいれば手伝い、周りの人にも優しく接していました。

そんなある日のことです。

カレンが町を歩いていると、一軒の靴屋さんの前で足を止めました。

店の窓には、いろいろなくつが並んでいます。

黒いくつ。

茶色いくつ。

小さなくつに、大きなくつ。

その中に、一足だけひときわ目を引くくつがありました。

それは、とても美しい赤いくつでした。

「わあ……。」

カレンは思わず見とれました。

つやつやとした赤い色。

太陽の光を受けると、まるで宝物のようにきらきらと輝いています。

「なんてすてきなんだろう。」

カレンはしばらく、その赤いくつから目を離すことができませんでした。

やがてカレンは、その赤いくつを履くことになりました。

初めて足を入れたとき、カレンはうれしくてたまりませんでした。

「ぴったり!」

歩いてみると、

こつ、こつ。

赤いくつが軽やかな音を立てます。

カレンは何度も自分の足元を見ました。

「きれいだなあ。」

最初のうち、カレンは赤いくつをとても大切にしていました。

汚れないように気をつけ、

履き終わればきれいにして、

大事にしまっておきました。

ところが――。

少しずつ、カレンの気持ちは変わっていきました。

赤いくつを履いて町を歩くと、誰かが自分の足元を見ているような気がします。

「みんな、私の赤いくつを見ているのかしら。」

そう思うと、なんだかうれしくなりました。

もっと見てほしい。

もっと赤いくつを履いていたい。

いつの間にか、カレンの心は赤いくつのことでいっぱいになっていきました。

教会へ行く日も、

友だちと遊ぶ日も、

町へ出かけるときも、

「今日は赤いくつを履いていこう。」

そして、赤いくつを履くたびに思いました。

「みんなに見てもらいたいな。」

以前なら周りの人のことを考えていたカレンでしたが、だんだんと自分の赤いくつばかりを気にするようになっていました。

そんなある日のことです。

カレンはいつものように赤いくつを履き、町を歩いていました。

こつ、こつ。

石畳の道に、くつの音が響きます。

そのときでした。

どこからともなく、不思議な声が聞こえてきました。

「踊り続けなさい。」

カレンは立ち止まりました。

「え?」

辺りを見回します。

けれど、誰もいません。

「今の声は……?」

風が、すうっと通り過ぎました。

カレンは少し不安になりました。

そのときです。

ぴくっ。

右足が勝手に動きました。

「え?」

今度は左足が前へ出ます。

こつ。

こつ。

こつ。

「どうしたの?」

カレンが止まろうとしても、足は言うことを聞きません。

やがて赤いくつは、まるで自分の意思を持っているかのように動き始めました。

くるり。

くるり。

カレンの体が回ります。

「待って!」

くるくる。

くるくる。

「止まって!」

けれど、赤いくつは止まりません。

カレンが足に力を入れても、くつは勝手に踊り続けます。

町の道を踊り、

広場を踊り、

どこまでもカレンを連れていきます。

「お願い、止まって!」

カレンは必死に叫びました。

けれど、赤いくつは、

こつ、こつ。

くるくる。

休むことなく動き続けました。

カレンはだんだん疲れてきました。

もう赤いくつを見てほしいとは思いません。

きれいだと思う余裕もありませんでした。

ただ、止まりたい。

ゆっくり休みたい。

それだけでした。

それでも赤いくつは踊り続けます。

一日が過ぎても。

夜になっても。

そしてまた朝が来ても。

何日も踊り続けるうちに、カレンはこれまでの自分のことを考えるようになりました。

「どうして、こんなことになったんだろう。」

赤いくつを初めて見つけた日のことを思い出しました。

ただ「きれいだな」と思っていたころは、赤いくつを履けるだけでうれしかったのです。

けれど、いつの間にか気持ちは変わっていました。

「もっと見てほしい。」

「みんなにすてきだと思ってほしい。」

そんなことばかりを考えるようになっていました。

そして、以前は大切にしていた周りの人の気持ちや、日々の小さな幸せに目を向けることを忘れていました。

「私は、大切なことを忘れていたんだ。」

カレンは踊りながら、心の中で思いました。

「赤いくつを持っていることよりも、大切なことがあったのに。」

「人に見てもらうことばかり考えないで、周りの人や自分の心を大切にすればよかった。」

カレンは心から反省しました。

その思いは、少しずつ強くなっていきました。

すると――。

それまで止まることなく動いていた足が、少しずつゆっくりになりました。

くるくると回っていた体も、次第に静かになっていきます。

そしてついに、

ぴたり。

赤いくつが動きを止めました。

カレンはしばらく、その場に立ったまま自分の足元を見つめていました。

「止まった……。」

大きく息を吐きました。

そして、ほっとしたように空を見上げました。

それからのカレンは、おしゃれを楽しむことも、美しいものを好きになることもやめませんでした。

けれど、赤いくつばかりに心を奪われることはなくなりました。

誰かに見せるためではなく、自分が大切にしたいものを大切にすること。

そして、周りの人への思いやりや感謝を忘れないこと。

カレンは、もう一度その大切さを心に刻みました。

町の人たちも、カレンの姿を見ながら話しました。

「美しいものを持っているだけで、心まで美しくなるわけではないんだね。」

「人を思いやる優しい心も、大切にしなくてはいけないね。」

カレンは、その言葉を聞いて静かにうなずきました。

そして以前よりも周りの人を大切にしながら、穏やかな毎日を過ごすようになりました。

月日が流れ、カレンは少しずつ成長していきました。

赤いくつを見るたびに、あの日のことを思い出します。

そして、自分にとって本当に大切なものを忘れないようにしながら、優しく周りの人を思いやる女性へと成長していったのでした。

おしまい。


登場人物

カレン

主人公の女の子です。美しい赤いくつを手に入れ、次第にそのくつのことばかり考えるようになります。不思議な出来事を経験する中で、自分が忘れていた大切なものに気づいていきます。

靴屋さん

カレンが心を奪われる、美しい赤いくつを作った町の靴職人です。

町の人たち

カレンの姿を見ながら、本当の美しさや心の大切さについて考える人々です。


教訓

  • 本当に大切なのは、見た目だけではなく心の美しさ。
  • 物を大切にすることと、物に心を奪われてしまうことは違う。
  • 人からどう見られるかだけではなく、自分が大切にしたいものを考えることも必要。
  • 周りの人への感謝や思いやりを忘れないことが大切。

親子で話したいポイント

  • カレンは、どうして赤いくつのことばかり気になるようになったのかな?
  • 赤いくつが勝手に踊り始めたとき、カレンはどんな気持ちだったと思う?
  • 大切なものを持つことと、そのことばかり考えてしまうことには、どんな違いがあるかな?
  • 心がきれいな人って、どんな人だと思う?
  • あなたが大切にしたいものは何かな?

保育士向け活用ポイント

読み聞かせ後に、自分の大切にしている物や、その物をなぜ大切にしているのかを紹介し合う活動にもつなげられます。

「物を大切にすること」と「物に執着しすぎること」の違いについて、子どもたちと考えるきっかけになります。

お気に入りのおもちゃや服など、子どもたちにも身近な「大切なもの」と結びつけながら読み聞かせることができます。

原作は非常に悲しい結末ですが、本作品では元記事の構成に沿い、幼児にも受け止めやすいよう、カレン自身の気づきと成長を中心に描いています。

「きれいなものやおしゃれを好きになることが悪い」という伝え方ではなく、「それ以外の大切なものも忘れない」という視点で扱うことが大切です。

「人からどう見られるか」と「自分がどうありたいか」の違いを考える題材としても活用できます。

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