あらすじ
むかしむかし、山に囲まれた小さな村の入り口に、六体のお地蔵さまが並んでいました。
村の子どもたちは、お地蔵さまの横に立って背くらべをするのが大好きでした。
「昨日より大きくなったかな?」
「もう三番目のお地蔵さまと同じくらい!」
子どもたちの楽しそうな声が、いつもお地蔵さまのまわりに響いていました。
ところが、村に住む太郎だけは、自分の背がなかなか伸びないことを気にするようになります。
友だちと比べるたびに寂しい気持ちになり、とうとう大好きだった背くらべもしなくなってしまいました。
そんなある夕方。
一人でお地蔵さまの前を通った太郎に、不思議な声が聞こえてきます。
それは、いつも黙って子どもたちを見守っていた六体のお地蔵さまたちの声でした。
本文
むかしむかし、山々に囲まれた小さな村がありました。
村には田んぼや畑が広がり、その間を一本の細い道が通っていました。
その道をずっと歩いていくと、村の入り口に六体のお地蔵さまが並んでいました。
一番目のお地蔵さまは少し小さく、
二番目はそれより少し大きく、
三番目、四番目、五番目と続き、
六番目のお地蔵さまが一番大きく見えました。
いつからそこにいるのか、村の誰も知りません。
おじいさんやおばあさんが子どものころにも、六体のお地蔵さまは同じ場所に立っていたといいます。
村の人たちは毎朝、お地蔵さまの前を通ると、
「今日もよろしくお願いします。」
と手を合わせました。
畑仕事へ向かう人。
町へ品物を売りに行く人。
山へ薪を取りに行く人。
みんながお地蔵さまに挨拶をしてから、一日を始めます。
子どもたちにとっても、お地蔵さまはとても身近な存在でした。
学校へ行くときも、
遊びに行くときも、
家へ帰るときも、
必ず六体のお地蔵さまの前を通ります。
「行ってきます!」
「ただいま!」
子どもたちはまるで友だちに話しかけるように、お地蔵さまたちへ声をかけていました。
そして、子どもたちには一つの楽しみがありました。
それは――。
「背くらべ」です。
子どもたちはお地蔵さまの隣に立ち、頭の高さを比べました。
「見て!」
「ぼく、昨日より大きくなったんじゃない?」
「昨日と同じじゃない?」
「そんなことないよ!」
別の子も、お地蔵さまの横へ立ちます。
「わたし、三番目のお地蔵さまと同じくらい!」
「本当だ!」
「次は四番目だね!」
子どもたちは大笑いしました。
もちろん、一日や二日で急に背が伸びるわけではありません。
それでも子どもたちは、
「今日はどうかな?」
と、お地蔵さまの横に立つのが楽しみだったのです。
その村に、太郎という男の子がいました。
太郎は元気いっぱいで、心の優しい子でした。
友だちが困っていれば手伝い、小さな子が泣いていれば、
「どうしたの?」
と声をかけます。
山へ遊びに行けば、誰よりも早く木の実を見つけました。
鬼ごっこでは最後まで諦めずに走ります。
そんな太郎にも、一つだけ気にしていることがありました。
それは、自分の背が低いことでした。
太郎は友だちと比べても、小さな方でした。
最初のころは、それほど気にしていませんでした。
「そのうち大きくなるよ。」
そう思いながら、みんなと一緒に背くらべをしていました。
ところが、季節が巡るたび、友だちは少しずつ大きくなっていきます。
去年は二番目のお地蔵さまより小さかった友だちが、いつの間にか三番目のお地蔵さまに追いついていました。
ある日のことです。
学校からの帰り道、いつものように子どもたちが背くらべを始めました。
「見て!」
一人の男の子が嬉しそうに言いました。
「ぼく、もう四番目のお地蔵さまと同じくらいだ!」
「すごい!」
別の女の子も横に立ちました。
「私は五番目まで、あと少し!」
みんなが楽しそうに笑っています。
太郎も一番小さなお地蔵さまの横に立ってみました。
けれど――。
まだ、お地蔵さまより少し小さいままでした。
太郎は自分の頭と、お地蔵さまの頭を見比べました。
――また同じだ。
友だちはどんどん大きくなっている。
それなのに、自分はなかなか追いつけない。
さっきまで楽しかったはずの背くらべが、急につまらなくなってしまいました。
「太郎もやろうよ。」
友だちが呼びました。
「……今日はいい。」
「どうしたの?」
「なんでもない。」
太郎は先に家へ帰ってしまいました。
それから太郎は、お地蔵さまの前で背くらべをしなくなりました。
友だちが、
「今日はどこまで大きくなったかな?」
と笑っていても、少し離れたところで待っています。
一人でお地蔵さまの前を通るときも、以前のように隣へ立つことはありません。
六体のお地蔵さまは、そんな太郎を毎日黙って見ていました。
ある日の夕方のことです。
太郎は一人で学校から帰っていました。
夕日が山の向こうへ沈みかけ、空は赤く染まっています。
田んぼの上を冷たい風が吹き抜けました。
村の入り口まで来ると、いつもの六体のお地蔵さまが並んでいます。
太郎は下を向いたまま、その前を通り過ぎようとしました。
そのときです。
「どうしたのかな?」
「えっ?」
太郎は立ち止まりました。
辺りを見回します。
誰もいません。
風が草を揺らしているだけです。
「誰?」
すると、また声がしました。
「最近、背くらべをしなくなったね。」
太郎は驚いて、お地蔵さまを見ました。
一番小さなお地蔵さまが、いつもより少しだけ笑っているように見えます。
「もしかして……。」
太郎は恐る恐る近づきました。
「お地蔵さま?」
「そうだよ。」
太郎は目を丸くしました。
毎日見ていたお地蔵さまが話しているのです。
けれど不思議と、怖いとは思いませんでした。
「どうして背くらべをしなくなったんだい?」
一番小さなお地蔵さまが尋ねました。
太郎は少し黙っていました。
けれど、やがて小さな声で答えました。
「だって……。」
「ぼくだけ背が伸びないんだ。」
「みんなはどんどん大きくなるのに。」
一番小さなお地蔵さまは、静かに太郎の話を聞いていました。
「そうか。」
そして、にっこり笑いました。
「でもね。」
「背が小さいからって、困ることばかりじゃないよ。」
太郎は首をかしげました。
「でも、大きい方がいいでしょう?」
すると、今度は二番目のお地蔵さまから声がしました。
「そうとは限らないよ。」
太郎はまた驚きました。
二番目のお地蔵さまも話し始めたのです。
「私は昔から、小さな子どもたちがこの道を通るのを見守ってきた。」
「小さいからできないこともあるけれど、小さいから気づけることだってあるんだよ。」
すると三番目のお地蔵さまが言いました。
「大人が通り過ぎてしまうような、小さな花を見つけるのが得意な子もいる。」
四番目のお地蔵さまが続けました。
「背の高さだけを比べていたら、その人の大切なところを見落としてしまうかもしれないね。」
太郎は黙って聞いていました。
五番目のお地蔵さまが言いました。
「優しさ。」
そして、一番大きな六番目のお地蔵さまが言いました。
「勇気。」
太郎は六体のお地蔵さまを見渡しました。
「優しさと……勇気?」
「そう。」
「それは背くらべでは測れないものだよ。」
辺りに風が吹きました。
木々の葉が、
さわさわ……。
と揺れました。
太郎がもう一度お地蔵さまを見ると、六体ともいつものように静かな顔で立っていました。
「お地蔵さま?」
返事はありません。
「ねえ。」
やっぱり何も答えません。
太郎はしばらくその場に立っていました。
――今のは夢だったのかな。
けれど、お地蔵さまたちの言葉は、しっかり心に残っていました。
翌日のことです。
学校から帰る途中、太郎は道ばたで困っている小さな女の子を見つけました。
女の子は木を見上げています。
「どうしたの?」
太郎が声をかけました。
「帽子が……。」
見ると、風に飛ばされた帽子が木の枝に引っかかっていました。
女の子が手を伸ばしても届きません。
太郎も手を伸ばしてみました。
やはり届きません。
――もっと背が高ければ取れるのに。
一瞬、そう思いました。
けれど、そのとき昨日のお地蔵さまの言葉を思い出しました。
――できることは、背の高さだけで決まるのかな。
太郎は辺りを見回しました。
すると道ばたに、長い棒が落ちていました。
「これなら届くかも。」
太郎は棒を使って、そっと帽子を押しました。
ぽとん。
帽子が地面へ落ちました。
「取れた!」
女の子は大喜びです。
「ありがとう!」
太郎も笑いました。
――背が届かなくても、方法はあるんだ。
また別の日。
道ばたで、おばあさんが転んでしまいました。
荷物も地面に散らばっています。
太郎はすぐに駆け寄りました。
「大丈夫?」
「おやおや、転んでしまったよ。」
太郎は散らばった荷物を拾い、おばあさんが立ち上がるのを手伝いました。
「痛いところはない?」
おばあさんは太郎を見て、にっこり笑いました。
「ありがとう。」
「優しい子だねえ。」
太郎は少し照れくさくなりました。
その日の帰り道。
太郎はまた六体のお地蔵さまの前を通りました。
一番小さなお地蔵さまの隣に立ちました。
背の高さは、昨日とほとんど変わっていません。
けれど、今日は不思議と嫌な気持ちになりませんでした。
太郎はお地蔵さまたちを見ながら思いました。
背が高いことも素敵。
足が速いことも素敵。
力が強いことも素敵。
でも、それだけじゃない。
優しいこと。
最後まで頑張れること。
困っている人に気づけること。
誰かのために動けること。
それも全部、その人の素敵なところなのです。
太郎は一番小さなお地蔵さまに言いました。
「少しわかった気がするよ。」
もちろん、お地蔵さまは何も答えません。
けれど、その顔はどこか嬉しそうに見えました。
冬が過ぎ、やがて春になりました。
山の雪がとけ、道ばたには小さな花が咲き始めました。
ある日の学校帰り。
友だちが言いました。
「太郎、久しぶりに背くらべしようよ!」
以前の太郎なら、断っていたかもしれません。
けれど今度は、
「いいよ!」
と笑って答えました。
太郎は一番小さなお地蔵さまの隣に立ちました。
友だちが二人を見比べます。
「あれ?」
太郎も気づきました。
「少し近づいてる!」
冬の間に、ほんの少しだけ背が伸びていました。
太郎は嬉しくなりました。
けれど、以前のように、
「もっと早く大きくなりたい。」
とは思いませんでした。
「大きくなるのを急がなくてもいいんだ。」
太郎は笑いました。
「そのうち大きくなるよ。」
夕日を浴びた六体のお地蔵さまたちは、並んで静かに立っていました。
けれど太郎には、みんながにっこり笑っているように見えました。
それからも、村の子どもたちはお地蔵さまと背くらべを続けました。
「ぼく、四番目まで来た!」
「わたしも大きくなったよ!」
そんな声が、毎日のように聞こえます。
けれど、ときどき太郎が言いました。
「背だけじゃなくて、こっちも比べてみようよ。」
「何を?」
「今日は、どんな優しいことをした?」
すると子どもたちは考えます。
「弟のおもちゃを片づけてあげた!」
「転んだ友だちに大丈夫って言った!」
「お母さんのお手伝いをした!」
子どもたちの楽しそうな声を、六体のお地蔵さまは今日も静かに聞いています。
そして夕暮れになると、その石の顔は、ほんの少しだけ笑っているように見えるのでした。
おしまい。
登場人物
- 太郎
元気で優しい男の子。友だちより背が低いことを気にするようになりますが、お地蔵さまたちとの不思議な出来事をきっかけに、自分のよさは背の高さだけでは決まらないことに気づいていきます。 - 六体のお地蔵さま
村の入り口に並び、昔から村人や子どもたちを見守っている存在。背の高さを気にする太郎に、それぞれのよさについて語りかけます。 - 村の子どもたち
お地蔵さまと背くらべをすることを楽しみにしている太郎の仲間たち。 - 女の子
木の枝に帽子が引っかかって困っていたところを、太郎の工夫によって助けてもらいます。 - おばあさん
道ばたで転んだところを太郎に助けてもらい、その優しさに感謝します。
教訓
- 人の価値は、背の高さや見た目だけでは決まらない。
- 誰にでも、その人にしかないよさや得意なことがある。
- 誰かと比べるだけではなく、自分自身の成長を大切にする。
- 優しさや勇気、努力など、目では測ることのできない素敵なところもある。
親子で話したいポイント
- 太郎は、どうして背の高さを気にするようになったのかな?
- お地蔵さまたちは、太郎にどんなことを伝えたかったのだろう?
- 太郎は、背が届かなかった帽子をどうやって取った?
- 背の高さ以外に、太郎の素敵なところはどこだと思う?
- 自分の好きなところや得意なことは何だろう?
- 家族や友だちの「素敵なところ」を一つずつ見つけてみよう。
保育士向け活用ポイント
目に見えない成長に気づく機会に
身長や体の大きさだけでなく、「できるようになったこと」「人に優しくできたこと」「頑張ったこと」なども成長であることを子どもたちと振り返る題材として活用できます。
自己肯定感や自己受容を育てる題材に
友だちとの違いを気にする太郎の姿から、「違っていても大丈夫」「自分には自分のよさがある」ということを考えるきっかけになります。
身体的特徴の違いについて考える
背の高さという子どもにもわかりやすい違いを通して、身体的特徴を優劣ではなく一人ひとりの違いとして受け止める活動につなげられます。
「いいところ探し」の活動へ
物語を読んだあと、「自分のいいところ」「友だちのいいところ」を一つずつ見つけて伝え合う活動へ発展させることができます。


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