あらすじ
むかしむかし、広い宇宙に浮かぶ小さな星に、ひとりの王子さまが暮らしていました。
王子さまは自分の星を大切にしながら、そこに咲く一輪のバラのお世話をしていました。
けれど、少しわがままなバラの言葉に悩んだ王子さまは、自分の星を離れて旅に出ることにします。
いくつもの星をめぐり、さまざまな大人たちと出会った王子さまは、やがて地球へたどり着きます。
そこで一匹のキツネと出会い、時間をかけて相手と関わることで、その相手がかけがえのない存在になっていくことを知ります。
そして王子さまは、自分の星に残してきたバラが、なぜ自分にとって特別だったのかに気づくのでした。
本文
むかしむかし、広い宇宙の中に、小さな小さな星がありました。
その星には、ひとりの王子さまが住んでいました。
星はとても小さく、少し歩けば、すぐに端まで行けるほどでした。
けれど王子さまにとって、そこは大切な自分の家でした。
朝になると、王子さまは星の中を見回ります。
小さな火山をきれいに掃除したり、大きくなりすぎる木の芽を見つけては、丁寧に抜いたりしました。
「今日も星をきれいにしておこう。」
小さな星だからこそ、毎日の手入れが大切です。
そして、その星には王子さまが何よりも大切にしているものがありました。
一輪の美しいバラです。
バラは、とてもきれいな花でした。
王子さまは毎日、バラに水をあげました。
ところが、そのバラは少しわがままでした。
「水をください。」
「はいはい。」
「今日は風が強いわ。ちゃんと守ってください。」
「分かったよ。」
「夜は寒くならないようにしてちょうだい。」
王子さまは、そのたびにバラの世話をしました。
バラのことが大好きだったからです。
けれど、ときどき王子さまは困ってしまいました。
バラの言葉を聞いているうちに、どうしていいのか分からなくなることがあったのです。
「僕はこんなに大切にしているのに……。」
王子さまは考え込みました。
「どうしたらいいのだろう。」
バラのことは好きです。
それでも、うまく気持ちを分かり合えないことがありました。
王子さまは悩みました。
そしてある日、自分の星を離れて旅に出ることにしました。
「少し外の世界を見てみよう。」
こうして王子さまの旅が始まりました。
王子さまは宇宙を進み、いくつもの小さな星を訪れました。
最初に出会ったのは、命令することが好きな王様でした。
王様は、誰かに命令することばかり考えています。
別の星には、ほめられることばかり気にしている人がいました。
「私のことを立派だと思うだろう?」
王子さまは首をかしげました。
また別の星には、お金や数字のことばかり考えている人もいました。
王子さまが話しかけても、その人は数字を数えることに夢中です。
王子さまは旅を続けながら思いました。
「大人って、少し変わっているな。」
どうして命令することばかり考えるのだろう。
どうしてほめられることばかり気にするのだろう。
どうして数字ばかり大切にするのだろう。
王子さまには、よく分かりませんでした。
それでも旅を続けました。
そして、ついに大きな星へたどり着きます。
地球です。
これまで王子さまが訪れた星とは違い、地球はとても広いところでした。
どこまでも続く大地。
高い山。
広い空。
王子さまは初めて見るものばかりの世界を歩きました。
そんなある日のことです。
王子さまは、一匹のキツネに出会いました。
「こんにちは。」
王子さまが声をかけます。
「こんにちは。」
キツネが答えました。
王子さまはうれしくなりました。
「一緒に遊ぼう。」
ところがキツネは言いました。
「今はまだ、一緒に遊べないよ。」
「どうして?」
王子さまは不思議そうに聞きました。
キツネは答えました。
「だって、僕たちはまだ仲良くなっていないから。」
王子さまは首をかしげました。
「仲良くなるって、どういうこと?」
キツネは王子さまを見つめました。
「時間をかけて、相手を知っていくことだよ。」
王子さまは黙って聞いていました。
「最初は、お互いに知らない者同士だよね。でも、毎日少しずつ近づいて、一緒に過ごしていくんだ。」
「そうすると?」
「いつか、その相手が自分にとって特別な存在になるんだよ。」
王子さまは考えました。
「特別な存在……。」
それから王子さまは、キツネと少しずつ一緒に過ごすようになりました。
最初から急に近づくのではありません。
少し離れたところに座ります。
次の日には、昨日より少し近くへ。
また次の日には、もう少し近くへ。
二人は少しずつ言葉を交わしました。
一緒にいる時間が増えていきました。
そして、いつの間にか王子さまにとってキツネは大切な友だちになっていました。
キツネにとっても、王子さまは特別な存在になっていました。
王子さまは、一緒に過ごす時間が人と人との間に大切なものを作っていくことを知りました。
そんなある日。
王子さまは、たくさんのバラが咲いている場所を見つけました。
「わあ……。」
王子さまは立ち止まりました。
赤いバラ。
美しく咲いたバラ。
どれも、自分の星に残してきたバラによく似ています。
王子さまは驚きました。
自分の星のバラを、ずっと特別な花だと思っていたからです。
けれど目の前には、同じように美しいバラがたくさん咲いています。
「僕の花は……特別じゃなかったのかな。」
王子さまは悲しくなりました。
自分が大切にしてきたバラも、このたくさんのバラと同じなのだろうか。
王子さまは考え込みました。
そんな王子さまに、キツネは大切なことを教えてくれました。
「君の花は、君にとって特別なんだよ。」
王子さまは顔を上げました。
「どうして?」
「君がその花のために、たくさんの時間を使ってきたから。」
王子さまは、自分の星で過ごした日々を思い出しました。
毎日、水をあげたこと。
風から守ったこと。
バラの言葉を聞いたこと。
困ったり、悩んだりしたこと。
それでも、ずっと大切にしてきたこと。
目の前に咲いているたくさんのバラには、その思い出はありません。
自分の星のバラと過ごした時間は、王子さまとバラだけのものです。
王子さまは、ようやく分かりました。
見た目が同じように見えても、自分が時間をかけて大切にしてきた存在は、自分にとって特別なのです。
王子さまは静かに言いました。
「僕のバラは、僕にとって大切な花なんだ。」
キツネはうなずきました。
王子さまは、自分が本当に大切にしたいものが分かってきました。
旅に出る前は、バラの言葉ばかり気にしていました。
けれど離れてみて初めて、自分がどれほどバラを大切に思っていたのかに気づいたのです。
「僕は帰らなくちゃ。」
王子さまは、自分の星へ帰ることを決めました。
そこには、王子さまが水をあげ、風から守り、長い時間を一緒に過ごしてきたバラがいます。
遠く離れていても、大切に思う気持ちは消えていませんでした。
王子さまは空を見上げました。
広い空の向こうには、たくさんの星が輝いています。
その中のどこかに、自分の小さな星があります。
そして、その星では一輪のバラが待っています。
王子さまは旅の中で出会った人たちや、キツネと過ごした時間を胸に、自分の大切な星へ帰っていきました。
おしまい。
登場人物
王子さま
小さな星で暮らし、そこに咲くバラを大切にしている主人公。自分の星を離れてさまざまな場所を旅し、多くの出会いを通して、自分にとって本当に大切なものに気づいていきます。
バラ
王子さまの星に咲いている美しい花。少しわがままなところもありますが、王子さまが長い時間をかけて世話をし、大切にしてきた特別な存在です。
キツネ
地球で王子さまと出会う存在。時間をかけて相手を知り、一緒に過ごすことで、その相手が自分にとって特別な存在になっていくことを王子さまに伝えます。
教訓
- 大切なものは、見た目や目に見える価値だけでは決まらない。
- 時間をかけて相手と関わることで、その人や存在は自分にとって特別なものになっていく。
- 相手を思いやり、大切にする時間が、人とのつながりを育てていく。
- 離れてみることで、それまで気づかなかった相手への思いや大切さに気づくことがある。
親子で話したいポイント
- 王子さまにとって、自分の星のバラが特別だったのはなぜかな?
- 王子さまとキツネは、どうやって少しずつ仲良くなったのかな?
- 仲良くなるためには、どんなことが大切だと思う?
- あなたにとって大切な人やものは何かな?
- 友だちや家族と一緒に過ごした時間で、うれしかったことはある?
保育士向け活用ポイント
子どもが「大切にしているもの」を絵や言葉で表現し、それぞれの思いや理由を聞き合う活動にもつなげられます。
人とのつながりや信頼関係について考える題材として活用できます。
王子さまとキツネが少しずつ距離を縮めていく場面から、友だちになることは急ぐものではなく、一緒に過ごしたり相手を知ったりする中で関係が育っていくことを子どもたちと考えられます。
王子さまにとって一輪のバラが特別な存在になった理由から、「大切なものはどうして大切になったのだろう?」と問いかけ、家族や友だち、身近な物への思いを言葉にする活動にもつなげられます。
保育においても、子どもとの信頼関係は一度の関わりで生まれるものではなく、毎日の積み重ねの中で育っていきます。
一人ひとりの気持ちやペースを尊重し、急がず丁寧に関係を築くことの大切さを考える題材として活用できます。


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