あらすじ
むかしむかし、山のふもとの小さな村に、心の優しい若者が住んでいました。
ある日、若者は山道で困っていたおじいさんを助けたお礼に、青く美しく輝く「るりの玉」をもらいます。
その玉には、人の願いをかなえる不思議な力がありました。しかし若者は、自分が豊かになるためではなく、困っている村の人々のためにその力を使います。
一方、その力を知った欲深い男は、自分のために玉を使おうとしますが――。
「本当の宝物とは何か」を教えてくれる昔話です。
本文
むかしむかし、山のふもとの小さな村に、一人の若者が住んでいました。
若者の暮らしは決して豊かではありませんでした。
毎日一生懸命に働いても、手に入るものはわずかです。
それでも若者は不平を言わず、困っている人を見かければ、いつも手を差し伸べる心の優しい人でした。
ある日のことです。
若者が用事を済ませるため、山道を歩いていました。
しばらく進んでいくと、道の向こうに一人のおじいさんがいるのが見えました。
おじいさんのそばには、大きな荷物が置かれています。
何度も持ち上げようとしていますが、あまりに重いのでしょう。
少し持ち上げては地面に下ろし、困った顔をしていました。
若者はすぐにおじいさんのもとへ駆け寄りました。
「大丈夫ですか?」
おじいさんは額の汗をぬぐいながら答えました。
「いやあ、この荷物を家まで運びたいのだが、思ったより重くてな。」
「それなら、私がお手伝いします。」
若者はそう言うと、重たい荷物を背負いました。
おじいさんの家は、山道をしばらく登った先にありました。
荷物はずっしりと重く、若者の額からも汗が流れます。
それでも若者は一度も文句を言わず、おじいさんと一緒に歩き続けました。
やがて、二人は小さな家にたどり着きました。
「ここです。助かったよ。」
若者は荷物を家の中まで運びました。
「これで大丈夫ですね。」
すると、おじいさんはうれしそうに笑いました。
「親切にしてくれてありがとう。」
「いえ、困ったときはお互いさまです。」
若者が帰ろうとすると、おじいさんが呼び止めました。
「待ちなさい。お礼に、これを受け取ってください。」
そう言って、おじいさんは懐から小さなものを取り出しました。
若者が手のひらを差し出すと、そこに置かれたのは一つの美しい玉でした。
深い青色をしたその玉は、空とも海とも違う、不思議な色をしています。
光にかざすと、玉の奥から淡い光がゆらゆらと輝いて見えました。
「きれいな玉ですね。」
若者が見つめていると、おじいさんは静かに言いました。
「これは『るりの玉』というものです。」
「るりの玉……?」
「この玉には、不思議な力があります。」
若者は驚いて、おじいさんを見ました。
おじいさんは続けました。
「ただし、覚えておきなさい。」
「この玉を、自分の欲のために使ってはいけません。」
若者はその言葉をしっかりと胸に刻みました。
「わかりました。大切にします。」
若者はおじいさんに何度もお礼を言い、るりの玉を大事に包んで家へ持ち帰りました。
ところが、村へ戻ってみると、何やらいつもと様子が違います。
村人たちが田んぼのまわりに集まり、心配そうな顔をしていました。
「どうしたんですか?」
若者が尋ねると、一人の村人が答えました。
「雨が降らないんだ。」
もう何日も、まとまった雨が降っていませんでした。
田んぼの土は乾いてひび割れ、作物の葉もしおれています。
川の水も少なくなり、このまま雨が降らなければ、せっかく育ててきた作物が枯れてしまいます。
「今年の収穫は、だめかもしれない。」
「食べるものがなくなったら、どうすればいいんだ……。」
村人たちは途方に暮れていました。
若者も乾いた田んぼを見つめました。
そのとき、ふと、おじいさんからもらったるりの玉を思い出しました。
「もしかしたら……。」
若者は家へ戻り、るりの玉を持ってきました。
手のひらにのせた玉は、変わらず美しい青色に輝いています。
若者は両手で玉を包み、静かに願いました。
「どうか、村のみんなが困らないようにしてください。」
「田んぼに、もう一度水を戻してください。」
すると――。
るりの玉が、ふわりと青く光りました。
若者が空を見上げると、それまで晴れていた空に、一つ、また一つと雲が集まってきます。
やがて空いっぱいに雲が広がりました。
ぽつり。
若者の頬に、一粒の雨が落ちました。
ぽつり、ぽつり。
雨粒は少しずつ増えていきます。
そして、乾ききった田んぼに、やさしい雨が降り始めました。
「雨だ!」
「雨が降ってきたぞ!」
村人たちが家から飛び出してきました。
雨は強すぎることも弱すぎることもなく、乾いた土をゆっくりと潤していきます。
ひび割れていた田んぼには水が戻り、しおれていた作物も少しずつ元気を取り戻しました。
村人たちは大喜びです。
「助かった!」
「これで作物が育つぞ!」
「ありがとう!」
みんなが若者のまわりに集まりました。
けれど、若者は首を振りました。
「私の力ではありません。このるりの玉のおかげです。」
やがて、るりの玉の話は村中に広まりました。
ところが、その話を聞いた一人の欲深い男がいました。
「願いをかなえる玉だって?」
男は考えました。
「そんな玉があれば、大金持ちになれるじゃないか。」
「大きな家も、たくさんの金も、何でも手に入れられるぞ。」
男の頭の中は、自分が欲しいものでいっぱいになりました。
そして、どうにかして若者からるりの玉を奪おうとしました。
ついに男は、るりの玉を手にします。
「これさえあれば、もう働かなくても暮らしていける。」
男は玉を握りしめ、大きな声で願いました。
「もっと金をくれ!」
しかし――。
何も起こりません。
るりの玉は、少しも光りませんでした。
「それなら、大きな屋敷をくれ!」
やはり、何も起こりません。
「宝物を山ほど出してくれ!」
男が何度願っても、るりの玉はただ静かにそこにあるだけでした。
「どうしてだ! 若者が使ったときは力を出したではないか!」
男は腹を立てました。
そこへ若者がやってきました。
若者は、光を失ったように見えるるりの玉と、怒っている男を見つめました。
そして、おじいさんから言われた言葉を思い出しました。
――この玉を、自分の欲のために使ってはいけません。
若者は男に言いました。
「この玉は、自分だけが幸せになるためのものではないんだと思います。」
男は黙って若者を見ました。
「誰かが困っているとき、その人を助けたいと思う気持ちがあるから、玉は力を貸してくれるんです。」
欲深い男は、手の中のるりの玉を見つめました。
いくら願っても、自分のためには一度も輝かなかった玉。
それなのに若者が村の人々のために願ったときには、美しい青い光を放ち、雨を降らせました。
男はしばらく何も言いませんでした。
やがて、恥ずかしそうにうつむきました。
「……私は、自分のことばかり考えていた。」
男はるりの玉を若者に返しました。
それから男は、少しずつ変わっていきました。
重い荷物を運んでいる人がいれば手伝い、畑仕事に困っている人がいれば一緒に働くようになりました。
若者も、るりの玉を自分が豊かになるために使うことはありませんでした。
誰かが本当に困ったときだけ、大切にその力を借りました。
そして村では、いつしかこんな言葉が語られるようになりました。
「どんなに美しい玉よりも、一番大切な宝物は、優しい心だ。」
おしまい。
登場人物
- 若者
貧しい暮らしの中でも困っている人を放っておけない、心の優しい主人公。るりの玉の力を自分のためではなく、村の人々のために使います。 - おじいさん
山道で困っていたところを若者に助けてもらい、そのお礼として不思議な「るりの玉」を渡す人物。若者に、玉を自分の欲のために使わないよう伝えます。 - 欲深い男
るりの玉の力を知り、自分がお金持ちになるために使おうとする人物。玉が力を貸してくれなかったことで、自分の考え方を見つめ直します。
教訓
- 宝物の価値は、それを持っていることではなく、どのように使うかで決まる。
- 自分だけの幸せではなく、周りの人の幸せを考えることの大切さ。
- 親切な行いは、思いがけない形で自分や周りの人へ返ってくることがある。
- 本当に大切なものは、目に見える宝物ではなく、人を思いやる心である。
親子で話したいポイント
- 若者は、どうしてるりの玉を自分のために使わなかったのかな?
- 欲深い男が願っても、どうして玉は光らなかったのかな?
- 自分がるりの玉を持っていたら、どんなことをお願いする?
- お金や宝石以外にも「宝物」と呼べるものはあるかな?
- 誰かのために何かをして、うれしかったことはある?
保育士向け活用ポイント
- 思いやりについて考える題材に
若者がおじいさんを助ける場面や、村のために玉を使う場面から、「困っている人がいたらどうする?」と子どもたちと考えられます。 - 「もし不思議な玉を持っていたら?」という想像遊びに
「どんな願いをかなえたい?」と問いかけ、それぞれの願いを絵に描いたり発表したりする活動へ発展させられます。 - 若者と欲深い男を比べて考える
二人が同じるりの玉を持っても結果が違ったことから、「何が違ったのかな?」と話し合うことで、行動の背景にある気持ちについて考えられます。 - 4〜5歳児の対話活動に
「宝物って何だろう?」をテーマに、物だけではなく、家族や友だち、思い出、優しい気持ちなど、子どもたちなりの「大切なもの」を話し合う活動にもつなげられます。


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