かちかち山

昔話

あらすじ

むかしむかし、山のふもとに、おじいさんとおばあさんが仲良く暮らしていました。

二人は毎日畑を耕し、季節ごとに野菜を育てながら、穏やかな日々を送っていました。

ところが、山に住むいたずら好きのたぬきが畑へやって来ては、せっかく育てた野菜を荒らしてしまいます。

おじいさんに捕まったたぬきは、反省したように見せながらも、今度はおばあさんをだましてひどいいたずらをしました。

そのことを知った山のうさぎは、悲しむおじいさんのために立ち上がります。

うさぎは知恵を使い、たぬきに自分のしたことを振り返らせようとします。

「かちかち」という不思議な音から始まる、知恵と反省を描いた昔話です。

本文

むかしむかし、山のふもとの小さな家に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

二人は決して裕福ではありませんでしたが、毎日力を合わせて、仲良く暮らしていました。

朝になると、おじいさんは畑へ出かけます。

おばあさんも家の仕事を終えると、畑を手伝いました。

春には種をまき、

夏には草を取り、

秋になると、大きく育った野菜を収穫します。

「今年もたくさん実ってくれるといいね。」

おじいさんが言うと、

「毎日大切に育てているもの。きっと立派に育ちますよ。」

と、おばあさんは笑いました。

二人にとって畑は、毎日の暮らしを支えてくれる大切な場所でした。

ところが――。

その畑には、一つ困ったことがありました。

近くの山に、一匹のたぬきが住んでいたのです。

このたぬきは、いたずらが大好きでした。

夜になると山から下りてきて、おじいさんの畑へ忍び込みます。

がさがさ。

ぼりぼり。

せっかく育った野菜をかじったり、畑を踏み荒らしたりしてしまいます。

朝になって畑へ来たおじいさんは、荒らされた野菜を見てため息をつきました。

「また、たぬきか……。」

土の上には、小さな足跡が残っています。

「一生懸命育てた野菜なのになあ。」

次の日も。

その次の日も。

たぬきは畑へやって来ました。

おじいさんはとうとう決心しました。

「このままでは、畑が全部だめになってしまう。」

そこで、たぬきを捕まえるためにわなを仕掛けました。

そしてある日の夕方――。

がさっ。

がたん!

「わっ!」

畑の方から音がしました。

おじいさんが急いで見に行くと、たぬきがわなにかかっていました。

「やっぱりお前だったのか。」

たぬきは慌てました。

「ご、ごめんなさい!」

おじいさんはたぬきを見つめました。

「せっかく育てた野菜を、何度も荒らしてはいけないよ。」

たぬきはしょんぼりとうつむきました。

「もうしません。」

いかにも反省しているように見えます。

けれど――。

たぬきは心の中では、まったく反省していませんでした。

――よくも捕まえてくれたな。

――今度はこっちが困らせてやる。

そんなことを考えていたのです。

しばらくすると、たぬきはおばあさんをうまく言いくるめました。

「もう悪いことはしません。」

「本当に反省しています。」

たぬきは悲しそうな顔をしてみせます。

優しいおばあさんは、それを信じてしまいました。

ところが、自由になったたぬきは態度を変えました。

おばあさんをだまし、ひどいいたずらをして、そのまま山へ逃げてしまったのです。

やがて家へ戻ってきたおじいさんは、そのことを知りました。

「なんてことを……。」

おじいさんは肩を落としました。

自分たちはただ、畑を大切にしながら静かに暮らしていただけです。

それなのに、たぬきは何度も畑を荒らし、おばあさんまで困らせました。

おじいさんはとても悲しみました。

その話を聞いた者がいました。

山に住む、うさぎです。

うさぎは以前から、おじいさんとおばあさんが一生懸命に暮らしていることを知っていました。

そして、たぬきが畑を荒らしていたことも知っていました。

「それはひどい。」

うさぎは耳をぴんと立てました。

「悪いことをして、そのまま知らん顔をしているなんて。」

うさぎは、おじいさんのところへ行きました。

「おじいさん。」

「私に任せてください。」

おじいさんは驚きました。

「うさぎさん、どうするつもりだい?」

「たぬきに、自分のしたことをきちんと考えてもらいます。」

うさぎはそう言うと、山へ向かいました。

数日後。

うさぎは、何も知らないふりをして、たぬきに声をかけました。

「たぬきさん。」

「一緒に山へ薪を取りに行かない?」

たぬきは首をかしげました。

「薪を?」

「そう。たくさん集めれば、冬の間も困らないでしょう。」

たぬきは、うさぎが自分のしたことを知っているとは思っていません。

「いいよ。」

二匹は山へ入りました。

木々の間を歩きながら、落ちた枝や枯れ木を集めていきます。

やがて、大きな薪の束ができました。

「ずいぶん集まったね。」

うさぎは言いました。

「たぬきさん、これを背負ってくれる?」

「任せておけ。」

たぬきは薪を背中に背負いました。

ずっしりと重たい薪です。

二匹は山道を歩き始めました。

ざっ。

ざっ。

枯れ葉を踏む音だけが、静かな山に響きます。

しばらくすると――。

かち。

かち。

たぬきの背中の辺りから、小さな音が聞こえてきました。

「ん?」

たぬきが耳を動かします。

かち。

かちかち。

「うさぎさん。」

「何か音がしないかい?」

うさぎは何でもないような顔で答えました。

「音?」

「かちかちって聞こえるんだけど。」

うさぎは空を見上げました。

「ここは、かちかち山だからね。」

「山が鳴っているんじゃない?」

「そうなのか。」

たぬきは不思議そうにしながら、また歩き始めました。

すると――。

かちかち。

かちかち。

音は少しずつ大きくなっていきます。

たぬきには見えませんでしたが、背負っている薪の後ろでは、小さな火がつき始めていました。

ぱちっ。

ぱちぱち。

やがて、火は薪へ燃え移りました。

「ん?」

たぬきは鼻をひくひくさせました。

「なんだか焦げくさいな。」

次の瞬間。

ぱちぱちぱちっ!

背中の薪から火が上がりました。

「あつっ!」

たぬきは飛び上がりました。

「熱い! 熱い!」

慌てて薪を地面へ落とします。

うさぎはすぐに火を消しました。

たぬきは驚いて、地面に座り込みました。

「びっくりした……。」

うさぎはたぬきを見ました。

そして静かに言いました。

「たぬきさん。」

「な、なんだい?」

「痛かった?」

「当たり前だよ。」

「怖かった?」

たぬきはうなずきました。

すると、うさぎは言いました。

「おじいさんやおばあさんも、同じだったんじゃないかな。」

たぬきは黙りました。

「畑を荒らされた時、おじいさんはどんな気持ちだったと思う?」

「おばあさんをだました時、おばあさんはどんな気持ちだったと思う?」

風が、

さあっ。

と山の中を通り抜けました。

たぬきは何も答えません。

さっきまでの驚きが少しずつおさまると、今度は自分がしてきたことが頭に浮かんできました。

おじいさんが一生懸命育てていた畑。

荒らされた野菜。

困っているおばあさん。

そして、自分はその様子を見ても、何とも思っていませんでした。

「……ぼくは。」

たぬきが小さな声で言いました。

「自分が面白ければ、それでいいと思っていた。」

うさぎは何も言わずに聞いています。

「おじいさんたちがどんな気持ちになるか、考えていなかった。」

たぬきはうつむきました。

「ぼくは、間違っていた。」

その顔には、もういつものいたずらっぽい笑いはありませんでした。

しばらくして、たぬきは立ち上がりました。

「うさぎさん。」

「ぼく、おじいさんのところへ行くよ。」

「何をしに?」

「謝りに行く。」

二匹は山を下りました。

おじいさんの家へ着くと、たぬきは深く頭を下げました。

「おじいさん。」

「今まで、本当にごめんなさい。」

おじいさんは黙ってたぬきを見ました。

「畑を荒らしたことも、おばあさんを困らせたことも、全部ぼくが悪かったです。」

「もう、人を困らせるようなことはしません。」

おじいさんは、しばらく何も言いませんでした。

たぬきが本当に反省しているのか、その顔をじっと見ていました。

やがて、ゆっくりと言いました。

「したことを、なかったことにはできない。」

たぬきはうつむきました。

「でも、本当に自分が悪かったと思っているなら、これからの行動で示していくことはできる。」

たぬきは顔を上げました。

「はい。」

それから、たぬきは少しずつ変わっていきました。

畑を荒らすことは、もうありません。

それどころか、おじいさんの畑へ来て、

「何か手伝うことはある?」

と尋ねるようになりました。

最初は慣れない畑仕事でした。

土を耕し、

草を抜き、

水を運びます。

「畑仕事って、こんなに大変だったんだ。」

たぬきは汗をぬぐいました。

「毎日少しずつ世話をして、やっと野菜が育つんだね。」

おじいさんはうなずきました。

「そうだよ。」

秋になると、畑には立派な野菜が実りました。

たぬきは、自分も手伝って育てた野菜を見てうれしそうに笑いました。

うさぎも山からやって来ました。

「立派に育ったね。」

「うん。」

たぬきは照れくさそうに答えました。

山の向こうへ夕日が沈んでいきます。

おじいさんと、うさぎと、たぬきは、実った畑を並んで眺めていました。

遠くの山では、薪のはぜるような音が、

かち。

かち。

と聞こえたような気がしました。

たぬきはその音を聞くたびに、あの日のことを思い出し、自分の行いを忘れないようにしたそうです。

おしまい。

登場人物

  • おじいさん
    おばあさんとともに畑を大切にしながら暮らしている、優しい人物。たぬきに何度も困らされますが、本当に反省したたぬきにはやり直す道を示します。
  • おばあさん
    おじいさんと仲良く暮らす心優しい人物。反省したふりをしたたぬきを信じたことで、だまされてしまいます。
  • たぬき
    いたずら好きで、自分の楽しさばかりを考えてしまう動物。うさぎとの出来事を通して、自分が相手をどれほど困らせていたのかに気づきます。
  • うさぎ
    おじいさんたちを思い、たぬきに自分のしたことを考えさせようとする知恵のある存在です。

教訓

  • 自分が面白いと思っていても、相手を傷つけたり困らせたりする行動はしてはいけない。
  • 悪いことをしてしまった時には、自分の行動を振り返り、素直に謝ることが大切。
  • 反省するだけではなく、その後の行動を変えることで、少しずつ信頼を取り戻していくことができる。

親子で話したいポイント

  • たぬきは、どうして畑を荒らしたり人を困らせたりしていたのかな?
  • 自分がたぬきと同じことをされたら、どんな気持ちになると思う?
  • うさぎは、どうしてたぬきに自分のしたことを考えてほしかったのかな?
  • 悪いことをしてしまった時、「ごめんなさい」のあとには何ができるだろう?
  • たぬきが変わったと分かるのは、どんなところかな?

保育士向け活用ポイント

  • 「自分は楽しくても、相手はどう感じるか」という視点から、いたずらや友だちとのトラブルについて考える教材として活用できます。
  • たぬきが最初は反省したふりをし、後に本当に自分の行いを振り返る展開から、「謝ること」と「本当に反省すること」の違いを考えるきっかけになります。
  • 年長児では、「悪いことをした人にはどう関わればよいか」「やり直すとはどういうことか」といったテーマで対話を深められます。
  • 「かちかち」という音や薪を背負って山を歩く場面など、動きや音を表現しやすく、劇遊びや発表会の題材としても活用できます。

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