あらすじ
むかしむかし、山の近くの村に、羊の番をして暮らす一人の少年がいました。
少年は毎日、羊たちを連れて草原へ出かけ、夕方まで群れを見守っていました。
けれど、毎日同じ仕事の繰り返しです。
退屈した少年は、ある日、村人たちを驚かせようと思いつきます。
「大変だ! オオカミが来たぞ!」
少年の声を聞いた村人たちは、羊を助けるために大急ぎで駆けつけました。
ところが、オオカミはどこにもいません。
少年はそれがおもしろくなり、また同じうそをついてしまいます。
そして、本当にオオカミが現れたとき――。
少年がどれほど叫んでも、村人たちはもう信じてくれませんでした。
「うそを繰り返すと信頼を失ってしまうこと」「信頼は毎日の行動の積み重ねによって生まれること」を伝えるイソップ童話の名作です。
本文
むかしむかし、山の近くの小さな村に、一人の少年が住んでいました。
少年には、大切な仕事がありました。
それは、村の羊たちを草原へ連れていき、一日中見守ることです。
朝になると、少年は羊たちと一緒に村を出ました。
「さあ、今日も行こう。」
メエー。
メエー。
羊たちは少年について、ゆっくりと草原へ向かいます。
草原に着くと、羊たちは思い思いに草を食べ始めました。
少年は少し離れたところに座り、羊たちを見守ります。
風が吹くと、
さわさわ、さわさわ。
草が揺れます。
空には白い雲がゆっくりと流れていました。
穏やかな一日です。
けれど、少年にとっては毎日同じことの繰り返しでした。
羊たちは黙々と草を食べています。
話し相手もいません。
「今日も何も起こらないなあ。」
少年は大きなあくびをしました。
「退屈だなあ。」
しばらく空を眺めていた少年は、ふと村のほうを見ました。
そして、いたずらを思いつきました。
「そうだ。」
「ちょっと村のみんなを驚かせてみよう。」
少年は立ち上がると、大きく息を吸いました。
そして、村に向かって叫びました。
「大変だー!」
「オオカミが来たぞー!」
「羊が食べられちゃうよー!」
少年の声は草原を越え、村まで響きました。
その声を聞いた村人たちはびっくりしました。
「何だって?」
「オオカミが出たぞ!」
「急げ!」
村人たちは仕事の手を止め、棒や道具を持って草原へ走りました。
「少年、大丈夫か!」
「オオカミはどこだ!」
息を切らしながら、次々と村人たちが集まってきます。
けれど――。
草原には、のんびりと草を食べる羊たちがいるだけです。
オオカミの姿など、どこにもありません。
村人たちは辺りを見回しました。
「オオカミは?」
すると少年は、とうとう我慢できなくなりました。
「あははは!」
「うそだよ!」
「オオカミなんて来てないよ!」
村人たちは驚きました。
そして、困った顔で少年を見ました。
「そんなうそをついてはいけないよ。」
「みんな、本当に心配して来たんだから。」
「もう、こんないたずらはやめるんだよ。」
そう言って、村人たちは村へ帰っていきました。
少年は一人になると、くすくす笑いました。
みんなが慌てて走ってくる姿がおもしろかったのです。
それから数日がたちました。
その日も草原は静かでした。
羊たちはのんびり草を食べています。
少年はまた退屈になりました。
「今日も暇だなあ。」
そのとき、少年は先日のことを思い出しました。
「もう一回やったら、どうなるかな?」
少年はにやりと笑いました。
そして、また村へ向かって大声で叫びました。
「オオカミが来たー!」
「助けてー!」
「本当にオオカミだー!」
村人たちはその声を聞きました。
「またか?」
「でも、本当だったら大変だ。」
村人たちは迷いました。
それでも羊や少年に何かあってはいけないと思い、再び草原へ駆けつけました。
「オオカミはどこだ!」
「大丈夫か!」
ところが――。
やはりオオカミはいません。
羊たちは何事もなかったように草を食べています。
少年はまた笑いました。
「また引っかかった!」
村人たちの顔から笑顔が消えました。
「少年。」
「もう信じられないよ。」
「本当に困ったときに、誰も助けに来なくなってしまうぞ。」
村人たちは怒りながら帰っていきました。
少年は少しだけ反省しました。
「もうやめようかな……。」
けれど、そのときはまだ、村人たちの言葉がどれほど大切なのか分かっていませんでした。
そして、何日かたったある日のことです。
夕方になり、太陽が山の向こうへ沈み始めていました。
空は少しずつ赤く染まり、草原には長い影が伸びています。
羊たちも一日の終わりを迎え、静かに集まり始めていました。
少年は立ち上がりました。
「そろそろ村へ帰ろう。」
そのときです。
がさっ。
草むらの向こうで、何かが動きました。
少年は振り返りました。
「ん?」
風でしょうか。
少年はしばらく草むらを見つめました。
しん……。
何も聞こえません。
ところが――。
がさっ。
また音がしました。
今度はさっきより近くからです。
羊たちも何かに気づいたのでしょう。
メエ……。
一匹の羊が不安そうに鳴きました。
少年の胸が、どきんと鳴りました。
「なんだろう……。」
薄暗くなり始めた草むらの奥を、じっと見つめます。
すると、草の間から二つの目がこちらを見ていました。
少年は息をのみました。
ゆっくりと草むらから姿を現したのは――。
一匹のオオカミでした。
「オ、オオカミ……!」
今度はうそではありません。
本物のオオカミです。
オオカミは羊たちを見つめながら、じりじりと近づいてきます。
羊たちは驚きました。
メエー!
メエー!
群れが一斉に動き始めます。
少年の顔から血の気が引きました。
「大変だ!」
少年は村へ向かって、力いっぱい叫びました。
「助けてー!」
「オオカミが来たー!」
「今度は本当なんだ!」
「誰か来てー!」
少年の声は草原に響きました。
村にも届きました。
村人たちは、その声を聞きました。
けれど――。
「またあの子のうそだろう。」
「この前もだまされたからな。」
「もう放っておこう。」
誰も草原へ向かおうとはしませんでした。
少年は何度も叫びました。
「本当なんだ!」
「お願い!」
「助けて!」
けれど、誰も来ません。
そのとき少年は、ようやく気づきました。
「みんな、ぼくのことを信じてくれないんだ……。」
自分が何度もうそをついたからです。
本当のことを言っているのに、もう誰にも信じてもらえません。
けれど、怖がっているだけでは羊たちを守れません。
少年は震える手で棒を握りました。
「ぼくが守らなきゃ。」
少年は勇気を出して、棒を地面へ強く打ちつけました。
バン!
「こっちへ来るな!」
さらに大きな音を立てました。
「行け!」
棒を振りながら、必死にオオカミを追い払おうとします。
オオカミはしばらく少年と羊たちを見ていました。
少年は怖くてたまりませんでした。
それでも逃げませんでした。
バン!
バン!
何度も大きな音を立てます。
やがてオオカミは後ずさりしました。
そして、くるりと向きを変えると、草むらを抜けて森の奥へ走り去っていきました。
少年は、その姿が見えなくなるまでじっと見ていました。
「行った……。」
力が抜け、少年はその場に座り込みました。
しばらくして、村人たちが様子を見にやってきました。
草原に残された足跡を見て、村人たちは驚きました。
「本当にオオカミが来たのか……。」
少年は涙を流しながら言いました。
「本当に来たんだ。」
「何度も叫んだのに、誰も来てくれなかった。」
そして、うつむきました。
「でも、ぼくが今までうそをついていたからだ。」
「みんな、ごめんなさい。」
村人たちは静かに少年の話を聞きました。
そして言いました。
「信頼は、一日でできるものではない。」
「でも、これからの行動で少しずつ取り戻すことはできるよ。」
少年はしっかりとうなずきました。
それから少年は、もう村人たちを困らせるようなうそをつきませんでした。
毎日まじめに羊の世話をし、本当に何かあったときには正直に伝えるようになりました。
一日。
また一日。
少年は自分にできることを続けました。
すると村人たちも、少しずつ少年の言葉を信じるようになりました。
少年は、失った信頼を取り戻すには時間がかかること、そして信頼は毎日の小さな行動の積み重ねによって生まれることを知ったのでした。
おしまい。
登場人物
オオカミ少年
羊の番をして暮らす少年です。退屈しのぎに「オオカミが来た」と何度もうそをつき、村人たちからの信頼を失ってしまいます。本当にオオカミが現れた出来事をきっかけに自分の行動を反省し、少しずつ信頼を取り戻していきます。
村人たち
少年の声を聞き、最初は羊や少年を助けるために何度も駆けつけます。しかし、うそを繰り返されたことで少年の言葉を信じられなくなってしまいます。
オオカミ
夕方の草原に現れ、羊たちを狙う動物です。少年が大きな音を立て、棒を振って追い払おうとすると森の奥へ逃げていきます。
教訓
- うそを繰り返すと、本当のことを言ったときにも信じてもらえなくなることがある。
- 信頼は、毎日の小さな行動の積み重ねによって築かれる。
- 一度失った信頼を取り戻すには時間がかかる。
- 間違えてしまっても、その後の行動を変え、誠実な行動を続けることが大切。
親子で話したいポイント
- 少年は、どうして「オオカミが来た」とうそをついたのかな?
- 村人たちは、どうして本当にオオカミが来たときに助けに来なかったのかな?
- 本当のことを言っているのに信じてもらえなかったとき、少年はどんな気持ちだったと思う?
- 「信頼する」「信頼される」って、どんなことだと思う?
- もし自分が少年だったら、これからどんな行動をするかな?
保育士向け活用ポイント
保育者自身にとっても、子どもとの約束を守ることや、子どもの言葉を丁寧に受け止めることなど、日々の小さな関わりが信頼関係につながっていることを振り返るきっかけになります。
「うそはいけない」と教えるだけではなく、「なぜ正直に伝えることが大切なのか」「信頼はどのように生まれるのか」を子どもたちと考える題材として活用できます。
少年が退屈からいたずらを始める姿に注目することで、行動だけを責めるのではなく、「どうしてそんなことをしたのかな?」と背景にある気持ちを考えることにもつながります。
子どもがうそや間違ったことを言ったときにも、一度の失敗だけで「うそをつく子」と決めつけず、その後にどう行動するかを一緒に考える視点が大切です。
「失った信頼も、正しい行動を続けることで少しずつ取り戻せる」という展開から、失敗したあとにやり直せることを伝える教材としても活用できます。
クラスの約束やルールづくり、友だちとの信頼関係について考える導入にも向いています。


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