あらすじ
むかしむかし、森の中の小さな家に、お母さんやぎと七匹の子やぎが仲良く暮らしていました。
ある日、お母さんやぎが町へ買い物に出かけることになり、子やぎたちに言いました。
「知らない人には、絶対に戸を開けてはいけませんよ。」
子やぎたちはしっかり約束をして、お留守番を始めます。
ところが、その様子をどこかで見ていたお腹をすかせたおおかみが、子やぎたちをだまそうと家へやってきました。
声を変え、足の色まで変えて、何度も戸を開けさせようとするおおかみ。
子やぎたちはお母さんとの約束を守ろうとしますが――。
本文
むかしむかし、深い森の中に、小さなかわいらしい家がありました。
その家には、お母さんやぎと七匹の子やぎが暮らしていました。
七匹の子やぎは、みんな元気いっぱいです。
朝になると家の前を走り回り、草の上をぴょんぴょん跳ねたり、森で見つけた木の実を集めたりして遊んでいました。
ときには兄弟げんかをすることもありましたが、すぐに仲直り。
夜になれば、お母さんやぎのそばに集まって眠りました。
ある朝のことです。
お母さんやぎは空になりかけた食べ物の棚を見て言いました。
「今日は町へ買い物に行ってきます。」
子やぎたちは、
「ぼくも行きたい!」
「わたしも!」
と集まってきました。
けれど、お母さんやぎは首を横に振りました。
「今日は荷物がたくさんあるから、みんなはお留守番をしていてね。」
「はーい!」
子やぎたちは元気よく返事をしました。
すると、お母さんやぎは少し真剣な顔になりました。
「でも、その前に大切なお話があります。」
子やぎたちはお母さんの周りに集まりました。
「森には、おおかみがいます。」
子やぎたちの顔から笑顔が消えました。
「おおかみ……?」
「そう。」
「おおかみは、とてもずる賢いのです。」
「お母さんのふりをして、みんなをだますかもしれません。」
一匹の子やぎが尋ねました。
「どうやって、おおかみだってわかるの?」
お母さんやぎは答えました。
「おおかみの声は低くて、がらがらしています。」
「それに、おおかみの足は黒いのです。」
お母さんやぎは自分の白い足を見せました。
「お母さんの声と、この白い足をよく覚えておいてね。」
「どんなことを言われても、よく確かめるまでは戸を開けてはいけません。」
七匹は大きくうなずきました。
「わかった!」
「絶対に開けない!」
「ちゃんと確かめる!」
お母さんやぎは安心したように笑いました。
「それでは、行ってきます。」
「行ってらっしゃーい!」
子やぎたちは、お母さんが森の道の向こうへ見えなくなるまで手を振っていました。
やがて、お母さんの姿が木々の向こうへ消えました。
七匹は家へ戻りました。
最初のうちは、お絵描きをしたり、おもちゃで遊んだりしていました。
ところが――。
しばらくすると、森が妙に静かになりました。
さっきまで聞こえていた鳥の声が、いつの間にか聞こえなくなっています。
窓の外では、風が木の枝を揺らしていました。
ざわ……。
ざわざわ……。
「なんだか静かだね。」
一匹の子やぎが窓の外を見ました。
けれど、そこには木々が並んでいるだけです。
そのとき――。
コン。
子やぎたちは振り返りました。
コン、コン。
誰かが戸を叩いています。
「誰だろう?」
みんなで顔を見合わせました。
すると、戸の向こうから声がしました。
「子やぎたち……。」
低く、がらがらとした声です。
「戸を開けておくれ。」
「お母さんが帰ったよ。」
子やぎたちは、はっとしました。
「違う!」
一匹が叫びました。
「お母さんの声じゃない!」
「お母さんは、もっと優しい声だよ!」
戸の向こうが、しんと静かになりました。
少しして、
「……そうか。」
低い声が聞こえました。
そして――。
ざっ。
ざっ。
何者かが家の前から離れていく足音がしました。
子やぎたちはほっとしました。
「やっぱり、おおかみだったんだ。」
「お母さんの言ったとおりだね。」
けれど――。
おおかみは諦めていませんでした。
森の木の陰へ隠れると、悔しそうに家をにらみました。
「声で気づかれたか。」
おおかみは考えました。
「ならば、優しい声になればいい。」
おおかみは町へ行き、声がなめらかになるものを手に入れました。
それを飲み、何度も声を出してみます。
「あー、あー。」
さっきより、ずっと柔らかな声になりました。
「これなら気づくまい。」
おおかみは再び子やぎたちの家へ向かいました。
家の中では、七匹が遊びを再開していました。
すると――。
コン、コン。
また戸を叩く音がしました。
子やぎたちは動きを止めました。
「また来た……。」
戸の向こうから、今度は優しい声が聞こえます。
「子どもたち。」
「お母さんですよ。」
「町から帰ってきました。」
子やぎたちは顔を見合わせました。
「今度はお母さんの声みたい。」
一匹が戸へ近づきました。
「待って。」
別の子やぎが止めました。
「お母さんは、声だけじゃなくて足も見るように言ってたよ。」
「そうだった!」
子やぎたちは戸の下の隙間から、そっと外をのぞきました。
そこに見えたのは――。
真っ黒な足。
「おおかみだ!」
子やぎたちは叫びました。
「お母さんの足は白いもん!」
「帰って!」
戸の向こうで、おおかみは自分の足を見ました。
「しまった……。」
おおかみは再び森へ逃げていきました。
子やぎたちは大喜びです。
「やった!」
「今度もだまされなかった!」
けれど、おおかみはますます悔しくなりました。
「声も変えた。」
「それなのに今度は足か。」
おおかみは自分の黒い足をじっと見つめました。
やがて、にやりと笑いました。
「それなら、足も白くすればいい。」
おおかみは白い粉を手に入れると、足にたっぷり塗りました。
黒かった足は、すっかり白くなりました。
「これならどうだ。」
おおかみは三度、家へ向かいました。
そのころ、森には少しずつ雲が広がっていました。
木々の間を冷たい風が吹き抜けます。
ひゅうう……。
子やぎたちは家の中で、お母さんが帰ってくるのを待っていました。
「まだかな。」
「そろそろ帰ってくるんじゃない?」
そのときです。
コン。
コン。
コン。
三度目の音が響きました。
七匹は、ぴたりと動きを止めました。
「また……?」
戸の向こうから声がしました。
「みんな、ただいま。」
優しい声でした。
「お母さんですよ。」
子やぎたちは耳を澄ませました。
「声は……お母さんみたい。」
「でも、足も見なくちゃ。」
子やぎたちは戸の下から外をのぞきました。
そこには――。
真っ白な足が見えました。
「白い!」
「お母さんだ!」
「やっと帰ってきた!」
子やぎたちは大喜びです。
一匹が戸のかんぬきへ手を伸ばしました。
そのとき、一番小さな子やぎが少しだけ不安そうに言いました。
「本当に……お母さんかな?」
けれど、ほかの子やぎたちは笑いました。
「声も同じだよ。」
「足も白いよ。」
「大丈夫!」
かちゃり。
かんぬきが外れました。
ぎい……。
戸がゆっくり開きます。
その向こうに立っていたのは――。
お母さんやぎではありませんでした。
大きな口。
鋭い牙。
ぎらりと光る目。
「やっと開けたな。」
おおかみです。
「きゃあああ!」
子やぎたちは一斉に逃げました。
「おおかみだ!」
「隠れて!」
家の中は大騒ぎになりました。
一匹は机の下へ。
一匹はベッドの中へ。
一匹は戸棚へ。
一匹はかまどのそばへ。
一匹はカーテンの陰へ。
一匹は大きな箱の中へ。
そして一番小さな子やぎは、大きな時計の中へ飛び込みました。
どくん。
どくん。
小さな子やぎは、胸の音が聞こえてしまうのではないかと思うほど緊張していました。
時計の外から、おおかみの足音が聞こえます。
どし。
どし。
「どこだ……。」
ぎしっ。
床板が鳴ります。
子やぎは両手で口を押さえました。
「見つかりませんように……。」
おおかみは家の中を探し回りました。
やがて――。
家の中は、しんと静まり返りました。
一番小さな子やぎは、それでも時計の中から出ませんでした。
どれくらい時間がたったでしょう。
窓の外が少しずつ夕暮れの色に変わっていきました。
そのころ、お母さんやぎが買い物かごを持って森の道を帰ってきました。
「みんな、ちゃんとお留守番できたかしら。」
家が見えてきました。
けれど――。
お母さんやぎは足を止めました。
戸が開いています。
「どうして……?」
胸騒ぎがしました。
お母さんやぎは走りました。
「みんな!」
家へ飛び込みます。
部屋の中はめちゃくちゃでした。
椅子は倒れ、
毛布は床へ落ち、
戸棚の扉も開いています。
「子どもたち!」
返事がありません。
「どこにいるの?」
静かです。
お母さんやぎの顔が青ざめました。
そのとき。
「……お母さん。」
かすかな声がしました。
「え?」
「お母さん……。」
大きな時計の中からです。
お母さんやぎが扉を開けると、一番小さな子やぎが飛び出してきました。
「お母さーん!」
子やぎは泣きながら、お母さんへ抱きつきました。
「よかった……!」
お母さんやぎはぎゅっと抱きしめました。
「何があったの?」
子やぎは泣きながら話しました。
おおかみが来たこと。
最初は低い声だったこと。
次は優しい声に変えてきたこと。
黒い足を白くして、とうとうみんなをだましたこと。
そして、兄弟たちが見つかってしまったこと。
お母さんやぎは静かに聞いていました。
「そうだったのね。」
子やぎは震えながら言いました。
「みんなを助けたい……。」
「もちろんよ。」
お母さんやぎは立ち上がりました。
「一緒に探しましょう。」
二匹は森へ入りました。
夕暮れの森は、昼間とはまるで違って見えました。
木々の間には長い影が伸びています。
風が枝を揺らすたび、
ざわ。
ざわざわ。
暗い森のどこかから物音が聞こえるたびに、小さな子やぎはお母さんへぴったり寄り添いました。
しばらく歩くと、森の広場から大きな音が聞こえてきました。
ぐうう……。
ぐうう……。
「何の音?」
お母さんやぎは木の陰から、そっと広場をのぞきました。
そこには――。
おおかみがいました。
大きなお腹を抱え、木の下でぐっすり眠っています。
ぐうう……。
ぐうう……。
お母さんやぎは、おおかみのお腹を見つめました。
すると――。
ぴくっ。
何かが動いたように見えました。
「もしかして……。」
お母さんやぎはそっと近づきました。
お腹へ耳を当てます。
すると中から、ごく小さな声がしました。
「……お母さん?」
「!」
お母さんやぎの目が大きく開きました。
「生きている!」
おおかみは子やぎたちを丸飲みにしていたため、みんな無事だったのです。
お母さんやぎは急いで子やぎたちを助け出しました。
一匹。
二匹。
三匹。
四匹。
五匹。
六匹。
「お母さん!」
子やぎたちは次々と、お母さんやぎへ抱きつきました。
「怖かったよ!」
「もう会えないかと思った!」
お母さんやぎは六匹を強く抱きしめました。
時計に隠れていた一匹も駆け寄ります。
七匹は、ようやく全員そろいました。
「みんな無事でよかった……。」
その後、おおかみが目を覚ますと、驚いて森の奥へ逃げていきました。
それから二度と、子やぎたちの家へ近づくことはありませんでした。
七匹の子やぎは家へ帰りました。
その夜。
子やぎたちはお母さんのそばへ集まりました。
一匹が言いました。
「ごめんなさい。」
「お母さんとの約束を守れなかった。」
別の子やぎも言いました。
「声と足を確かめたから、大丈夫だと思ったんだ。」
お母さんやぎは、子やぎたちを責めませんでした。
一匹ずつ顔を見ながら言いました。
「怖かったわね。」
七匹はうなずきました。
「約束には、ちゃんと理由があるの。」
「みんなを困らせるためではなく、みんなの命を守るためにあるのよ。」
一番小さな子やぎが尋ねました。
「じゃあ、次からどうしたらいい?」
お母さんやぎは答えました。
「少しでもおかしいと思ったら、戸を開けないこと。」
「声や見た目だけで決めずに、わからないときは安全な方を選ぶこと。」
七匹はしっかりとうなずきました。
「わかった。」
「今度は忘れない。」
その夜、七匹の子やぎはお母さんのそばで眠りました。
窓の外では、森の木々が風に揺れています。
ざわ……。
ざわざわ……。
けれど、もう子やぎたちは怖くありませんでした。
大好きなお母さんと七匹の兄弟が、みんな一緒だったからです。
次の日の朝。
森には明るい日差しが戻っていました。
七匹の子やぎは家の前へ飛び出し、いつものように元気いっぱい走り回りました。
お母さんやぎは、その姿を笑顔で見守っていました。
おしまい。
登場人物
お母さんやぎ
七匹の子やぎを大切に育てる、優しく頼もしいお母さん。外出する前に、おおかみにだまされないよう子どもたちへ約束を伝えます。子どもたちが危険な目に遭ったあとも責めるのではなく、全員を助け、安全を守るための約束の意味を伝えます。
七匹の子やぎ
元気いっぱいの七匹の兄弟。最初の二回は声や足を確かめておおかみを見破りますが、おおかみが両方を変えたことでだまされてしまいます。怖い経験を通して、約束や安全を確認することの大切さを学びます。
おおかみ
子やぎたちを狙う、ずる賢いおおかみ。最初は声で見破られ、次は黒い足で見破られますが、声と足の両方を変えて子やぎたちをだまします。
教訓
- 約束には理由があり、安全に関する約束を守ることは自分の身を守ることにつながる。
- 相手の言葉や見た目だけで判断せず、少しでも違和感があれば立ち止まって考えることが大切。
- 一度確かめただけで安心せず、わからないときには安全な方を選ぶことも自分を守る方法の一つ。
- 困ったときや怖いことがあったときは、一人で抱え込まず信頼できる大人へ伝えることが大切。
- 家族や仲間が互いを思いやり、助け合うことは大きな安心につながる。
親子で話したいポイント
- お母さんやぎは、どうして「知らない人には戸を開けないで」と言ったのかな?
- 子やぎたちは最初のおおかみを、どうやって見破った?
- おおかみは、どんな方法で子やぎたちをだましたのかな?
- 子やぎたちは、どうして最後には戸を開けてしまったのだろう?
- 「何かおかしいな」と思ったときは、どうしたらいいかな?
- おうちには、自分を守るためのどんな約束がある?
- 怖いことや困ったことがあったら、誰に話したらいいかな?
保育士向け活用ポイント
- 防犯・安全教育の導入に
「知らない人にはついていかない」「大人がいないときに勝手に戸を開けない」など、子どもの発達に合わせた安全教育へつなげやすい物語です。 - 「約束の理由」を考える
単に「約束だから守る」のではなく、「なぜその約束があるのか」を子どもたちと考えることで、安全に対する理解を深めることができます。 - 違和感に気づく力を育てる
声や足を変えて近づくおおかみの姿から、「いつもと違う」「何か変だ」と感じたときに立ち止まることの大切さを伝えられます。 - 困ったときに助けを求める経験につなげる
一番小さな子やぎがお母さんへ出来事を伝える場面から、「怖いことがあったら誰に話す?」と、信頼できる大人へ助けを求めることについて話し合えます。 - 劇遊びや表現活動に
七匹の子やぎがそれぞれ違う場所へ隠れる場面や、おおかみが声や姿を変えて訪ねてくる場面など、子どもが役になりきって楽しめる場面が豊富です。七匹の役があるため、複数の子どもが参加しやすい題材としても活用できます。


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