金太郎(きんたろう)

昔話

あらすじ

むかしむかし、足柄山という緑豊かな山に、金太郎という元気な男の子が住んでいました。

金太郎は、小さいころからとても力持ちで、大きな石を持ち上げたり、太い木の枝を運んだりすることができました。

けれど、金太郎のすごいところは力だけではありません。

熊や猿、鹿やうさぎなど、山の動物たちを大切にし、いつも仲良く遊んでいたのです。

ある日、動物たちと力比べをした金太郎は、自分の力を誇るのではなく、みんなで力を合わせることの大切さを伝えます。

やがて、力持ちで心優しい金太郎の噂は山の外まで広がり、一人の武士の目に留まることになります。

本文

むかしむかし。

足柄山という、木々が生い茂る大きな山に、一人の男の子が住んでいました。

その男の子の名前は――

金太郎。

金太郎は、小さいころからとても元気でした。

朝になると、誰よりも早く外へ飛び出します。

「今日も山へ行ってくるよ!」

山道を駆け上がり、川を飛び越え、森の中をどんどん進んでいきました。

金太郎の体は丈夫で、力も人一倍強いものでした。

普通の子どもではびくともしないような大きな石も、

「よいしょ!」

と持ち上げてしまいます。

太い木の枝だって、

「これくらいなら大丈夫!」

と肩に担いで運びました。

けれど、金太郎がすごかったのは、力が強いことだけではありません。

とても優しい心を持っていました。

山で暮らす動物たちは、みんな金太郎の友だちでした。

熊。

猿。

鹿。

うさぎ。

森の中で金太郎の姿を見つけると、動物たちはうれしそうに集まってきます。

「金太郎!」

「今日も遊ぼう!」

金太郎も笑顔で答えました。

「いいよ。今日は何をして遊ぼうか?」

ある日は川で水遊びをしました。

またある日は山道を走りました。

木の実を探したり、かくれんぼをしたりすることもありました。

小さなうさぎが高いところにある木の実を取れずに困っていると、

「待っててね」

金太郎が木の枝を引き寄せて、取ってあげます。

猿が川の向こうへ渡れずに困っていると、

「一緒に行こう」

金太郎がそばについて渡ってあげました。

だから動物たちは、金太郎のことが大好きでした。

ある日のことです。

森の広場に、動物たちが集まっていました。

熊が胸を張って言いました。

「今日は、誰が一番力持ちか競争してみないか?」

「面白そう!」

猿が飛び跳ねました。

鹿もうなずきます。

「やってみよう」

そこへ金太郎もやってきました。

「何をしているの?」

熊が答えました。

「力比べだよ。金太郎もやろう!」

「いいね!」

金太郎も仲間に加わりました。

まずは猿の番です。

猿は地面に落ちていた太い枝を持ち上げました。

「えいっ!」

枝はぐっと持ち上がりました。

「どうだい?」

「すごい、すごい!」

みんなが拍手します。

次は鹿です。

鹿は地面にある大きな切り株を押してみました。

「うーん……!」

ぐぐぐっ。

けれど、切り株はびくともしません。

「重たいなあ」

鹿は困った顔をしました。

熊もやってみました。

「それなら、ぼくが!」

ぐっと力を入れます。

少しだけ動きました。

「おおっ!」

みんなが声を上げました。

最後は金太郎です。

金太郎は切り株の前に立ちました。

「じゃあ、僕もやってみるね」

両手をしっかりとかけます。

「よいしょ!」

ぐぐっ。

ごろん。

なんと、大きな切り株が動きました。

動物たちは目を丸くしました。

「すごい!」

「やっぱり金太郎は力持ちだ!」

熊も感心しています。

「金太郎が一番だね」

ところが、金太郎は少し照れながら言いました。

「僕一人がすごいわけじゃないよ」

「え?」

動物たちは金太郎を見ました。

金太郎は続けます。

「一人でできることもあるけど、みんなで力を合わせたほうが、もっと大きなことができるよ」

「みんなで?」

「うん」

金太郎は笑いました。

「熊は力が強いし、猿は木登りが上手だし、鹿は走るのが速い。みんな、それぞれ得意なことがあるでしょう?」

動物たちは顔を見合わせました。

「たしかにそうだね」

その日の力比べは、みんなで笑って終わりました。

それからしばらくした、ある朝のことです。

森の中に、

どしーん!

と大きな音が響きました。

驚いた鳥たちが、いっせいに空へ飛び立ちました。

金太郎と動物たちが音のしたほうへ行ってみると、大きな丸太が道をふさいでいました。

どうやら風で大きな木が倒れ、その幹がそのまま道をふさいでしまったようです。

「これじゃあ向こうへ行けないよ」

うさぎが困った顔をしました。

「どうしよう」

猿も丸太の上から向こう側をのぞき込みました。

熊が押してみます。

「うーん!」

けれど、丸太はとても大きく、なかなか動きません。

鹿も手伝いました。

それでも動きません。

みんなが困っていると、金太郎が言いました。

「そうだ」

「みんなで一緒に動かそう」

熊が丸太を押します。

鹿も体を使って押しました。

猿も小さな手で一生懸命押します。

金太郎は丸太の太いところに手をかけました。

「準備はいい?」

「いいよ!」

「せーの!」

みんなで一斉に力を入れました。

「うーん!」

ぐぐぐっ。

丸太が少し動きます。

「もう一回!」

「せーの!」

ぐぐぐぐっ。

ごろり。

とうとう大きな丸太が、道の端へ動きました。

「やった!」

動物たちは大喜びです。

うさぎが言いました。

「一人では動かなかったのに!」

金太郎は笑いました。

「みんなで力を合わせたからだよ」

熊もうれしそうにうなずきました。

「本当だね」

それからも金太郎は、山で動物たちと仲良く暮らしました。

困っている動物がいれば助けました。

重いものがあれば運びました。

危ない場所があれば、みんなでどうすればいいか考えました。

そんな金太郎の噂は、だんだん山の外へも広がっていきました。

「足柄山には、とんでもない力持ちの子どもがいるらしい」

「熊とも仲良しなんだそうだ」

「それだけじゃない。とても心の優しい子だって話だ」

その噂を聞いた一人の武士が、足柄山へやってきました。

武士は山道を進みながら、金太郎を探しました。

やがて森の中で、動物たちと一緒にいる金太郎を見つけます。

ちょうどそのとき、金太郎は倒れた木の枝をどかし、動物たちが通れるようにしていました。

武士は、その様子をじっと見ていました。

そして金太郎に声をかけました。

「君が金太郎か?」

金太郎は振り返りました。

「はい。そうです」

「ずいぶん力が強いそうだな」

「少しだけです」

金太郎は照れくさそうに答えました。

武士は続けます。

「だが、私が聞いたのは力のことだけではない」

「え?」

「仲間を大切にし、困っている者を助ける子だと聞いた」

金太郎は動物たちを見ました。

熊も猿も鹿もうさぎも、金太郎のそばにいます。

武士はうなずきました。

「強い力を持っていても、その力を自分のためだけに使う者もいる」

「だが君は、誰かを助けるために使っている」

武士は金太郎を見つめました。

「都へ来てみないか」

「都へ?」

「ああ。そこで学び、もっと大きな仕事をしてみるといい」

金太郎は驚きました。

山の外で暮らしたことはありません。

ずっと、この足柄山で動物たちと過ごしてきました。

金太郎は少し考えました。

それから、動物たちのほうを向きました。

「僕、都へ行ってみようと思う」

動物たちは寂しそうな顔をしました。

うさぎが聞きます。

「もう帰ってこないの?」

金太郎はしゃがんで答えました。

「そんなことないよ」

猿も心配そうに言いました。

「ぼくたちのこと、忘れない?」

金太郎は笑いました。

「忘れるわけないよ」

熊の大きな手を握ります。

鹿の背中をなでます。

うさぎの頭も優しくなでました。

「みんなは、ずっと僕の友だちだよ」

動物たちは金太郎を囲みました。

「金太郎、元気でね」

「がんばってね」

「また帰ってきてね」

金太郎は何度もうなずきました。

「うん。みんなも元気でね」

こうして金太郎は、武士と一緒に足柄山をあとにしました。

山道を下りながら、何度も後ろを振り返ります。

遠くでは、動物たちがいつまでも見送っていました。

その後、金太郎は都でさまざまなことを学びました。

持ち前の力を磨きながら、人を助けることや仲間と力を合わせることも忘れませんでした。

そして大きくなると、立派な武士へと成長しました。

どれほど強くなっても、金太郎は足柄山で過ごした日々を忘れることはありませんでした。

熊や猿、鹿やうさぎと遊んだこと。

みんなで大きな丸太を動かしたこと。

そして、仲間と力を合わせれば、一人ではできないこともできるということ。

金太郎は、その思いを胸に歩んでいったということです。

おしまい。

登場人物

  • 金太郎
    足柄山で暮らす力持ちの男の子。強い力を自慢するのではなく、困っている仲間を助けるために使います。
  • 山の動物たち
    熊、猿、鹿、うさぎなど、金太郎と一緒に遊びながら暮らす友だちです。それぞれに得意なことがあります。
  • 武士
    金太郎の力だけでなく、仲間を大切にする心にも目を留め、都へ来るように声をかける人物です。

教訓

  • 本当の強さは、力があることだけではなく、その力を誰かのために使えることにもあります。
  • 一人では難しいことでも、仲間と力を合わせれば乗り越えられることがあります。
  • それぞれに違う得意なことがあり、その力を生かし合うことの大切さを考えられます。

親子で話したいポイント

  • 金太郎は、どうして山の動物たちに好かれていたのかな?
  • 自分が金太郎くらい力持ちだったら、その力を何に使いたい?
  • 熊、猿、鹿、うさぎには、それぞれどんな得意なことがありそう?
  • 一人ではできなかったけれど、誰かと一緒だからできたことはある?
  • 金太郎は山を離れるとき、どんな気持ちだったと思う?

保育士向け活用ポイント

金太郎・熊・猿・鹿・うさぎ・武士など役割を分けやすく、劇遊びや発表会の題材としても活用できます。

「友だちと協力すること」「自分の得意なことを生かすこと」「力を誰かのために使うこと」を考える題材として活用できます。

丸太をみんなで動かす場面から、協力ゲームや運動遊びの導入につなげやすい物語です。

熊、猿、鹿、うさぎなど複数の動物が登場するため、それぞれの動きや得意なことを体で表現する表現遊びにも発展させられます。

年少児では金太郎の力強さや動物とのやり取りを楽しみ、年中・年長児では「本当の強さとは何か」「協力するとはどういうことか」を話し合うことができます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました