あらすじ
むかしむかし、ある国に美しいお姫様が住んでいました。
ある日、お姫様は森の中で遊んでいるうちに、大切にしていた金のまりを池へ落としてしまいます。
困って泣いているお姫様の前に現れたのは、一匹のかえるでした。
かえるは金のまりを取ってくる代わりに、自分と友だちになってほしいとお願いします。
お姫様は約束しますが、まりを取り戻すと、かえるを残してお城へ帰ってしまいました。
ところが翌日、かえるは約束どおりお城を訪ねてきます。
最初はかえるを嫌がっていたお姫様でしたが、一緒に過ごすうちに、その優しさや誠実さに気づいていきます。
そしてやがて、かえるにかけられていた不思議な魔法が解けるのでした。
「見た目だけで相手を判断しないこと」「約束を守ること」「相手を知ろうとすることの大切さ」を伝えるグリム童話の名作です。
本文
むかしむかし、ある国に、
美しいお姫様が住んでいました。
お姫様はきれいな服を着て、大きなお城で暮らしていました。
お城のまわりには、広い庭や深い森がありました。
お姫様は、ときどき森へ出かけて遊ぶのが好きでした。
ある日のことです。
お姫様は一人で森の奥まで遊びに行きました。
木々の間から、やわらかな日差しが差し込んでいます。
鳥たちの声が聞こえ、
風が吹くたびに、
さわさわ、さわさわ。
木の葉が揺れました。
森の奥には、とてもきれいな池がありました。
水は澄んでいて、まわりには草や花が生えています。
お姫様は池のほとりに座ると、お気に入りの金のまりを取り出しました。
太陽の光を受けて、まりはきらきらと輝きました。
「このまりで遊ぶのが大好き。」
お姫様は金のまりを高く投げ上げては、両手で受け止めました。
ぽーん。
ぱしっ。
ぽーん。
ぱしっ。
何度も繰り返して遊んでいた、そのときです。
「あっ!」
お姫様の手から、金のまりがこぼれ落ちました。
ころころころ……。
まりは草の上を転がり、そのまま池のほうへ向かっていきます。
「待って!」
お姫様が手を伸ばしましたが、間に合いません。
ぽちゃん。
金のまりは池の中へ落ちてしまいました。
お姫様は慌てて池をのぞき込みました。
けれど、まりはどんどん深いところへ沈んでいき、とうとう見えなくなってしまいました。
「どうしよう……。」
「大切なまりなのに。」
池は深く、お姫様には取ることができません。
悲しくなったお姫様は、池のほとりで困り果てていました。
すると――。
「どうしたのですか?」
突然、どこからか声が聞こえてきました。
お姫様は驚いて辺りを見回しました。
「誰?」
人の姿はありません。
すると、もう一度声がしました。
「そんなに悲しそうな顔をして、どうしたのですか?」
声が聞こえてきたのは、池の中でした。
お姫様が水面を見ると、
ぴょこん。
一匹のかえるが顔を出しました。
「まあ、かえるだったの?」
かえるはお姫様を見上げました。
お姫様は言いました。
「大切な金のまりを池に落としてしまったの。」
「お願い。取ってきてくれない?」
かえるは答えました。
「もちろん、取ってきますよ。」
お姫様の顔がぱっと明るくなりました。
ところが、かえるは続けました。
「でも、その代わりに一つお願いがあります。」
「お願い?」
「私と友だちになってくれませんか?」
お姫様は、かえるをじっと見ました。
「友だちに?」
「はい。一緒に過ごしてほしいのです。」
お姫様は少し考えました。
本当は、かえると友だちになることなど考えていませんでした。
けれど今は、どうしても金のまりを取り戻したかったのです。
「分かったわ。」
「友だちになるから、まりを取ってきて。」
「約束ですよ。」
そう言うと、かえるは水の中へ潜っていきました。
しばらくすると――。
ざばっ。
かえるが再び水面に現れました。
そして、池の底から金のまりを持ってきてくれたのです。
「私のまり!」
お姫様は大喜びしました。
金のまりを受け取ると、うれしそうに抱きしめました。
「ありがとう!」
そして、そのままお城へ向かって走り出しました。
「待ってください!」
後ろから、かえるの声が聞こえました。
「約束は?」
けれど、お姫様は振り返りませんでした。
金のまりを取り戻したうれしさで、かえるとの約束のことなど気にしていなかったのです。
その日の夜。
お姫様はいつものように、お城で過ごしていました。
そして次の日のことです。
コンコン。
お城の扉を、誰かがたたきました。
「誰かしら?」
コンコン。
もう一度、音がします。
そして扉の向こうから声がしました。
「お姫様。」
「昨日の約束を覚えていますか?」
お姫様は、はっとしました。
「まさか……。」
扉を開けると、
そこにいたのは、昨日のかえるでした。
「本当に来たの?」
お姫様は驚きました。
かえるは、池で交わした約束をちゃんと覚えていたのです。
けれど、お姫様は困ってしまいました。
「かえると一緒に食事をするなんて嫌だわ。」
「お城の中で一緒に過ごすなんて……。」
お姫様は、かえるをお城へ入れたくありませんでした。
その様子を見た王様が、何があったのかたずねました。
お姫様は、森の池で金のまりを落としたこと。
かえるが取ってきてくれたこと。
その代わりに友だちになると約束したことを話しました。
話を聞いた王様は言いました。
「助けてもらったときにした約束なら、きちんと守らなくてはいけないよ。」
お姫様は困った顔をしました。
けれど、自分が約束したことです。
仕方なく、かえるをお城の中へ迎え入れました。
最初、お姫様はかえると一緒にいることを嫌がっていました。
食事をするときも、かえるがそばにいることが気になりました。
けれど、かえるはお姫様に意地悪をすることも、困らせることもしませんでした。
約束したことを覚え、お姫様のそばで静かに過ごしていました。
少しずつ、お姫様の気持ちにも変化が生まれていきました。
「このかえるは、私が思っていたような相手ではないのかもしれない。」
お姫様は、かえるの姿だけを見て嫌がっていたことに気づき始めました。
かえるは優しく、誠実でした。
そして何より、池で交わした約束をずっと大切にしていたのです。
「私は、見た目だけで決めつけていたのかもしれないわ。」
お姫様は、少しずつかえるのことを知っていきました。
すると、あるとき――。
不思議なことが起こりました。
かえるの姿が、光に包まれました。
お姫様は驚いて見つめます。
やがて光が消えると、そこにかえるの姿はありませんでした。
代わりに立っていたのは、一人の王子様でした。
「あなたは……?」
王子様は、自分が悪い魔法によって、かえるの姿に変えられていたことを話しました。
お姫様は驚きました。
池で出会った一匹のかえる。
最初は姿を見るだけで嫌がっていた相手が、本当は優しく誠実な心を持っていたことを、お姫様はもう知っていました。
それから、お姫様と王子様はお互いの心を大切にしながら、幸せに暮らしました。
おしまい。
登場人物
お姫様
金のまりを池へ落としたことから、かえると出会います。最初はかえるを見た目だけで嫌がりますが、一緒に過ごすうちに、その優しさや誠実さに気づいていきます。
かえる(王子様)
お姫様の金のまりを池から取ってきてくれる存在です。悪い魔法によってかえるの姿に変えられていましたが、約束を大切にする優しい心を持っています。
王様
お姫様に、助けてもらった相手との約束を守ることの大切さを伝える人物です。
教訓
- 人を見た目だけで判断してはいけない。
- 相手を知ろうとすることで、それまで気づかなかった良さが見えてくることがある。
- 一度交わした約束を守ることは、相手との信頼につながる。
- 外見だけではなく、その人の行動や心を見ることが大切。
親子で話したいポイント
- お姫様は、どうして最初はかえるを嫌がったのかな?
- かえるは、お姫様との約束をどんな気持ちで覚えていたのだろう?
- 見た目だけでは分からない、その人の良いところにはどんなものがあるかな?
- 誰かと約束したことを守るのは、どうして大切なのかな?
- お姫様の気持ちは、かえると過ごすうちにどのように変わったかな?
保育士向け活用ポイント
劇遊びや表現活動では、お姫様とかえるそれぞれの気持ちや、その変化を表現することで、想像力や共感性を育む活動につなげられます。
「相手を理解すること」「違いを受け止めること」「約束を守ること」について考える題材として活用できます。
子ども同士の関わりでは、第一印象や見た目だけで「苦手」「一緒に遊びたくない」と感じることもあります。そうした気持ちを否定するのではなく、相手を少しずつ知る経験につなげることが大切です。
お姫様の気持ちの変化を追いながら、「最初はどう思っていた?」「一緒に過ごして何が変わった?」と問いかけることで、相手の立場や気持ちを想像する活動につなげられます。
インクルーシブ保育の視点では、見た目や特徴の違いだけで相手を決めつけず、一人ひとりを知ろうとする姿勢について考えるきっかけになります。
「嫌だと思ってはいけない」と教えるのではなく、子ども自身の気持ちを受け止めながら、「どうしたら相手のことを知れるかな」と考えることも大切です。


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