鳥呑みじいさん(とりのみじいさん)

昔話

あらすじ

むかしむかし、ある村に、貧しいながらも心優しいおじいさんが住んでいました。

ある日、おじいさんは山道で傷ついた一羽の小鳥を見つけ、家へ連れ帰って大切に世話をします。

元気になった小鳥が山へ帰っていったその夜、おじいさんの夢に山の神様が現れました。

「お前は弱い命を大切にした。その優しい心に、特別な力を授けよう。」

神様から授かったのは、鳥を呑み込むと、その鳥と同じ声で鳴けるという不思議な力。

おじいさんはその力で村人たちを楽しませますが、噂を聞いた欲張りな隣のおじいさんも同じことをしようとして――。


本文

むかしむかし、ある村に、正直で心の優しいおじいさんが住んでいました。

おじいさんの家は、村の外れにある小さな古い家でした。

家のそばには小さな畑があり、おじいさんは朝から晩まで畑を耕しながら暮らしていました。

決して裕福ではありません。

たくさんのお米があるわけでもなければ、立派な着物を持っているわけでもありませんでした。

それでも、おじいさんはいつも穏やかでした。

「たくさんなくても、食べるものがあって、元気に働ければ十分だ。」

そう言って笑っていました。

そして、困っている人や生き物を見ると、放っておけない人でもありました。

ある日のことです。

おじいさんは薪を拾うため、朝早くから山へ出かけました。

木々の間から柔らかな日の光が差し込み、

チチチ……。

ピピピ……。

あちらこちらから鳥の声が聞こえてきます。

「今日もいい天気だ。」

おじいさんは落ちている枝を拾いながら、ゆっくり山道を歩いていました。

すると――。

「ん?」

道ばたの草むらで、何かが小さく動きました。

おじいさんは足を止めました。

「何だろう。」

近づいてみると、一羽の小鳥が倒れています。

羽をばたつかせていますが、飛び上がることができません。

片方の羽を傷めているようでした。

「おやおや。」

おじいさんはしゃがみ込みました。

「かわいそうに。どうしたんだ。」

小鳥は逃げようとしましたが、力がありません。

おじいさんは両手でそっと包むように抱き上げました。

「大丈夫だ。」

「何もしないよ。」

薪拾いは途中でしたが、おじいさんは小鳥を家へ連れて帰ることにしました。

家へ着くと、小さな箱に柔らかな布を敷きました。

水を飲ませ、

食べられそうなものを少しずつ与え、

傷ついた羽を丁寧に手当てしました。

「早く元気になるといいな。」

次の日も、

その次の日も、

おじいさんは小鳥の世話を続けました。

やがて、小鳥は箱の中で元気に動き回るようになりました。

「そろそろ飛べるかな?」

おじいさんが手を差し出すと、小鳥はぴょんと手のひらに乗りました。

そして――。

ぱたぱたっ。

おじいさんの肩まで飛び上がりました。

「おお!」

小鳥はうれしそうに、

「チュン、チュン!」

と鳴きました。

おじいさんも笑いました。

「元気になってよかったな。」

家の外へ出ると、おじいさんは肩に乗った小鳥へ言いました。

「さあ、山へお帰り。」

小鳥はしばらく、おじいさんの顔を見ていました。

「チュン。」

そして――。

ぱたぱたぱた……。

青い空へ飛び立ちました。

小鳥は家の上を一度大きく回りました。

「チュン、チュン!」

まるでお礼を言うように鳴くと、山の方へ飛んでいきました。

「達者でな。」

おじいさんは小さくなっていく鳥の姿が見えなくなるまで、手を振っていました。

その夜のことです。

おじいさんはいつものように布団へ入りました。

昼間の仕事で疲れていたので、すぐに眠ってしまいました。

すると――。

不思議な夢を見ました。

夢の中で、おじいさんは一人で山の中に立っていました。

辺りは深い霧に包まれています。

しん……。

昼間なら聞こえるはずの鳥の声も、虫の声もありません。

「ここは……?」

おじいさんは辺りを見回しました。

すると、霧の向こうに、ぼんやりと白い光が見えました。

光はゆっくり近づいてきます。

おじいさんは思わず一歩下がりました。

やがて、その光の中から一人の老人が現れました。

白く長いひげ。

深いしわ。

けれど、その姿には不思議な威厳がありました。

「お前は、今日、一羽の鳥を助けたな。」

老人が言いました。

「はい。」

「傷ついていたので、放っておけなかっただけです。」

老人はゆっくりとうなずきました。

「私はこの山を守る者。」

「山の神様……?」

「お前は弱い命を大切にした。」

山の神様は、おじいさんをまっすぐ見つめました。

「その優しい心に、特別な力を授けよう。」

「特別な力?」

おじいさんは目を丸くしました。

「鳥を一羽呑み込めば、その鳥と同じ声を出せるようになる。」

「鳥を……呑み込む?」

おじいさんは驚きました。

山の神様は続けます。

「ただし。」

急に、辺りを風が吹き抜けました。

ざあああ……。

木々が大きく揺れます。

「その力を、悪いことに使ってはならぬ。」

おじいさんは何度もうなずきました。

「分かりました。」

山の神様の姿が、少しずつ霧の中へ消えていきます。

「待ってください。」

おじいさんが声をかけました。

けれど――。

チュン。

どこかから、小鳥の声が聞こえました。

「え?」

チュン、チュン。

その瞬間、おじいさんは目を覚ましました。

朝でした。

窓の外から本物の小鳥の声が聞こえています。

「夢か……。」

おじいさんは起き上がりました。

「なんとも不思議な夢だったなあ。」

けれど、山の神様の声だけは、妙にはっきりと覚えていました。

その日、おじいさんは再び山へ出かけました。

昨日と同じように鳥たちが鳴いています。

ピピピ。

チチチ。

ホーホケキョ。

おじいさんは立ち止まりました。

「鳥を呑み込めば、その鳥と同じ声を出せる……か。」

もちろん、普通ならそんなことができるはずはありません。

「やっぱり夢だったんだろう。」

そう思っていると、一羽の小さな鳥が近くの枝へ飛んできました。

「チュン。」

鳥はおじいさんを見ています。

「本当に、そんな力があるのだろうか。」

おじいさんは半信半疑でした。

けれど、夢で言われたとおりに試してみることにしました。

すると――。

不思議なことが起こりました。

おじいさんの口から、

「チュン、チュン!」

と、本物の鳥そっくりの声が出たのです。

「えっ?」

おじいさんは自分の口を押さえました。

もう一度やってみます。

「チュン、チュン!」

「おお!」

おじいさんはびっくりしました。

「本当に鳥の声が出るぞ!」

しかも、ただ真似をしているのではありません。

目を閉じて聞けば、本物の鳥が鳴いているとしか思えないほど美しい声でした。

「山の神様の言ったことは本当だったんだ。」

おじいさんは不思議な力を授かったことを知りました。

けれど、おじいさんはその力でお金を稼ごうとも、自分が偉いと自慢しようともしませんでした。

ある日、村の子どもたちが遊んでいるところへ行きました。

「みんな、ちょっと聞いてごらん。」

「なあに?」

おじいさんは口をすぼめました。

「チュン、チュン!」

子どもたちは辺りを見回しました。

「あれ?」

「鳥はどこ?」

おじいさんは笑いました。

「ここだよ。」

「えっ?」

「おじいさんが鳴いたの?」

「もう一回やって!」

「チュン、チュン!」

「わあ!」

子どもたちは大喜びです。

別の日には、病気で寝込んでいるおばあさんの家を訪ねました。

「最近、外へ出られなくてねえ。」

おばあさんは寂しそうに言いました。

するとおじいさんは、窓辺に座りました。

そして――。

「チュン、チュン。」

まるで春の山にいるような、美しい鳥の声を聞かせました。

おばあさんは目を細めました。

「まあ、きれいな声だねえ。」

「本当に鳥が来たみたいだ。」

おじいさんの不思議な鳥の声は、村中で評判になりました。

「今日も聞かせてくれ。」

「今度はうちの孫にも聞かせてやってくれ。」

おじいさんは頼まれるたびに、

「いいとも。」

と笑って鳥の声を聞かせました。

村には笑い声が増えていきました。

ところが――。

その噂を聞いて、面白く思わない人が一人いました。

隣に住んでいるおじいさんです。

隣のおじいさんは、少し欲張りでした。

優しいおじいさんの家に人が集まっているのを見るたび、ぶつぶつ言っていました。

「何であいつばかり人気者なんだ。」

「鳥の声くらいで、みんな大騒ぎしおって。」

けれど、本当は自分も同じように注目されたくて仕方ありません。

ある日、隣のおじいさんは村人から不思議な力の話を聞きました。

「鳥を呑み込むと、その鳥の声が出るらしいぞ。」

「何?」

隣のおじいさんの目が輝きました。

「鳥を呑み込めばいいのか?」

「それなら簡単じゃ。」

隣のおじいさんは考えました。

「普通の鳥ではつまらん。」

「珍しい鳥をたくさん呑み込めば、あいつよりもっとすごい声が出せるに違いない。」

次の日。

隣のおじいさんは山へ向かいました。

けれど、優しいおじいさんとは違います。

鳥が近づいてくるのを待つのではなく、無理やり捕まえようとしました。

「こら、待て!」

ばさばさっ!

「逃げるな!」

鳥たちは驚いて飛び回ります。

しばらくして、隣のおじいさんはようやく一羽の鳥を捕まえました。

「よし。」

「これでわしも人気者だ。」

そして、鳥を呑み込みました。

「さあ、きれいな声を出すぞ。」

隣のおじいさんは胸を張りました。

大きく息を吸って――。

「カアー! カアー!」

山中に、しわがれた大声が響きました。

「……え?」

隣のおじいさんは固まりました。

「カアー!」

「何だ、この声は!」

まるでカラスのような鳴き声です。

「おかしい。」

「もっときれいな鳥ならいいはずだ。」

隣のおじいさんは諦めません。

「もっとだ。」

「もっと珍しい鳥を呑み込めば、きっとすごい声になる。」

そして次々と鳥を捕まえました。

一羽。

二羽。

三羽。

すると――。

「ピー!」

「あっ。」

「ホーホー!」

「おっ。」

「ギャー! ギャー!」

「ちょ、ちょっと待て!」

口を閉じようとしても、勝手に声が出てきます。

「カアー!」

「ピーピー!」

「ホーホー!」

「ギャーギャー!」

「や、やめろ!」

隣のおじいさんは自分の口を両手で押さえました。

ところが――。

「ピィィィ!」

指の隙間から鳥の声が飛び出します。

「うわあ!」

慌てて村へ戻りました。

村人が声をかけます。

「どうしたんです?」

隣のおじいさんは、

「わしは――」

と言おうとしました。

ところが口から出たのは、

「カアー!」

「え?」

「違う! これは――」

「ホーホー!」

「何だ?」

「ピーピー!」

村人たちは目を丸くしました。

「どうしたんだ?」

「鳥がいるのか?」

「いや、あのおじいさんが鳴いているぞ。」

子どもたちまで集まってきました。

隣のおじいさんは恥ずかしくて顔を真っ赤にしました。

「見るな!」

と言いたいのに――。

「ギャーギャー!」

「カアー!」

「ピーピー!」

さまざまな鳥の声が次々と飛び出します。

そこへ、騒ぎを聞いた優しいおじいさんがやってきました。

「どうしたんだい?」

隣のおじいさんは涙目になっていました。

「わ、わしは……。」

「ホーホー!」

「……なるほど。」

優しいおじいさんは事情を察しました。

「わしよりすごい声を出そうとしたのかい?」

隣のおじいさんは、うつむきました。

「カア……。」

それは今までより、ずっと小さな声でした。

優しいおじいさんは怒りませんでした。

ただ、静かに言いました。

「わしが鳥の声を聞かせていたのは、みんなが喜んでくれたからだよ。」

隣のおじいさんは顔を上げました。

「不思議な力があっても、自分を目立たせることばかり考えていたら、楽しくなくなってしまう。」

隣のおじいさんは黙って聞いていました。

しばらくして、ぽつりと言いました。

「わしは……欲張ってしまった。」

今度は鳥の声ではありません。

ちゃんと自分の声が出ました。

「おっ。」

隣のおじいさんは口を押さえました。

「声が戻った!」

けれど、喜んだ拍子に――。

「カアー!」

「まだ少し残っているな。」

優しいおじいさんが笑いました。

村人たちも笑いました。

隣のおじいさんも最初は恥ずかしそうにしていましたが、やがて一緒になって笑い始めました。

「ははは。これは仕方ない。」

それから隣のおじいさんは、無理に人より目立とうとするのをやめました。

困っている人がいれば手を貸し、

畑で採れたものが余れば分けるようになりました。

そして時々、二人のおじいさんは村の子どもたちを集めました。

優しいおじいさんが、

「チュン、チュン。」

と鳴けば、

隣のおじいさんが、

「カアー!」

と鳴きます。

「もう一回!」

子どもたちは大笑い。

「チュン、チュン。」

「カアー!」

「ピーピー!」

「ホーホー!」

いつしか二人のおじいさんも顔を見合わせて笑っていました。

夕暮れの村には、本物の鳥たちの声に混じって、二人のおじいさんの不思議な鳴き声と、子どもたちの楽しそうな笑い声がいつまでも響いていました。

おしまい。


登場人物

  • 優しいおじいさん
    正直で心優しく、傷ついた小鳥を助けたことから山の神様に不思議な力を授かります。その力を自慢するのではなく、村の人たちを楽しませたり、元気づけたりするために使います。
  • 隣のおじいさん
    優しいおじいさんの人気をうらやみ、自分も注目されようと鳥を次々に呑み込みます。失敗を通して、自分を目立たせることばかり考えていたことに気づきます。
  • 小鳥
    山道で傷ついていたところを、優しいおじいさんに助けられます。元気になると、美しい声を残して山へ帰っていきます。
  • 山の神様
    おじいさんの夢に現れる山を守る存在。弱い命を助けた優しさを認め、不思議な力を授けます。
  • 村人や子どもたち
    おじいさんの鳥の鳴き声を楽しみ、村に笑顔を広げていきます。

教訓

  • 困っている相手を思いやる優しい行いは、思いがけない形で幸せにつながることがある。
  • 同じ力を持っていても、何のために使うかによって、その価値は大きく変わる。
  • 人より目立ちたい、もっと欲しいという気持ちが大きくなりすぎると、かえって失敗してしまうことがある。
  • 誰かを喜ばせたいという気持ちは、自分自身の喜びにもつながっていく。

親子で話したいポイント

  • 優しいおじいさんは、どうして傷ついた小鳥を助けたのかな?
  • 山の神様は、どうしておじいさんに不思議な力をくれたのだろう?
  • 優しいおじいさんと隣のおじいさんでは、力を使おうとした理由がどう違った?
  • 隣のおじいさんは、どうして失敗してしまったのかな?
  • もし自分に不思議な力があったら、誰のために、どんなことに使いたい?

保育士向け活用ポイント

  • 思いやりや欲張らない心について考える読み聞かせとして活用できます。
  • 「チュンチュン」「カアー」「ホーホー」「ピーピー」など、さまざまな鳥の鳴き声が登場するため、子どもたちと一緒に声を出しながら楽しめます。
  • 読み聞かせの途中で「次はどんな鳥の声が出るかな?」と問いかけることで、子どもたちの想像や発言を引き出せます。
  • 鳥の写真や図鑑を見ながら鳴き声を調べたり、園庭や散歩先で実際の鳥を探したりする活動にもつなげられます。
  • 優しいおじいさんと隣のおじいさんの行動を比べながら、「同じことをしていても、気持ちや目的によって違いがある」ことを考える題材としても活用できます。

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