金のがちょう|世界の名作・昔話

世界の名作・昔話

あらすじ

むかしむかし、ある村に三人の兄弟が暮らしていました。

上の二人は自分のことを一番に考えていましたが、末っ子は穏やかで、困っている人を見かけると自然に手を差し伸べる優しい若者でした。

ある日、森へ木を切りに出かけた末っ子は、お腹をすかせた不思議な老人と出会います。

自分の食べ物を惜しまず分けた末っ子は、そのお礼として金色に輝く不思議ながちょうを手に入れました。

ところが、そのがちょうの羽に触れた人は、ぺたりとくっついて離れなくなってしまいます。

一人、また一人。

気がつけば、末っ子の後ろには長い長い行列ができていました。

そしてその奇妙な行列が、長い間笑うことを忘れていたお姫さまの運命を変えていくのでした。


本文

むかしむかし、森の近くにある小さな村に、三人の兄弟が暮らしていました。

三人は同じ家で育った兄弟でしたが、性格はずいぶん違っていました。

長男は力が強く、自分に自信がありました。

「森の仕事なら、俺が一番だ。」

次男も負けず嫌いで、

「兄さんにできるなら、僕にだってできるさ。」

と、いつも胸を張っていました。

一方、末っ子は二人のように自分を大きく見せることはありませんでした。

口数はそれほど多くありませんが、いつも穏やかで、困っている人を見かけると放っておけない性格でした。

道で荷物を落とした人がいれば拾い、

お年寄りが重いものを運んでいれば手伝います。

そんな末っ子を見て、兄たちはときどき笑いました。

「お前は人のことばかり気にしているな。」

「そんなことをして、何の得になるんだ?」

末っ子は気にしません。

「困っているなら、手伝えばいいじゃないか。」

そう言って笑うだけでした。

ある日の朝。

父親が三人を呼びました。

「薪が少なくなってきた。」

「誰か森へ行って、木を切ってきておくれ。」

「それなら俺が行くよ。」

最初に立ち上がったのは長男でした。

母親は長男に、昼の食事を持たせました。

パンと飲み物です。

長男は斧と食べ物を持つと、元気よく森へ向かいました。

森の中をしばらく歩いていると、一人の小さな老人が道ばたに座っていました。

白いひげを生やし、古びた服を着ています。

老人は長男を見ると、ゆっくり立ち上がりました。

「すみません。」

「なんだ?」

「朝から何も食べていなくて、お腹がすいているのです。」

老人は長男の持っている包みを見ました。

「よろしければ、パンを少し分けてもらえませんか。」

長男は包みを抱え込みました。

「だめだ。」

「これは俺の昼飯だ。」

「少しくらいでも……。」

「自分の分しかないんだ。」

長男は老人を置いて、さっさと歩いていきました。

やがて大きな木を見つけると、斧を振り上げました。

「よし。この木にしよう。」

こんっ!

こんっ!

ところが、しばらくすると手元が狂いました。

「あっ!」

斧が木にはね返り、長男は手を痛めてしまいました。

「いたたた……。」

その日はもう仕事ができません。

長男は何も持たずに家へ帰りました。

次の日。

「今度は僕が行く。」

次男が森へ向かいました。

ところが、森の同じ場所まで来ると、あの老人が現れました。

「すみません。」

「何ですか?」

「お腹がすいているのです。」

「食べ物を少し分けてもらえませんか。」

次男も首を横に振りました。

「これは僕の食事です。」

「あなたにあげたら、僕の分が減ってしまう。」

そう言って、老人の前を通り過ぎました。

次男も木を見つけ、斧を振り始めました。

こんっ!

こんっ!

ところが、しばらくすると足元の枝につまずきました。

「うわっ!」

転んだ拍子に足を痛めてしまい、次男も仕事を続けられなくなりました。

結局、何も持たずに家へ戻りました。

その次の日。

末っ子が父親へ言いました。

「今日は僕が行ってみるよ。」

兄たちは笑いました。

「俺たちでもできなかったんだぞ。」

「お前にできるのか?」

末っ子は斧を持ちました。

「やってみないとわからないよ。」

母親は末っ子にも食事を持たせました。

兄たちのものより少し小さなパンと、飲み物です。

「気をつけて行っておいで。」

「行ってきます。」

末っ子は森へ向かいました。

朝の光が木々の間から差し込んでいます。

鳥の声を聞きながら歩いていると――。

道ばたに、あの老人がいました。

「こんにちは。」

末っ子は自分から挨拶しました。

老人も頭を下げます。

「こんにちは。」

そして言いました。

「実は朝から何も食べていなくて、とてもお腹がすいているのです。」

「そうだったんですか。」

「もしよければ、食べ物を少し分けてもらえませんか。」

末っ子は持っていた包みを開きました。

「もちろんです。」

老人は驚きました。

「しかし、それではあなたの分が少なくなってしまうでしょう。」

末っ子はパンを半分にしました。

「一人で全部食べるより、二人で食べた方がおいしいですよ。」

「さあ、一緒に食べましょう。」

老人の顔が、ぱっと明るくなりました。

二人は木の根元へ腰を下ろしました。

末っ子はパンを半分渡し、飲み物も分けました。

「ありがとう。」

老人は嬉しそうに食べました。

食べ終わると、老人は立ち上がりました。

「あなたは優しい人ですね。」

「そんな、大したことじゃありませんよ。」

「いいえ。」

老人は森の奥を指さしました。

「お礼に、あちらにある古い木を切ってごらんなさい。」

末っ子は首をかしげました。

「古い木?」

「ええ。」

「きっと、よいものが見つかります。」

そう言うと、老人は森の奥へ歩いていきました。

末っ子が少し目を離した、その瞬間――。

老人の姿は、どこにも見えなくなっていました。

「不思議なおじいさんだなあ。」

末っ子は教えられた場所へ向かいました。

そこには、長い年月を生きてきた大きな木が一本立っていました。

太い幹には苔が生え、枝は空いっぱいに広がっています。

「この木かな。」

末っ子は斧を構えました。

こんっ。

こんっ。

こんっ。

何度も斧を振ります。

やがて――。

みしみし……。

大きな木がゆっくり傾きました。

どおん!

地面を揺らして木が倒れます。

すると、木の根元に何かが光っていました。

「なんだろう?」

末っ子が近づいてみると――。

「わあ……。」

そこには、一羽のがちょうがいました。

けれど、ただのがちょうではありません。

頭から尾まで、まるで金でできているように輝いていました。

羽の一枚一枚が日の光を受けて、きらきらと光っています。

「なんてきれいながちょうなんだ。」

がちょうは逃げませんでした。

末っ子がそっと抱き上げると、おとなしく腕の中へ収まりました。

「さっきのおじいさんからの贈り物なのかな。」

末っ子は金のがちょうを大切に抱え、森を出ました。

家までは遠かったため、その日は途中の町にある宿屋へ泊まることにしました。

「一晩泊めてください。」

宿屋の主人は、末っ子が抱えているがちょうを見ると目を丸くしました。

「これは見事ながちょうだ。」

「本当に金色だ。」

宿屋には三人の娘がいました。

三人も、金のがちょうが気になって仕方ありません。

夜になり、末っ子が部屋で眠ったあと。

三人の娘たちはこっそり集まりました。

長女が言いました。

「あのがちょうの羽、本物の金みたい。」

次女もうなずきます。

「一本くらいもらってもわからないんじゃない?」

三女も目を輝かせました。

「私も欲しい。」

三人はそっと末っ子の部屋へ近づきました。

しーん……。

宿屋は静まり返っています。

長女が金のがちょうへ手を伸ばしました。

「一本だけ……。」

羽をつまんだ――。

その瞬間。

ぺたり。

「え?」

長女の手が、がちょうから離れなくなりました。

「ちょっと!」

手を引っ張ります。

「取れない!」

「何してるの?」

次女が長女の腕をつかみました。

ぺたり。

「えっ?」

今度は次女の手が長女から離れません。

「私まで!」

「どうしたの?」

三女が二人を助けようと手を伸ばしました。

ぺたり。

「あっ!」

三人は、

がちょう――長女――次女――三女、

と、つながってしまいました。

「どうしよう!」

「離れない!」

どれだけ引っ張っても取れません。

その騒ぎにも気づかず、末っ子はぐっすり眠っていました。

やがて朝になりました。

末っ子は目を覚ましました。

「よく寝た。」

金のがちょうを抱え、宿屋を出ます。

「さあ、行こう。」

ところが――。

ずるっ。

「きゃっ!」

がちょうにくっついている三人の娘も、一緒に引っ張られていきました。

末っ子は後ろを振り返りました。

「え?」

三人の娘が縦につながっています。

「どうして皆さん、ついてくるんですか?」

「私たちだって、ついていきたいわけじゃありません!」

「離れないんです!」

末っ子は困りました。

けれど、どうすることもできません。

「と、とりあえず歩きましょうか。」

こうして末っ子の後ろを、三人の娘たちがついて歩くことになりました。

町の人たちは、その様子を見て大笑いです。

「なんだ、あの行列は!」

「娘さんたちがつながっているぞ!」

そこへ、一人の男がやってきました。

「何をふざけているんだ。」

男は一番後ろの娘を引き離そうとしました。

「ほら、離れなさい。」

ぺたり。

「あっ。」

男の手も離れなくなりました。

「なんだこれは!」

さらに別の人が助けようとします。

「何をしているんだ。貸してみろ。」

ぺたり。

「うわっ!」

また一人。

その人を引っ張った人も、

ぺたり。

また一人。

「離せ!」

「そっちこそ離せ!」

「私は何もしてない!」

末っ子の後ろには、どんどん人がつながっていきました。

金のがちょう。

三人の娘。

男。

その男を助けようとした人。

さらにその人を助けようとした人。

気がつけば、町を横切るほどの大行列です。

末っ子は先頭で困った顔をしていました。

「どうしてこんなことになったんだろう。」

後ろでは、

「待ってくれ!」

「引っ張らないで!」

「足を踏んだぞ!」

と大騒ぎです。

その行列が、やがて大きなお城の前へやってきました。

その国のお城には、一人のお姫さまが住んでいました。

お姫さまは美しく、優しい人でした。

けれど、長い間、一度も笑うことがありませんでした。

どんなに面白い話を聞いても、

どんなに楽しい音楽を聞いても、

どんな芸人がやってきても、

お姫さまは笑いません。

王様は心配していました。

「どうしたら、あの子はもう一度笑ってくれるのだろう。」

その日も、お姫さまは城の窓から静かに町を眺めていました。

すると――。

遠くから何やら騒がしい声が聞こえてきます。

「離れろー!」

「離れられないんだ!」

「押さないで!」

お姫さまは不思議に思い、窓から身を乗り出しました。

そこへ現れたのは――。

金色に輝くがちょうを抱えた一人の若者。

その後ろに三人の娘。

さらに何人もの大人たち。

みんなが一列につながり、右へよろよろ。

左へよろよろ。

一人が転びそうになると、全員が、

「わあっ!」

と傾きます。

また立ち直ると、今度は反対側へ、

「おっとっと!」

お姫さまは目を丸くしました。

そして――。

「ふふっ。」

小さな声が漏れました。

お姫さま自身が驚きました。

口元を押さえます。

ところが行列では、一人が石につまずきました。

「うわっ!」

すると後ろの人たちも、

「うわっ!」

「きゃあ!」

「待って!」

と次々に引っ張られます。

その姿を見たお姫さまは、もう我慢できませんでした。

「あはははは!」

城いっぱいに、お姫さまの笑い声が響きました。

「あはは! おかしい!」

何年もの間、誰も聞いたことのなかった笑い声です。

王様は驚いて部屋へ駆け込んできました。

「どうした!」

そして笑っているお姫さまを見て、立ち止まりました。

「笑っている……。」

王様の目に涙が浮かびました。

「お姫さまが笑った!」

城の人たちも集まってきました。

「本当だ!」

「お姫さまが笑っている!」

お城は大騒ぎになりました。

王様はすぐに、金のがちょうを抱えた末っ子を城へ招きました。

しばらくすると、不思議な力は消え、がちょうにつながっていた人たちも一人ずつ離れることができました。

「やっと離れた!」

宿屋の娘たちはほっとしました。

そして、金の羽を取ろうとしたことを恥ずかしそうに謝りました。

「ごめんなさい。」

末っ子は笑いました。

「もう大丈夫ですよ。」

王様は末っ子に尋ねました。

「どうやって、この金のがちょうを手に入れたのだ?」

末っ子は森で起きたことを話しました。

お腹をすかせた老人と出会ったこと。

自分のパンと飲み物を分けたこと。

老人から古い木を教えてもらったこと。

そして、その木の根元から金のがちょうが現れたこと。

王様は黙って話を聞きました。

「そうか。」

「お前は、何かをもらおうと思って老人へ食べ物を分けたのではないのだな。」

「はい。」

末っ子は答えました。

「お腹がすいていると言っていたので、一緒に食べただけです。」

王様は大きくうなずきました。

「それができる者は、なかなかいない。」

お姫さまも末っ子を見ていました。

「あなたは不思議な人ですね。」

「僕がですか?」

「ええ。」

お姫さまは笑いました。

「あなたが来てから、お城の中まで明るくなったような気がします。」

末っ子も笑いました。

「それなら、よかったです。」

それから末っ子は、何度もお城を訪れるようになりました。

お姫さまと話をし、

町を歩き、

困っている人を見つければ一緒に手を貸しました。

お姫さまも、少しずつ城の外へ出るようになりました。

子どもたちと話し、

村の人たちと笑い、

たくさんの人と触れ合いました。

やがて、お姫さまは末っ子と一緒にいる時間を何より楽しみにするようになりました。

そして末っ子も、お姫さまの笑顔を見ることが嬉しくなりました。

王様は二人を温かく見守りました。

やがて二人は結婚しました。

けれど末っ子は、立派な暮らしをするようになっても変わりませんでした。

困っている人を見つければ手を差し伸べ、

食べ物に困っている人がいれば分け、

誰に対しても変わらず優しく接しました。

お姫さまも、そんな末っ子と一緒にたくさんの人を助けました。

そして金のがちょうは、お城の庭で大切に暮らしました。

晴れた日には、その金色の羽が太陽の光を受けて、きらきらと輝きました。

お姫さまがその姿を見るたびに笑うと、末っ子も一緒になって笑いました。

二人の笑い声は、いつまでも明るいお城に響いていたそうです。

おしまい。


登場人物

末っ子

三人兄弟の末っ子。穏やかで思いやりがあり、困っている人へ見返りを求めず自然に手を差し伸べます。森で老人に食べ物を分けたことから、金のがちょうを手に入れます。

金のがちょう

全身が金色に輝く不思議ながちょう。羽に触れた人を次々とくっつけてしまう力を持っています。その不思議な力が、やがてお姫さまの笑顔を取り戻すきっかけになります。

老人

森で三人兄弟の前に現れる不思議な人物。お腹をすかせた自分へ食べ物を分けてくれた末っ子に、古い木を切るよう教えます。

長男・次男

自分の食べ物が減ることを嫌がり、森で出会った老人の頼みを断ります。自分に自信を持っていますが、森での仕事はうまくいきません。

宿屋の三人娘

金のがちょうの美しい羽を欲しがり、こっそり抜こうとしたことで、がちょうにくっついて離れなくなってしまいます。

お姫さま

長い間笑うことができずにいましたが、金のがちょうにつながった人々の不思議な行列を見て、久しぶりに心から笑います。

王様

娘であるお姫さまが笑わなくなったことを心配しています。お姫さまの笑顔を取り戻した末っ子の人柄を知り、温かく二人を見守ります。


教訓

  • 見返りを求めない親切が、思いがけない幸せにつながることがある。
  • 自分の持っているものを誰かと分ける優しさは、人との新しいつながりを生む。
  • 金の羽を欲しがった娘たちのように、欲しいという気持ちだけで行動すると困ったことにつながる場合がある。
  • 人を笑顔にするのは、立派な物やお金だけではなく、人との楽しい関わりや温かな気持ちである。
  • 人の優しさや明るさは、自分だけでなく周りの人にも広がっていく。

親子で話したいポイント

  • 末っ子は、どうして老人に食べ物を分けてあげたのかな?
  • 長男・次男と末っ子では、老人への接し方がどう違っていた?
  • 宿屋の娘たちは、どうして金のがちょうにくっついてしまったのだろう?
  • もし金色のがちょうを見つけたら、どんな気持ちになる?
  • お姫さまは、どうして不思議な行列を見て笑ったのかな?
  • 誰かを笑顔にできて、自分も嬉しくなったことはある?
  • 自分が持っているものを誰かと分けた経験はあるかな?

保育士向け活用ポイント

劇遊びや表現活動に
金のがちょうを先頭に、登場人物が「ぺたり」と次々につながっていく場面は、身体表現を楽しみやすい場面です。人数を増やしやすいため、クラス全体で取り組む劇遊びにも適しています。

思いやりや親切について考える
長男・次男と末っ子の行動を比べながら、「困っている人に出会ったらどうする?」と子どもたちと話し合うことができます。

「分ける」という経験につなげる
末っ子が自分の食べ物を老人と分け合う場面から、おもちゃや遊びの場所、材料などを友だちと分けることについて考えるきっかけになります。

欲しい気持ちとの付き合い方を考える
金の羽を欲しがった宿屋の娘たちの場面から、「欲しいと思ったとき、どうしたらいい?」と、相手のものを勝手に取らないことや気持ちを言葉で伝えることにつなげられます。

笑顔や感情をテーマにした活動に
笑うことができなかったお姫さまが笑顔を取り戻す場面を通して、「どんなときに笑顔になる?」と子どもたち自身の気持ちを振り返る活動に活用できます。

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