ピノッキオの冒険|世界の名作・昔話(イタリア文学)

世界の名作・昔話

あらすじ

むかし、ゼペットさんという木彫り職人がいました。

ある日、ゼペットさんが木を彫って一体の人形を作ると、不思議なことにその人形が動き始めました。

人形の名前は、ピノッキオ。

ゼペットさんはピノッキオを本当の子どものように大切にし、学校へ行って勉強するように言います。

ところがピノッキオは、学校へ向かう途中で面白そうなものを見つけるたびに寄り道をしてしまいます。

楽しいことや甘い言葉に誘われ、悪い人にだまされたり、困った出来事に巻き込まれたり。

さらに、嘘をつくと鼻がどんどん伸びてしまうという不思議なことまで起こります。

何度も失敗を繰り返すピノッキオでしたが、その経験の中で、正直でいることや約束を守ること、そして大切な人を思いやることを少しずつ学んでいきます。

本文

むかし、ある町にゼペットさんという木彫り職人がいました。

ゼペットさんは木を削ったり、彫ったりして、さまざまなものを作って暮らしていました。

ある日のことです。

ゼペットさんは、一つの木を手に取りました。

「この木で、人形を作ってみよう。」

ゼペットさんは道具を取り出しました。

こつこつ。

とんとん。

少しずつ木を削っていきます。

まずは頭。

それから体。

腕を作り、足を作り、最後に顔を丁寧に彫りました。

やがて、一体のかわいらしい木の人形が出来上がりました。

ゼペットさんは満足そうに人形を眺めました。

「よし。お前の名前はピノッキオにしよう。」

そのときです。

ぴくっ。

「ん?」

ゼペットさんは人形を見ました。

今、何かが動いたような気がします。

すると――。

ぱちっ。

人形が目を開けました。

「えっ!」

ゼペットさんはびっくりしました。

人形は首を動かし、自分の手を不思議そうに眺めています。

そして、ぎこちなく足を動かしました。

「動いている……!」

木で作ったはずの人形が、自分の力で動いているのです。

ピノッキオはゼペットさんを見上げました。

「お父さん。」

ゼペットさんはさらに驚きました。

「しゃべった!」

けれど驚きは、すぐに喜びへ変わりました。

ゼペットさんはピノッキオを本当の子どものように大切にすることにしました。

「ピノッキオ。これからいろいろなことを覚えていくんだよ。」

「何をすればいいの?」

「学校へ行って、勉強するんだ。」

「学校?」

「そうだ。いろいろなことを学んで、立派な人になるんだよ。」

ピノッキオはうなずきました。

「分かった。ぼく、学校へ行くよ!」

ゼペットさんはうれしそうに笑いました。

そして学校へ行くための準備を整えてくれました。

次の日。

ピノッキオは元気よく家を出ました。

「行ってきます!」

「寄り道しないで行くんだよ。」

「はーい!」

ピノッキオは学校へ向かって歩き始めました。

とことこ。

とことこ。

最初は、まっすぐ学校へ向かっていました。

ところが――。

「ん?」

どこからか楽しそうな音が聞こえてきました。

にぎやかな声。

楽しそうな音楽。

ピノッキオは足を止めました。

「なんだろう?」

学校へ行かなければならないことは分かっています。

けれど、楽しそうなものが気になって仕方ありません。

「ちょっと見るだけならいいよね。」

ピノッキオは学校とは違う方向へ歩いていきました。

「学校より、こっちのほうが楽しそうだ。」

ほんの少しだけのつもりでした。

けれど、ピノッキオはそのまま寄り道をしてしまいました。

そして、それは一度だけではありませんでした。

面白そうなものを見つけると、そちらへ行ってしまう。

誰かから楽しそうな話を聞けば、すぐについていってしまう。

「こっちへおいでよ。」

「楽しいことがあるよ。」

そんな言葉を聞くたび、ピノッキオは心を動かされました。

「本当に?」

まだ世の中のことをよく知らないピノッキオは、相手の言葉をすぐに信じてしまいます。

そのため、悪い人にだまされることもありました。

「こんなはずじゃなかったのに……。」

楽しいことをしようと思っただけなのに、気がつけば困ったことになっている。

そんな失敗を、ピノッキオは何度も繰り返しました。

そして、困ったことが起きると――。

ピノッキオはつい、自分を守るために嘘をついてしまうことがありました。

「ぼくは何もしていないよ。」

すると。

にょきっ。

「え?」

ピノッキオは自分の顔に違和感を覚えました。

鼻を触ってみます。

「なんだ、これ?」

鼻が少し長くなっています。

けれどピノッキオは、また嘘をつきました。

「本当だよ。ぼくは嘘なんてついていない。」

にょきっ。

「ええっ!」

鼻がまた伸びました。

「どうして?」

ピノッキオは慌てます。

「どうして鼻がこんなに長くなったんだろう?」

嘘を重ねるたびに――。

にょき。

にょき。

鼻はどんどん長くなっていきます。

「困ったよ!」

ピノッキオは、自分でもどうしたらいいのか分からなくなりました。

失敗を隠そうとして嘘をついたのに、その嘘のせいで、もっと困ったことになってしまったのです。

ピノッキオの冒険には、そんな出来事が何度もありました。

「勉強するより遊ぶほうが楽しい。」

「面倒なことはしたくない。」

「きっと大丈夫。」

そう思って楽なほうへ進むたびに、思いがけない困難が待っていました。

そして困ったことになるたび、ピノッキオは少しずつ考えるようになりました。

「どうして、いつもこうなるんだろう……。」

最初は、運が悪かっただけだと思っていました。

けれど、何度も失敗するうちに気づき始めます。

誰かの言葉を何も考えずに信じてしまったこと。

約束を守らなかったこと。

自分の失敗を隠すために嘘をついたこと。

「ぼくが自分で選んだことなんだ……。」

ピノッキオは少しずつ、自分の行動を振り返るようになりました。

そんなある日のこと。

ピノッキオは、ふとゼペットさんのことを思い出しました。

自分を作ってくれたゼペットさん。

学校へ行けるように準備してくれたゼペットさん。

「寄り道しないで行くんだよ。」

家を出たときの言葉も思い出しました。

ピノッキオは、胸がきゅっとなるような気持ちになりました。

「お父さん……。」

ゼペットさんは、自分が帰ってこないことを心配しているかもしれません。

悲しんでいるかもしれません。

今までのピノッキオなら、困ったことが起きると逃げ出したり、誰かに助けてもらおうとしたりしていました。

けれど今度は違いました。

「お父さんを悲しませたくない。」

ピノッキオは決心しました。

「ぼくが行かなくちゃ。」

怖いことがあっても。

大変なことがあっても。

今度は逃げない。

ピノッキオは勇気を出して行動しました。

もちろん、急に何もかも上手にできるようになったわけではありません。

間違えることもあります。

迷うこともあります。

「どうしたらいいんだろう。」

そんなとき、ピノッキオは以前より少しだけ立ち止まって考えるようになりました。

これは本当にやっていいことなのか。

約束したことを忘れていないか。

誰かを悲しませることにならないか。

少しずつ。

本当に少しずつですが、ピノッキオは変わっていきました。

自分のことばかり考えていたピノッキオが、誰かの気持ちを考えるようになりました。

楽しいことだけを選んでいたピノッキオが、大変なことにも向き合うようになりました。

嘘でごまかそうとしていたピノッキオが、正直に話そうとするようになりました。

そして何より――。

ピノッキオは、自分を大切にしてくれたゼペットさんのことを思いやれるようになっていきました。

「お父さん。」

ピノッキオは、これまでの冒険を思い返しました。

学校へ行くはずだったのに寄り道をしたこと。

楽しい話につられてしまったこと。

人にだまされたこと。

嘘をついて鼻が伸びたこと。

困って、迷って、失敗したこと。

どれも楽しいことばかりではありませんでした。

けれど、その一つひとつを経験したからこそ、ピノッキオは少しずつ変わることができたのです。

木から作られたばかりのころには知らなかったことを、今のピノッキオはたくさん知っています。

誰かを大切に思う気持ち。

約束を守ろうとする気持ち。

間違えたときに、もう一度やり直そうとする気持ち。

ピノッキオは、これからも失敗することがあるかもしれません。

それでも、もう以前のピノッキオとは少し違います。

失敗したら、そこからまた考えればいい。

間違えたら、やり直せばいい。

ピノッキオはたくさんの冒険を通して、少しずつ成長していきました。

おしまい。

登場人物

ピノッキオ
ゼペットさんが木から作った人形の少年。不思議な力によって動き始めます。好奇心が強く、楽しいことや甘い誘いに心を動かされて何度も失敗しますが、さまざまな経験を通して少しずつ成長していきます。

ゼペットさん
ピノッキオを作った木彫り職人。動き始めたピノッキオを本当の子どものように大切にし、学校へ行ってさまざまなことを学んでほしいと願っています。

妖精
ピノッキオの成長を見守る不思議な存在。失敗を繰り返すピノッキオが、自分の行動について考えていくきっかけを与えます。

教訓

失敗すること自体が悪いのではなく、その経験から何を学び、次にどう行動するかが大切。

自分を守るためについた嘘でも、さらに大きな困りごとにつながってしまうことがある。

自分のことだけでなく、大切な人の気持ちを考えて行動することが成長につながる。

親子で話したいポイント

ピノッキオは、どうして学校へ行かずに寄り道をしてしまったのかな?

ピノッキオは、なぜ困ったときに嘘をついてしまったのだろう?

失敗してしまったとき、どうしたらもう一度やり直せるかな?

楽しそうなことに誘われたとき、すぐについていっても大丈夫かな?

誰かのために頑張ったり、勇気を出したりしたことはある?

保育士向け活用ポイント

「失敗しても、そこから学び直すことができる」ということを考える題材として活用できます。

ピノッキオの行動を「悪いことをしたから叱られる」という見方だけで終わらせず、「どうして寄り道したくなったのかな?」「どうして嘘をついてしまったのかな?」と、そのときの気持ちを子どもたちと考えることで、自分自身の経験にも結びつけやすくなります。

また、約束を守ることや正直に話すことについて考える際にも、「守れなかったらどうする?」「本当のことを言いにくいときはどうしたらいい?」と、失敗したあとの行動まで一緒に考える活動へつなげられます。

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