あらすじ
むかし、家族を失い、わずかな食べ物と着ている服だけを持って旅をする一人の少女がいました。
少女は自分も決して恵まれてはいませんでしたが、旅の途中で困っている人に出会うたび、自分の持っているものを惜しまず分け与えていきます。
やがて少女の手元には、ほとんど何も残らなくなりました。
それでも優しい心を失わなかった少女が夜空を見上げると、不思議なことが起こります。
きらきらと輝く星々が、銀貨のようになって空から降り始めたのです。
本文
むかしむかし、あるところに一人の少女がいました。
少女は家族を失い、一人ぼっちになってしまいました。
立派な家もありません。
たくさんのお金もありません。
少女が持っているものといえば、着ている服と、わずかな食べ物だけでした。
それでも少女は、自分の足で歩いていこうと決めました。
小さな荷物を持ち、少女は旅に出ました。
てくてく。
てくてく。
どこまで行けばよいのか、少女にも分かりません。
けれど立ち止まっているわけにもいかず、野原を越え、森のそばを通り、長い道を歩いていきました。
しばらくすると、道の向こうから一人の子どもがやってきました。
子どもはお腹を押さえています。
そして少女を見ると、力のない声で言いました。
「お腹がすいているの。何か食べるものを持っていない?」
少女は自分の持っている食べ物を見ました。
これを渡してしまえば、自分が食べる分は少なくなってしまいます。
少女もお腹がすいていました。
けれど、目の前の子どもも困っています。
少女は食べ物を取り出しました。
「どうぞ。」
「いいの?」
「うん。一緒に食べよう。」
少女は自分の食べ物を分けました。
「ありがとう。」
子どもはうれしそうに食べました。
少女も、その顔を見て少しうれしくなりました。
そして再び歩き始めました。
てくてく。
てくてく。
しばらくすると、今度は寒そうにしている人に出会いました。
風が吹くたび、その人は体を小さく縮めています。
「寒い……。」
少女は立ち止まりました。
そして自分の服を見ました。
少女だって寒くないわけではありません。
けれど、目の前の人はもっと寒そうです。
「これを使ってください。」
少女は自分が持っていた服の一つを渡しました。
「でも、あなたも寒いでしょう?」
「私は大丈夫です。」
その人は服を受け取ると、何度も少女にお礼を言いました。
「ありがとう。本当にありがとう。」
少女は小さく手を振り、また歩き始めました。
旅を続けていると、少女はさらに別の人と出会いました。
その人も困っていました。
少女はまた、自分の持っているものを分けました。
その次に出会った人にも。
また、その次の人にも。
一つ。
また一つ。
少女の持ち物は少なくなっていきました。
けれど、困っている人に出会うたび、少女は立ち止まりました。
「これをどうぞ。」
「本当にいいのですか?」
「はい。」
そうしているうちに、少女の手元には、ほとんど何も残らなくなりました。
やがて日が沈み始めました。
空が赤く染まり、少しずつ暗くなっていきます。
少女は一人で歩き続けました。
辺りには家もありません。
人の姿もありません。
そして、とうとう夜になりました。
しん……。
辺りは静まり返っています。
少女は立ち止まりました。
自分の手を見ると、もう渡せるものはほとんど残っていません。
食べ物もありません。
持ち物もありません。
それでも少女は、誰かに渡したことを後悔してはいませんでした。
「みんな、少しは困らなくなったかな……。」
少女はそうつぶやきました。
そして、ふと空を見上げました。
そこには、数え切れないほどの星が輝いていました。
きらきら。
きらきら。
暗い夜空いっぱいに、小さな光が瞬いています。
「きれい……。」
少女はじっと星を見つめました。
すると――。
一つの星が、いつもより強く光りました。
きらん。
「あれ?」
少女が見つめていると、その光がゆっくりと空から落ちてきます。
そして少女の足元へ――。
ころん。
何かが落ちました。
少女はしゃがんで拾い上げました。
「これは……?」
手のひらの上で輝いていたのは、銀貨でした。
少女が驚いて空を見上げると――。
きらん。
きらきら。
今度は一つではありません。
夜空から、銀貨のように輝く星々が次々と降ってきました。
きらきら。
ころん。
きらん。
ころころ。
暗かった野原が、星の光で明るくなっていきます。
少女は目を丸くしました。
「わあ……。」
銀貨は少女の周りへ、まるで光の雨のように降り注ぎました。
ついさっきまで、少女の手元には何もありませんでした。
それなのに今、足元にはたくさんの銀貨が輝いています。
少女は一枚の銀貨をそっと拾い上げました。
冷たい銀貨が、星明かりを受けてきらりと光ります。
少女はもう一度、空を見上げました。
満天の星が、変わらず静かに輝いています。
少女は両手で銀貨を大切に抱えました。
そして、しばらくのあいだ、美しい星空を見上げていました。
きらきら。
きらきら。
少女の頭の上では、夜が明けるまでたくさんの星が輝き続けていました。
おしまい。
登場人物
少女
家族を失い、わずかな持ち物だけを持って旅をする主人公。自分も困っている中で、出会った人々に食べ物や服を分け与えます。
困っている人々
少女が旅の途中で出会う人たち。食べ物がなかったり、寒さに困っていたりし、少女から助けてもらいます。
教訓
自分だけではなく、困っている人を思いやる心を大切にする。
持っているものを分け合うことで、相手だけではなく自分の心も温かくなることがある。
誰かに優しくすることは、見返りを求めるためではなく、相手を思う気持ちから生まれる。
親子で話したいポイント
少女は自分もたくさん持っていなかったのに、どうして人に分けてあげたのかな?
自分が誰かに分けてもらって、うれしかったことはある?
友達や家族と分けて使えるものには、どんなものがあるかな?
誰かを助けたとき、自分はどんな気持ちになる?
保育士向け活用ポイント
「思いやり」や「分かち合うこと」について考える物語として活用できます。
おもちゃを貸す、おやつを分ける、困っている友達を手伝うなど、子どもたちの日常生活にある具体的な場面と結びつけることで、相手の気持ちを考える活動につなげられます。
また、少女が見返りを求めずに自分のできることをしている点に注目し、「優しくするとはどういうことだろう」と子どもたちと話し合うきっかけにもできます。


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