あらすじ
むかし、ある国の王さまには三人の息子がいました。
王さまは、自分のあとを継いで国を治めるのは誰がふさわしいのか、なかなか決めることができません。
そこで三人の息子に、それぞれ「最もすばらしいもの」を探して持ち帰るように命じました。
進む道を決めたのは、王さまが空へ吹き上げた三本の羽。
二人の兄は遠くへ宝物を探しに向かいますが、兄たちからいつも軽く見られていた末の王子の羽は、すぐ近くへ落ちました。
そこにあったのは、小さな扉。
王子が扉を開けてみると、その向こうには思いがけないものが待っていました。
本文
むかしむかし、ある国に一人の王さまがいました。
王さまには三人の息子がいました。
三人とも大きくなり、そろそろ王さまは考えなければならなくなりました。
「私のあとを継いで、この国を治めるのは誰がよいだろう。」
二人の兄は、自分たちこそ王さまになるのにふさわしいと思っていました。
何をするにも自信たっぷりで、弟のことをあまり頼りになるとは思っていません。
一方、末の王子は兄たちのように自分を大きく見せることはありませんでした。
いつも静かで、自分の考えた道を進む王子でした。
けれど兄たちは、そんな弟を軽く見ていました。
「お前に何ができるんだ?」
「王さまになるなんて、とても無理だろう。」
そう言われても、末の王子は言い返しませんでした。
ある日、王さまは三人の息子を呼びました。
「お前たちに、一つ課題を出そう。」
三人の王子は王さまの前に集まりました。
王さまは三本の羽を手にしています。
「これから、この三本の羽を空へ飛ばす。」
そして王さまは言いました。
「それぞれの羽が落ちた方向へ進み、そこから最もすばらしいものを持ち帰りなさい。」
「最もすばらしいもの……?」
三人の王子は顔を見合わせました。
王さまは外へ出ると、三本の羽を空へ向かって吹き上げました。
ふわり。
ふわふわ。
三本の羽は風に乗って舞い上がりました。
一枚は東のほうへ。
もう一枚は西のほうへ。
二人の兄は、それぞれ羽を追いかけて歩き始めました。
「きっと遠くへ行けば、立派な宝物が見つかるぞ。」
「誰も見たことがないようなものを持って帰ってやる。」
兄たちは張り切って出発しました。
ところが――。
末の王子が追いかける羽だけは、ほとんど遠くへ飛びませんでした。
ふわり。
くるくる。
そして王子のすぐ近くへ、静かに落ちてしまったのです。
末の王子は羽を拾いました。
「ここ……?」
周りを見回しても、立派な建物などありません。
宝物がありそうな場所にも見えません。
遠くへ向かっていく兄たちが振り返りました。
「なんだ、お前の羽はそこに落ちたのか。」
「それじゃあ、何も見つからないな。」
二人は笑いながら、それぞれの道へ進んでいきました。
末の王子は一人、その場に残されました。
「どうしよう……。」
けれど、王さまは「羽が落ちた場所へ行きなさい」と言いました。
ならば、ここをよく調べてみよう。
王子は羽の落ちた辺りをゆっくり歩きました。
すると――。
草の陰に、何かが見えました。
「なんだろう?」
しゃがんで草をかき分けてみると、そこには小さな扉がありました。
人が普通に出入りするような大きな扉ではありません。
地面のそばに、ひっそりと作られた小さな扉です。
「こんなところに扉が……。」
王子は不思議に思いました。
兄たちなら、気づかずに通り過ぎていたかもしれません。
王子は扉の前にしゃがみました。
そして、そっと手をかけます。
ぎいっ……。
小さな扉が開きました。
その向こうには、外からでは想像もできなかった場所が広がっていました。
「こんなところがあったなんて……。」
王子は驚きながら、その中を進んでいきました。
そこには、見た目の大きさだけでは分からない、すばらしいものがありました。
王子は一つ一つをじっくりと眺めました。
派手だからすばらしいわけではありません。
大きいから価値があるわけでもありません。
王子は自分の目でよく見て、その中から大切だと思うものを選びました。
「これを王さまに見てもらおう。」
王子は大切にそれを持ち、城へ戻りました。
やがて二人の兄も帰ってきました。
兄たちは、自分たちが見つけたものを得意そうに見せました。
「どうだ。立派だろう。」
「これなら、きっと私が一番だ。」
そして末の王子が持ち帰ったものを見ると、二人は笑いました。
「なんだ、それは?」
「そんな小さなものが何になる?」
兄たちは、自分たちのほうがずっとすばらしいものを見つけたと思っていました。
けれど末の王子は、何も言い返しません。
自分が見つけたものを、静かに王さまの前へ差し出しました。
王さまはそれを手に取りました。
そして、じっくりと眺めます。
兄たちは、王さまが笑うだろうと思っていました。
ところが――。
王さまの目が大きく開きました。
「これは……。」
王さまは、もう一度その品をよく見ました。
「これは本当にすばらしい。」
二人の兄は驚きました。
「えっ?」
「どうしてですか?」
王さまは、末の王子が持ち帰ったものの価値をきちんと見抜いていました。
末の王子は、兄たちのように遠くへ行ったわけではありません。
誰よりも大きなものを探したわけでもありません。
目立つものだけを選んだわけでもありません。
ただ、自分の羽が落ちた場所をよく見て、そこにあった小さな扉に気づきました。
そして、その扉の向こうにあるものを自分の目で確かめたのです。
末の王子は、王さまから認められました。
兄たちはもう、何も言うことができませんでした。
末の王子は、自分が持ち帰ったものを静かに見つめました。
あの小さな扉を見つけたとき、兄たちの笑い声を気にして諦めていたら、決して出会えなかったものです。
王子はうれしそうに微笑みました。
おしまい。
登場人物
末の王子
二人の兄から軽く見られていても、自分の進む道を静かに歩く王子。羽が落ちた場所にある小さな扉を見つけ、その向こうから価値のあるものを持ち帰ります。
二人の兄
自信があり、末の王子を軽く見ている兄たち。遠くへ行き、大きく立派なものを探そうとします。
王さま
三人の息子の父親。誰が国を継ぐのにふさわしいかを考え、三本の羽を使って息子たちに課題を与えます。
教訓
周りの人と比べるだけではなく、自分なりの良さや価値に気づくことが大切。
大きいもの、高価なもの、目立つものだけに価値があるとは限らない。
周りの評価に流されず、自分の目でよく見て考えることが大切。
親子で話したいポイント
末の王子は、どうして小さな扉を見つけることができたのかな?
兄たちは、どうして末の王子が持ち帰ったものを笑ったのだろう?
大きくなくても、自分が大切にしているものはある?
友達と比べなくても、「自分のここが好き」と思えるところはあるかな?
いつもは気づかない小さなものを見つけたことはある?
保育士向け活用ポイント
「大きい・小さい」「目立つ・目立たない」といった分かりやすい違いだけで価値を決めないことや、一人ひとりにそれぞれの良さがあることを考える題材として活用できます。
子ども同士を比べるのではなく、「自分が見つけたもの」「自分が好きなもの」「自分が得意なこと」などを発表する活動につなげることで、自己肯定感を育むきっかけにもなります。
また、園庭や散歩先で「小さなもの探し」を行い、葉っぱの模様、小石、虫、花のつぼみなど、普段は見過ごしてしまうものを探す探索活動へ発展させることもできます。


コメント