あらすじ
むかし、三人の王子がいました。
二人の兄は森の小さな生き物を面白半分に困らせようとしますが、末の王子だけは「小さな命も大切にしよう」と兄たちを止めます。
やがて三人は、不思議な城へたどり着きました。
そこで待っていたのは、自分たちの力だけでは解くことが難しい試練でした。
困り果てた末の王子のもとへ現れたのは、かつて王子が大切にしたアリや蜂たち。
小さな生き物たちが力を合わせ、王子を助けてくれる物語です。
本文
むかしむかし、ある国に三人の王子がいました。
三人の王子は、ある日、そろって旅に出ることになりました。
町を離れ、野原を越え、やがて三人は大きな森へ入りました。
森の中には、たくさんの生き物が暮らしています。
鳥の声が聞こえ、木々の間では小さな虫たちが動き回っていました。
しばらく歩いていると、三人は大きなアリの巣を見つけました。
たくさんのアリが、せっせと食べ物を運んでいます。
一匹が運べるものはほんのわずかです。
それでも何匹ものアリが力を合わせ、巣と森の間を行ったり来たりしていました。
それを見た一番上の兄が言いました。
「この巣を崩したら、アリたちはどうするかな?」
もう一人の兄も面白そうに笑いました。
「慌てて逃げ回るんじゃないか?」
二人がアリの巣へ近づこうとしたとき、末の王子が止めました。
「やめようよ。」
「どうしてだ?」
「アリたちは何も悪いことをしていないでしょう。」
末の王子は足元を歩くアリたちを見ました。
「こんなに小さくても、一生懸命生きているんだ。そっとしておこう。」
兄たちは少し不満そうでしたが、アリの巣を壊すのはやめました。
三人は再び森の中を進みます。
木漏れ日の差す道を歩いていると、今度は木の枝に蜂の群れを見つけました。
ぶんぶん。
ぶんぶん。
たくさんの蜂が飛び交っています。
兄たちは、また興味を持ちました。
「蜂を追い払ってみようか。」
「巣を落としたら面白そうだ。」
けれど末の王子は、また二人を止めました。
「だめだよ。」
「またか?」
「蜂だって、ここで暮らしているんだ。何もしないなら、こちらから困らせる必要はないよ。」
末の王子は蜂たちを刺激しないよう、静かにその場を離れました。
ぶんぶん……。
蜂たちは、何事もなかったように飛び続けています。
それから三人は、さらに森の奥へ進みました。
どれほど歩いたでしょう。
木々の向こうに、大きな建物が見えてきました。
「城だ。」
森の中に、古い城が建っていたのです。
けれど、どこか様子がおかしい城でした。
人の声がしません。
門の前にも、見張りの兵士はいません。
しん……。
風が吹き抜ける音だけが聞こえています。
三人は顔を見合わせました。
「誰かいるのかな?」
おそるおそる城の中へ入ってみました。
ぎいっ……。
大きな扉がゆっくりと開きます。
中は静まり返っていました。
長い廊下。
大きな部屋。
立派な家具。
けれど、どこを探しても人の姿がほとんどありません。
「なんだか不思議な城だな。」
三人は城の中を調べていきました。
やがて、この城には難しい課題があり、それを解かなければならないことが分かりました。
兄たちは自信満々でした。
「そんなもの、簡単だ。」
「俺たちならすぐにできる。」
ところが、実際に課題に取りかかってみると、思ったようにはいきません。
探さなければならない小さなものが、あまりにもたくさんありました。
広い場所に散らばったものを、一つずつ見つけるだけでも大変です。
「こんなの無理だ。」
「どこにあるのか分からないぞ。」
兄たちはすっかり困り果ててしまいました。
末の王子も考えました。
けれど、一人の力ではどうにもなりそうにありません。
「どうしよう……。」
王子が途方に暮れていると――。
かさかさ。
足元から小さな音が聞こえてきました。
「ん?」
王子が地面を見ると、一匹のアリが歩いています。
その後ろから、もう一匹。
さらにもう一匹。
かさかさ。
かさかさ。
気がつけば、たくさんのアリが集まっていました。
王子は驚きました。
「もしかして、あのときの……?」
アリたちは次々と動き始めました。
一匹では運べないものも、何匹かで力を合わせます。
小さなものを見つけては、一つ。
また一つ。
せっせと集めていきました。
王子は目を丸くしました。
「すごい……。」
あれほど難しいと思っていた課題が、アリたちの力によって少しずつ片づいていきます。
小さな体のアリたちが、みんなで力を合わせているのです。
そして、また別の課題が王子を待っていました。
王子は考えましたが、今度も簡単には答えが分かりません。
そのとき――。
ぶうん。
どこからか羽音が聞こえてきました。
ぶんぶん。
ぶんぶん。
王子が振り返ると、一匹の蜂が飛んでいました。
そして、その後ろから仲間の蜂たちもやってきます。
「蜂たちまで……!」
王子は、森で兄たちを止めたときのことを思い出しました。
蜂たちは王子の周りをしばらく飛び回ると、まるで何かを教えるように動き始めました。
王子はその様子をじっと見つめました。
「もしかして、こっちなの?」
蜂たちの動きを追っていくと、王子は課題を解くための手がかりを見つけることができました。
「分かった!」
こうして末の王子は、アリや蜂たちの力を借りながら、一つずつ難しい課題を乗り越えていきました。
兄たちは驚きました。
「どうしてお前にできたんだ?」
末の王子は答えました。
「僕一人でできたんじゃないよ。」
王子のそばでは、小さなアリたちが歩いています。
頭の上では、蜂たちがぶんぶんと飛んでいました。
「みんなが助けてくれたんだ。」
末の王子は、森で出会ったときのことを思い出しました。
あのときは、いつか助けてもらおうと思って動物たちを守ったわけではありません。
ただ、小さな命をむやみに傷つけたくなかっただけでした。
それでも今、その小さな生き物たちが王子の大きな力になってくれました。
すべての課題を終えると、王子はアリたちに言いました。
「ありがとう。」
そして蜂たちにも言いました。
「君たちのおかげだよ。」
アリたちは、また列を作って歩いていきました。
かさかさ。
かさかさ。
蜂たちも王子の周りを一度くるりと飛ぶと、森のほうへ帰っていきました。
ぶんぶん……。
王子はその小さな姿が見えなくなるまで、静かに見送っていました。
おしまい。
登場人物
末の王子
三人兄弟の末っ子。小さな生き物にも優しく接し、兄たちがアリや蜂を困らせようとするのを止めます。のちに動物たちの助けを借りて難しい課題に挑みます。
二人の兄
森で出会った小さな生き物を面白半分に困らせようとする兄たち。城の難しい課題にも挑みますが、思うように解くことができません。
アリ
末の王子に守られた小さな生き物たち。たくさんの仲間で力を合わせ、王子の課題を助けます。
蜂
森で末の王子に守られた生き物たち。のちに王子の前へ現れ、課題を解く手助けをします。
教訓
どんなに小さな生き物にも命があり、思いやりを持って接することが大切。
親切は見返りを求めてするものではありませんが、思いがけないところで誰かとの助け合いにつながることがある。
一人では難しいことも、それぞれの力を生かして協力すれば乗り越えられることがある。
親子で話したいポイント
末の王子は、どうしてアリや蜂を守ったのかな?
アリたちは、どうやって王子を助けたのだろう?
小さな虫や生き物を見つけたとき、どんなことに気をつけたい?
誰かに優しくしてもらって、うれしかったことはある?
一人では難しかったけれど、誰かと力を合わせてできたことはあるかな?
保育士向け活用ポイント
アリや蜂など身近な昆虫が登場するため、「小さな生き物にも命がある」という自然や環境への関心につなげやすい物語です。
園庭や散歩先で虫を見つけたときに、すぐ捕まえたり傷つけたりするのではなく、「どこで暮らしているのかな」「何をしているのかな」と観察する活動へ発展させることができます。
また、アリたちが仲間と力を合わせる場面から、友達との協力や、それぞれができることを持ち寄ることの大切さについて考える活動にもつなげられます。


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