知恵くらべ(ちえくらべ)

昔話

あらすじ

むかしむかし、知恵をとても大切にする殿様が治める国がありました。

ある日、殿様は「この国には、どれほど知恵のある者がいるのだろう」と考え、国中の人々に難しい問題を出すことにしました。

大人たちが頭を抱えるような問題ばかりでしたが、一人の小さな男の子が名乗り出ます。

「ぼく、やってみてもいいですか?」

縄を使った問題。

風を袋に入れる問題。

そして最後は、「この世で一番重いもの」を持ってくるという問題でした。

男の子は力ではなく、物事をいろいろな角度から考えることで、殿様を驚かせる答えを見つけていきます。


本文

むかしむかし、ある国に、知恵者として知られる殿様がいました。

殿様は幼いころから本を読むことが好きで、珍しい話や新しい知識を聞くことも大好きでした。

城にはたくさんの本が並び、遠くの国から来た旅人を招いて話を聞くこともありました。

けれど殿様が大切にしていたのは、ただ物知りであることだけではありません。

ある日、殿様は家来たちに言いました。

「力の強い者も立派だ。」

「たくさんのことを知っている者も立派だ。」

家来たちはうなずきます。

「だが、困った時に自分の頭で考え、新しい方法を見つけられる者も、この国には必要だと思わぬか?」

「なるほど。」

「そのとおりでございます。」

殿様は腕を組みました。

「この国には、どれほど知恵のある者がいるのだろうな。」

そこで殿様は、国中にお触れを出すことにしました。

翌朝。

村の広場に人々が集められました。

役人が大きな声で読み上げます。

「殿様からのお触れである!」

「身分も年齢も問わぬ!」

「これから出される問題を見事に解いた者には、殿様から褒美を与える!」

「おお!」

村人たちがざわめきました。

「どんな問題だろう。」

「俺なら解けるかもしれんぞ。」

「いやいや、殿様の問題だ。きっと簡単ではないぞ。」

大人も子どもも興味津々です。

そして、最初の問題が発表されました。

「穴の開いていない縄で、大きな木をしばる方法を考えよ。」

村人たちは顔を見合わせました。

「……何だって?」

「穴の開いていない縄?」

「縄には、もともと穴なんて開いていないじゃないか。」

「それでどうやって木をしばるんだ?」

村の大人たちは、さっそく知恵を出し合いました。

普通に縄を結んでみる者。

縄を二重にする者。

木の枝へ引っかけてみる者。

けれど、殿様が求めているような答えにはなりません。

「うーん。」

「分からんなあ。」

一日考えても、

二日考えても、

なかなかよい方法は浮かびませんでした。

そんなある日のことです。

大人たちが大きな木の周りで頭を抱えていると、一人の小さな男の子がやって来ました。

男の子は、しばらく大人たちの様子を眺めていました。

そして言いました。

「ぼく、やってみてもいい?」

大人たちは振り返りました。

「お前が?」

「これは殿様が出した問題だぞ。」

「大人が何日考えても分からないんだ。」

男の子は少し首をかしげました。

「でも、やってみないと分からないよ。」

その話は城にも伝わりました。

殿様は面白がりました。

「子どもだからといって、考えられないとは限らぬ。」

「やらせてみよう。」

男の子は城へ呼ばれました。

庭には、大きな木と一本の長い縄が用意されています。

家来たちが見守る中、男の子はまず木の周りを歩きました。

幹を見て、

縄を触り、

しばらく考えます。

そして――。

「よし。」

男の子は縄を木の幹へ何度もぐるぐると巻きつけました。

家来たちは首をかしげます。

「ただ巻いているだけではないか。」

「それなら誰でも考えるぞ。」

けれど男の子は気にしません。

縄を何度も巻いたあと、木と縄の間に丈夫な枝を一本差し込みました。

そして、その枝を握ります。

「何をするつもりだ?」

男の子は枝を――。

ぐるっ。

ぐるっ。

回し始めました。

すると、巻きつけた縄が少しずつ締まっていきます。

ぐるっ。

ぐるっ。

縄はさらに締まりました。

やがて――。

ぴんっ。

縄は木の幹にしっかりと固定されました。

「おお!」

家来たちから声が上がりました。

「結び目を作っていないぞ。」

「枝を回して締めたのか!」

殿様は木のそばまで歩いていき、縄を確かめました。

「なるほど。」

殿様は楽しそうに笑いました。

「縄を使うとなれば、結ぶものだと思っていた。」

「だが、お前は別の方法を考えたのだな。」

男の子は答えました。

「はい。」

「木から外れなければいいと思ったので、結ぶことだけを考えるのをやめました。」

「ははは!」

殿様は大きく笑いました。

「面白い。」

「では、次の問題もやってみるか?」

「はい!」

次の日。

城の庭には、殿様と家来たち、そして噂を聞きつけた人々が集まっていました。

殿様は男の子へ言いました。

「今度の問題は、少し難しいぞ。」

男の子は殿様を見上げます。

「風を袋に入れて、ここまで持って来い。」

家来たちは顔を見合わせました。

「風を?」

「袋に?」

「そんなこと、できるはずがありません。」

一人の家来が袋を広げてみました。

「ほら。風など見えませんぞ。」

別の家来も言います。

「捕まえることもできません。」

男の子は何も言わず、袋を一枚受け取りました。

「少し行ってきます。」

男の子が向かったのは、城の近くにある小高い丘でした。

丘の上は、いつも風がよく吹いています。

男の子は袋を持ったまま、じっと待ちました。

木の葉が揺れています。

さらさら……。

けれど男の子はまだ動きません。

しばらくすると――。

びゅうっ!

強い風が丘を吹き抜けました。

「今だ!」

男の子は袋の口を大きく広げました。

袋が風を受けて――。

ぶわっ!

大きく膨らみます。

男の子はすぐに袋の口を閉じました。

そして、そのまま城へ戻りました。

「殿様、持ってきました。」

「ほう。」

殿様は袋を見ました。

「それが風か?」

「はい。」

男の子は袋の口を殿様の前へ向けました。

「では、開けます。」

ぱっ。

袋の口を開きます。

すると――。

ふわっ。

中に入っていた空気が押し出され、殿様の顔へ当たりました。

殿様の髪がわずかに揺れます。

一瞬、広間が静かになりました。

そして――。

「ははははは!」

殿様が大笑いしました。

「確かに風を運んできた!」

家来たちも感心しました。

「なるほど。」

「風そのものをつかまえようとするから難しかったのか。」

男の子は言いました。

「見えなくても、袋が膨らめば中に入ったことは分かります。」

殿様は何度もうなずきました。

「よし。」

「ならば最後の問題だ。」

家来たちがざわめきます。

「今度はいったい何だ?」

「もっと難しい問題ではないか?」

殿様は皆を見渡しました。

そして言いました。

「この世で一番重いものを持って来い。」

「一番重いもの……。」

今度の問題には、国中から多くの人が挑戦しました。

最初にやって来たのは、力自慢の男です。

「これこそ一番重いものです!」

男は大きな石を抱えていました。

顔を真っ赤にしながら――。

どすん!

石を庭へ置きます。

「どうです、殿様!」

次にやって来たのは農家の男でした。

大きな米俵を背負っています。

「米は人の命を支える大切なものです。」

「そして、これだけの米となれば、とても重い。」

さらに鍛冶屋もやって来ました。

「鉄より重いものなど、そうありません。」

大きな鉄の塊を運んできました。

庭には、

大きな石。

米俵。

鉄の塊。

さまざまな「重いもの」が並びました。

殿様は一つずつ眺めました。

「どれも確かに重そうだ。」

そして、男の子を見ました。

「さて。」

「お前は何を持ってきた?」

男の子は手ぶらでした。

何も持っていません。

家来たちがざわめきました。

「何もないではないか。」

「さすがに今度は分からなかったのだろう。」

「これでは答えにならぬぞ。」

殿様も尋ねました。

「お前の持ってきたものはどこだ?」

男の子は答えました。

「持ってきていません。」

「なぜだ?」

「ぼくが一番重いと思ったものは、手では持てないからです。」

殿様の目が少し細くなりました。

「ほう。」

「では聞こう。」

「お前が考える、この世で一番重いものとは何だ?」

男の子は、はっきりと言いました。

「人との約束です。」

広間が静かになりました。

「……約束?」

殿様が聞き返します。

「はい。」

「約束には形がありません。」

男の子は続けました。

「石みたいに持つこともできないし、米俵みたいに重さを量ることもできません。」

「ならば、どうしてそれが一番重いと思うのだ?」

殿様が尋ねました。

男の子は少し考えてから答えました。

「約束をすると、その約束を守る責任ができます。」

家来たちは黙って聞いています。

「もし約束を破ったら、相手を悲しませるかもしれません。」

「何度も破れば、信用してもらえなくなるかもしれません。」

男の子は殿様を見ました。

「石なら、重ければ地面に置くことができます。」

「米俵も、鉄も、疲れたら置けます。」

「でも、人と交わした約束は、簡単に放り出してはいけないと思います。」

しん……。

広間は静まり返りました。

さっきまで笑っていた家来たちも、今は男の子をじっと見ています。

殿様も、しばらく何も言いませんでした。

やがて――。

「見事だ。」

殿様がゆっくり立ち上がりました。

「確かに、重さにはいろいろな意味がある。」

男の子は頭を下げました。

殿様は続けます。

「最初の問題では、結ぶことだけにとらわれなかった。」

「次の問題では、目に見えない風を袋に入れる方法を考えた。」

「そして最後は、物の重さではなく、人が背負う責任の重さを考えた。」

殿様はうれしそうに笑いました。

「お前は、言葉の意味をそのまま受け取るだけではなく、自分の頭で考えたのだな。」

男の子は少し照れながら答えました。

「ぼくは、分からない時に『ほかのやり方はないかな』って考えただけです。」

「それが知恵というものだ。」

殿様は男の子に、立派な筆と本を贈りました。

「これを使って、これからもたくさん学びなさい。」

「そして、その知恵を人のために役立てるのだ。」

男の子は両手で筆と本を受け取りました。

「ありがとうございます。」

深く頭を下げました。

村へ戻った男の子の周りには、たくさんの子どもたちが集まりました。

「ねえ、どうやったらそんな答えを思いつくの?」

一人の子が尋ねました。

男の子は困ったように笑いました。

「特別なことはしてないよ。」

「じゃあ、どうするの?」

男の子は地面に落ちていた一本の枝を拾いました。

「例えば、これを川の向こうへ運びたいとするでしょう?」

「うん。」

「投げてもいい。」

「橋を渡ってもいい。」

「誰かに頼んでもいい。」

「そうか。」

「答えは一つじゃないこともあるんだ。」

男の子は枝をくるくると回しました。

「だから、最初に思いついた方法でできなくても、『無理だ』ってすぐに決めなくていいんじゃないかな。」

子どもたちは顔を見合わせました。

「じゃあ、もっと考えてみればいいんだ。」

「そういうこと。」

男の子は笑いました。

それから何年もの月日が流れました。

男の子は殿様にもらった本を何度も読み、たくさんのことを学びました。

やがて大人になると、国の役人になりました。

けれど、偉くなっても人の話をよく聞くことを忘れませんでした。

橋が壊れて困っている村があれば、

「どうすれば直せるだろう。」

水が足りない畑があれば、

「どこから水を引けばいいだろう。」

人々と一緒になって考えました。

難しい問題にぶつかるたび、男の子だったころと同じように、すぐに「できない」とは言いませんでした。

「ほかのやり方はないかな。」

そう言いながら、いくつもの方法を考えました。

そして、困っている人が笑顔になる方法を見つけると、自分もうれしそうに笑いました。

おしまい。


登場人物

  • 男の子
    大人たちでも悩む殿様の難問に挑戦する主人公。言葉をそのまま受け取るのではなく、物事を違う角度から考える柔軟な発想を持っています。
  • 殿様
    知恵を大切にしている領主。国中の人々へ難しい問題を出し、本当に考える力を持った人物を探します。
  • 家来たち
    殿様のそばで男の子の挑戦を見守る人々。最初は子どもに難問が解けるのか疑いますが、その答えを聞くたびに驚かされます。
  • 村人たち
    殿様の問題に挑戦する人々。力自慢や農家、鍛冶屋など、それぞれの考えで「一番重いもの」を持ってきます。

教訓

  • 一つの考え方にとらわれず、違う角度から考えることで新しい答えが見つかることがある。
  • 「分からない」「できない」とすぐに諦めず、別の方法を考えてみることが大切。
  • 知恵や知識は、自分が自慢するためではなく、困っている人を助けるためにも使うことができる。
  • 約束や信用など、目には見えなくても大切にしなければならないものがある。

親子で話したいポイント

  • 「木をしばる問題」なら、自分はどんな方法を考える?
  • 袋に風を入れるには、ほかにどんな方法があるかな?
  • 「一番重いもの」と聞かれたら、何を思い浮かべる?
  • 男の子はどうして「約束」が一番重いと思ったのだろう?
  • 一つの方法でできなかった時、次にどんなことを試してみる?

保育士向け活用ポイント

  • 子どもたちの「考える力」「発想力」「試してみる力」を育む読み聞かせとして活用できます。
  • 問題が出たところで一度読み聞かせを止め、「みんなだったらどうする?」と問いかけることで、参加型の読み聞かせにできます。
  • 子どもから出た答えをすぐに正解・不正解で判断せず、「どうしてそう思ったの?」と理由を聞くことで、考えを言葉にする経験につなげられます。
  • 「答えは一つとは限らない」という視点から、友だちの違う考えを聞いたり認めたりする活動にも発展できます。
  • 年長児では、読み聞かせ後に保育者が簡単な「知恵くらべ問題」を出し、グループで相談する遊びへつなげることもできます。

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