あらすじ
山奥で見つけた、不思議な泉の水を飲んだおじいさん。
すると、白かった髪に黒い色が戻り、曲がっていた腰もまっすぐになっていきました。
日に日に若返っていくことが嬉しくてたまらないおじいさんは、毎日のように泉へ通います。
「もっと若くなりたい」
ところが、水を飲めば飲むほど若返りは止まらず、とうとうおじいさんは小さな赤ん坊になってしまいました。
不思議な泉をめぐって起こる、ちょっぴりおかしくて心温まる昔話です。
本文
むかしむかし、山あいの小さな村に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
二人は小さな畑を耕しながら、慎ましく暮らしていました。
おじいさんは昔から働き者でした。
若いころには重い薪を何束も背負って山を下り、一日中畑を耕しても平気だったものです。
ところが、年を重ねるにつれて、だんだん体が思うように動かなくなってきました。
「よいしょ……よいしょ……」
畑を耕せば腰が痛みます。
薪を割れば肩が痛み、山道を歩けば膝ががくがくしました。
「昔はこんな坂道、ひょいひょい登れたんだがなあ」
おじいさんが腰をさすりながら言うと、おばあさんは笑いました。
「何を言っているんです。年を取れば誰だって同じですよ」
「そういうものかのう」
「そういうものですよ」
二人はそんな話をしながら、毎日を穏やかに暮らしていました。
ある日のことです。
おじいさんはいつものように、薪を拾うため山へ入りました。
その日は思ったより暑く、山道を歩いているうちに喉がからからになりました。
「いやあ、暑い。どこかに水はないものか」
おじいさんは木陰で一休みしながら、辺りを見回しました。
すると、少し離れたところから、
ちょろちょろ……。
ちょろちょろ……。
水の流れる音が聞こえてきました。
「おや?」
音のするほうへ歩いていくと、大きな岩の陰に小さな泉がありました。
岩の間から、透き通った水がこんこんと湧き出しています。
「こんなところに泉があったかな」
何度も通った山でしたが、おじいさんには見覚えがありません。
けれど、あまりにも喉が渇いていたので、深く考えることもなく泉のそばへしゃがみました。
両手で水をすくい、一口飲んでみます。
「おお……!」
水は驚くほど冷たく、ほんのり甘く感じられました。
「これはうまい」
もう一杯。
さらにもう一杯。
おじいさんは夢中になって水を飲みました。
「いやあ、生き返ったようだ」
すっかり喉の渇きもおさまり、おじいさんは薪を背負って家へ帰りました。
その日は、それだけのことでした。
ところが――。
翌朝。
顔を洗おうとしたおじいさんは、水に映った自分の顔を見て目を丸くしました。
「ん?」
もう一度、顔を近づけます。
「なんじゃ、これは!」
おじいさんの大声に、おばあさんが飛んできました。
「どうしたんです?」
「ばあさん! 見てくれ!」
「何をです?」
「わしの髪じゃ!」
真っ白だったおじいさんの髪に、黒い毛が混じっていました。
それだけではありません。
いつもなら朝起きるたびに痛んでいた腰が、今日はずいぶん軽いのです。
おじいさんは恐る恐る腰を伸ばしました。
「おお……痛くないぞ」
「まあ……」
おばあさんも驚きました。
「不思議なこともあるものですねえ」
おじいさんはしばらく考えていました。
そして、はっとしました。
「そうだ。昨日の泉だ!」
「泉?」
「山で見つけた泉の水を飲んだんじゃ。きっとあの水に違いない!」
その日、おじいさんはもう一度山へ向かいました。
昨日と同じ場所へ行くと、泉は変わらず澄んだ水を湧き出させています。
「やっぱりあったぞ」
おじいさんは水をすくいました。
ごくり。
もう一杯。
ごくり。
「これでどうなるかのう」
楽しみにしながら家へ帰りました。
そして翌朝。
「ばあさん! ばあさん!」
またしても、おじいさんの大声が家中に響きました。
白かった髪はさらに黒くなり、顔のしわまで少なくなっていたのです。
腰もしゃんと伸びています。
「やっぱりじゃ!」
おじいさんは大喜びしました。
「あれは若返りの水に違いない!」
それからというもの、おじいさんは毎日のように泉へ通うようになりました。
一日飲めば、少し若返ります。
また一日飲めば、さらに若返ります。
数日後には、六十歳くらい。
さらに何日かたつと、五十歳くらいの姿になっていました。
曲がっていた腰はまっすぐ伸び、重い薪も軽々と持ち上げられます。
「ほれ!」
おじいさんは大きな薪の束をひょいと担いでみせました。
その姿を見た村人たちはびっくりしました。
「本当に若返っているぞ!」
「いったい何をしたんだ?」
「何か特別なものでも食べたのか?」
おじいさんは得意そうに胸を張りました。
「山に不思議な泉があってな。その水を飲んだのさ!」
「泉の水で?」
「そんなことがあるのか?」
村人たちは半信半疑でしたが、おじいさんは嬉しくてたまりません。
さらに何日かたつと、おじいさんは三十歳くらいの若者の姿になりました。
山道を走っても息が切れません。
木にもすいすい登れます。
畑仕事をしても、夕方まで腰ひとつ痛くなりません。
「若いというのは素晴らしい!」
おじいさんは毎日楽しそうに笑っていました。
けれど、おばあさんは少し心配になってきました。
「おじいさん」
「何だ?」
「もう十分若返ったんじゃないですか?」
「何を言うんだ」
おじいさんは笑いました。
「せっかく若返る水を見つけたんだ。もう少し飲めば、もっと元気になれるかもしれないぞ」
「でもねえ……」
「大丈夫、大丈夫」
そう言って、おじいさんは次の日も泉へ向かいました。
そして、その次の日も。
さらにその次の日も。
水を飲むことをやめませんでした。
すると、おじいさんは二十歳くらいの青年になりました。
「おお! ますます体が軽くなった!」
それでも泉へ通いました。
やがて十五歳くらいになりました。
「まだまだ!」
さらに水を飲みました。
とうとう十歳くらいの少年になりました。
村人たちは、もう驚くよりあきれていました。
「おじいさん、本当におじいさんなのかい?」
「もちろんだ!」
姿はすっかり子どもですが、中身はおじいさんです。
おじいさんは村の子どもたちと一緒に走り回るようになりました。
「おじいさん、こっちだよ!」
「待て待て!」
鬼ごっこをしても負けません。
木登りをすれば、誰よりも高いところまで登りました。
「おじいさん、速い!」
「はっはっは! まだまだ負けんぞ!」
おじいさんはすっかり夢中でした。
ところが、その翌朝のことです。
おばあさんが目を覚ますと、隣の布団が妙に小さく膨らんでいました。
「おじいさん?」
返事がありません。
布団をめくってみると――。
「まあ!」
そこには、小さな男の子が寝ていました。
顔をよく見ると、どことなくおじいさんの面影があります。
おじいさんはとうとう、五歳くらいの子どもになってしまったのです。
「これは困ったことになったねえ」
おばあさんは頭を抱えました。
けれど、小さくなったおじいさんは言いました。
「泉へ行ってくる!」
「まだ飲むつもりですか!」
「もう少しだけ!」
「だめですよ。これ以上若返ったらどうするんです!」
おばあさんは必死に止めました。
それでもおじいさんは諦めません。
「少しくらいなら大丈夫だ!」
「ちっとも大丈夫じゃありません!」
その日は、おばあさんがおじいさんから目を離さないようにしていました。
ところが、ほんの少しおばあさんが畑へ出た隙に――。
「今だ!」
おじいさんは家を飛び出しました。
小さな足で山道を一生懸命走り、あの泉まで向かいました。
「やっぱり、もう一口だけ……」
泉の水を両手ですくいます。
ごくり。
もう一口。
ごくり。
そして家へ帰りました。
翌朝。
まだ空が明るくなり始めたばかりのころ。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
家の中に、大きな泣き声が響きました。
おばあさんは驚いて飛び起きました。
「な、何です?」
隣の布団を見ると、小さな赤ん坊が手足をばたばたさせながら泣いています。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
おばあさんはじっと赤ん坊の顔を見ました。
「……おじいさん?」
「おぎゃあ!」
おばあさんは大きなため息をつきました。
「だから言ったのに」
おじいさんは、とうとう赤ん坊になってしまったのでした。
もちろん赤ん坊ですから、一人では何もできません。
ご飯も食べさせてもらわなければなりません。
着替えもできません。
歩くことさえできません。
おばあさんは大忙しになりました。
それを知った村人たちも、
「これは大変だ!」
と、手伝いに来てくれました。
おむつを替える人。
子守をする人。
おかゆを作る人。
赤ん坊のおじいさんを抱っこして、村を散歩する人。
みんなが力を貸してくれました。
「ほら、おじいさん。高い高い!」
「きゃっ、きゃっ!」
赤ん坊のおじいさんは、たくさんの人に抱かれ、たくさん笑いました。
やがて月日が流れました。
赤ん坊だったおじいさんは、少しずつ大きくなっていきました。
はいはいをするようになり、やがて立ち上がり、歩けるようになりました。
そして何年かたつころには、また少年の姿になっていました。
ある日、おばあさんと少年になったおじいさんが並んで山を眺めていました。
おばあさんがふと思い出したように尋ねました。
「おじいさん」
「何だい?」
「あの泉の水、また飲みたいかい?」
少年のおじいさんは、山のほうを見ました。
あの泉へ続く道も、遠くに見えています。
しばらく考えてから、首を横に振りました。
「もういいよ」
「どうしてだい?」
おじいさんは自分の小さな手を見ました。
そして、おばあさんの顔を見て笑いました。
「だって、今がちょうどいいから」
おばあさんも笑いました。
「そうだねえ」
山から吹いてきた風が、二人の頬を優しくなでていきました。
それから二人は、今ある毎日を大切にしながら、仲良く暮らしたということです。
おしまい。
登場人物
- おじいさん
働き者ですが、年を重ねて体の衰えを感じていたおじいさん。不思議な泉の水で若返ったことが嬉しくなり、何度も水を飲み続けてしまいます。 - おばあさん
優しくしっかり者のおばあさん。若返り続けるおじいさんを心配し、赤ん坊になってしまってからも大切に世話をします。 - 村人たち
おじいさんの変化に驚きながらも、赤ん坊になって困っている二人を助けてくれる心優しい人たちです。
教訓
- 欲しいものが手に入っても、「もっと、もっと」と求め続けることで、かえって困ったことになる場合があります。
- 今の自分や、今だからこそできることを大切にすることも必要です。
- 年齢や成長のそれぞれの段階には、そのときにしか味わえない良さがあります。
親子で話したいポイント
- おじいさんは、どうして泉の水を飲み続けたのかな?
- おばあさんが「もう十分」と言ったとき、おじいさんはどうすればよかったと思う?
- 「もっと欲しい」と思って、やりすぎてしまったことはあるかな?
- 今の自分だからできることには、どんなことがある?
- 大人になったらやってみたいことはあるかな?
保育士向け活用ポイント
- 「もっと欲しい」という気持ちや、「ちょうどいいところでやめる」ことについて考えるきっかけになる作品です。
- 赤ん坊、幼児、少年、大人、お年寄りと姿が変わっていくため、成長や年齢をテーマにした活動にもつなげられます。
- 「赤ちゃんのころにできなかったこと」「今できるようになったこと」を子どもたちと話し合う活動にも活用できます。
- おじいさんが次々と若返っていく展開は、読み聞かせの中で子どもたちが予想を楽しみやすい場面です。
- 敬老の日や祖父母交流など、年齢や世代について考える行事の前の読み聞かせにもおすすめです。


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