あらすじ
むかしむかし、天の世界には、太陽の神様である天照大御神(あまてらすおおみかみ)が暮らしていました。
天照大御神が姿を現すと、世界は明るい光に包まれ、草木は育り、人々や動物たちも穏やかに暮らすことができました。
ところが、弟の須佐之男命(すさのおのみこと)の乱暴な行いに心を痛めた天照大御神は、「天の岩戸」と呼ばれる洞窟の中へ隠れてしまいます。
太陽の神様がいなくなった世界は、たちまち暗闇に包まれてしまいました。
困った神様たちは集まり、天照大御神に岩戸から出てきてもらうため、ある作戦を考えます。
日本神話に伝わる、光を取り戻す物語です。
本文
むかしむかし、空よりも高いところに、高天原(たかまがはら)という神様たちの暮らす世界がありました。
そこには、たくさんの神様が暮らしていました。
その中でも、とても大切にされていたのが、太陽を司る神様、天照大御神(あまてらすおおみかみ)です。
天照大御神が空を照らすと、世界には明るい光が広がりました。
朝になれば山々が照らされ、野には花が咲き、草木はすくすくと育ちます。
鳥たちは空を飛び、動物たちも安心して暮らすことができました。
神様たちも、
「今日も明るい一日になりました」
「天照大御神様のおかげです」
と、その光に感謝していました。
ところが、天照大御神には須佐之男命(すさのおのみこと)という弟がいました。
須佐之男命は、とても力の強い神様でした。
しかし、気持ちが高ぶると自分を抑えられず、ときどき周りが困ってしまうようなことをしてしまいます。
あるとき、須佐之男命が高天原へやってきました。
「姉上」
須佐之男命は天照大御神に言いました。
「私はあなたに会うためにやってきました」
天照大御神は、弟が何をしに来たのかと警戒しました。
けれど、須佐之男命の話を聞き、その言葉を受け入れました。
ところが――。
しばらくすると、須佐之男命は高天原で乱暴な振る舞いをするようになりました。
大切に育てられていた田を荒らし、神聖な場所を汚すようなことまでしてしまいます。
「須佐之男命様、やめてください!」
「大切な田が荒れてしまいます!」
神様たちが止めても、須佐之男命の乱暴な行いはなかなか収まりません。
天照大御神も、その様子に心を痛めました。
「どうして、このようなことをするのでしょう……」
それでも天照大御神は耐えていました。
しかし、須佐之男命の行いはさらに激しくなっていきました。
とうとう天照大御神は、深く悲しみました。
「もう……外へ出たくありません」
天照大御神は一人、高天原にある岩の洞窟へ向かいました。
その洞窟は、
「天の岩戸(あまのいわと)」
と呼ばれていました。
天照大御神は岩戸の中へ入ると、入り口を大きな岩でぴたりと閉ざしてしまいました。
ゴゴゴゴゴ……。
重い岩が動き、わずかに差し込んでいた光も消えていきます。
そして――。
辺りは真っ暗になりました。
「天照大御神様!」
神様たちが呼びかけました。
けれど、岩戸の中から返事はありません。
「どうか、お出になってください!」
それでも、天照大御神は姿を見せませんでした。
太陽の神様が隠れてしまったため、高天原だけではなく、地上の世界からも光が消えてしまいました。
昼になっても、夜のような暗闇です。
空を見上げても太陽はありません。
花は閉じ、草木は元気をなくしました。
鳥たちは飛ぶことをやめ、動物たちも不安そうに身を寄せ合います。
暗闇の中では、さまざまな災いまで起こるようになりました。
「このままでは大変なことになる」
「何とかして天照大御神様に戻ってきていただかなければ」
困った神様たちは、天安河原(あまのやすかわら)という場所へ集まりました。
大勢の神様が集まって、どうすれば天照大御神に岩戸から出てきてもらえるのかを考えました。
「岩を動かしてしまえばいいのではないか?」
「いや。無理やり開けても、また中へ隠れてしまうかもしれない」
「では、どうする?」
神様たちは何度も話し合いました。
その中には、知恵に優れた思金神(おもいかねのかみ)もいました。
みんなで知恵を出し合い、やがて一つの作戦を考えました。
「天照大御神様が、自分から外を見たくなるようにするのです」
神様たちはさっそく準備を始めました。
岩戸の前に立派な榊(さかき)を用意します。
そこには美しい勾玉(まがたま)を飾り、大きな鏡も用意しました。
そして岩戸の入り口の近くには、力持ちの天手力男神(あめのたぢからおのかみ)が隠れて待ちました。
すべての準備が整いました。
けれど、岩戸の中は静まり返ったままです。
そのとき前へ出たのが、天宇受売命(あめのうずめのみこと)でした。
天宇受売命は、ひっくり返した桶の上に乗りました。
そして――。
どん!
どん!
足を踏み鳴らしながら、楽しそうに踊り始めたのです。
くるり。
くるり。
どん、どん、どん!
その踊りはだんだん激しく、おかしなものになっていきました。
それを見ていた神様たちは、思わず笑い出しました。
「わっはっはっは!」
「あはははは!」
暗闇に包まれていた高天原に、久しぶりに大きな笑い声が響き渡りました。
岩戸の中にいた天照大御神にも、その声が聞こえてきました。
天照大御神は不思議に思いました。
「どうしたのでしょう?」
自分が隠れ、世界から光がなくなってしまったというのに、外からは楽しそうな笑い声が聞こえてきます。
どん、どん。
わっはっはっは!
天照大御神は、だんだん外の様子が気になってきました。
そして岩戸の中から尋ねました。
「なぜ、みんなそんなに楽しそうにしているのです?」
外にいた天宇受売命が答えました。
「あなた様よりも尊い神様がおいでになったので、みんなで喜んでいるのです」
「私よりも?」
天照大御神はますます気になりました。
「それは、どのような神なのですか?」
岩戸の入り口が――。
ごご……。
ほんの少しだけ開きました。
暗闇の中から、細い光がこぼれます。
神様たちは息をのみました。
けれど、誰も慌てません。
天照大御神が、そっと外をのぞきました。
すると、目の前に大きな鏡がありました。
鏡の中には、まばゆく輝く神様の姿が映っています。
天照大御神は、それが自分の姿だとはすぐには気づきませんでした。
「まあ……」
天照大御神は、もう少しよく見ようと身を乗り出しました。
「なんと美しく輝いているのでしょう」
その瞬間です。
岩戸のそばに隠れていた天手力男神が動きました。
「今だ!」
天手力男神は天照大御神の手を取り、岩戸の外へ導き出しました。
「あっ!」
天照大御神が外へ出ると、すぐに岩戸の入り口へ注連縄(しめなわ)が張られました。
「もう、この中へお戻りになりませんように」
そして――。
天照大御神の光が、再び世界を照らしました。
暗かった空が明るくなります。
山々に朝の光が差し込みました。
閉じていた花が開きます。
しおれていた草木にも光が降り注ぎました。
鳥たちは一斉に空へ飛び立ちました。
動物たちも顔を上げます。
地上の人々も、空を見上げて喜びました。
「光が戻った!」
「太陽だ!」
高天原の神様たちも大喜びです。
「天照大御神様!」
「お戻りくださった!」
天照大御神は、再び明るくなった世界を見渡しました。
神様たちの知恵と力によって、世界にはもう一度、光が戻ったのでした。
そして高天原では、乱暴な行いをした須佐之男命に罰を与え、地上へ追放することになりました。
それからも天照大御神は空から世界を照らし続けました。
朝が来るたび、暗かった山々には光が差し込みます。
草木はその光を受けて育ち、人々は明るい空の下で暮らしました。
こうして、天の岩戸に隠れていた太陽は、再び世界へ戻ったのでした。
おしまい。
登場人物
- 天照大御神(あまてらすおおみかみ)
太陽を司り、世界を明るく照らす神様。須佐之男命の乱暴な行いに心を痛め、天の岩戸へ隠れてしまいます。 - 須佐之男命(すさのおのみこと)
天照大御神の弟。とても力の強い神様ですが、高天原で乱暴な行いをしてしまいます。 - 天宇受売命(あめのうずめのみこと)
岩戸の前で楽しげに踊り、神様たちを笑わせた神様。そのにぎやかな様子が、天照大御神が外をのぞくきっかけになります。 - 思金神(おもいかねのかみ)
知恵に優れた神様。ほかの神々とともに、天照大御神を岩戸から迎え出すための方法を考えます。 - 天手力男神(あめのたぢからおのかみ)
力持ちの神様。天照大御神が岩戸から姿を見せた瞬間、その手を取って外へ導きます。 - 天の神様たち
暗闇に包まれた世界に光を取り戻すため、力を合わせて天照大御神を岩戸から迎え出そうとします。
教訓
- 大きな問題も、それぞれの知恵や力を持ち寄ることで解決できることがあります。
- 誰かの心を動かしたいときには、無理やり動かそうとするのではなく、相手の気持ちを考えることも大切です。
- 一人ひとりの得意なことを生かして協力することの大切さを感じられる物語です。
親子で話したいポイント
- 天照大御神は、どうして天の岩戸へ隠れてしまったのかな?
- 太陽がなくなったら、世界はどうなると思う?
- 神様たちは、どうして力ずくで岩戸を開けなかったのかな?
- 天宇受売命の踊りを聞いた天照大御神は、どんな気持ちになったと思う?
- みんなで力を合わせて何かをやり遂げたことはあるかな?
保育士向け活用ポイント
- 日本神話に親しむ入り口として、年長児を中心とした読み聞かせに活用しやすい物語です。
- 天宇受売命の踊り、鏡を見せる場面、天手力男神が活躍する場面など役割が分かりやすく、劇遊びや発表会の題材にも向いています。
- 「悲しいときや怒ったときに一人になりたくなる気持ち」「友だちが困っているときにできること」など、登場人物の気持ちを考える活動へつなげられます。
- 神様たちがそれぞれの得意なことを生かす展開から、「協力」「役割分担」をテーマにした話し合いにも発展させられます。
- 太陽や光、鏡、勾玉など、物語に登場するものを題材にした製作活動にも活用できます。


コメント