あらすじ
むかしむかし、ある村に、性格のまったく違う二人のおじいさんが住んでいました。
一人は、貧しくても毎日の暮らしに感謝し、困っている人や生き物を放っておけない優しいおじいさん。
もう一人は、自分が得をすることばかり考えている、よくばりなおじいさんでした。
ある日、優しいおじいさんが山で傷ついた小鳥を助けます。すると小鳥は、お礼に不思議な種を持ってきました。
種から育った木にはたくさんの実がなり、おじいさんはそれを村のみんなにも分けてあげます。
その話を聞いたよくばりじいさんは、「同じことをすれば、自分もたくさんの宝を手に入れられる」と考えました。
ところが、形だけまねをしても、優しいおじいさんと同じようにはなりません。
自分がもらうことばかり考えていたよくばりじいさんが、本当に大切なものに気づいていく昔話です。
本文
むかしむかし、山に囲まれた小さな村に、二人のおじいさんが住んでいました。
二人の家はそれほど離れていませんでしたが、その性格はまるで違っていました。
一人は、とても優しく働き者のおじいさん。
決して裕福ではありませんでしたが、朝早くから畑を耕し、山へ薪を拾いに行き、毎日こつこつと働いていました。
食べるものが少ない日でも、
「今日も元気に働けた。ありがたいことだ。」
そう言って笑います。
畑で野菜がたくさん採れれば、近所の人に分けました。
道で重い荷物を持っている人がいれば、
「そこまで持っていこうか。」
と声をかけました。
村の子どもたちにも優しく、みんなから慕われていました。
もう一人は、よくばりなおじいさんでした。
こちらのおじいさんは、いつも人の持ち物を気にしていました。
隣の家から楽しそうな声が聞こえれば、
「何かいいものでも手に入れたのか?」
と気になります。
誰かの畑で立派な野菜が採れれば、
「どうしてうちの畑には、あんなにできないんだ。」
と不満を言います。
何かをもらっても、
「これだけか。」
と言い、もっと欲しがりました。
そんなある日のことです。
優しいおじいさんは、いつものように山へ薪を拾いに出かけました。
山には朝の霧がまだ少し残っていました。
おじいさんは落ちている枝を拾いながら、ゆっくり山道を歩いていきます。
すると――。
「……チチッ。」
どこからか、小さな鳴き声が聞こえました。
「おや?」
おじいさんは足を止めました。
「チチ……。」
声は道の脇にある草むらから聞こえてきます。
おじいさんが草をかき分けてみると、一羽の小鳥が地面に倒れていました。
片方の羽を痛めたのか、飛ぶことができません。
「かわいそうに。」
おじいさんは小鳥をそっと両手で包みました。
「大丈夫だよ。何もしないからね。」
家へ連れて帰ると、傷をきれいにして、柔らかな布の上へ寝かせました。
水を飲ませ、食べ物も少しずつ与えます。
何日かすると、小鳥は元気になりました。
羽も動かせるようになっています。
「もう飛べそうだね。」
おじいさんは小鳥を庭へ連れていきました。
両手を開くと――。
ぱたぱたぱた。
小鳥は空へ飛び上がりました。
おじいさんの家の上をくるりと一周します。
「元気でな。」
おじいさんが手を振ると、小鳥は山の方へ飛んでいきました。
「よかった、よかった。」
おじいさんは笑いながら家へ戻りました。
何かお礼をもらおうなどとは、少しも考えていませんでした。
ところが、その次の日の朝です。
おじいさんが庭へ出ると、
「チチチッ。」
聞き覚えのある声がしました。
「おや?」
昨日の小鳥が、庭の木の枝に止まっています。
そのくちばしには、小さな種が一粒くわえられていました。
小鳥はおじいさんの前まで飛んでくると、種をぽとりと落としました。
「これは?」
すると小鳥が言いました。
「助けてくれたお礼です。」
「おやまあ!」
おじいさんは驚きました。
小鳥が人の言葉を話したのです。
けれど小鳥は、それ以上何も言わずに空へ飛び立っていきました。
おじいさんは手のひらに乗った種を眺めました。
見たことのない、不思議な種です。
「せっかく持ってきてくれたんだ。植えてみよう。」
おじいさんは庭の隅に小さな穴を掘り、種を植えました。
土をかぶせ、水をやります。
「元気に育つといいな。」
その日は、それで終わりました。
ところが――。
次の日の朝。
おじいさんが庭へ出ると、思わず目を丸くしました。
「なんだ、これは!」
昨日まで何もなかった場所に、大きな木が立っていたのです。
太い幹。
青々とした葉。
見上げなければてっぺんが見えないほど、立派な木です。
しかも、その枝にはたくさんの実がなっていました。
赤や黄色に色づいた、つやつやとした実です。
おじいさんは一つ取って食べてみました。
「うまい!」
甘くて、みずみずしくて、今まで食べたことのないようなおいしい実でした。
木には、まだまだたくさんの実がなっています。
おじいさんはうれしくなりました。
けれど、自分一人ですべて取ろうとはしませんでした。
「こんなにたくさんあるんだ。みんなで食べた方がおいしい。」
自分が食べる分だけを残し、あとは籠に入れて村の人たちへ配りました。
「こんなにいいのかい?」
「ああ。たくさんできたから、みんなで食べよう。」
「ありがとう。」
村の人たちは大喜びです。
子どもたちも、
「甘い!」
「おいしい!」
と笑いました。
優しいおじいさんも、その様子を見てうれしそうに笑っていました。
やがて村では、この不思議な木の話でもちきりになりました。
「山で助けた小鳥が、種を持ってきたらしい。」
「その種から、一晩で大きな木が育ったんだって。」
「しかも、とてもおいしい実がなるそうだ。」
その話は当然、よくばりなおじいさんの耳にも入りました。
「なんだって?」
よくばりなおじいさんは、すぐに隣の家へやってきました。
庭には大きな木が立っています。
枝にはまだいくつもの実が残っていました。
「どうやってこんな木を手に入れたんだ?」
優しいおじいさんは、山で傷ついた小鳥を見つけたことから、すべてを話しました。
話を聞いたよくばりなおじいさんは、心の中で考えました。
「なんだ。簡単なことじゃないか。」
「小鳥を助ければ、種がもらえる。」
「その種を植えれば、こんな木が生えるんだな。」
よくばりなおじいさんの頭の中は、もう宝物のことでいっぱいです。
「もっとたくさん種をもらえば、もっとたくさん実がなるぞ。」
「そうすれば、村で一番の金持ちになれるかもしれない。」
次の日。
よくばりなおじいさんは、朝早くから山へ向かいました。
けれど、いくら探しても傷ついた小鳥など見つかりません。
「どこにいるんだ。」
昼になっても見つかりません。
おじいさんはだんだん腹を立ててきました。
「小鳥の一羽くらい、いるだろう!」
その時です。
木の枝に一羽の小鳥が止まっているのを見つけました。
「あれだ!」
よくばりなおじいさんは、そっと近づきました。
けれど、小鳥は元気です。
傷などありません。
「まあいい。」
おじいさんは無理やり小鳥を捕まえました。
「さあ、捕まえたぞ。」
小鳥は驚いて羽をばたばたさせました。
「何をするのです!」
「決まっているだろう。」
おじいさんは言いました。
「隣のじいさんには種をやったそうだな。」
「私にもよこせ。」
小鳥は悲しそうにおじいさんを見ました。
「あなたは、私を助けてくれたわけではありません。」
「そんなことはどうでもいい。」
「種をくれればいいんだ。」
「もっとたくさんだぞ。」
「隣のじいさんより、たくさんよこせ!」
小鳥は静かに言いました。
「大切なのは、何かをもらうことではありません。」
「優しい気持ちでしたことが、幸せにつながるのです。」
しかし、よくばりなおじいさんは聞こうとしません。
「そんな話はどうでもいい!」
「早く種を出せ!」
とうとう小鳥は、一粒の種を差し出しました。
よくばりなおじいさんは大喜びです。
「これだ、これだ!」
小鳥を放すと、急いで家へ帰りました。
庭に穴を掘り、種を植えます。
水をたっぷりかけました。
「明日の朝が楽しみだ。」
おじいさんは何度も庭を眺めました。
「大きな木が生えて、たくさん実がなったらどうしよう。」
「いや、一つの木では足りないな。」
「実を売って、その金でもっと土地を買おう。」
「大きな家も建てよう。」
まだ芽すら出ていないのに、おじいさんの頭の中では、もう大金持ちになっていました。
その夜は楽しみで、なかなか眠れませんでした。
そして翌朝。
「さあ、どうなった!」
よくばりなおじいさんは勢いよく庭へ飛び出しました。
確かに、木が生えていました。
「おお!」
おじいさんは喜びました。
けれど――。
よく見ると、どこにも実がありません。
葉っぱばかりです。
「……なんだ?」
おじいさんは木の周りをぐるぐる回りました。
「実はどこだ?」
枝を持ち上げます。
葉の裏までのぞき込みます。
けれど、一つもありません。
「そんなはずはない!」
おじいさんは怒りました。
「隣のじいさんの木には、あんなに実がなっていたじゃないか!」
そこへ――。
「チチッ。」
昨日の小鳥が飛んできました。
「おい!」
よくばりなおじいさんは小鳥を見上げました。
「どういうことだ!」
「どうして私の木には実がならない!」
小鳥は答えました。
「あなたは、何のために種を欲しがったのですか?」
「何のためって……。」
「もちろん、たくさん実を手に入れるためだ。」
「それを売れば金になる。」
「もっともっと豊かになれる。」
小鳥は静かに言いました。
「優しいおじいさんは、何かをもらうために私を助けたのではありません。」
「あなたは最初から、自分が何をもらえるかだけを考えていました。」
よくばりなおじいさんは言い返そうとしました。
けれど、言葉が出てきません。
隣のおじいさんは、小鳥を助けた時に種のことなど知りませんでした。
自分はどうでしょう。
小鳥を心配するどころか、種を手に入れるために無理やり捕まえました。
「私は……。」
よくばりなおじいさんは、庭の木を見上げました。
「もらうことばかり考えていた。」
小鳥は何も言いませんでした。
やがて羽を広げると、空へ飛んでいきました。
おじいさんは、一人で庭に残りました。
その日から、おじいさんは少しずつ自分の行いを変えるようになりました。
最初は、何をすればいいのかよく分かりませんでした。
ある日、道で重い荷物を持っている人を見つけました。
いつもなら、そのまま通り過ぎていたでしょう。
けれど、その日は立ち止まりました。
「……持とうか?」
村人は驚きました。
「え?」
「重そうだからな。」
おじいさんは荷物を持ってやりました。
また別の日には、畑仕事に困っている人を手伝いました。
泣いている子どもがいれば声をかけました。
すぐに村の人たちの見る目が変わったわけではありません。
「何かたくらんでいるんじゃないか?」
最初は、そんなふうに思う人もいました。
それでも、おじいさんはやめませんでした。
少しずつ。
少しずつ。
人に優しくするようになりました。
すると、村の人たちも少しずつおじいさんを信じてくれるようになりました。
「ありがとう。」
そう言われるたびに、おじいさんは不思議な気持ちになりました。
何かをもらったわけではありません。
お金が増えたわけでもありません。
それなのに、以前より心が温かくなるのです。
ある日。
よくばりなおじいさんは、優しいおじいさんの家へ行きました。
二人は庭に座り、お茶を飲みながら話をしました。
優しいおじいさんが言いました。
「最近、ずいぶん変わったな。」
よくばりなおじいさんは頭をかきました。
「まだ、よくばりなところはあるけどな。」
二人は笑いました。
すると優しいおじいさんが、庭の木になっていた実を一つ取りました。
「食べるかい?」
よくばりなおじいさんは、その実を受け取りました。
昔なら、
「もっとくれ。」
と言っていたかもしれません。
けれど、その日は違いました。
「ありがとう。」
そう言って、大切そうに一口食べました。
甘い実の味が、口いっぱいに広がりました。
二人のおじいさんは、並んで庭の木を眺めました。
空では一羽の小鳥が、楽しそうに飛んでいました。
おしまい。
登場人物
- 優しいおじいさん
貧しい暮らしの中でも、毎日に感謝して暮らしている働き者のおじいさん。傷ついた小鳥を見返りを求めずに助け、不思議な種をもらいます。 - よくばりじいさん
自分が得をすることばかり考えていたおじいさん。優しいおじいさんのまねをすれば自分も宝を手に入れられると考えますが、思い通りにはいきません。その経験から少しずつ自分の行いを変えていきます。 - 小鳥
優しいおじいさんに助けられ、お礼として不思議な種を届けます。よくばりじいさんには、同じ行動でも、その心が大切であることを伝えます。 - 村の人たち
優しいおじいさんから木の実を分けてもらいます。後には、少しずつ変わっていくよくばりじいさんの姿も見守ります。
教訓
- 何かをしてもらうことばかり求めるのではなく、今あるものに感謝する気持ちを大切にする。
- 同じように見える行動でも、相手を思いやってすることと、自分の利益だけを求めてすることでは意味が違う。
- 一度失敗しても、自分の間違いに気づき、その後の行動を変えていくことができる。
親子で話したいポイント
- 優しいおじいさんとよくばりじいさんは、どんなところが違っていたのかな?
- 優しいおじいさんは、どうして小鳥を助けたのだろう?
- よくばりじいさんの木には、どうして実がならなかったと思う?
- 「ありがとう」と言われた時、どんな気持ちになる?
- よくばりじいさんが最後に「ありがとう」と言えるようになったのは、どうしてかな?
保育士向け活用ポイント
- 二人のおじいさんの行動を比べながら、「思いやり」「感謝」「見返りを求めない親切」について考えられる物語です。
- 「同じ行動でも、どんな気持ちでしたのか」という視点から、子どもたちと気持ちについて話し合う活動につなげられます。
- よくばりじいさんが失敗して終わるのではなく、その後少しずつ行動を変えていくため、「間違えてもやり直せる」というテーマでも活用できます。
- 小鳥や不思議な木、たくさんの実など、絵画や製作、劇遊びに取り入れやすい要素が多く、表現活動にも発展させられます。


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