ラプンツェル|世界の名作・昔話

世界の名作・昔話

あらすじ

むかしむかし、深い森の中に、空へ届きそうなほど高い塔がありました。

その塔には、長く美しい金色の髪を持つラプンツェルという女の子が暮らしていました。

塔には扉も階段もなく、ラプンツェルは外へ出ることができません。

彼女を育てている魔女から「外の世界は危険だ」と聞かされて育ったラプンツェルでしたが、窓から見える森や遠くの町を眺めるたびに、外の世界への憧れは少しずつ大きくなっていきました。

そんなある日、美しい歌声に導かれて、一人の王子さまが塔を見つけます。

王子さまとの出会いによって、ラプンツェルはこれまで知らなかった外の世界の話を聞き、自分自身の未来について考え始めるのでした。


本文

むかしむかし、深い森がどこまでも続く国がありました。

その森のさらに奥深く。

人がほとんど足を踏み入れない場所に、不思議な塔が一本だけ立っていました。

塔はとても高く、てっぺんを見上げると首が痛くなってしまうほどです。

石造りの壁には蔦が絡まり、その周りを大きな木々が取り囲んでいました。

けれど、その塔には不思議なことに、地上へつながる扉も階段もありません。

あるのは、はるか高い場所に開いた小さな窓だけでした。

その塔には、一人の女の子が暮らしていました。

名前は、ラプンツェル。

ラプンツェルには、誰もが振り返るほど美しい金色の髪がありました。

髪は成長するにつれてどんどん長くなり、今では塔の上から地面まで届くほどになっていました。

朝。

ラプンツェルは窓を開けます。

すると、森の中から鳥たちの声が聞こえてきました。

ちちち。

ぴいぴい。

木々の葉が朝の風に揺れています。

「おはよう。」

ラプンツェルは鳥たちへ話しかけました。

塔での暮らしは、毎日ほとんど同じでした。

本を読んだり、

歌を歌ったり、

長い髪をとかしたり、

窓から雲を眺めたり。

そんなふうにして一日を過ごします。

塔の中には食べ物も、本も、きれいな服もありました。

暮らすために困るものはありません。

それでもラプンツェルには、ずっと気になっていることがありました。

窓の外です。

晴れた日には、森の向こうに小さな町が見えました。

家々の煙突から煙が上がっています。

遠くの道を、小さな人影が行き交っていることもありました。

「あそこには、どんな人たちが暮らしているんだろう。」

夕方になれば、空が赤く染まります。

森の向こうへ沈んでいく太陽を見ながら、ラプンツェルは思いました。

「森の向こうには、何があるのかな。」

「もっと向こうには?」

「この塔の外には、どんな世界が広がっているんだろう。」

そんなことを考えるたびに、胸の奥が少しだけ高鳴りました。

けれど、ラプンツェルを育てている魔女はいつも言いました。

「外へ出ようなんて考えてはいけないよ。」

「どうして?」

「外の世界は危険だからさ。」

魔女は窓の外を見ながら続けます。

「怖い人間もいる。」

「道に迷うこともある。」

「嵐に遭うことだってある。」

そしてラプンツェルを見ました。

「ここなら何も怖いことはない。」

「お前は、この塔にいるのが一番幸せなんだよ。」

幼いころから何度も聞かされてきた言葉でした。

ラプンツェルも、ずっとそれを信じていました。

「外は危険な場所なんだ。」

そう思っていました。

けれど、成長するにつれて心の中に小さな疑問が生まれ始めました。

窓の外では、鳥たちが自由に飛んでいます。

春になると森には色とりどりの花が咲きます。

夏には遠くで川がきらきら輝きます。

秋には木々が赤や黄色に染まり、

冬には森いっぱいに真っ白な雪が積もります。

「危険なこともあるのかもしれない。」

「でも……。」

ラプンツェルは窓辺に頬杖をつきました。

「きれいなものも、たくさんあるんじゃないかな。」

そんなある日のことです。

一人の王子さまが、馬に乗って森を通りかかりました。

王子さまは旅が好きで、城の外へ出てさまざまな土地を訪れていました。

その日も、見たことのない道を進んでいました。

すると――。

森の奥から、美しい歌声が聞こえてきました。

王子さまは馬を止めました。

「……なんだろう?」

澄んだ歌声が、木々の間を流れてきます。

風に乗って、近づいたり遠ざかったり。

王子さまは歌声に耳を澄ませました。

「なんてきれいな声なんだ。」

声のする方へ馬を進めます。

木々の間を抜けると、突然、大きな塔が現れました。

「こんなところに塔が……。」

王子さまは驚きました。

けれど、塔には入り口がありません。

見上げると、はるか上の窓辺に誰かの姿が見えました。

「あの人が歌っているのか?」

王子さまは声をかけようとしました。

そのとき。

誰かが森の中からやってきました。

王子さまはとっさに大きな木の陰へ隠れました。

現れたのは魔女でした。

魔女は塔の下へ立つと、上を見上げて言いました。

「ラプンツェル、ラプンツェル。」

「お前の髪を下ろしておくれ。」

しばらくすると――。

さらり。

金色に輝く長い髪が、窓からするすると下りてきました。

王子さまは目を見張りました。

「なんて長い髪なんだ……。」

魔女はその髪につかまり、するすると塔へ登っていきました。

王子さまは木の陰から、その様子をじっと見ていました。

「なるほど。」

「ああやって塔へ入るのか。」

その日は何もせず、王子さまは城へ戻りました。

けれど、あの美しい歌声を忘れることができませんでした。

次の日。

王子さまは再び森へ向かいました。

塔の前に立ち、少し緊張しながら上を見上げます。

そして、魔女が言っていた言葉を思い出しました。

「ラプンツェル、ラプンツェル。」

「髪を下ろしてくれるかな。」

塔の中でラプンツェルは驚きました。

「今日はずいぶん声が違うような……。」

けれど、窓から長い髪を下ろしました。

王子さまは髪につかまり、慎重に塔を登っていきました。

そして窓へたどり着きました。

「こんにちは。」

「きゃっ!」

ラプンツェルは驚いて後ずさりました。

目の前に知らない人がいます。

「あなたは誰?」

「驚かせてごめんなさい。」

王子さまは慌てて頭を下げました。

「森を歩いていたら、あなたの歌声が聞こえてきたんです。」

ラプンツェルは警戒しながら尋ねました。

「外から来たの?」

「はい。」

「外の世界から?」

「そうです。」

その言葉を聞いた瞬間、ラプンツェルの表情が変わりました。

「外の世界って……どんなところ?」

王子さまは少し驚きました。

「外へ出たことがないのですか?」

ラプンツェルは首を横に振りました。

「一度もないの。」

「ずっと、この塔で暮らしているから。」

王子さまは窓の外を見ました。

そして、ラプンツェルへたくさんの話を聞かせました。

「春には、見渡すかぎり花が咲く草原があります。」

「本当に?」

「ええ。」

「風が吹くと、花が波みたいに揺れるんです。」

ラプンツェルの目が輝きました。

王子さまは続けます。

「大きな川もあります。」

「川?」

「太陽の光を受けると、銀色みたいに輝きます。」

「町には?」

「たくさんの人がいます。」

「朝になると市場が開いて、パンや果物や花を売る人たちの声でいっぱいになります。」

ラプンツェルは夢中になって聞きました。

「夜はどうなるの?」

「町には明かりがともります。」

「お祭りの日には音楽が聞こえて、みんなで踊ることもあります。」

「お祭り……。」

ラプンツェルは窓の外を見ました。

今まで遠くから眺めることしかできなかった世界。

そこには、本当にたくさんの人がいて、たくさんの景色があるのです。

「見てみたい。」

ラプンツェルが小さな声で言いました。

「私も、その世界を見てみたい。」

王子さまはうなずきました。

「きっと見られます。」

「でも……。」

ラプンツェルは少し不安そうな顔をしました。

「魔女は、外の世界は危険だって言っているの。」

王子さまはすぐには答えませんでした。

少し考えてから言いました。

「危険なことが、まったくないとは言えません。」

ラプンツェルは王子さまを見ました。

「嵐の日もあります。」

「道に迷うこともあります。」

「悲しいことや、うまくいかないことだってあります。」

そして王子さまは笑いました。

「でも、きれいなものもたくさんあります。」

「楽しいことも。」

「優しい人との出会いも。」

ラプンツェルは黙って聞いていました。

「外へ出るかどうかを決めるのは、あなた自身です。」

その言葉が、ラプンツェルの心に残りました。

その夜。

ラプンツェルはなかなか眠れませんでした。

窓から月を眺めます。

塔の外には、青白い月明かりに照らされた森が広がっていました。

ずっとここにいれば、安全なのかもしれない。

毎日、同じ部屋で本を読み、歌を歌い、窓から世界を眺める。

それも一つの暮らしです。

けれど――。

「私は……。」

ラプンツェルは自分の胸へ手を当てました。

「自分の目で見てみたい。」

遠くの町を。

花の咲く草原を。

大きな川を。

塔の窓からではなく、自分の足で歩いてみたい。

次に王子さまがやってきたとき、ラプンツェルは言いました。

「決めたわ。」

「何を?」

「私は、外へ行ってみたい。」

その声には、以前にはなかった強さがありました。

「怖くないのですか?」

王子さまが尋ねました。

ラプンツェルは少し考えました。

「怖いよ。」

そして笑いました。

「でも、怖いからって、ずっと何もしないままなのは嫌なの。」

「自分の目で世界を見て、自分で決めたい。」

王子さまもうなずきました。

「それなら、一緒に行きましょう。」

ラプンツェルは、自分の長い髪を使いながら慎重に塔を下りていきました。

少しずつ。

少しずつ。

地面が近づいてきます。

そして――。

とん。

ラプンツェルの足が、初めて大地に触れました。

しばらく、動くことができませんでした。

足元には柔らかな草が生えています。

ラプンツェルはそっと一歩進みました。

さくっ。

草を踏む音がしました。

もう一歩。

さくっ。

「これが……外なんだ。」

その瞬間。

ふわり。

森の風がラプンツェルの髪を揺らしました。

ラプンツェルは目を閉じました。

塔の窓から感じる風とは違います。

森の土の匂い。

草の香り。

木々の間から聞こえる鳥の声。

近くを流れる小川の音。

すべてが初めてでした。

「風って、こんな匂いがするんだね。」

王子さまは笑いました。

「行きましょう。」

二人は森を歩き始めました。

ラプンツェルは何度も立ち止まりました。

道ばたに咲く小さな花を見つけては、

「きれい。」

蝶が飛べば、

「待って!」

川へ着けば、水へ手を入れました。

「冷たい!」

鳥が頭の上を飛んでいくと、いつまでもその姿を見上げていました。

やがて森を抜けました。

その瞬間、ラプンツェルは立ち止まりました。

目の前には、どこまでも続く広い草原がありました。

遠くには山々。

青い空には白い雲。

さらにその向こうには、今まで塔から小さくしか見えなかった町があります。

「こんなに……。」

ラプンツェルは息をのみました。

「こんなに広かったんだ。」

王子さまは隣に立ちました。

「これでも、世界のほんの一部ですよ。」

「ほんの一部?」

「ええ。」

ラプンツェルは空を見上げました。

そして、嬉しそうに笑いました。

「それなら、もっと見てみたい。」

二人は町へ向かいました。

町では、ラプンツェルが今まで知らなかったものが次々と待っていました。

焼きたてのパンの香り。

市場に並ぶ色とりどりの果物。

道を走り回る子どもたち。

笑いながら話す人々。

広場から聞こえる音楽。

ラプンツェルは、たくさんの人と出会いました。

優しく声をかけてくれる人もいました。

困っていると助けてくれる人もいました。

もちろん、ときには思いどおりにならないこともありました。

道に迷うこともありました。

雨に降られることもありました。

知らないことばかりで、不安になることもありました。

それでもラプンツェルは、塔へ戻ろうとは思いませんでした。

知らないことに出会うたび、自分で考えました。

迷ったときには、自分で選びました。

そして少しずつ、自分の足で歩くことに慣れていきました。

ある日の夕方。

ラプンツェルと王子さまは、小高い丘の上から夕日を眺めていました。

遠くには、かつてラプンツェルが暮らしていた塔が小さく見えています。

王子さまが尋ねました。

「塔を出て、どうでしたか?」

ラプンツェルは少し考えました。

「怖いこともあったよ。」

「でも?」

ラプンツェルは夕日に照らされた世界を見渡しました。

「出てきてよかった。」

風が長い金色の髪を揺らします。

「私はずっと、窓から世界を見ていた。」

「でも今は、自分の足でここに立っている。」

王子さまは微笑みました。

ラプンツェルも笑いました。

二人の目の前には、まだ見たことのない道が遠くまで続いていました。

「次は、どこへ行こうか?」

ラプンツェルが尋ねました。

王子さまは道の向こうを指さしました。

「行ってみたいところへ。」

ラプンツェルはうなずきました。

そして二人は、夕日に照らされた道を並んで歩いていきました。

おしまい。


登場人物

ラプンツェル

塔の中で育った、長く美しい金色の髪を持つ女の子。外の世界への憧れを持ちながらも不安を感じていましたが、王子さまとの出会いをきっかけに、自分自身で未来を選び、塔の外へ踏み出します。

王子さま

森の中でラプンツェルの歌声を聞き、塔を見つけます。外の世界についてラプンツェルへ教えますが、彼女に決断を押しつけるのではなく、自分自身で選ぶことを後押しします。

魔女

ラプンツェルを塔の中で育てている人物。外の世界には危険があると考え、ラプンツェルを塔から出さずに暮らさせています。


教訓

  • 新しいことへ踏み出すとき、怖さを感じるのは自然なこと。それでも自分で考え、選ぶことで新しい経験につながっていく。
  • 周囲の人の考えを聞くことも大切ですが、自分がどうしたいのかを考えることも大切。
  • 人との出会いや新しい経験によって、それまで知らなかった世界や考え方を知ることができる。
  • 安全で慣れた場所から一歩踏み出すことで、自分自身の可能性が広がることがある。
  • 誰かの挑戦を支えるときには、答えを決めてあげるのではなく、その人自身が選べるよう応援することも大切。

親子で話したいポイント

  • ラプンツェルは、塔の中でどんな気持ちだったのかな?
  • どうして外の世界を見てみたいと思ったのだろう?
  • 王子さまから外の話を聞いたとき、ラプンツェルはどんな気持ちになったかな?
  • ラプンツェルは「怖い」と思っていたのに、どうして塔を出ることができたのだろう?
  • 初めてのことに挑戦するとき、どんな気持ちになる?
  • 勇気を出してやってみたら、楽しかったことはあるかな?
  • 自分がラプンツェルだったら、外の世界で最初に何を見てみたい?

保育士向け活用ポイント

造形・探究活動への展開に
「塔の窓から何が見える?」「外へ出たラプンツェルは何を見つけた?」などをテーマに、絵画や共同制作へ発展させることができます。

挑戦する気持ちを考える
ラプンツェルが不安を感じながらも塔の外へ一歩踏み出す姿から、「やってみたいけれど少し怖い」という子どもの気持ちについて考えるきっかけになります。

子どもの主体性につなげる
「自分はどうしたい?」というラプンツェルの選択を通して、子ども自身が考えたり選んだりする経験の大切さを伝えられます。

挑戦を支える関わりを考える
王子さまがラプンツェルに外へ出ることを強制せず、本人の決断を待つ姿から、保育者が子どもの挑戦をどのように支えるかを考える題材にもなります。

劇遊びや表現活動に
高い塔、長い金色の髪、森や町など、子どもがイメージを膨らませやすい要素が多くあります。布や毛糸を長い髪に見立てたり、積み木で塔を作ったりすることで、物語の世界を遊びへ広げられます。

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