あらすじ
むかしむかし、ある国に六人のお兄さんと、一人の妹が仲良く暮らしていました。
ところがある日、魔女の呪いによって、六人のお兄さんは白鳥の姿に変えられてしまいます。
妹が兄たちを元の姿に戻すためには、六枚の特別なシャツを作らなければなりません。
しかも、その間は決して言葉を話してはいけないという、とても難しい約束がありました。
妹は大好きな兄たちを救うため、寂しさや苦しさに耐えながら、長い年月をかけてシャツを作り続けます。
やがて成長した妹は王様と出会いますが、それでも兄たちとの約束を守り、黙ったまま針を動かし続けました。
「家族を思う気持ち」「最後まであきらめない心」「自分が決めたことを貫く強さ」を伝える世界の名作です。
本文
むかしむかし、ある国に六人のお兄さんと、小さな妹が住んでいました。
七人の兄妹は、とても仲良しでした。
天気のよい日には一緒に外へ出て遊び、夜になると同じ部屋に集まって、楽しかった出来事を話しました。
妹が困っていると、六人のお兄さんはいつも助けてくれました。
「大丈夫?」
「僕たちがいるからね。」
妹も、そんなお兄さんたちが大好きでした。
毎日、笑い声の絶えない暮らしが続いていました。
ところが、ある日のことです。
お城に一人の魔女がやって来ました。
魔女は六人のお兄さんを見つけると、不思議な呪文を唱えました。
すると――。
辺りに強い風が吹き始めました。
びゅうううっ。
「なんだ、この風は!」
お兄さんたちが驚いていると、その体が白い光に包まれました。
腕は大きな翼に。
体は真っ白な羽に覆われていきます。
妹は目の前で起きていることが信じられませんでした。
「お兄ちゃん!」
光が消えたとき、そこに六人のお兄さんの姿はありませんでした。
代わりにいたのは――。
六羽の美しい白鳥でした。
白鳥たちは大きな翼を広げました。
ばさっ。
ばさっ。
そして次々と空へ飛び立っていきます。
「待って!」
妹は慌てて追いかけました。
「お兄ちゃん!」
「行かないで!」
けれど、小さな妹がどれだけ走っても、空を飛ぶ白鳥たちには追いつけません。
六羽の白鳥は、森の向こうへ飛んでいってしまいました。
妹は泣きながら、その後を追いました。
森の中へ入り、木々の間を走り続けます。
「お兄ちゃん!」
「どこにいるの?」
返事はありません。
聞こえるのは、風が木の葉を揺らす音だけです。
さらさら。
さらさら。
どれくらい歩いたでしょう。
妹が疲れて立ち止まった、そのときです。
頭の上から羽ばたく音が聞こえました。
ばさっ。
妹が顔を上げると、一羽の白鳥がゆっくりと舞い降りてきました。
「お兄ちゃん……?」
白鳥は妹の前に立ちました。
そして言いました。
「僕たちは、魔女の呪いで白鳥に変えられてしまったんだ。」
妹は涙をぬぐいました。
「元の姿には戻れないの?」
白鳥は答えました。
「戻る方法は、一つだけある。」
妹は身を乗り出しました。
「教えて!」
「何でもするから!」
白鳥は静かに話し始めました。
「僕たち六人のために、六枚の特別なシャツを作るんだ。」
「六枚のシャツ……。」
「そう。」
「でも、それだけではない。」
白鳥は妹をじっと見つめました。
「シャツを作っている間、決して言葉を話してはいけない。」
妹は驚きました。
「ずっと……?」
「どんなことがあっても、言葉を話してはいけないんだ。」
それは、とても難しい約束でした。
誰かに呼ばれても。
寂しくなっても。
悲しいことがあっても。
言葉を話すことはできません。
それでも妹は、六羽の白鳥を見つめました。
大好きなお兄さんたちを、もう一度元の姿に戻したい。
妹の気持ちは決まっていました。
妹は力強くうなずきました。
そして心の中で誓いました。
「絶対にあきらめない。」
それから妹は、森の中で暮らし始めました。
毎日、シャツを作るための植物を探しました。
草むらを歩き。
木々の間を探し。
必要な植物を一つずつ集めていきます。
集めた植物の繊維を、一本一本ていねいに取り出しました。
それを糸にして、少しずつシャツを作っていきます。
一針。
また一針。
急いではいけません。
六人のお兄さんたちのために、心を込めて作ります。
森の中では、さまざまな人と出会うこともありました。
「こんにちは。」
声をかけられても、妹は答えることができません。
「どうしたの?」
「言葉が話せないの?」
それでも妹は黙ったまま、静かに頭を下げました。
話したくなることもありました。
寂しくて、誰かに気持ちを聞いてほしい夜もありました。
そんなとき、妹は空を見上げました。
月明かりの下を、六羽の白鳥が飛んでいくことがありました。
ばさっ。
ばさっ。
「あそこに、お兄ちゃんたちがいる。」
妹は心の中でそうつぶやきました。
そして、また針を持ちます。
一針。
また一針。
季節が変わりました。
春が来て。
夏が来て。
秋が過ぎ。
森に冬が訪れました。
それでも妹は作り続けました。
一年が過ぎても。
また次の年が来ても。
妹は言葉を話さず、兄たちのためにシャツを作り続けました。
やがて、小さかった妹は美しい女性へと成長しました。
ある日のことです。
森へやって来た王様が、そこで暮らしている妹を見つけました。
王様は、黙ったまま一生懸命に針を動かす妹を不思議に思いました。
「あなたは、なぜこんな森の中で一人で暮らしているのですか?」
妹は答えません。
答えることができないのです。
王様はもう一度尋ねました。
「何か理由があるのですね?」
妹は静かにうなずきました。
王様は、それ以上無理に聞こうとはしませんでした。
「話せないのなら、話さなくてもいい。」
「きっと、あなたには大切な理由があるのでしょう。」
妹は王様を見つめ、もう一度うなずきました。
やがて王様は、妹の優しさやひたむきな姿に心をひかれるようになりました。
そして、妹に結婚を申し込みました。
妹は言葉を話すことができません。
それでも王様の気持ちを受け入れ、静かにうなずきました。
こうして妹は王様と結婚し、お城で暮らすようになりました。
けれど、暮らす場所が変わっても、妹がすることは同じです。
毎日、兄たちのためにシャツを作り続けました。
一針。
また一針。
王様はそんな妹を見守りました。
けれど、お城にいる人たちの中には、妹のことを不思議に思う者もいました。
「どうして何も話さないのだろう。」
「王様にさえ話をしないなんて、おかしい。」
そんな声が聞こえてきても、妹は何も答えません。
本当の理由を話せば、兄たちを元の姿に戻すことができなくなってしまいます。
妹はただ、針を動かし続けました。
「あと少し。」
心の中で何度も自分に言い聞かせます。
「もう少しで、お兄ちゃんたちを助けられる。」
王様も、妹を信じ続けました。
「きっと何か理由があるのだろう。」
月日は流れました。
一枚目のシャツができました。
二枚目。
三枚目。
四枚目。
五枚目。
そして――。
とうとう、最後の六枚目を作る日がやってきました。
妹の指は、長い年月の間に何度も針を動かしてきました。
一針。
また一針。
「もう少し……。」
妹の胸が高鳴ります。
そのときです。
遠くから、羽ばたく音が聞こえてきました。
ばさっ。
ばさっ。
ばさっ。
妹は顔を上げました。
青い空の向こうから、白いものが近づいてきます。
一羽。
二羽。
三羽。
四羽。
五羽。
六羽。
六羽の白鳥でした。
妹は立ち上がりました。
「お兄ちゃん……!」
声には出せません。
けれど、その目には涙があふれていました。
六羽の白鳥が、妹の前へ舞い降りました。
妹は完成したシャツを抱えて走ります。
そして、一羽ずつ白鳥にシャツを着せていきました。
一枚目。
白鳥の体が光に包まれます。
二枚目。
三枚目。
四枚目。
五枚目。
そして最後の一枚。
妹は六羽目の白鳥に、そっとシャツを着せました。
その瞬間――。
まぶしい光が辺りを包みました。
白い羽がきらきらと輝きます。
妹はまぶしさに目を閉じました。
やがて光が消えます。
恐る恐る目を開けると――。
そこには、もう白鳥はいませんでした。
「……!」
妹の前に立っていたのは、六人のお兄さんたちでした。
ずっと会いたかった、大好きなお兄さんたちです。
「ありがとう。」
お兄さんたちは妹を抱きしめました。
妹の目から、大粒の涙がこぼれました。
長い間、ずっと守り続けてきた約束は、もう終わりました。
妹はゆっくりと口を開きました。
「お兄ちゃん……。」
久しぶりに、自分の声が聞こえました。
「みんなに会いたかった。」
お兄さんたちも涙を浮かべながら笑いました。
「僕たちもだよ。」
「ずっと信じていたよ。」
妹は六人のお兄さんたちと、もう一度しっかり抱き合いました。
王様も、ようやく妹が言葉を話さなかった理由を知りました。
長い年月、一人で約束を守り続けていたこと。
大切な兄たちを助けるために、何があってもあきらめなかったこと。
すべてを知った王様は、妹に言いました。
「あなたは本当に強く、優しい人だったのですね。」
妹は微笑みました。
そして六人のお兄さんたちも、妹と王様と一緒に暮らすようになりました。
長い間離ればなれだった兄妹は、ようやく再び同じ場所で笑い合うことができました。
青い空の下。
六人のお兄さんと妹の楽しそうな声が、いつまでも響いていたのでした。
おしまい。
登場人物
妹
魔女の呪いで白鳥に変えられてしまった六人の兄を救うため、長い年月にわたって言葉を話さず、六枚のシャツを作り続ける主人公です。家族を思う優しさと、最後までやり遂げる強い心を持っています。
六人のお兄さん
魔女の呪いによって六羽の白鳥に変えられてしまいます。元の姿に戻るため、妹が約束を果たしてくれることを信じ続けます。
王様
森で妹と出会い、言葉を話さない彼女にも何か大切な理由があるのだろうと信じます。妹の優しさに心をひかれ、結婚したあとも温かく見守ります。
魔女
六人のお兄さんに魔法をかけ、白鳥の姿に変えてしまう存在です。
教訓
- 大切な人を思う気持ちは、苦しいときにも前へ進む大きな力になる。
- すぐに結果が出なくても、あきらめずに努力を続けることで願いに近づくことができる。
- 自分が決めたことを最後までやり遂げようとする強い気持ちは、大きな困難を乗り越える力になる。
- 相手の事情が分からないときにも、すぐに決めつけず、信じて待つことの大切さがある。
親子で話したいポイント
- 妹は、どうして長い間、言葉を話さずに約束を守り続けることができたのかな?
- お兄さんたちのためにシャツを作っているとき、妹はどんな気持ちだったと思う?
- 自分も誰かのために頑張ったことはあるかな?
- 途中であきらめたくなったとき、どんなことを考えたらもう一度頑張れそう?
- 家族や大切な人に「ありがとう」と伝えたいのは、どんなときかな?
保育士向け活用ポイント
保育者自身にとっても、子どもの行動だけを見て判断するのではなく、その背景にある気持ちや理由を想像して関わることの大切さを振り返る教材として活用できます。
家族を思う気持ちや思いやりをテーマにした読み聞かせとして活用できます。
妹が長い時間をかけて六枚のシャツを作り続ける姿から、「すぐにできなくても少しずつ続けること」を子どもたちと考えるきっかけになります。
「妹はどんな気持ちだった?」「自分だったら途中でどうする?」など、登場人物の気持ちを想像することで、共感性や自分の考えを言葉にする活動へつなげられます。
「最後まで頑張ること」だけを求めるのではなく、妹が自分にとって大切な目的を持って取り組んでいたことに注目し、「何のために頑張るのか」を考える題材として活用できます。
王様が言葉を話さない妹をすぐに否定せず、「何か理由があるのだろう」と受け止める姿から、相手には自分から見えない事情があるかもしれないことを考えるきっかけになります。
白鳥や白い羽を題材にした製作、羽ばたきを表現するリズム遊び、兄妹や王様になりきる劇遊びなど、表現活動にも発展させやすい作品です。


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