あらすじ
むかしむかし、山奥のお寺に、食べることが大好きなお坊さんたちが暮らしていました。
ある秋の日、村の人がお礼にと、とても大きな里芋を持ってきてくれます。
お坊さんたちは大喜び。
ところが、いざ食べようとすると、「自分が大きなところを食べたい」と言い出し、なかなか決まりません。
困った和尚さんが考えたのは、丸い里芋をころころと転がして、止まったところにいる人が食べるという方法でした。
ところが、転がり始めた里芋は思わぬところまで進んでいって――。
本文
むかしむかし、山の中に小さなお寺がありました。
周りには深い森が広がり、朝になると鳥の声が聞こえ、夕方には山の向こうへゆっくりと日が沈みます。
そのお寺には、和尚さんと何人かのお坊さんが仲良く暮らしていました。
朝早く起きてお経を読み、境内を掃除し、畑の草を取り、水を運びます。
毎日よく働き、静かで穏やかな暮らしを送っていました。
ただ、お坊さんたちには一つだけ、みんなに共通することがありました。
それは――。
食べることが大好きだったのです。
「今日のご飯は何だろう」
「畑の大根もそろそろ食べごろかな」
仕事が終わるころになると、そんな話ばかりしていました。
中でも、お坊さんたちが楽しみにしていたのが秋の里芋です。
ほくほくに煮てもおいしい。
みそ汁に入れてもおいしい。
「今年も里芋の季節が来たなあ」
「熱々をふうふうしながら食べるのが一番だ」
「いやいや、味がしっかり染みた里芋もいいぞ」
里芋の話をしているだけで、お坊さんたちのお腹が、
ぐううう……。
と鳴りそうでした。
そんなある秋の日のことです。
境内の木々が赤や黄色に色づき始めたころ、一人の村人がお寺へやってきました。
「和尚さん、こんにちは」
「これはこれは。どうされましたか」
村人は大きな包みを抱えていました。
「いつも村のことを気にかけていただいているお礼です。みなさんで召し上がってください」
そう言って包みを開きました。
中から現れたのは――。
「おおっ!」
お坊さんたちが声を上げました。
それは、とても大きな里芋でした。
ごろん。
両手で抱えなければならないほど立派な里芋です。
「こんなに大きな里芋、見たことがないぞ!」
「これはうまそうだ!」
「ありがとうございます!」
お坊さんたちは大喜びしました。
さっそく泥を落とし、きれいに洗いました。
そして、
「今夜はみんなで、この里芋をいただこう!」
ということになりました。
夕方になると、いよいよ里芋を食べる時間です。
ところが――。
大きな里芋を前にしたお坊さんたちは、じっとその姿を見つめました。
「…………」
誰も何も言いません。
みんな同じことを考えていました。
――できれば、大きなところを食べたい。
やがて一人のお坊さんが口を開きました。
「ところで、この里芋はどうやって分けるんだ?」
「同じ大きさに切ればいいんじゃないか?」
「でも、完全に同じにはならないぞ」
すると、一人のお坊さんが言いました。
「だったら、私が一番大きなところをもらってもいいんじゃないか?」
「どうしてだ?」
「私は今日、一番たくさん働いたからだよ」
それを聞いた別のお坊さんが言いました。
「待て待て。私だって朝から境内を掃除したぞ」
すると、また別のお坊さんも負けじと言います。
「私は畑の草取りをした!」
「私は井戸から何度も水を運んだぞ」
「それなら私は薪を割った!」
「私だってお経を一番大きな声で読んだ!」
「それは関係ないだろう!」
だんだん声が大きくなっていきます。
さっきまで仲良く里芋を囲んでいたはずなのに、気づけば、
「私だ!」
「いや、私だ!」
と、言い争いになってしまいました。
そこへ和尚さんがやってきました。
「ずいぶんにぎやかですね。何をしているのですか?」
お坊さんたちは一斉に和尚さんへ話し始めました。
「和尚さん、聞いてください!」
「私が一番働いたんです!」
「いや、私ですよ!」
「だから大きなところは私が――」
和尚さんは、しばらく黙って話を聞いていました。
そして、みんなの真ん中に置かれた大きな里芋を見ました。
「なるほど」
和尚さんはひげをなでながら、少し考えました。
「では、みんなが納得できる方法を考えてみましょう」
「そんな方法がありますか?」
「誰が大きなところを食べるか決められるんですか?」
和尚さんは里芋を手に取りました。
そして、にっこり笑いました。
「それなら、この里芋に決めてもらえばよいでしょう」
「里芋に?」
お坊さんたちは首をかしげました。
「里芋がどうやって決めるんです?」
和尚さんは里芋を畳の上へ置きました。
ごろん。
「この里芋は丸い」
「はい」
「丸ければ?」
「……転がります」
「その通り」
和尚さんは言いました。
「みんなで少し離れて座り、里芋を転がしてみましょう」
「そして、里芋が止まったところにいる人が食べることにするのです」
お坊さんたちは顔を見合わせました。
「なるほど!」
「それなら運任せだ」
「誰も文句は言えないな」
みんな急に楽しそうになりました。
お坊さんたちは部屋のあちこちへ座りました。
和尚さんが里芋に手を添えます。
「では、いきますよ」
「はい!」
ころん。
和尚さんが手を離しました。
ころころころ……。
大きな里芋が畳の上を転がり始めました。
「こっちだ!」
一人のお坊さんが身を乗り出します。
「いや、こっちへ来い!」
「もう少し右だ!」
もちろん、里芋にそんな声が分かるはずもありません。
ころころころ……。
「あっ、こっちに来た!」
一人のお坊さんの前へ近づいていきます。
「よし、よし……!」
ところが。
ころっ。
里芋は少し向きを変えました。
「ああっ!」
今度は別のお坊さんのほうへ進みます。
「今度こそ私だ!」
「止まれ!」
「そこで止まれ!」
お坊さんたちは、すっかり夢中です。
ところが――。
ころころころ……。
里芋は誰の前にも止まりません。
そのまま部屋の端まで転がっていきました。
「おい、待て!」
ごつん。
壁にぶつかりました。
「止まった!」
と思った、その瞬間。
ころん。
壁に当たったはずみで、里芋は向きを変えました。
「あっ!」
開いていた障子のほうへ転がっていきます。
ころころころ……。
「部屋から出ていくぞ!」
お坊さんたちは慌てて立ち上がりました。
里芋は廊下へ出ました。
ころころころ。
「待て、待て!」
お坊さんたちも追いかけます。
ころころころ。
「そっちは違う!」
「里芋に言っても分からないぞ!」
廊下の先には階段がありました。
「危ない!」
一人のお坊さんが手を伸ばします。
しかし、あと少し届きません。
ころん。
里芋が階段の端へ来ました。
そして――。
ごとん!
一段落ちました。
ごとん!
もう一段。
ごとん、ごとん、ごとん!
「わあああ!」
お坊さんたちは大慌てで階段を下ります。
里芋は勢いよく転がっていきます。
ごろごろごろごろ!
「割れてしまう!」
「せっかくの里芋が!」
みんな必死です。
やがて里芋は階段を下りきりました。
ころころころ……。
少しずつ勢いが弱くなります。
「止まるぞ!」
「誰のところだ?」
ころ……。
ころ……。
そして――。
ぴたり。
里芋はようやく止まりました。
お坊さんたちも息を切らしながら追いつきます。
「はあ、はあ……」
「いったい、どこまで転がったんだ……」
みんなが顔を上げました。
そして、目の前を見ました。
そこは――。
「台所だ」
誰かがぽつりと言いました。
そうです。
里芋は、お寺の台所の前で止まっていたのです。
しばらく、みんな黙っていました。
そして一人のお坊さんが言いました。
「これは……料理しろということかな?」
別のお坊さんが答えました。
「誰か一人に食べられるより、みんなに食べられたかったのかもしれないぞ」
「まさか、里芋が?」
誰かが言いました。
すると――。
「はははは!」
一人が笑いました。
「あははは!」
また一人が笑います。
やがて、お坊さんたちはみんなで大笑いしました。
和尚さんも、ゆっくり階段を下りてきました。
「どうやら、決まったようですね」
「和尚さん!」
「里芋が台所まで逃げてしまいました!」
和尚さんは床に転がっている里芋を見ました。
そして、にっこり笑いました。
「里芋は、一人で食べる人を選ばなかったようですね」
お坊さんたちは顔を見合わせました。
和尚さんは続けます。
「せっかく村の人が、みんなで食べるようにと持ってきてくださった里芋です」
「一人でたくさん食べるより、みんなでいただいたほうがよいのではありませんか?」
さっきまで、
「自分が一番大きなところを!」
と言っていたお坊さんたちは、少し恥ずかしくなりました。
「そうですね……」
「私たち、何を言い争っていたんだろう」
「里芋一つでけんかするなんてな」
「それより早く料理しよう」
「そうだ、そうだ!」
お坊さんたちは大きな里芋を台所へ運びました。
きれいに切り分け、大きな鍋でことこと煮込みます。
ぐつぐつ。
ぐつぐつ。
やがて、お寺の中いっぱいに、おいしそうな匂いが広がりました。
「いい匂いだなあ」
「早く食べたい!」
ようやく料理ができあがると、みんなでお椀を囲みました。
大きなものもあれば、小さなものもあります。
けれど、もう誰も、
「もっと大きなものがいい」
とは言いませんでした。
「いただきます!」
みんなで一緒に里芋を口へ運びます。
ほくほく。
柔らかな里芋が口の中でほどけました。
「うまい!」
「これはおいしい!」
「さっき取り合っていたときより、ずっとおいしく感じるなあ」
「本当だ」
和尚さんも笑っています。
お坊さんたちは、顔を見合わせながら里芋を食べました。
「みんなで食べると、楽しいね」
「うん。これなら小さな芋でも十分だ」
秋の夜。
山奥のお寺からは、楽しそうな笑い声がいつまでも聞こえていました。
それからというもの、お寺でおいしい食べ物をいただくたび、お坊さんたちはあの日のことを思い出しました。
そして、ときどき誰かが丸い里芋を見つけると、
「気をつけろ。そいつは台所まで逃げるぞ」
と言います。
すると、みんなで顔を見合わせて笑ったということです。
おしまい。
登場人物
- 和尚さん
お坊さんたちの言い争いを怒って止めるのではなく、里芋を転がすという面白い方法を考える知恵のある人物です。 - お坊さんたち
食べることが大好きなお坊さんたち。大きな里芋を前にして欲張ってしまいますが、里芋を追いかけるうちに自分たちの姿を振り返ります。 - 村の人
日ごろのお礼として、お寺のみんなで食べてもらおうと大きな里芋を届けます。
教訓
- 自分だけが多くもらおうとするより、みんなで分け合うことで楽しい時間を過ごすことができます。
- 意見がぶつかったときには、誰か一人が我慢するのではなく、みんなが納得できる方法を考えることも大切です。
- 誰かからいただいたものには、その人の気持ちも込められています。感謝して大切にいただく心を持ちたいものです。
親子で話したいポイント
- お坊さんたちは、どうして里芋を取り合ってしまったのかな?
- 自分が一番大きなものを欲しくなったことはある?
- みんなが同じものを欲しがったら、どんな方法で決めるといいかな?
- 里芋が台所で止まったとき、お坊さんたちはどんな気持ちになったと思う?
- 一人で食べるときと、家族や友だちと一緒に食べるときでは、どんな違いがあるかな?
保育士向け活用ポイント
秋の食材や給食、食育活動と組み合わせ、食べ物を作った人や届けてくれた人への感謝について考えるきっかけにもできます。
「分け合うこと」「順番」「公平さ」をテーマにした読み聞かせとして活用できます。
おもちゃや遊具の取り合いなど、子どもたちの日常で起こりやすい場面と結びつけ、「みんなが納得するにはどうしたらいい?」と考える活動につなげられます。
里芋がころころと寺の中を転がっていく場面は動きが分かりやすく、年少児でも楽しみやすい展開です。
年中〜年長児では、「同じ大きさにすることだけが公平なのか」「どうやって決めれば納得できるのか」といった話し合いにも発展させられます。


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