あらすじ
むかしむかし、ある国に「青ひげ」と呼ばれる、とてもお金持ちの男が住んでいました。
青ひげは大きなお城に住み、たくさんの宝物を持っていました。
ある日、青ひげは一人の心優しい女性と結婚します。
しばらくして旅へ出ることになった青ひげは、女性にお城の鍵束を渡しました。
「お城の中は、どこでも自由に使っていい。」
「ただし、この小さな鍵で開く部屋だけは、絶対に開けてはいけない。」
女性は約束しますが、青ひげが旅立ったあと、どうしてその部屋だけ開けてはいけないのか気になって仕方がありません。
そしてとうとう、女性は小さな鍵を使って扉を開けてしまいます。
暗く静まり返った部屋の中で、女性は青ひげが隠していた恐ろしい秘密を知ることになります。
やがて青ひげが帰ってきて、約束を破ったことに気づかれてしまった女性。
恐怖の中でも助けを求めることをあきらめず、家族の力を借りて危機から逃れます。
「困ったときに一人で抱え込まないこと」「危険を感じたときに助けを求めること」の大切さを伝える世界の名作です。
本文
むかしむかし、ある国に、とてもお金持ちの男が住んでいました。
男は大きなお城に住み、数えきれないほどの宝物を持っていました。
広い庭。
立派な家具。
きらきら輝く金や銀の飾り。
お城の中には、たくさんの部屋が並んでいました。
けれど、この男には一つ、とても変わったところがありました。
男のあごには、青く見える立派なひげが生えていたのです。
そのため、人々は男のことを、
「青ひげ」
と呼んでいました。
ある日、青ひげは一人の心優しい女性と結婚しました。
女性は大きなお城で、青ひげと一緒に暮らすことになりました。
お城には美しい部屋がいくつもあり、どこを見ても立派なものばかりです。
けれど、長い廊下の奥には、いつも固く閉ざされている一つの扉がありました。
女性はその扉の前を通るたびに、少し気になっていました。
「この部屋には、何があるのかしら。」
けれど、青ひげが何も話さないので、女性も尋ねることはありませんでした。
結婚してしばらくたった、ある日のことです。
青ひげが女性に言いました。
「しばらく旅へ出ることになった。」
そして、大きな鍵束を取り出しました。
じゃらり。
大小さまざまな鍵がついています。
「私が留守の間、このお城は自由に使っていい。」
「友だちを呼んでもかまわない。」
「どの部屋へ入ってもいいし、宝物を見てもいい。」
女性はうなずきました。
「わかりました。」
すると青ひげは、鍵束の中から一つの小さな鍵を指さしました。
「ただし――。」
青ひげの声が低くなりました。
「この小さな鍵で開く部屋だけは、絶対に開けてはいけない。」
女性は青ひげの顔を見ました。
「絶対に、ですか?」
「ああ。」
青ひげはじっと女性を見つめます。
「何があっても、開けてはいけない。」
いつもとは違う青ひげの声に、女性は少し不安になりました。
それでも、
「わかりました。」
と約束しました。
やがて青ひげは、お城を出発しました。
馬の足音が少しずつ遠ざかっていきます。
ぱかっ、ぱかっ。
ぱかっ、ぱかっ。
そして、お城は静かになりました。
青ひげがいなくなると、女性の友だちがお城へ遊びに来ました。
「まあ、なんて大きなお城!」
「こんなにたくさん部屋があるのね。」
みんなでお城の中を見て回りました。
広い庭を歩き、
美しい部屋を眺め、
きらきら輝く宝物を見ました。
「すごい!」
「こんな立派なもの、見たことがないわ。」
みんなは楽しそうです。
女性も一緒に笑っていました。
けれど――。
女性の頭から離れないものがありました。
あの小さな鍵です。
鍵束を見るたび、青ひげの言葉を思い出します。
「この小さな鍵で開く部屋だけは、絶対に開けてはいけない。」
どうしてなのだろう。
なぜ、あの部屋だけなのだろう。
女性は気になって仕方がありません。
やがて友だちが帰り、お城は再び静かになりました。
しん……。
長い廊下には、女性の足音だけが響きます。
こつ。
こつ。
こつ。
女性は気づくと、あの扉の前まで来ていました。
廊下の奥。
ほかの部屋から少し離れたところにある、固く閉ざされた扉です。
女性は鍵束を握りしめました。
「開けてはいけない。」
そう自分に言い聞かせます。
「約束したもの。」
女性は一度、その場を離れようとしました。
けれど、数歩進んだところで立ち止まりました。
振り返ります。
扉は静かに閉じたままです。
「どうして、この部屋だけ……?」
気になればなるほど、確かめたくなってしまいます。
女性は迷いました。
長い廊下には誰もいません。
聞こえるのは、窓の外を吹く風の音だけ。
ひゅう……。
女性は鍵束から、小さな鍵を取り出しました。
「少しだけ。」
「中を見るだけなら……。」
扉の前に立ちます。
女性の胸がどきどきしました。
鍵を鍵穴に差し込みます。
かちゃり。
静かな廊下に、その音がやけに大きく響きました。
女性は息をのみました。
そして――。
ゆっくりと扉を開きました。
ぎいぃ……。
部屋の中は真っ暗でした。
窓からの光もほとんど入りません。
ひんやりとした空気が、扉の向こうから流れてきました。
女性は入口に立ったまま、暗闇を見つめました。
「何も見えない……。」
少しずつ目が暗さに慣れてきます。
女性は恐る恐る、部屋の中へ一歩入りました。
こつ。
その足音が、暗い部屋の奥へ響きました。
そして――。
女性は気づきました。
そこには、青ひげがずっと隠していた恐ろしい秘密があったのです。
「……!」
女性は息をのみました。
体が震えました。
「こんな……。」
これ以上、ここにいてはいけない。
女性は急いで部屋を飛び出しました。
ばたん!
扉を閉めます。
はあ。
はあ。
女性は廊下の壁に手をつきました。
心臓が激しく鳴っています。
「どうしよう……。」
そのとき、手にしていた小さな鍵を見て、女性はさらに青ざめました。
鍵に赤いしみがついていたのです。
「あっ……!」
女性は慌てて布で拭きました。
ごしごし。
何度もこすります。
けれど、しみは消えません。
水で洗ってみても、
布で包んでみても、
赤いしみは残ったままでした。
「どうしよう。」
「青ひげが帰ってきたら……。」
それから女性は、不安な時間を過ごしました。
夜になると、静かな廊下の向こうにあの扉があることを思い出します。
風が窓を揺らすたび、
がたっ。
女性はびくりとしました。
数日後。
お城の外から、馬の足音が聞こえてきました。
ぱかっ。
ぱかっ。
ぱかっ。
女性は窓から外を見ました。
「まさか……。」
青ひげが帰ってきたのです。
予定よりも早い帰りでした。
やがて大きな扉が開き、青ひげが城の中へ入ってきました。
「ただいま。」
女性はできるだけ平静を装いました。
「お、お帰りなさい。」
青ひげはしばらく女性を見つめました。
そして言いました。
「鍵を返してください。」
女性の胸がどきりとしました。
「はい……。」
女性は鍵束を渡しました。
じゃらり。
青ひげは一つずつ鍵を確かめます。
大きな鍵。
細長い鍵。
金色の鍵。
そして――。
あの小さな鍵を手に取りました。
青ひげの表情が変わりました。
鍵には、消えない赤いしみが残っています。
「これは何です?」
女性は何も答えられません。
青ひげは低い声で言いました。
「約束を破りましたね。」
「……ごめんなさい。」
女性の声は震えていました。
「どうか許してください。」
けれど青ひげは怒りました。
女性は怖くなりました。
このままではいけない。
誰かに助けてもらわなければ。
女性は勇気を出して言いました。
「お願いがあります。」
「少しだけ、時間をください。」
青ひげは女性をじっと見ました。
やがて、ほんの少しだけ時間を与えました。
女性は急いでお姉さんのところへ向かいました。
「お願い。」
「外を見ていて。」
「お兄さんたちが来たら、すぐに知らせて。」
お姉さんは女性の顔を見て、ただならぬ様子に気づきました。
「わかったわ。」
お姉さんは高い場所から、遠くの道を見ました。
女性は待ちます。
しん……。
時間がとてもゆっくり進んでいるように感じられました。
「お姉さん。」
「誰か見えない?」
「まだよ。」
女性は手をぎゅっと握りました。
下の階から青ひげの声が聞こえます。
「まだですか!」
女性はびくりとしました。
「もう少しだけ!」
そして、もう一度お姉さんに尋ねます。
「誰か来ない?」
お姉さんは遠くを見つめました。
「まだ……。」
女性は祈るような気持ちで待ちました。
そのとき――。
遠くから、かすかに音が聞こえてきました。
ぱかっ。
ぱかっ。
女性は顔を上げました。
「今の音は……?」
お姉さんが身を乗り出して遠くを見ます。
やがて声を上げました。
「見える!」
「馬に乗った人たちがこちらへ向かっているわ!」
ぱかっ、ぱかっ、ぱかっ!
馬の足音がどんどん近づいてきます。
女性の顔に、少しだけ希望が戻りました。
「お兄さんたちだ!」
やがて馬は城の前までやってきました。
女性のお兄さんたちが、急いで城の中へ駆け込んできたのです。
「妹はどこだ!」
青ひげは驚きました。
そして逃げようとしました。
けれど、お兄さんたちは青ひげを止めました。
女性はお姉さんのそばで、その様子を見ていました。
張りつめていた力が抜け、ようやく大きく息をつきました。
「助かった……。」
お姉さんが女性の手を握りました。
「もう大丈夫よ。」
女性はその言葉を聞いて、ほっとしました。
それから女性は家族と支え合いながら、新しい人生を歩み始めました。
青ひげの大きなお城も、やがて人々が安心して過ごせる場所として使われるようになりました。
女性は、ときどきあの日のことを思い出しました。
暗い部屋。
消えない鍵のしみ。
近づいてくる青ひげの足音。
そして、遠くから聞こえてきた家族の馬の音。
女性は、そばにいる家族を見ながら静かに微笑みました。
もう、一人ではありません。
おしまい。
登場人物
青ひげ
大きなお城に住む、とてもお金持ちの男性です。城の中に秘密の部屋を持ち、妻に「絶対に開けてはいけない」と言い残して旅へ出ます。
女性
青ひげと結婚した主人公です。開けてはいけないと言われた部屋の秘密を知ってしまい危険な状況に陥りますが、恐怖の中でも家族に助けを求めます。
お兄さんたち
妹を助けるため、馬に乗ってお城へ駆けつけます。危険が迫っていた女性を救う頼もしい家族です。
お姉さん
主人公とともにお城に残り、兄たちが助けに来るのを見張ります。不安な時間を一緒に過ごしながら、妹を支えます。
教訓
- 困ったときや危険を感じたときは、一人で抱え込まず、信頼できる人に助けを求めることが大切。
- 怖い状況に置かれても、助けを求めるためにできることを考え、行動することが自分を守ることにつながる。
- 家族や信頼できる人と支え合うことで、一人では乗り越えることが難しい危機から抜け出せることがある。
- 約束を守ることは大切ですが、不安や危険を感じたときには、自分の安全を守ることも大切。
親子で話したいポイント
- 女性は、どうして開けてはいけない部屋が気になったのかな?
- 部屋を開けたあと、女性はどんな気持ちだったと思う?
- 女性は危険を感じたとき、誰に助けを求めたかな?
- 自分が怖いことや困ったことに出会ったら、誰に相談できるかな?
- 一人で悩まずに誰かに話すことは、どうして大切なんだろう?
保育士向け活用ポイント
原作には残酷な場面がありますが、本記事では幼児にも読みやすいよう直接的な表現を避けています。
「困ったときには信頼できる大人に相談する」という安全教育につなげることができます。
女性が危険を感じたあと、一人で何とかしようとするのではなく、お姉さんやお兄さんたちに助けを求める展開から、「助けを求めることも自分を守るための大切な行動」であることを伝えられます。
「怖いことがあったら誰に話す?」「困ったときに助けてくれる人は誰?」など、子ども自身が安心して相談できる相手を考える活動へ発展させることができます。
子どもが秘密や不安を抱えている様子を見せたときに、安心して話せる関係や環境をつくることの大切さについて、保育者が振り返る教材としても活用できます。
物語には不安や恐怖を感じる場面があるため、読み聞かせでは子どもの年齢や発達に合わせて表現を調整し、読み終えたあとに安心できる言葉を添えることも大切です。
「約束を守る」という点だけを強調するのではなく、危険や強い不安を感じる状況では、自分の安全を守り、信頼できる大人に相談することを優先してよいという安全教育の視点につなげられます。


コメント