親指姫|世界の名作・昔話

世界の名作・昔話

あらすじ

むかしむかし、ある村に、子どもが欲しいと願っていた一人の優しい女性が暮らしていました。

ある日、女性は不思議な魔法使いから一粒の花の種をもらいます。

大切に育てると美しい花が咲き、その花びらの中から現れたのは、親指ほどの小さな女の子でした。

女性はその子を「親指姫」と名付け、大切に育てます。

ところが、ある夜、親指姫はひきがえるに連れ去られてしまいます。

そこから親指姫は、さまざまな出会いと別れを経験しながら、自分が心から安心して暮らせる場所を探して旅をすることになります。

「自分の気持ちを大切にすること」「自分らしく生きられる場所を見つけること」「誰かを思いやる優しさ」を伝える世界の名作です。


本文

むかしむかし、ある村に一人の優しい女性が住んでいました。

女性には、一つだけ大きな願いがありました。

「子どもがいてくれたら、どんなにうれしいでしょう。」

「小さくてもいいから、かわいい子どもがいてくれたら……。」

女性は毎日のように、そう願っていました。

そんなある日のことです。

女性の前に、不思議な魔法使いが現れました。

魔法使いは女性の願いを聞くと、小さな種を一粒差し出しました。

「この種を大切に育ててごらん。」

女性は両手で種を受け取りました。

「ありがとうございます。」

さっそく家へ帰ると、小さな植木鉢に土を入れ、その種をそっと植えました。

毎日、水をあげました。

「早く芽を出してね。」

日の当たる場所に置き、大切に大切に育てました。

すると、ある朝のこと。

土の中から小さな芽が顔を出していました。

「まあ!」

女性は大喜びです。

芽は少しずつ大きくなり、やがて一本のつぼみをつけました。

そして――。

ある日、そのつぼみから、とても美しい花が咲きました。

女性は花をのぞき込みました。

「なんてきれいな花でしょう。」

そして、花びらにそっと触れました。

すると――。

ふわり。

花びらがゆっくりと開いていきます。

「まあ……!」

女性は驚いて目を見開きました。

花の真ん中に、小さな女の子が座っていたのです。

その女の子は、女性の親指ほどの大きさしかありませんでした。

けれど、ぱっちりとした目をした、とてもかわいらしい女の子でした。

女性はうれしくてたまりません。

「ずっとあなたに会いたかったのよ。」

女性は小さな女の子を手のひらに乗せました。

「あなたの名前は、親指姫にしましょう。」

こうして親指姫は、女性と一緒に暮らすことになりました。

親指姫は、明るく元気に育ちました。

小さな花びらをベッドにして眠ります。

木の葉を舟にして、水の上をゆらゆら進んで遊ぶこともありました。

「わあ、楽しい!」

親指姫の笑い声が家の中に響きます。

女性はそんな親指姫を、いつも優しく見守っていました。

ところが、ある夜のことです。

親指姫が花びらのベッドですやすや眠っていると――。

ぴちゃ。

ぴちゃ。

暗い部屋の中から、何かが近づいてきました。

大きなひきがえるです。

ひきがえるは眠っている親指姫を見つけると、じっと顔をのぞき込みました。

「まあ、なんてかわいい娘だろう。」

そして言いました。

「この子なら、うちの息子のお嫁さんにぴったりだ。」

ひきがえるは、眠っている親指姫をそっと連れ去ってしまいました。

次の朝。

親指姫が目を覚ますと、見たこともない場所にいました。

「ここは……どこ?」

辺りには水が広がっています。

親指姫は、水の中に浮かぶ大きな葉っぱの上にいました。

すると、ひきがえるがやってきました。

「目が覚めたかい?」

「あなたは、うちの息子のお嫁さんになるんだよ。」

親指姫はびっくりしました。

「えっ?」

「そんな……。」

親指姫は悲しくなりました。

大好きな家から突然連れ出され、知らない場所で、会ったこともない相手のお嫁さんになると言われたのです。

「帰りたい……。」

けれど、親指姫は小さすぎて、自分の力だけでは水を渡ることができません。

どうしたらいいのか分からず、困っていました。

そんな親指姫の様子を見ていたものたちがいました。

水の中の魚たちや、小鳥たちです。

「かわいそうに。」

「ここから逃がしてあげよう。」

みんなは力を合わせて、親指姫を助けることにしました。

「早く逃げて!」

親指姫は驚きました。

「助けてくれるの?」

「もちろん。」

親指姫は何度も頭を下げました。

「ありがとう。」

「本当にありがとう!」

こうして親指姫は、ひきがえるのところから逃げることができました。

けれど、帰る道は分かりません。

親指姫は一人で旅を続けることになりました。

小さな体で、草の間を歩きます。

親指姫にとっては、小さな石も大きな岩のようです。

草の葉も、自分よりずっと高くそびえています。

それでも親指姫は歩き続けました。

やがて季節が変わり、風が冷たくなってきました。

ある日、親指姫は野ねずみの家にたどり着きました。

野ねずみは親指姫を見ると、家の中へ招いてくれました。

「そんなところにいたら寒いでしょう。」

「ここで暮らすといいよ。」

「ありがとうございます。」

親指姫は野ねずみの家で暮らすことになりました。

暖かな家があり、食べるものもあります。

親指姫は野ねずみのお手伝いをしながら過ごしました。

しばらくすると、野ねずみは親指姫に言いました。

「あなたにぴったりの相手がいるよ。」

「もぐらさんだ。」

もぐらは立派な家に住んでいました。

野ねずみは言います。

「もぐらさんのお嫁さんになれば、きっと幸せに暮らせるよ。」

けれど、親指姫は素直に喜ぶことができませんでした。

もぐらの家は地面の下にあり、太陽の光も、美しい花も見ることができません。

親指姫は花が大好きでした。

青い空も。

暖かな太陽も。

風に揺れる草も大好きでした。

「ここで暮らせば、困ることはないのかもしれない。」

「でも……。」

親指姫は自分の胸に手を当てました。

「私は、本当に幸せになれる場所へ行きたい。」

誰かに決めてもらうのではなく、自分の気持ちを大切にしたい。

親指姫はそう思っていました。

そんなある寒い冬の日のことです。

親指姫は、一羽のつばめを見つけました。

つばめは傷つき、冷たい地面の上で動けなくなっていました。

「大変!」

親指姫はつばめのそばへ駆け寄りました。

「大丈夫?」

返事はありません。

親指姫は心配になりました。

「このままでは寒くて凍えてしまう。」

親指姫はつばめが少しでも暖かく過ごせるようにしてあげました。

毎日そばへ行き、つばめの様子を見ました。

「元気になってね。」

「春になったら、また空を飛べるからね。」

親指姫は一生懸命つばめのお世話をしました。

長い冬が続きます。

外には冷たい風が吹き、雪が降りました。

それでも親指姫は、つばめを見捨てませんでした。

やがて――。

雪が溶け始めました。

暖かな風が吹きます。

土の中から、小さな草の芽が顔を出しました。

春がやってきたのです。

つばめも少しずつ元気を取り戻していきました。

そして、ある日。

ぱたぱた。

つばめは翼を広げました。

「飛べる!」

親指姫はうれしそうに笑いました。

「よかった!」

つばめは親指姫を見つめました。

「ずっと助けてくれてありがとう。」

「あなたがいなかったら、私は冬を越せなかったでしょう。」

そして、つばめは言いました。

「私はこれから暖かな国へ行きます。」

「親指姫、一緒に行きませんか?」

親指姫は驚きました。

「私も?」

「ええ。」

「私の背中に乗ってください。」

親指姫は少し考えました。

ここにいれば、野ねずみの家で暮らすことはできます。

もぐらのお嫁さんになれば、食べ物にも住む場所にも困らないかもしれません。

けれど、それは親指姫が本当に望んでいる暮らしではありませんでした。

親指姫はうなずきました。

「行きます。」

「私も一緒に連れていってください。」

親指姫はつばめの背中に乗りました。

「しっかりつかまっていてね。」

「うん!」

つばめは大きく翼を広げました。

ぱたぱた。

ふわり。

親指姫の体が空へ浮かび上がります。

「わあ!」

どんどん地面が遠くなっていきます。

親指姫は初めて見る景色に目を輝かせました。

上には、どこまでも続く青い空。

下には、美しい花畑。

きらきらと光る川。

緑の森。

遠くには山々も見えます。

風が親指姫の髪を優しく揺らしました。

「きれい……。」

親指姫は、つばめの背中から夢中で景色を眺めました。

つばめは暖かな風に乗りながら、どこまでも飛んでいきました。

やがて二人は、とても美しい国へたどり着きました。

そこには、親指姫が今まで見たこともないほどたくさんの花が咲いていました。

赤い花。

黄色い花。

青い花。

白い花。

色とりどりの花が、風に揺れています。

「なんて素敵なところ……。」

親指姫が花のそばへ降りると、そこには小さな花の妖精たちが暮らしていました。

みんな親指姫と同じくらいの大きさです。

親指姫は驚きました。

これまで親指姫は、どこへ行っても自分だけがとても小さな存在でした。

けれど、ここでは違います。

花の妖精たちは親指姫を見つけると、笑顔で迎えてくれました。

そして、妖精の王様が親指姫の前へやってきました。

王様は優しく言いました。

「ようこそ。」

「遠いところから、よく来ましたね。」

親指姫は少し緊張しながら尋ねました。

「私も、ここにいていいのですか?」

王様はにっこり笑いました。

「もちろんです。」

「ここなら、あなたらしく暮らせます。」

親指姫は辺りを見回しました。

美しい花があります。

暖かな太陽があります。

優しい風があります。

そして、自分をそのまま受け入れてくれる仲間たちがいます。

親指姫の顔に、ゆっくりと笑顔が広がりました。

「やっと見つけた。」

「私が安心して笑える場所。」

つばめも、そんな親指姫をうれしそうに見つめていました。

それから親指姫は、美しい花々に囲まれながら、花の妖精たちと仲良く暮らしました。

もう誰かに、自分の生き方を決められることはありません。

親指姫は自分で選んだ場所で、毎日笑顔で幸せに暮らしました。

おしまい。


登場人物

親指姫

親指ほどの小さな女の子です。さまざまな出会いや困難を経験しながら、自分の気持ちを大切にし、自分らしく安心して暮らせる場所を探して旅を続けます。

女性

子どもが欲しいと願い続けていた女性です。不思議な花から生まれた親指姫を喜んで迎え、大切に育てます。

つばめ

寒い冬に傷ついていたところを親指姫に助けられます。春になると元気を取り戻し、助けてもらった恩返しとして親指姫を暖かな花の国へ連れていきます。

ひきがえる

眠っている親指姫を連れ去り、自分の息子のお嫁さんにしようとします。

野ねずみ

寒い季節に親指姫を自分の家へ迎え入れます。親指姫のことを思ってもぐらとの結婚を勧めますが、それは親指姫が望んでいる暮らしではありませんでした。

花の国の王様

花の妖精たちが暮らす国の王様です。長い旅をしてきた親指姫を温かく迎え入れ、「ここなら、あなたらしく暮らせます」と伝えます。


教訓

  • 周りから勧められた道だけではなく、自分の気持ちを大切にしながら生きる場所を選ぶことも大切。
  • 誰かに向けた優しさが、思いがけない形で自分を助けてくれることがある。
  • 自分と違う相手であっても、思いやりを持って助け合うことができる。
  • 安心して自分らしく過ごせる場所や、自分を受け入れてくれる人との出会いを大切にする。

親子で話したいポイント

  • 親指姫は、どうして旅を続けたのかな?
  • 親指姫は、どうしてもぐらのお嫁さんになることを喜べなかったのかな?
  • 親指姫がつばめを助けたことで、どんなことが起こったかな?
  • 「自分らしくいられる」って、どんなことだと思う?
  • あなたが安心して過ごせる場所はどこかな?

保育士向け活用ポイント

保育者自身にとっても、「子どものため」と考えて大人が決めたことが、本当にその子の望んでいることなのかを振り返り、子どもの思いや選択を丁寧に受け止めることの大切さを考えるきっかけになります。

「自分の気持ちを大切にすること」や「自分らしく過ごすこと」をテーマにした読み聞かせとして活用できます。

親指姫が周囲から勧められた生き方ではなく、自分が安心して暮らせる場所を探していく姿から、子どもの主体性や自己決定について考えるきっかけになります。

「みんなと同じであること」を求めるのではなく、一人ひとりが安心して自分らしく過ごせる環境について考えることで、インクルーシブ保育の視点にもつなげることができます。

親指姫が傷ついたつばめを助け、そのつばめに新しい世界へ連れていってもらう展開から、優しさや助け合いについて子どもたちと話し合うことができます。

「親指姫はどうしたかったのかな?」「自分だったらどうする?」と問いかけることで、自分の気持ちを言葉にしたり、相手の思いを想像したりする活動へ発展させられます。

花や鳥、野ねずみ、もぐらなど自然に関わるものが多く登場するため、花の観察や製作遊び、春の自然探しなどと組み合わせて楽しむこともできます。

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