雪の女王|世界の名作・昔話

世界の名作・昔話

あらすじ

むかしむかし、小さな町に、カイとゲルダというとても仲の良い幼なじみが暮らしていました。

二人は毎日のように一緒に遊び、花を育てたり、本を読んだりしながら仲良く過ごしていました。

ところが、ある冬の日。

美しくも冷たい雪の女王が現れ、カイを遠い北の国へ連れ去ってしまいます。

町の人たちは「もう帰ってこないかもしれない」と言いましたが、ゲルダはあきらめませんでした。

「きっとカイを連れて帰る。」

そう決意したゲルダは、たった一人で長い旅へ出発します。

大きな川を渡り、美しい花畑を歩き、深い森を抜けながら、ゲルダは雪と氷に包まれた遠い北の国を目指します。

「本当の優しさ」「友情」「大切な人を思う気持ち」「あきらめずに進むこと」の大切さを伝える世界の名作です。


本文

むかしむかし、小さな町に、カイとゲルダという二人の子どもが暮らしていました。

二人は幼いころから、とても仲良しでした。

朝になると、

「ゲルダ、遊ぼう!」

「うん!」

と声をかけ合い、毎日のように一緒に過ごしていました。

二人は花を育てることが大好きでした。

暖かな季節になると、窓辺には色とりどりの花が咲きます。

「きれいだね。」

「今年もたくさん咲いたね。」

二人は水をあげたり、花を眺めたりしながら楽しく過ごしました。

雨の日には、一緒に本を読みました。

面白い物語を見つけては笑い、怖いお話になると顔を見合わせます。

カイとゲルダにとって、一緒に過ごす時間は当たり前のように続く大切な毎日でした。

やがて秋が過ぎ、冬がやってきました。

町には冷たい風が吹き始めます。

ひゅううう。

ひゅううう。

空から白い雪が降り始めました。

朝になると、屋根も道も木々の枝も、真っ白な雪に覆われています。

カイとゲルダは窓の外を眺めました。

「すごい雪だね。」

「町が真っ白だ。」

二人は冬の景色を楽しんでいました。

そんなある日のことです。

夕方になり、空が少しずつ暗くなってきたころでした。

雪は静かに降り続いています。

カイが一人で窓の外を眺めていると――。

風もないのに、雪がふわりと舞い上がりました。

「ん?」

カイは窓に顔を近づけました。

白い雪の向こうに、何かが見えます。

最初は、ただ雪が集まっているだけのように見えました。

けれど、その白い影は少しずつ人の姿になっていきます。

長い衣をまとった、美しい女の人でした。

その人の周りだけ、空気が凍りついたように冷たく感じられます。

カイは目を離すことができませんでした。

女の人は、静かにカイを見つめていました。

雪の女王です。

雪の女王は、ゆっくりとカイへ手を差し伸べました。

「こちらへおいで。」

その声は、冷たい冬の風のようでありながら、不思議とカイの心を引きつけました。

カイは何も言わず、その手を見つめました。

「こちらへ。」

もう一度、雪の女王が呼びます。

するとカイは、不思議な力に導かれるように雪の女王のもとへ向かいました。

雪が激しく舞い上がります。

ひゅうううう――。

白い雪がカイと雪の女王を包み込みました。

そして――。

雪がおさまったとき、二人の姿はどこにもありませんでした。

カイは雪の女王とともに、遠い北の国へ行ってしまったのです。

カイがいなくなったことを知ったゲルダは、町中を探しました。

「カイ!」

「どこにいるの?」

いつも一緒に遊んでいた場所。

花を育てていた窓辺。

二人で歩いた道。

どこを探しても、カイはいません。

町の人たちも心配して探しました。

けれど、何日たってもカイは帰ってきませんでした。

やがて、町の人たちは言いました。

「こんなに探しても見つからない。」

「もう帰ってこないかもしれない。」

けれど、ゲルダは首を振りました。

「そんなことない。」

「カイはきっと、どこかにいる。」

ゲルダは窓辺に咲いていた花を見つめました。

カイと一緒に育てていた花です。

楽しく笑っていた日のことを思い出しました。

「私は信じています。」

「きっとカイを連れて帰ります。」

ゲルダは決心しました。

大切な友だちを探すため、一人で旅に出ることにしたのです。

ゲルダは小さな荷物を持ち、町を出発しました。

どこにカイがいるのか、はっきりとは分かりません。

それでも、ゲルダは歩き続けました。

大きな川のほとりへたどり着くと、向こう岸へ渡りました。

知らない道も歩きました。

美しい花が一面に咲く花畑にもたどり着きました。

風が吹くたび、

さわさわ。

さわさわ。

色とりどりの花が揺れます。

あまりに美しい景色に、ゲルダは思わず足を止めました。

けれど、すぐにカイのことを思い出します。

「カイが待っているかもしれない。」

ゲルダはまた歩き始めました。

やがて、深い森へ入りました。

昼間でも木々が空を覆い、辺りは薄暗くなっています。

どこからか鳥の声が聞こえます。

枝を踏むたび、

ぱきっ。

ぱきっ。

と音がしました。

怖くなって立ち止まりそうになることもありました。

「大丈夫。」

ゲルダは自分に言い聞かせました。

「カイを見つけるんだから。」

旅の途中では、さまざまな人たちに出会いました。

「一人でどこへ行くんだい?」

そう尋ねられると、ゲルダは答えました。

「大切な友だちを探しています。」

ゲルダの話を聞いた人たちは、食べ物を分けてくれたり、休める場所を用意してくれたりしました。

「北へ行くなら、この道を進むといいよ。」

道を教えてくれる人もいました。

ゲルダはそのたびに、

「ありがとうございます。」

と何度も頭を下げました。

一人で始めた旅でしたが、ゲルダはたくさんの優しさに支えられながら進んでいきました。

けれど、北へ進めば進むほど寒さは厳しくなりました。

風は冷たくなり、

雪は深くなり、

辺りから少しずつ緑が消えていきます。

ひゅうううう。

冷たい風がゲルダの頬に吹きつけます。

「寒い……。」

ゲルダは服をぎゅっと押さえました。

それでも歩き続けました。

「もう少し。」

「きっと、もう少しだよ。」

そして、長い旅の末――。

ゲルダはとうとう、雪と氷に包まれた大きなお城へたどり着きました。

「ここ……?」

目の前にそびえる城は、まるで氷そのものでできているようでした。

壁も。

柱も。

階段も。

青白く冷たい光を放っています。

辺りには音がありません。

しん……。

風の音さえ聞こえないほど静かでした。

ゲルダはそっと城の中へ入りました。

一歩進むたびに、

こつん。

こつん。

自分の足音だけが、冷たい廊下に響きます。

「カイ……。」

返事はありません。

「カイ!」

ゲルダはさらに奥へ進みました。

すると、大きな氷の広間にたどり着きました。

その中央に、誰かが座っています。

ゲルダは息をのみました。

「カイ……!」

間違いありません。

ずっと探していたカイです。

けれど――。

ゲルダが知っているカイとは、どこか違っていました。

笑っていません。

ゲルダを見ても、うれしそうな顔をしません。

その表情は、周りの氷と同じように冷たく見えました。

そして、その近くには雪の女王がいました。

ゲルダはカイへ駆け寄りました。

「カイ!」

カイはゆっくり顔を上げました。

けれど、何も答えません。

「私だよ。」

「ゲルダだよ。」

カイはゲルダを見つめました。

その目には、昔のような優しい光がありませんでした。

雪の女王と過ごすうちに、カイの心は氷のように冷たくなっていたのです。

ゲルダは胸が苦しくなりました。

長い旅をして、やっと会えたのに。

カイは自分のことを忘れてしまったのでしょうか。

「カイ。」

ゲルダはもう一度呼びました。

それでも返事はありません。

悲しさで涙がこぼれそうになりました。

けれど、ゲルダはあきらめませんでした。

ここまでカイを探してきたのです。

ゲルダはカイのそばまで行くと、そっと手を伸ばしました。

そして、冷たくなったカイの手を優しく握りました。

「カイ。」

「私は迎えに来たよ。」

カイは動きません。

ゲルダは、その手を離しませんでした。

「あなたは私の大切な友だち。」

「ずっと探していたんだよ。」

二人で花を育てたこと。

一緒に本を読んだこと。

毎日のように笑って遊んだこと。

ゲルダはカイとの日々を思い出しました。

とうとう、ゲルダの目から涙がこぼれました。

ぽたり。

暖かな涙が、カイの冷たい手に落ちました。

その瞬間――。

カイの指が、ほんの少し動きました。

「……。」

ゲルダは顔を上げました。

カイの心を閉ざしていた氷が、少しずつ溶け始めたのです。

カイはゆっくりとゲルダを見ました。

その目に、少しずつ懐かしい光が戻ってきます。

「ゲルダ……?」

「カイ!」

ゲルダは笑いました。

涙を流しながら、うれしそうに笑いました。

カイも、ゆっくり笑顔を取り戻しました。

「ゲルダ……。」

「本当に来てくれたんだ。」

二人はしっかりと手を握りました。

雪の女王は、その様子を静かに見つめていました。

やがて、雪の女王は言いました。

「本当の優しさには勝てないのですね。」

そして、白い衣を翻しました。

ふわり。

雪が舞い上がります。

次の瞬間、雪の女王の姿は白い雪の向こうへ消えていきました。

静かな氷の城に、カイとゲルダだけが残りました。

「帰ろう。」

ゲルダが言いました。

カイはうなずきました。

「うん。」

二人は手をつなぎ、雪の城をあとにしました。

帰り道も長い旅でした。

けれど、今度は一人ではありません。

二人は励まし合いながら歩きました。

深い森を抜け、

川を渡り、

長い道を進んでいきました。

そしてとうとう、懐かしい町が見えてきました。

「見えた!」

「ぼくたちの町だ!」

町の人たちは、帰ってきた二人を見つけて驚きました。

「カイ!」

「ゲルダ!」

「帰ってきたんだね!」

みんなは大喜びで二人を迎えました。

カイとゲルダは、懐かしい窓辺へ戻りました。

そこには、二人が大切に育てていた花がありました。

カイは花を見つめて言いました。

「やっぱり、ここが一番だね。」

ゲルダは笑いました。

「うん。」

それから二人は、これまで以上にお互いを思いやりながら、仲良く暮らしていきました。

おしまい。


登場人物

ゲルダ

大切な幼なじみのカイを助けるため、一人で長い旅へ出る女の子です。困難な道のりでもあきらめず、カイを思う優しさと勇気を持ち続けます。

カイ

ゲルダの幼なじみです。雪の女王によって遠い北の国へ連れていかれ、心まで氷のように冷たくなってしまいますが、ゲルダの涙と優しさによって笑顔を取り戻します。

雪の女王

雪と氷に包まれた北の国に住む、美しく不思議な女王です。カイを自分の城へ連れていきます。

旅で出会う人たち

一人でカイを探すゲルダに食べ物を分けたり、道を教えたりしながら旅を支えてくれる人々です。


教訓

  • 本当の優しさには、冷たく閉ざされた心を動かす力がある。
  • 大切な人を思う気持ちは、困難に立ち向かう勇気につながる。
  • あきらめずに進み続けることで、たどり着ける場所がある。
  • 一人で始めたことでも、周りの人の優しさに支えられることがある。

親子で話したいポイント

  • ゲルダは、どうして長い旅の途中でもあきらめなかったのかな?
  • カイは、ゲルダに会ったとき最初はどんな様子だったかな?
  • ゲルダの涙でカイの心が変わったのは、どうしてだと思う?
  • お友だちが困っていたら、どんなことをしてあげたい?
  • 自分が誰かに優しくしてもらって、うれしかったことはあるかな?

保育士向け活用ポイント

保育者自身にとっても、子どもが心を閉ざしているように見えるときに、すぐに変化を求めるのではなく、安心できる関係の中で寄り添い続けることの大切さを振り返るきっかけになります。

「友情」「思いやり」「あきらめずに行動すること」をテーマにした読み聞かせとして活用できます。

ゲルダがカイを助けたいという思いから一人で旅へ出る姿を通して、「大切な人のために自分に何ができるか」を子どもたちと考えることができます。

ゲルダが旅の途中で多くの人に助けられる展開から、「誰かを助けること」と同時に「誰かに助けてもらうこと」の大切さについて考えることもできます。

カイの冷たい心がゲルダの涙や言葉によって少しずつ変わっていく場面から、相手の気持ちに寄り添うことや、優しい関わりについて話し合うきっかけになります。

登場人物の気持ちを想像しながら、「ゲルダはどんな気持ちだった?」「カイはどうして変わったのかな?」と問いかけることで、共感性や感情理解につながる活動へ発展させられます。

冬の季節の読み聞かせとして取り入れやすく、雪や氷をテーマにした製作活動、氷の感触遊び、冬の自然観察などと組み合わせることもできます。

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