あらすじ
むかしむかし、広い草原に、働き者のアリと歌を歌うことが大好きなキリギリスが暮らしていました。
暖かな夏の間、アリは毎日せっせと食べ物を運び、寒い冬に備えて準備を続けていました。
一方、キリギリスは「冬なんてまだまだ先」と、毎日楽しく歌を歌って過ごしていました。
やがて季節が変わり、寒い冬がやってきます。
食べ物がなくなって困ったキリギリスは、アリの家を訪ねることにしました。
「将来のことを考えて準備すること」「毎日の小さな積み重ねの大切さ」を伝えるイソップ童話の名作です。
本文
むかしむかし、広い草原にたくさんの虫たちが暮らしていました。
春が過ぎ、夏になると、草原は緑でいっぱいになりました。
色とりどりの花が咲き、
木々は青々と茂り、
暖かな太陽の光が降り注いでいます。
食べ物もたくさんあり、虫たちにとっては過ごしやすい季節でした。
そんな草原で、一匹のアリが朝からせっせと働いていました。
小さな体で食べ物を見つけては、巣まで運びます。
よいしょ。
よいしょ。
大きな麦の粒を抱えて運び、
木の実を見つければ、また巣へ。
何度も何度も行ったり来たりします。
食べ物を運び終えると、今度は巣の中をきれいに整えます。
アリは、毎日少しずつ冬のための準備をしていたのです。
そこへ、楽しそうな音が聞こえてきました。
♪~♪~♪
草の上で、キリギリスがバイオリンを弾いていました。
キリギリスは歌うことが大好きです。
暖かな日差しの下で、毎日好きな歌を歌って過ごしていました。
キリギリスは、重そうな食べ物を運んでいるアリを見つけると声をかけました。
「アリさん、今日も働いているの?」
「うん。」
アリは食べ物を抱えながら答えました。
「冬になったら食べ物が少なくなるからね。」
「今のうちに少しずつ集めておくんだ。」
キリギリスは不思議そうな顔をしました。
「そんなに毎日働いて、疲れないの?」
アリは笑いました。
「もちろん疲れることもあるよ。」
「でも、今のうちに準備しておけば、冬になっても安心だからね。」
するとキリギリスは、楽しそうにバイオリンを鳴らしました。
♪~♪~♪
「今日はこんなに暖かいんだよ。」
「花も咲いているし、食べ物だってたくさんある。」
「今は楽しい夏なんだから、思い切り楽しもうよ。」
アリは言いました。
「楽しむことも大切だよ。」
「でも、未来のために少しずつ準備しておくことも大切だと思うな。」
キリギリスは笑って手を振りました。
「冬なんて、まだまだ先さ。」
そしてまた、楽しそうに歌い始めました。
アリはそれ以上何も言わず、また食べ物を運び始めました。
よいしょ。
よいしょ。
次の日も。
その次の日も。
アリは少しずつ食べ物を集めました。
キリギリスは毎日歌いました。
夏の間、草原にはキリギリスの楽しそうな歌声が響いていました。
やがて、少しずつ風が涼しくなってきました。
夏が終わり、秋がやってきたのです。
緑色だった葉っぱは、赤や黄色に染まりました。
風が吹くたびに、
ひらり。
ひらり。
葉っぱが地面へ落ちていきます。
アリは変わらず働いていました。
「もうすぐ冬だ。」
「あと少し、準備しておこう。」
キリギリスはそんなアリを見ながら言いました。
「まだ大丈夫だよ。」
「食べ物だって、まだ見つかるじゃないか。」
そう言って、また歌を歌いました。
けれど、季節は少しずつ進んでいきます。
秋の風は日に日に冷たくなり、やがて木々から葉っぱがほとんどなくなりました。
そして――。
とうとう冬がやってきました。
ある朝。
草原は真っ白な雪に覆われていました。
冷たい風が、
ひゅうううう。
ひゅうううう。
と吹いています。
花はありません。
草も枯れています。
夏にはあれほどたくさんあった食べ物も、ほとんど見つからなくなっていました。
キリギリスはおなかを空かせながら、雪の中を歩きました。
「何か食べるものはないかな……。」
草の根元を探してみます。
ありません。
木の下も探しました。
何もありません。
「あっちならあるかもしれない。」
キリギリスは寒さに震えながら、あちらこちらを探しました。
けれど、どれだけ探しても食べ物は見つかりません。
「困ったな……。」
キリギリスのおなかは、ぺこぺこです。
バイオリンを弾いて歌おうとしても、寒さで手が震えてしまいます。
「夏の間に、少しでも食べ物を集めておけばよかった……。」
キリギリスは、夏にアリから言われたことを思い出しました。
「今のうちに準備しておけば、冬も安心だからね。」
そのときは、冬なんてずっと先だと思っていました。
けれど、本当に冬はやってきたのです。
キリギリスは、とぼとぼと雪の中を歩き続けました。
すると、遠くに小さな明かりが見えました。
「あれは……。」
アリの家です。
窓から暖かな光が漏れています。
キリギリスはアリの家まで歩いていきました。
そして、扉の前に立ちました。
コンコン。
しばらくすると、扉が開きました。
「はい。」
アリが顔を出しました。
「キリギリスさん?」
アリは驚きました。
「こんな寒い日に、どうしたの?」
キリギリスは少し恥ずかしそうにうつむきました。
「食べ物がなくなってしまったんだ。」
「夏の間、何も準備していなかったから……。」
キリギリスのおなかが、
ぐううう。
と鳴りました。
キリギリスはますます恥ずかしくなりました。
「アリさんの言ったとおりだったよ。」
「冬のことなんて考えないで、ずっと歌っていたんだ。」
アリは少し考えました。
そして、扉を大きく開けました。
「外は寒いから、中へおいで。」
「え?」
「まずは体を温めよう。」
キリギリスはアリの家へ入りました。
家の中はぽかぽかと暖かく、夏から少しずつ集めてきた食べ物がきちんとしまわれています。
アリは温かいスープとパンを用意しました。
「さあ、どうぞ。」
「ありがとう……!」
キリギリスは温かいスープを一口飲みました。
冷え切っていた体が、少しずつ温まっていきます。
パンもゆっくりと食べました。
「おいしい……。」
キリギリスはほっとした顔をしました。
そして、アリに言いました。
「来年は、ぼくもちゃんと準備するよ。」
「歌うことも大好きだけど、それだけじゃなくて、冬のことも考える。」
アリはうなずきました。
「うん。」
「これからは、一緒に準備することを覚えていこう。」
キリギリスは笑顔になりました。
やがて長い冬が終わりました。
雪がとけ、
草原に緑が戻り、
色とりどりの花が咲き始めました。
春です。
暖かくなったある日。
アリが食べ物を運んでいると、後ろから声がしました。
「ぼくも手伝うよ!」
振り返ると、そこにはキリギリスがいました。
二匹は一緒に食べ物を集めました。
よいしょ。
よいしょ。
たくさん働いたあとは、木陰で休みます。
するとキリギリスがバイオリンを取り出しました。
「今度は一緒に歌おう。」
♪~♪~♪
アリも楽しそうに歌いました。
働くときには力を合わせて働き、
休むときには一緒に歌う。
草原には二匹の楽しそうな声が響きました。
それからアリとキリギリスは、助け合いながら仲良く暮らしていきました。
おしまい。
登場人物
アリ
働き者で、先のことを考えながら毎日少しずつ準備を続ける主人公です。冬に備えて夏から食べ物を集め、困っているキリギリスにも手を差し伸べます。
キリギリス
歌やバイオリンが大好きな主人公です。夏の間は楽しく過ごすことばかり考えていましたが、冬に食べ物がなくなった経験から、先のことを考えて準備する大切さを学びます。
教訓
- 毎日の小さな努力や準備が、未来の安心につながる。
- 今を楽しむことと、先のことを考えて準備することの両方が大切。
- 失敗しても、そこから学んで次の行動を変えることができる。
- 困っている相手を助けながら、一緒に成長していくことも大切。
親子で話したいポイント
- アリは、どうして夏の間から食べ物を集めていたのかな?
- キリギリスは、冬になってどんなことに気づいたのかな?
- アリがキリギリスを家に入れてあげたとき、キリギリスはどんな気持ちだったと思う?
- 「今を楽しむこと」と「未来のために準備すること」の両方を大切にするには、どうしたらいいかな?
- 毎日少しずつ続けていることはあるかな?
保育士向け活用ポイント
保育者自身にとっても、子どもが失敗したときに結果だけを責めるのではなく、「次はどうしたらいいかな?」と一緒に考え、次の行動につなげていく関わりを振り返るきっかけになります。
「見通しを持って行動すること」や「毎日少しずつ取り組むこと」の大切さを考える読み聞かせとして活用できます。
子どもたちに「遊んではいけない」「働かなければいけない」と伝えるのではなく、遊ぶ時間と準備する時間のどちらも大切だと考えるきっかけにできます。
着替えや片付け、翌日の準備など、子どもたちの日常生活と結びつけながら、「先に準備しておくと、どんないいことがあるかな?」と話し合うことができます。
キリギリスが失敗を経験したあと、次の春から行動を変える姿を通して、「失敗しても、次に生かすことができる」という前向きな学びにつなげられます。
アリが困っているキリギリスを助ける場面から、相手の失敗を責めるだけではなく、助け合いながら一緒に成長していくことについて考えることもできます。
原作にはさまざまな結末がありますが、本作品では「助け合い」と「学び直す力」を大切にした展開になっています。


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