あらすじ
むかしむかし、あるところに、病気のお母さんと暮らす心やさしい女の子がいました。
お母さんは自分の命が長くないことを知り、娘のこれからを心配していました。
そして亡くなる前、娘の頭に大きな鉢をかぶせます。
「この鉢は、いつかあなたを守ってくれるでしょう。」
ところが、その鉢はどうしても外れません。
母を亡くし、やがて家を出ることになった女の子は、大きな鉢を頭にかぶったまま苦労を重ねます。
人々から珍しがられたり、笑われたりしても、女の子は母との約束を胸に、やさしい心を失いませんでした。
そんな女の子の本当の人柄を見てくれる若者と出会い、やがて鉢に隠されていた秘密と、思いがけない幸せが明らかになります。
本文
むかしむかし、あるところに、心のやさしい女の子が住んでいました。
女の子は、お母さんと二人で暮らしていました。
お母さんは娘をとても大切にしていました。
けれど、長い間病気を患っていました。
日に日に体は弱っていき、布団から起き上がれない日も増えていきました。
女の子は、そんなお母さんのそばにいました。
「お母さん、お水を持ってきたよ。」
「ありがとう。」
「寒くない?」
「大丈夫よ。」
女の子はできることを一生懸命しました。
お母さんも、そんな娘の姿をいつもやさしい目で見つめていました。
ある日のことです。
お母さんは娘を枕元へ呼びました。
「こちらへおいで。」
「どうしたの、お母さん?」
女の子がそばへ座ると、お母さんはその手を握りました。
「あなたが大きくなっても、どんなことがあっても、やさしい心を忘れないでね。」
女の子は不安そうに母の顔を見ました。
「うん。」
「人から何を言われても、つらいことがあっても、人を思いやる気持ちを大切にするのですよ。」
「分かったよ。」
お母さんは、ほっとしたように微笑みました。
そして、用意していた大きな鉢を取り出しました。
女の子は目を丸くしました。
「お母さん、それは何?」
お母さんは何も言わず、その大きな鉢を娘の頭にそっとかぶせました。
すっぽり。
鉢は女の子の頭を覆いました。
「この鉢は、いつかあなたを守ってくれるでしょう。」
「私を?」
「ええ。」
女の子には、その言葉の意味がよく分かりませんでした。
やがて――。
お母さんは静かに息を引き取りました。
女の子は悲しみました。
何度呼んでも、もうお母さんは答えてくれません。
「お母さん……。」
涙がぽろぽろとこぼれました。
けれど女の子は、お母さんが最後に言った言葉を忘れませんでした。
「どんなことがあっても、やさしい心を忘れないでね。」
女の子は、その言葉を胸に暮らしていくことにしました。
ところが、一つ困ったことがありました。
頭にかぶせられた大きな鉢です。
「これ……外れないのかな。」
両手で持ち上げようとします。
ぐっ。
「うーん……。」
けれど、びくともしません。
引っぱっても。
押しても。
どうしても外れないのです。
女の子は、それからずっと大きな鉢を頭にかぶったまま暮らすことになりました。
やがて家の事情が変わり、女の子は家を出なければならなくなりました。
持っていけるものは、ほんのわずかです。
そして頭には、相変わらず大きな鉢がかぶさっています。
女の子は家の前で立ち止まりました。
ここには、お母さんとの思い出がたくさんあります。
「お母さん……。」
寂しさが込み上げてきました。
それでも、ここに留まることはできません。
女の子は歩き始めました。
とぼとぼ。
とぼとぼ。
知らない道を一人で進んでいきます。
町へ入ると、人々が女の子を振り返りました。
「あれは何だ?」
「頭に大きな鉢をかぶっているぞ。」
「変わった娘だなあ。」
珍しそうに眺める人もいました。
くすくす笑う人もいました。
女の子はうつむきました。
「どうして、こんな姿で生きていかなくてはいけないのだろう。」
胸が苦しくなります。
鉢がなければ。
普通の姿だったら。
そんなことを何度も考えました。
けれど、そのたびに思い出すのはお母さんの言葉でした。
「どんなことがあっても、やさしい心を忘れないでね。」
女の子は涙をぬぐいました。
「お母さんと約束したもの。」
人に笑われても、怒り返すことはありませんでした。
誰かに冷たいことを言われても、意地悪をし返すこともありませんでした。
「やさしく生きよう。」
そう心に決めて歩き続けました。
ある日のこと。
女の子は、大きな屋敷へたどり着きました。
「ここで働かせてもらえないだろうか。」
女の子は勇気を出して屋敷の人に頼みました。
屋敷の人は、まず女の子の頭を見ました。
大きな鉢がすっぽりとかぶさっています。
少し驚きましたが、女の子の話を聞いてくれました。
そして、働く場所を探している女の子を迎え入れてくれました。
こうして女の子は、屋敷で働くことになりました。
朝になると、誰よりも早く起きました。
さっ、さっ。
庭を掃きます。
家の中もきれいにします。
食事の支度を手伝い、洗い物をし、頼まれた仕事は丁寧にこなしました。
大きな鉢が邪魔になることもありました。
それでも、女の子は不平を言いません。
「できることを一生懸命やろう。」
誰かが重い荷物を運んでいれば、
「お手伝いします。」
と声をかけました。
困っている人がいれば、すぐに手を貸しました。
「ありがとう。」
そう言われると、女の子はうれしそうに笑いました。
そんな女の子の姿を、いつも見ている人がいました。
屋敷に暮らす一人の若者です。
最初、若者も大きな鉢をかぶった女の子を不思議に思いました。
けれど、毎日働く姿を見ているうちに、その印象は変わっていきました。
女の子は、誰も見ていないところでも手を抜きません。
人にほめられるために働いているわけでもありません。
誰に対してもやさしく接していました。
若者は思いました。
「この人は、とても心のきれいな人だ。」
周りの人が、
「あんな大きな鉢をかぶっているのに。」
と言っても、若者は気にしませんでした。
「見た目だけで人を決めてはいけない。」
若者は、女の子自身を見るようになっていました。
女の子もまた、自分の姿ではなく、自分自身に話しかけてくれる若者に少しずつ心を開いていきました。
そんなある日のことです。
女の子がいつものように屋敷で過ごしていると、不思議なことが起こりました。
これまで何をしても外れなかった鉢が――。
すっ。
わずかに動いたのです。
「え?」
女の子は驚きました。
「今……動いた?」
両手を鉢に添えてみました。
すると――。
すうっ。
あれほど固く頭を覆っていた鉢が、まるで最初から乗せていただけだったかのように外れました。
女の子は呆然としました。
「外れた……。」
長い間、ずっと頭にかぶさっていた鉢です。
何度取ろうとしても外れなかった鉢が、とうとう外れたのです。
そして鉢の下から現れたのは、美しい女の子の顔でした。
屋敷の人たちは驚きました。
「あの娘だったのか?」
「こんな顔をしていたなんて。」
けれど、若者は女の子の顔を見ても、ただやさしく微笑みました。
若者にとって大切だったのは、鉢の下にどんな顔が隠されているかではありませんでした。
これまで一緒に過ごす中で知った、女の子の心でした。
ところが、不思議な出来事はそれだけではありません。
外れた鉢の中から――。
きらり。
何かが光りました。
「これは……?」
女の子がのぞき込むと、そこには暮らしを支えてくれる宝物が入っていました。
女の子は目を見開きました。
そして、お母さんの最後の言葉を思い出しました。
「この鉢は、いつかあなたを守ってくれるでしょう。」
女の子は鉢を抱きしめました。
「お母さん……。」
涙が頬を伝いました。
「ずっと私を守ってくれていたのですね。」
つらいときもありました。
笑われたこともありました。
一人で寂しい道を歩いたこともありました。
けれど女の子は、お母さんとの約束を忘れず、やさしい心を持ち続けてきました。
若者も、そんな女の子がこれまでどれほど苦労してきたのかを知っていました。
「これからは、一緒に幸せに暮らしていきましょう。」
女の子は涙をぬぐい、うなずきました。
やがて二人は心を通わせ、夫婦になりました。
女の子はもう、大きな鉢を頭にかぶってはいません。
けれど、鉢をかぶっていたころに大切にしていたやさしい心は、何も変わりませんでした。
二人は互いを大切にしながら、末永く幸せに暮らしました。
おしまい。
登場人物
鉢かつぎ姫
母親から大きな鉢を頭にかぶせられた女の子。母を亡くし、家を離れたあともさまざまな苦労を経験しますが、人へのやさしさを失わず、一生懸命に暮らします。
母
病気で自分の命が長くないことを知り、娘の将来を心配している人物。亡くなる前に娘へ大きな鉢をかぶせ、「いつかあなたを守ってくれる」と言い残します。
若者
屋敷で働く鉢かつぎ姫の姿を見守る人物。頭の鉢や外見ではなく、毎日一生懸命に働き、人を思いやる姫の人柄にひかれていきます。
屋敷の人々
働く場所を探していた鉢かつぎ姫を迎え入れる人々。大きな鉢をかぶった姿に驚きながらも、姫と一緒に暮らしていきます。
教訓
人の価値は外見だけで決まるものではなく、その人がどのように考え、どのように周りの人と関わっているかも大切。
つらいことや悲しいことがあっても、人を思いやるやさしい心を持ち続けることが、自分自身や周りの人を支える力になる。
本当の魅力や人柄は、見た目だけではなく、日々の行動や人との関わりの中で少しずつ伝わっていく。
親子で話したいポイント
大きな鉢をかぶった女の子を見て、町の人たちはどうして笑ったのかな?
女の子は、つらいことがあってもどうして人にやさしくすることができたのだろう?
若者は、女の子のどんなところを好きになったと思う?
見た目だけで人を決めつけてはいけないのは、どうしてだろう?
自分が思う「やさしい人」って、どんな人かな?
保育士向け活用ポイント
「見た目で人を判断しないこと」や「相手のよいところを知ること」をテーマにした読み聞かせに活用できます。
大きな鉢をかぶった女の子を周囲の人が珍しがる一方で、若者は日々の行動や人柄を見ている展開から、「人のよいところは、どんなところに表れるかな?」と子どもたちと考えるきっかけになります。
また、「友達のすてきなところを見つけよう」といった活動につなげ、一人ひとりの得意なことややさしい行動を認め合う機会にもできます。
鉢が外れる場面や、中から宝物が現れる場面は物語としての楽しさもあるため、大きな鉢を使った劇遊びや、鉢の中から何が出てくるかを想像する製作・表現活動にもつなげられます。


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