あらすじ
むかし、スクルージという年老いた男がいました。
スクルージが何より大切にしていたのは、お金でした。
人にはとても冷たく、困っている人がいても助けようとはしません。町中が楽しい雰囲気に包まれるクリスマスの日でさえ、スクルージは笑顔を見せませんでした。
そんなクリスマスの夜。
一人で家に帰ったスクルージの前に、昔亡くなった友人の姿が現れます。
そしてその夜、スクルージのもとを三人の不思議な精霊が訪れました。
精霊たちが見せたのは、スクルージの過去、現在、そして未来。
自分が歩んできた人生と、これから待っている未来を目の当たりにしたスクルージは、少しずつ自分の生き方を見つめ直していきます。
本文
むかし、スクルージという年老いた男がいました。
スクルージが何より大切にしていたもの。
それは、お金でした。
朝から晩まで仕事をして、お金を数え、少しでも無駄なものに使わないようにしていました。
「お金は大切だ。」
スクルージはいつもそう考えていました。
けれど、人にはとても冷たい男でした。
誰かが困っていても、気にしません。
「それは私には関係ない。」
助けを求められても、そう言って断ってしまいます。
スクルージのもとで働いている人にも、優しい言葉をかけることはほとんどありませんでした。
そんなスクルージが特に気に入らなかったものがあります。
それは――。
クリスマスでした。
町にクリスマスが近づくと、あちこちから楽しそうな声が聞こえてきます。
家々には明かりがともり、人々は家族への贈り物を用意します。
道を歩けば、
「メリークリスマス!」
そんな声が聞こえてきました。
けれどスクルージは、うれしそうな人々を見るたびに顔をしかめました。
「クリスマスなんて、ただのお金の無駄だ。」
誰かと食事をしたり。
贈り物をしたり。
仕事を休んだり。
スクルージには、どれも意味のないことに思えました。
「いつもどおり仕事をしていればいい。」
そして、クリスマスの夜になりました。
町には温かな明かりがともっています。
家々からは、楽しそうな笑い声が聞こえてきます。
けれどスクルージは、一人で家へ帰りました。
外は冷え込んでいました。
吐く息は白く、静かな通りを冷たい風が吹き抜けていきます。
ひゅうう……。
スクルージは家の扉を開けました。
「まったく、寒い夜だ。」
家の中は静まり返っています。
楽しい音楽も。
笑い声も。
誰かと交わす言葉もありません。
スクルージは一人で部屋へ入りました。
そのときです。
カラン……。
「ん?」
どこからか音が聞こえました。
スクルージは振り返ります。
誰もいません。
「気のせいか。」
ところが――。
カラン。
カラン……。
また聞こえます。
まるで何か重いものを引きずっているような音でした。
スクルージは耳を澄ませました。
しんと静まり返った家の中。
音だけが少しずつ近づいてきます。
カラン。
カラン。
カラン……。
「誰だ?」
スクルージは声を上げました。
返事はありません。
けれど次の瞬間――。
薄暗い部屋の中に、ぼんやりと人の姿が浮かび上がりました。
「うわっ!」
スクルージは後ずさりました。
そこにいたのは、昔亡くなった友人でした。
「そんな……。」
スクルージは目を疑いました。
「お前は、もう死んだはずだ。」
友人の姿は、静かにスクルージを見つめていました。
そして言いました。
「スクルージ。」
低い声が部屋に響きます。
「お前は、このままではいけない。」
スクルージは言葉を失いました。
友人は、生きていたころの自分もスクルージと同じように、お金や自分のことばかりを考えていたと話しました。
そして、スクルージに告げました。
「今夜、お前のもとに精霊たちがやってくる。」
「精霊?」
スクルージが聞き返します。
しかし友人の姿は、少しずつ薄くなっていきました。
「待て!」
スクルージが手を伸ばしたときには、もうそこには誰もいませんでした。
部屋には再び静けさが戻りました。
スクルージはしばらく動くことができませんでした。
「夢だったのか……?」
けれど、あまりにもはっきりと見えました。
あまりにもはっきりと、声が聞こえました。
その夜。
スクルージが眠ろうとしていると――。
不思議な光が部屋に広がりました。
「なんだ?」
光の中から、一人目の精霊が現れました。
精霊はスクルージを連れ出しました。
「どこへ行く?」
すると、スクルージの周りの景色が変わっていきました。
目の前に現れたのは――。
昔の自分でした。
「これは……。」
まだ若かったころのスクルージです。
今のようにいつも不機嫌な顔をしているわけではありません。
人と話し。
笑い。
誰かと一緒に過ごすことを楽しんでいます。
スクルージは黙ってその姿を見つめました。
「私にも、こんなころがあったのか……。」
忘れていた出来事。
忘れていた人々。
忘れていた気持ち。
精霊は、スクルージがこれまで歩いてきた時間を次々と見せていきました。
楽しかったこと。
寂しかったこと。
大切にしていた人。
そして少しずつ、お金を何より大切にするようになっていった自分。
スクルージの表情が変わりました。
「もういい。」
けれど、過去を消すことはできません。
スクルージは、自分がどこから今の自分になっていったのかを見つめました。
やがて景色は消えました。
そして――。
次の精霊が現れました。
今度の精霊が見せたのは、今、このクリスマスを過ごしている人々の姿でした。
町のあちこちで、家族が集まっています。
決して豪華な食事ばかりではありません。
高価な贈り物があるわけでもありません。
それでも、人々は楽しそうに笑っています。
その中には、スクルージのもとで働く人と、その家族の姿もありました。
クラチット一家です。
決して裕福な家族ではありません。
食卓に並ぶ料理も、たくさんあるわけではありませんでした。
それでも――。
「メリークリスマス!」
家族は笑顔で食卓を囲んでいます。
誰かが笑えば、みんなが笑います。
小さな家の中には、温かな空気が満ちていました。
スクルージは不思議そうにその光景を見ました。
「こんなに大変なのに、どうして笑えるんだ?」
お金がたくさんあるわけではない。
立派な家でもない。
それなのに、そこにはスクルージの家にはなかったものがありました。
笑い声。
優しい言葉。
そして、互いを大切に思う気持ち。
スクルージは黙り込みました。
今までなら気にも留めなかった人々の暮らしです。
けれど今は、なぜか目を離すことができません。
やがて二人目の精霊も姿を消しました。
そして――。
最後の精霊が現れました。
その姿を見た瞬間、スクルージは何ともいえない不安を感じました。
「お前は……何を見せるんだ?」
精霊は答えません。
ただ静かに手を伸ばしました。
辺りの景色が変わります。
そこは未来でした。
スクルージは、人々が何かを話しているのを見つけました。
誰かが亡くなったようです。
けれど――。
悲しんでいる人がほとんどいません。
「誰が死んだんだ?」
スクルージは尋ねました。
精霊は答えません。
人々は、その人物の死について冷たく話しています。
その人を懐かしむ声も。
寂しがる声も。
ほとんど聞こえてきません。
スクルージの胸がざわつきました。
「まさか……。」
嫌な予感がします。
「この人は……。」
精霊は、ある場所を指しました。
スクルージは恐る恐る近づいていきました。
そして――。
それが自分の未来なのだと気づきました。
「私なのか……?」
声が震えます。
自分がいなくなっても、悲しんでくれる人がほとんどいない。
誰かに大切に思われることもなく。
誰かの心に温かな思い出を残すこともなく。
ただ一人、人生を終えていく。
スクルージは恐ろしくなりました。
「いやだ……。」
精霊を見上げます。
「こんな未来は嫌だ!」
返事はありません。
「私は変わる!」
スクルージは必死に叫びました。
「これまでとは違う生き方をする!」
「だから、どうか――」
その瞬間。
スクルージは目を開けました。
「はっ!」
そこは自分の部屋でした。
朝の光が窓から差し込んでいます。
スクルージは辺りを見回しました。
精霊はいません。
未来の景色もありません。
「朝……?」
スクルージは急いで窓へ向かいました。
外から人々の声が聞こえています。
クリスマスの朝です。
スクルージの顔がぱっと明るくなりました。
「まだ間に合う!」
未来は、まだ起きていません。
これからの自分の行動で変えられるかもしれないのです。
スクルージは大急ぎで着替えました。
そして家を飛び出しました。
昨日までのスクルージなら、声をかけられても不機嫌そうに通り過ぎていたでしょう。
けれど今日は違いました。
「メリークリスマス!」
スクルージは、自分から人々へ声をかけました。
声をかけられた人は驚きました。
「スクルージさん?」
スクルージは笑いました。
久しぶりに、心から笑いました。
困っている人がいれば、できることをしました。
これまで冷たくしてきた人には、優しく接しました。
そして、クラチット一家のことも思い出しました。
昨夜、精霊に見せてもらった小さな家。
決して豊かではないけれど、家族みんなで笑っていた食卓。
スクルージは、自分にできることを考えました。
昨日まで大切に抱え込んでいたお金も、今日は違って見えました。
自分だけのために持っているのではなく、誰かを助けたり、喜ばせたりするためにも使うことができる。
スクルージは、ようやくそのことに気づいたのです。
その日から、スクルージは変わりました。
もちろん、過去をやり直すことはできません。
これまで人に冷たくしてきたことも、なかったことにはできません。
けれど――。
これからどう生きるかは、自分で変えることができます。
スクルージは人とのつながりを大切にするようになりました。
困っている人に目を向けました。
誰かの喜びを、自分の喜びとして感じるようになりました。
そしてクリスマスが来るたびに、スクルージの家にも温かな笑い声が聞こえるようになりました。
おしまい。
登場人物
スクルージ
お金を何より大切にし、人には冷たく接している年老いた男。クリスマスの夜に過去・現在・未来を見せられ、自分の生き方を見つめ直していきます。
精霊たち
クリスマスの夜にスクルージのもとへ現れる不思議な存在。それぞれスクルージに過去、現在、未来の光景を見せ、自分自身について考えるきっかけを与えます。
クラチット一家
スクルージのもとで働く人と、その家族。裕福ではありませんが、家族で支え合いながらクリスマスを過ごしています。その姿がスクルージの心を動かすきっかけの一つになります。
教訓
これまでどのような生き方をしてきたとしても、自分の行動を振り返り、これからを変えていくことはできる。
お金や物だけではなく、人とのつながりや誰かと過ごす時間にも大切な価値がある。
誰かを思いやったり、困っている人に手を差し伸べたりすることで、相手だけでなく自分の心も豊かになることがある。
親子で話したいポイント
スクルージは、過去・現在・未来の何を見て気持ちが変わっていったのかな?
クラチット一家は、裕福ではないのにどうして楽しそうだったのだろう?
お金や物以外に、自分が大切にしたいものは何?
誰かに親切にしてもらって、うれしかったことはある?
もし「これから変えたい」と思うことがあったら、どんなことから始められるかな?
保育士向け活用ポイント
クリスマスの時期に、「思いやり」「分かち合うこと」「人を喜ばせること」について考える題材として活用できます。
プレゼントそのものに注目するだけではなく、「誰かのために何かをしたいと思う気持ち」や「一緒に過ごすことのうれしさ」に目を向けることで、クリスマスの行事を人とのつながりについて考える機会へ広げられます。
また、スクルージが自分の過去や未来を見て生き方を変えていく展開から、「間違えたことがあってもやり直せる」「今からできることを考えればいい」というテーマにもつなげられます。


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