小人の靴屋|世界の名作・昔話(グリム童話)

世界の名作・昔話

あらすじ

むかし、ある町に一人の貧しい靴屋がいました。

靴を作る腕は確かでしたが、仕事はなかなかうまくいかず、とうとう一足の靴を作るだけの革しか残っていませんでした。

「これが最後の一足になるかもしれない。」

靴屋は革を切って机の上に置き、その日は眠ることにしました。

ところが翌朝、仕事場へ行ってみると、切った革が見事な一足の靴になっていたのです。

不思議な出来事は、その次の夜も、そのまた次の夜も続きます。

「いったい誰が、私たちを助けてくれているのだろう?」

ある夜、靴屋夫婦がこっそり仕事場を見張っていると、そこへ現れたのは小さな小人たちでした。

二人は自分たちを助けてくれた小人たちに、感謝の気持ちを伝えようと考えます。

本文

むかしむかし、ある町に一人の靴屋がいました。

靴屋は毎日、小さな仕事場で靴を作っていました。

革を切り。

針で縫い。

金づちで、

トントン。

トントン。

一足ずつ、丁寧に仕上げていきます。

靴を作る腕は確かでした。

けれど、なぜか仕事はなかなかうまくいきません。

靴が売れない日が続き、お金も少しずつなくなっていきました。

新しい革を買うことも難しくなってきます。

「困ったな……。」

靴屋はため息をつきました。

それでも仕事をやめるわけにはいきません。

残っている革を大切に使いながら、毎日靴を作り続けました。

けれど、とうとう――。

ある日の夕方。

靴屋が革を確かめると、残っているのはほんのわずかでした。

「これだけか……。」

一足の靴を作れば、それでなくなってしまうほどです。

妻も心配そうに革を見つめました。

「これが最後の一足になるかもしれないわね。」

「そうだな。」

靴屋はしばらく黙っていました。

それでも、できることをするしかありません。

「よし。明日、この革で一足作ろう。」

靴屋はいつものように革を丁寧に切りました。

そして、すぐに仕事を始められるよう机の上に並べておきました。

「今日はもう遅い。続きは明日にしよう。」

靴屋と妻は仕事場の明かりを消し、眠ることにしました。

夜が深くなりました。

町の中は静まり返っています。

しん……。

仕事場にも誰もいません。

机の上には、切られた革が置かれているだけでした。

そして翌朝。

靴屋はいつものように仕事場へ入りました。

「さて、昨日の続きを――」

そこで、ぴたりと足を止めました。

「えっ?」

机の上を見つめます。

昨日置いておいたはずの革がありません。

その代わりに――。

一足の靴が置かれていました。

「これは……!」

靴屋は慌てて近づきました。

手に取って、じっくりと確かめます。

革はきれいに縫い合わされています。

形も美しく、細かなところまで丁寧に仕上げられていました。

「なんて立派な靴なんだ。」

妻もやってきました。

「あなたが作ったの?」

「いや。私は何もしていないよ。」

「それじゃあ、誰が?」

二人は顔を見合わせました。

昨日の夜、机の上にあったのは切った革だけです。

それが朝になると、立派な靴になっている。

「不思議だなあ……。」

誰が作ったのか、まったく分かりません。

けれど、せっかく出来上がった靴です。

靴屋は店に並べることにしました。

すると、その靴を見たお客さんが言いました。

「これはいい靴だ。」

お客さんはとても気に入り、すぐに買ってくれました。

しかも、とても丁寧に作られた靴だったので、十分なお金を払ってくれたのです。

「これなら、新しい革が買える!」

靴屋は大喜びしました。

さっそくそのお金で革を買いました。

今度は、二足分の靴を作れるだけの革です。

その日の夕方。

靴屋はまた革を切り、机の上へ並べました。

「明日の朝から作ろう。」

そして仕事場を出ました。

次の日。

靴屋が仕事場へ入ると――。

「まさか……。」

机の上には、二足の立派な靴が並んでいました。

「まただ!」

妻も驚いてやってきました。

「昨日は確かに、革しか置いていなかったわよね?」

「ああ。」

二足とも見事な出来栄えです。

縫い目はきれいにそろい、どこを見ても丁寧に作られています。

二人は不思議で仕方ありませんでした。

その靴も店へ並べると、すぐに売れました。

靴屋はそのお金で、さらにたくさんの革を買うことができました。

夜になると革を切っておきます。

そして朝になると――。

立派な靴が完成しているのです。

一足。

二足。

そして、また次の靴。

靴屋の店には、少しずつお客さんが増えていきました。

「あの店の靴は、とても履きやすい。」

「丈夫で、きれいに作られている。」

そんな評判も広がっていきました。

生活も、少しずつ楽になりました。

けれど靴屋夫婦には、どうしても気になることがありました。

「いったい誰が作ってくれているんだろう?」

毎晩、仕事場には誰もいないはずです。

扉もしっかり閉めています。

それなのに、朝になると必ず靴が完成しています。

ある夜。

妻が言いました。

「今夜、こっそり見てみない?」

「見てみる?」

「ええ。誰が私たちを助けてくれているのか、知りたいわ。」

靴屋もうなずきました。

「そうだな。ずっと助けてもらっているんだ。せめて誰なのか知りたい。」

その日の夜。

二人はいつものように革を切って机の上へ置きました。

けれど、眠りには行きません。

仕事場の様子が見える場所に、そっと隠れました。

部屋の明かりを消します。

しん……。

静かな夜でした。

二人は息をひそめて待ちました。

けれど、なかなか何も起こりません。

「本当に来るのかしら……。」

妻が小さな声でささやきました。

「しっ。」

靴屋は仕事場を見つめます。

しばらくすると――。

かさっ。

小さな音がしました。

二人は顔を見合わせました。

かさかさっ。

何かが動いています。

そして――。

どこからともなく、小さな小人たちが現れました。

「小人……!」

靴屋は思わず声を出しそうになりました。

二人はじっと様子を見守りました。

小人たちは机の上へ登ると、すぐに仕事を始めました。

一人が革を持ち。

もう一人が糸を通し。

小さな手で、素早く靴を作っていきます。

トントン。

カタカタ。

ちくちく。

トントン。

その手の動きは、とても速くて見事でした。

「すごい……。」

靴屋は目を丸くしました。

小人たちは遊んだり、休んだりしません。

一生懸命に手を動かし続けます。

やがて――。

机の上に立派な靴が並びました。

小人たちは出来上がった靴を確かめると、満足そうにうなずきました。

そして、夜が明ける前に、どこかへ消えていきました。

仕事場には再び静けさが戻りました。

靴屋夫婦は隠れていた場所から出てきました。

二人は、出来上がった靴を見つめました。

「私たちを助けてくれていたのは、あの小人たちだったのね。」

「ああ。」

靴屋は静かにうなずきました。

「毎晩、あんなに一生懸命働いてくれていたんだ。」

二人は胸がいっぱいになりました。

自分たちが困っている間、誰にも知られずに小人たちが助けてくれていたのです。

妻は言いました。

「何かお礼をしたいわ。」

「そうだな。」

二人は考えました。

小人たちが喜んでくれるものは何でしょう。

妻は、小人たちが着ていた服を思い出しました。

「そうだわ。」

「どうした?」

「あの小人たちに、小さな服を作ってあげましょう。」

靴屋も笑いました。

「それなら私は、小さな靴を作ろう。」

今度は、靴屋夫婦が小人たちのために仕事をする番です。

妻は小さな布を用意しました。

ちくちく。

ちくちく。

小人たちにぴったりの、小さな服を縫います。

靴屋も革を切りました。

トントン。

トントン。

いつも作っている靴より、ずっと小さな靴です。

「これなら喜んでくれるかな。」

「きっと喜んでくれるわ。」

二人は心を込めて贈り物を作りました。

そしてその夜。

いつもなら切った革を置いておく机の上に、小さな服と靴を並べました。

靴屋夫婦は、またこっそり隠れました。

夜が深くなります。

しん……。

やがて――。

かさっ。

かさかさっ。

小人たちがやってきました。

いつものように机へ登ります。

けれど、そこで動きを止めました。

「おや?」

いつもの革がありません。

代わりに置いてあるのは、小さな服と靴です。

小人たちは顔を見合わせました。

そして、自分たちのための贈り物だと気づきました。

「わあ!」

小人たちは大喜びです。

さっそく服を着てみました。

ぴったりです。

小さな靴も履いてみました。

こちらもぴったり。

小人たちはうれしそうに、自分たちの新しい服と靴を眺めました。

くるり。

くるり。

楽しそうに踊ります。

靴屋夫婦は隠れたまま、その姿を見ていました。

妻はうれしそうに微笑みました。

「喜んでくれたわ。」

「ああ。」

小人たちはしばらく楽しそうに踊っていました。

そして――。

その夜を最後に、小人たちが仕事場へやってくることはなくなりました。

朝になっても。

次の夜になっても。

もう小さな足音は聞こえません。

けれど、靴屋夫婦は悲しみませんでした。

二人は自分たちの手で、また靴を作り始めました。

トントン。

トントン。

ちくちく。

ちくちく。

小人たちが助けてくれたおかげで、店にはお客さんが増えていました。

靴屋は一足ずつ、心を込めて靴を作りました。

妻もそばで夫を支えました。

それからも二人の仕事はうまくいき、困ることなく暮らしていけるようになりました。

ときどき夜になると、靴屋夫婦はあの小さな足音を思い出しました。

トントン。

カタカタ。

けれど、もう仕事場に小人たちの姿はありません。

二人が作った小さな服と靴を身につけて、小人たちはどこかで楽しく暮らしているのでしょう。

おしまい。

登場人物

靴屋
靴を作る腕を持ちながらも、仕事がうまくいかず生活に困っていた職人。残ったわずかな革で仕事を続けようとします。小人たちに助けてもらったことを知り、感謝の気持ちを込めて小さな靴を作ります。

靴屋の妻
夫を支えながら一緒に暮らしている女性。夜中に靴を作ってくれている小人たちの存在を知り、夫と一緒にお礼をしようと考え、小さな服を用意します。

小人たち
夜になると靴屋の仕事場へやってきて、切っておいた革から立派な靴を作ってくれる不思議な存在。靴屋夫婦から小さな服と靴を贈られると、大喜びします。

教訓

誰かに助けてもらったときには、その親切を当たり前と思わず、感謝の気持ちを持つことが大切。

自分が助けてもらったように、今度は自分が相手のためにできることを考えることで、優しさを返すことができる。

大きなことではなくても、相手を思って行動することが、感謝を伝える方法の一つになる。

親子で話したいポイント

小人たちは、どうして毎晩靴屋の仕事を手伝っていたのかな?

靴屋夫婦は、小人たちが助けてくれていると知ってどんな気持ちになったと思う?

誰かに助けてもらったとき、どんな言葉を伝える?

「ありがとう」を言う以外には、どんな方法で感謝を伝えられるかな?

自分が誰かを助けたり、手伝ったりしたことはある?

保育士向け活用ポイント

感謝や助け合い、仕事について考える読み聞かせとして活用できます。

勤労感謝の日の時期には、「身の回りにはどんな仕事をしている人がいる?」「誰のおかげで生活できているかな?」と、さまざまな仕事に気づく活動へつなげることができます。

また、小人たちが小さな靴を作る場面から、紙や布などを使った靴作りや「小さな靴屋さんごっこ」などの製作・ごっこ遊びにも展開できます。

「助けてもらったら必ず何かを返さなければならない」とするのではなく、「うれしかった気持ちをどう伝えよう?」と考えることで、子どもたちなりの感謝の表し方を見つける活動にもつなげられます。

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