ホレのおばさん|世界の名作・昔話(グリム童話)

グリム童話

あらすじ

むかし、あるところに二人の娘がいました。

一人は働き者で、毎日の仕事にまじめに取り組む娘。もう一人は、できるだけ楽をして過ごしたい怠け者の娘でした。

ある日、働き者の娘が井戸のそばで糸を紡いでいると、大切な糸巻きを井戸の中へ落としてしまいます。

困った娘が思い切って井戸へ飛び込むと、たどり着いたのは見たこともない不思議な世界でした。

そこで出会ったのが、ホレのおばさんです。

娘はホレのおばさんの家で一生懸命に働き、やがて家へ帰るとき、その働きぶりにふさわしい黄金の恵みを受け取ります。

それを知った怠け者の娘も同じように黄金を手に入れようとしますが、働き者の娘とはまったく違う結果が待っていました。

本文

むかしむかし、あるところに二人の娘がいました。

一人は、とても働き者の娘でした。

朝から家の中を掃除して、水を汲み、頼まれた仕事があれば一生懸命に取り組みます。

もう一人は、できるだけ仕事をせず、楽をして過ごしたい娘でした。

ある日のこと。

働き者の娘は、いつものように井戸のそばで糸を紡いでいました。

くるくる。

くるくる。

娘は休まず手を動かします。

ところが――。

「あっ!」

手を滑らせた拍子に、大切な糸巻きが落ちてしまいました。

ころころ……。

ぽちゃん!

糸巻きは、そのまま井戸の中へ。

娘は慌てて井戸をのぞき込みました。

「どうしよう……。」

井戸の中は暗く、底は見えません。

大切な糸巻きをなくしてしまったら、家へ帰ることもできません。

娘はしばらく迷いました。

けれど、やがて覚悟を決めました。

「取りに行かなくちゃ。」

娘は井戸のふちに手をかけると、思い切って中へ飛び込みました。

ふわっ――。

娘は目を閉じました。

冷たい水の中へ落ちると思っていました。

ところが、いつまでたっても水に落ちません。

まるで体が空を漂っているような、不思議な感覚でした。

そして――。

娘が恐る恐る目を開けると、そこには見たこともない景色が広がっていました。

「ここは……どこ?」

井戸の底に落ちたはずなのに、目の前には明るい空が広がっています。

暖かな光が差し込み、草花が風に揺れていました。

娘は立ち上がりました。

「不思議なところ……。」

辺りを見回しても、元の世界へ戻る道は分かりません。

娘は仕方なく歩き始めました。

しばらく進むと、一軒の家が見えてきました。

「誰かいるのかな?」

娘はそっと近づきました。

すると、そこに一人の女性がいました。

それが、ホレのおばさんでした。

「おや。こんなところに娘さんがやってくるなんて珍しいね。」

ホレのおばさんは娘を見ました。

娘は、井戸へ糸巻きを落としてしまったことや、それを追ってここへ来たことを話しました。

ホレのおばさんは、うなずきながら聞いていました。

そして言いました。

「それなら、しばらくここにいるといい。」

「いいんですか?」

「ああ。その代わり、うちの仕事を手伝ってくれないかい?」

娘はすぐに答えました。

「はい。私にできることなら、何でもやります。」

こうして娘は、ホレのおばさんの家で暮らしながら仕事を手伝うことになりました。

朝になると、娘は早くから起きました。

部屋を掃除して。

食事の準備をして。

パンを焼いて。

家の中をきれいに整えます。

ホレのおばさんに頼まれたことも、一つずつ丁寧に行いました。

「次は何をすればいいですか?」

娘は自分から尋ねました。

そんな娘に、ホレのおばさんはある仕事を頼みました。

「私のベッドを整えるときにはね、布団をしっかり振っておくれ。」

「布団を?」

「ああ。羽毛がたくさん舞い上がるくらいにね。」

娘は不思議に思いましたが、言われたとおりにしました。

大きな布団を持ち上げて――。

ばさっ!

ばさっ!

しっかりと振ります。

すると、中から白い羽毛がふわふわと舞い上がりました。

ふわり。

ふわり。

無数の羽毛が辺りいっぱいに広がっていきます。

そして不思議なことに――。

娘が布団を振ると、遠く離れた地上では白い雪が降るのでした。

しんしん。

しんしん。

空から舞い落ちる雪は、まるでホレのおばさんの家から飛び出した羽毛のようでした。

娘は毎日、同じように働きました。

今日は疲れたからやめよう。

誰も見ていないから手を抜こう。

そんなことはしませんでした。

掃除をするときには、きれいになるまで。

パンを焼くときには、焦がさないように。

布団を振るときには、羽毛がふわふわと舞うまで。

毎日、まじめに仕事を続けました。

ホレのおばさんは、そんな娘の姿をよく見ていました。

「今日もよく働いたね。」

「ありがとうございます。」

娘はホレのおばさんの家での暮らしにも、少しずつ慣れていきました。

けれど、しばらくすると――。

娘はふと、自分の家を思い出すようになりました。

「家のみんなは、どうしているのかな……。」

この不思議な世界での暮らしが嫌なわけではありません。

ホレのおばさんも親切にしてくれます。

それでも娘は、やはり自分の家へ帰りたくなりました。

そこで娘は、ホレのおばさんに言いました。

「今まで本当にありがとうございました。」

「どうしたんだい?」

「そろそろ家へ帰りたいんです。」

ホレのおばさんは娘の顔を見ました。

そして、にっこり笑いました。

「そうかい。」

娘は少し心配になりました。

「帰ることはできますか?」

「もちろん。」

ホレのおばさんは言いました。

「お前は毎日、本当によく働いてくれたからね。」

ホレのおばさんは、娘を元の世界へ帰る場所まで連れていきました。

そして――。

娘がそこを通ろうとした瞬間。

きらきらきらっ!

「わっ!」

頭の上から、まぶしいほどの金色の光が降り注ぎました。

娘は驚いて立ち止まりました。

黄金が、娘の体いっぱいに降りかかってきたのです。

「これは……?」

ホレのおばさんは言いました。

「毎日まじめに働いてくれたお礼だよ。」

娘は自分の体を見ました。

全身が金色に輝いています。

「ありがとうございます!」

娘は深く頭を下げました。

そして、元の世界へ戻っていきました。

家へ帰ると、みんなは驚きました。

「まあ!」

「あの子が金色になって帰ってきた!」

娘は、井戸の向こうにあった不思議な世界のことを話しました。

ホレのおばさんの家で働いたこと。

掃除やパン焼きをしたこと。

布団を振ると羽毛が舞い、地上に雪が降ったこと。

そして、帰るときに黄金をもらったこと。

その話を聞いていた怠け者の娘は、目を輝かせました。

「黄金をもらったの?」

働き者の娘はうなずきました。

怠け者の娘は考えました。

「同じことをすれば、私も黄金をもらえるかもしれない。」

そこで怠け者の娘も、働き者の娘と同じように井戸へ向かいました。

そして井戸の中へ入り、不思議な世界へたどり着きました。

やがて、ホレのおばさんの家を見つけます。

「うちの仕事を手伝ってくれないかい?」

ホレのおばさんが尋ねると、娘はすぐに答えました。

「もちろんです。」

けれど、娘が考えていたのは仕事のことではありませんでした。

「これをやれば、最後に黄金がもらえるんだ。」

最初のうちは、娘も仕事をしました。

けれど、すぐに面倒になってきました。

「こんなに掃除しなくてもいいでしょう。」

パンを焼く仕事も、できるだけ楽に済ませようとします。

そして、ホレのおばさんが大切にしているベッドの仕事も――。

「布団を何度も振るなんて疲れるわ。」

ばさっ。

ほんの少し振っただけで、すぐにやめてしまいました。

羽毛はほとんど舞い上がりません。

「これくらいでいいでしょう。」

娘は、どうすれば仕事を早く終えられるかばかり考えていました。

ホレのおばさんは、そんな娘の様子を静かに見ていました。

何日かすると、怠け者の娘は思いました。

「そろそろ黄金をもらえるはず。」

そしてホレのおばさんに言いました。

「私、家へ帰ります。」

ホレのおばさんは娘を見ました。

「そうかい。」

「はい。」

娘は心の中でわくわくしていました。

働き者の娘と同じように、帰り道で黄金が降ってくる。

そう思っていたのです。

ホレのおばさんは、娘を元の世界へ帰る場所まで連れていきました。

娘は期待しながら、その場所を通りました。

「さあ、黄金が――」

ところが。

待っていたのは、働き者の娘が受け取ったような黄金ではありませんでした。

娘は驚きました。

「えっ?」

同じ場所へ来て。

同じホレのおばさんの家で過ごして。

同じように家へ帰ろうとしたのに。

受け取ったものは、まったく違っていたのです。

娘はようやく気づきました。

働き者の娘が黄金をもらったのは、ただホレのおばさんの家へ行ったからではありません。

毎日の仕事を一つずつ丁寧に行い、頼まれたことにまじめに取り組んだからでした。

怠け者の娘は、黄金を手に入れることばかり考えながら、家へ帰っていきました。

そのころ。

地上では、白い雪が静かに降っていました。

しんしん。

しんしん。

どこか遠い不思議な世界で、今日もホレのおばさんの布団から白い羽毛が舞っているようでした。

おしまい。

登場人物

働き者の娘
毎日の仕事にまじめに取り組む娘。井戸の向こうにある不思議な世界へ行き、ホレのおばさんの家でも掃除やパン焼き、ベッドを整える仕事などを一生懸命に行います。

怠け者の娘
働き者の娘が黄金をもらったことを知り、自分も同じように黄金を手に入れようとします。しかし仕事そのものにはまじめに取り組まず、できるだけ楽をしようとします。

ホレのおばさん
井戸の向こうに広がる不思議な世界に住んでいる女性。娘たちに家の仕事を頼み、その取り組む姿を見ています。ベッドの布団を振って羽毛を舞わせると、地上に雪が降ります。

教訓

同じことをしているように見えても、どのような気持ちで取り組むかによって、その意味は変わることがある。

誰かの行動をそのまま真似するだけではなく、「なぜそうするのか」を考えることも大切。

結果やご褒美だけではなく、自分に任されたことへまじめに取り組む姿勢にも価値がある。

親子で話したいポイント

働き者の娘は、ホレのおばさんの家でどんなことを頑張ったのかな?

怠け者の娘は、どうして働き者の娘と同じ結果にならなかったのだろう?

誰かの真似をして、うまくできるようになったことはある?

一生懸命に取り組んで「できた!」とうれしくなったことはある?

家のお手伝いをするとしたら、どんなことをやってみたい?

保育士向け活用ポイント

身の回りのことやお手伝い、仕事に取り組む姿勢について考える題材として活用できます。

「働き者だから良い子」「怠けるから悪い子」と単純に分けるのではなく、「どうして働き者の娘は最後まで続けられたのかな?」「やりたくないことがあるときはどうする?」など、子ども自身の経験に結びつけて考えると扱いやすくなります。

また、結果だけを評価するのではなく、「最後までやってみた」「丁寧に取り組んだ」「自分から手伝った」など、過程や姿勢に目を向ける活動にもつなげられます。

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