あらすじ
むかし、あるところに一人の娘がいました。
娘の父親は、自分の娘を自慢したいあまり、「うちの娘は、わらを金に変えられるほどすごい娘です」と王さまに話してしまいます。
その言葉を本気にした王さまは、娘を城へ呼びつけ、部屋いっぱいのわらを一晩で金に変えるよう命じました。
もちろん、娘にそんな力はありません。
困り果てて泣いていると、どこからともなく不思議な小人が現れ、わらを金に変えてくれました。
しかし小人が求めたのは、娘に将来生まれる最初の子ども。
やがて母親となった娘の前に、小人は約束どおり現れます。
「子どもを渡したくなければ、私の名前を当ててみなさい」
娘は大切な子どもを守るため、小人の本当の名前を探し始めます。
本文
むかしむかし、あるところに一人の娘がいました。
娘の父親は、自分の娘をとても自慢に思っていました。
娘のことをほめてもらうのがうれしくて、ついつい話を大きくしてしまうこともありました。
ある日のことです。
父親は王さまに、自分の娘のことを話す機会がありました。
「私の娘は、それはそれは立派な娘でございます。」
「ほう。どれほど立派なのだ?」
王さまが尋ねます。
父親は、少しでも娘をすごく見せようと思ったのでしょう。
つい、こんなことを言ってしまいました。
「うちの娘は、わらを金に変えられるほどすごい娘です。」
「わらを……金に?」
王さまの目が光りました。
父親は、ただ娘を自慢したかっただけでした。
けれど王さまは、その言葉を本気にしてしまったのです。
「それほどの力を持っているのなら、ぜひ見てみたい。」
こうして娘は、突然お城へ呼び出されました。
「どうして私がお城に……?」
娘には何が起きているのか分かりません。
王さまは娘を、一つの大きな部屋へ連れていきました。
扉が開くと――。
娘は驚いて立ち止まりました。
部屋の中には、山のようなわらが積まれていたのです。
そのそばには糸車が置かれていました。
王さまは言いました。
「お前は、わらを金に変えられるそうだな。」
娘は目を見開きました。
「えっ?」
「この部屋にあるわらを、一晩ですべて金に変えなさい。」
「そんな……。」
娘は慌てました。
「私には、そんなことできません。」
けれど王さまは聞きませんでした。
「明日の朝までだ。」
そう言うと、王さまは部屋を出ていきました。
ばたん。
扉が閉まりました。
娘は、たった一人で部屋に残されました。
目の前には、天井に届きそうなほど積み上げられたわら。
その隣には糸車。
娘は呆然と立ち尽くしました。
「どうしよう……。」
わらを金に変える方法など知りません。
そもそも、そんなことができるはずもありません。
夜が深くなっていきました。
城の中も、少しずつ静かになっていきます。
しん……。
聞こえるのは、ときどき風が窓を揺らす音だけ。
娘はわらの前に座り込みました。
「できるわけがない……。」
考えても、考えても方法は見つかりません。
とうとう娘は泣き始めました。
そのときです。
「どうして泣いているんだい?」
「えっ?」
娘は顔を上げました。
いつの間に入ってきたのでしょう。
そこには、一人の小さな男が立っていました。
娘は驚きました。
「あなたは誰?」
小さな男は答えず、わらの山を見ました。
「なるほど。このわらを金にしなければならないんだね。」
娘はうなずきました。
「でも、私にはできないの。」
すると小さな男は、にやりと笑いました。
「私ならできるよ。」
「本当に?」
娘は立ち上がりました。
「本当に、このわらを金にできるの?」
「もちろん。」
小さな男は言いました。
「ただし、何かお礼をもらわなくちゃね。」
娘は困りました。
けれど、このままでは王さまとの約束を果たすことができません。
「分かりました。」
小さな男は糸車の前に座りました。
そして――。
くるくる。
くるくる。
糸車を回し始めました。
すると、不思議なことが起こりました。
わらが糸車へ吸い込まれていきます。
そして反対側から現れたのは――。
きらり。
金色に輝く糸でした。
「金……!」
娘は息をのみました。
くるくる。
くるくる。
小さな男が糸車を回すたびに、わらが次々と金へ変わっていきます。
夜が明けるころには、山のように積まれていたわらはなくなっていました。
部屋の中には、美しく輝く金が積み上げられています。
朝になり、王さまが部屋へやってきました。
扉を開けた王さまは目を見張りました。
「これは……!」
本当に、わらが金になっています。
王さまは驚きました。
けれど、それで終わりではありませんでした。
王さまは、娘が本当にわらを金に変えられると思い込みました。
娘はさらに困った状況へ追い込まれていきます。
そのたびに――。
夜になると、あの小さな男が現れました。
「また困っているようだね。」
娘は小人の力を借りるしかありませんでした。
けれど、小人が求めるものも次第に大きくなっていきました。
そしてとうとう、小人は娘に言いました。
「では、今度はこうしよう。」
娘は不安そうに小人を見ました。
「何を望むの?」
小人は静かに答えました。
「あなたに最初の子どもが生まれたら、その子を私にちょうだい。」
娘は息をのみました。
「子どもを……?」
まだ自分に子どもが生まれるかどうかも分かりません。
けれど目の前には、どうしても乗り越えなければならない困難があります。
娘は恐ろしくなりました。
それでも、その場ではどうすることもできませんでした。
そして――。
娘は小人と約束してしまったのです。
やがて月日が流れました。
娘の暮らしも大きく変わりました。
そしてある日、娘にはかわいらしい子どもが生まれました。
娘は子どもを大切に育てました。
小さな手。
小さな声。
眠っている顔を見ているだけでも、幸せな気持ちになります。
そんな日々を過ごすうちに、娘はいつしか、あの小人との約束を忘れかけていました。
ところが――。
ある夜。
しんと静まり返った部屋で、娘が子どもを寝かせていると。
とん。
どこかで小さな音がしました。
娘は振り返りました。
誰もいません。
けれど――。
とん。
とん。
今度は、すぐ近くから聞こえます。
娘の胸がざわつきました。
そして暗がりの中から、ゆっくりと小さな影が現れました。
「久しぶりだね。」
娘の顔から血の気が引きました。
「あ……。」
忘れるはずのない姿。
あの小人です。
小人は眠っている子どもを見ました。
そして言いました。
「約束どおり、子どもをもらいに来たよ。」
娘はすぐに子どもを抱きしめました。
「待ってください!」
「約束しただろう?」
「お願いです。何でもします。」
娘は必死でした。
「どうか、この子だけは連れていかないでください。」
小人は娘をじっと見つめました。
しばらく何も言いません。
やがて、小人は口元に笑みを浮かべました。
「それなら、一つだけチャンスをあげよう。」
「チャンス?」
「私の名前を当ててみなさい。」
娘は驚きました。
「名前……?」
「そう。」
小人は言いました。
「私の本当の名前を当てることができたら、子どもは連れていかない。」
娘は必死に考えました。
けれど、小人の名前など知るはずがありません。
「時間をください。」
小人はうなずきました。
「いいだろう。」
そう言うと、小人は暗闇の中へ消えていきました。
娘はすぐに国中から名前を集め始めました。
「珍しい名前を知りませんか?」
使いの者たちをあちこちへ向かわせました。
町へ。
村へ。
遠い土地へ。
聞いたことのある名前を、できるだけたくさん集めました。
そして小人がやってくるたび、娘は名前を言いました。
「あなたの名前は、これでしょう?」
「違う。」
「それなら、この名前?」
「違うよ。」
次々に名前を言っても、小人は首を横に振ります。
「違う。」
「それも違う。」
小人は楽しそうに笑いました。
娘は焦りました。
時間はどんどん過ぎていきます。
「このままでは……。」
娘は眠っている子どもを見つめました。
「絶対に守らなくては。」
そして、とうとう最後の日が近づきました。
そのころ、一人の使いの者が遠くの森を歩いていました。
日が暮れ始めています。
森の中は薄暗く、木々の影が長く伸びていました。
ざわざわ……。
風が枝を揺らします。
使いの者が森の奥を進んでいると――。
どこからか声が聞こえてきました。
「ん?」
誰かが歌っています。
使いの者は足を止めました。
声のするほうへ、そっと近づいていきます。
木々の向こうに、小さな明かりが見えました。
そこには、一人の小さな男がいました。
男は誰もいないと思っているのでしょう。
楽しそうに飛び跳ねながら、くるくると踊っています。
そして歌っていました。
使いの者は木の陰に隠れ、息をひそめました。
小人の歌声が静かな森に響きます。
その歌の中で――。
小人は、自分の名前を口にしました。
「私の名前は、ルンペルシュティルツヒェン。」
使いの者は目を見開きました。
「ルンペルシュティルツヒェン……。」
忘れないように、何度も心の中で繰り返します。
そして急いで城へ戻りました。
「分かりました!」
娘は立ち上がりました。
「本当ですか?」
「はい。森の中で、小さな男が自分の名前を歌っていたのです。」
使いの者は娘の耳元で、その名前を伝えました。
娘は小さく繰り返しました。
「ルンペルシュティルツヒェン……。」
その夜。
部屋は静まり返っていました。
娘は子どもをそばに置き、小人が来るのを待っていました。
やがて――。
とん。
とん。
小さな足音が聞こえてきました。
暗がりから小人が姿を現します。
「さあ。」
小人は笑いました。
「私の名前が分かったかな?」
娘は、まず別の名前を口にしました。
「あなたの名前は……これですか?」
「違う。」
小人は楽しそうです。
娘はもう一つ名前を言いました。
「では、こちら?」
「違う、違う。」
小人は笑いました。
そして娘を見ました。
「もう分からないだろう?」
娘は小人の顔をじっと見つめました。
少し間を置いて――。
静かに言いました。
「あなたの名前は……。」
小人の笑顔が止まりました。
「ルンペルシュティルツヒェンでしょう?」
しん――。
部屋の中が静まり返りました。
小人は目を見開きました。
「なぜ……。」
娘は子どもを抱き寄せました。
「あなたの名前は、ルンペルシュティルツヒェン。」
「どうして知っている!」
小人は真っ赤になって怒りました。
どん!
地面を強く踏み鳴らします。
「そんなはずはない!」
どん!
どん!
小人は悔しそうに地面を踏み鳴らしました。
けれど、約束は約束です。
娘は小人の本当の名前を当てました。
もう、子どもを渡す必要はありません。
小人は怒りながら、その場を去っていきました。
娘は小人の姿が見えなくなるまで、子どもをしっかりと抱きしめていました。
やがて部屋には、いつもの静けさが戻りました。
娘は眠っている子どもの顔を見つめました。
そして、ほっとしたように微笑みました。
おしまい。
登場人物
娘
父親の不用意な言葉によって、突然「わらを金に変える」という無理な仕事を命じられてしまう人物。小人との約束によってさらに大きな困難を抱えますが、大切な子どもを守るために小人の本当の名前を探します。
父親
娘を自慢したいあまり、「娘はわらを金に変えられる」と大げさなことを王さまに話してしまう人物。その言葉が、娘を大きな困難へ巻き込むきっかけになります。
王さま
父親の言葉を聞き、娘に本当にわらを金へ変えるよう命じる人物。娘を城へ呼び、部屋いっぱいのわらを一晩で金にするよう求めます。
ルンペルシュティルツヒェン
娘が困り果てているときに現れる、不思議な力を持った小人。わらを金に変える代わりに条件を出し、最後には娘に生まれた最初の子どもを求めます。
教訓
何気なく口にした言葉でも、思いがけない出来事につながることがあるため、自分の言葉には気をつけることが大切。
困っているからといって、その場だけを乗り切るために大切な約束を簡単にしてしまわないことも必要。
自分一人では解決できない困難に出会ったときには、周囲に助けを求めたり、知恵を借りたりすることも一つの方法。
親子で話したいポイント
お父さんの言葉は、どうして娘を困らせることになったのかな?
自分にはできないことを「できる」と言われたら、どんな気持ちになる?
約束をするときには、どんなことを考えたらいいだろう?
娘はどうやって小人の名前を見つけることができたのかな?
自分一人では困ったことを解決できないとき、誰に相談したい?
保育士向け活用ポイント
「言葉には責任がある」ということや、約束について考える題材として活用できます。
父親が娘を自慢しようとして話を大きくしたことから、「本当ではないことを言うと、どんなことが起こるかな?」と、子どもにも身近な言葉の使い方へつなげられます。
また、娘が一人だけで小人の名前を探すのではなく、周囲の人に協力してもらう展開から、「困ったときには助けを求めてもいい」「一人でできないことは誰かに相談できる」というテーマを考える活動にも活用できます。


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