あらすじ
むかし、ある国の王さまには十二人の息子がいました。
ある日、王妃に新しい子どもが生まれることになります。
王さまは、もし女の子が生まれたら、十二人の息子たちが王位を争うことになるかもしれないと考えました。
そのため、十二人の兄弟は城を離れ、遠い森で暮らすことになります。
やがて王妃のもとに一人の女の子が生まれました。
何も知らずに育った妹は、あるとき自分には十二人の兄がいることを知ります。
「兄さんたちに会いたい。」
妹はまだ見ぬ兄たちを探すため、一人で遠い森へ向かいます。
長い年月を離れて過ごしていた兄と妹が出会い、再び家族として生きる道を探していく物語です。
本文
むかしむかし、ある国に一人の王さまがいました。
王さまには王妃と、十二人の息子がいました。
十二人の王子たちは、にぎやかな城の中で一緒に育ちました。
兄弟で遊び、食事をし、ときにはけんかをしながらも、十二人はいつも一緒でした。
そんなある日のこと。
王妃に、新しい子どもが生まれることになりました。
城の人々は喜びました。
「今度は男の子でしょうか。それとも女の子でしょうか。」
けれど王さまは、あることを心配するようになりました。
もし女の子が生まれたら――。
十二人の息子たちが、いつか王位をめぐって争うことになるかもしれない。
王さまはそう考えたのです。
やがて、そのことを知った十二人の兄弟は、自分たちが城にいられなくなることを知りました。
「僕たちは、ここを離れなければならないのか……。」
兄弟は悲しみました。
生まれ育った城。
一緒に過ごしてきた部屋。
見慣れた庭。
何もかもを置いていかなければなりません。
それでも十二人は、城を離れることになりました。
ある日、兄弟は荷物をまとめました。
そして城をあとにします。
振り返ると、遠くに城の塔が見えました。
「もう、ここには戻れないのかな。」
誰かが小さくつぶやきました。
けれど、答える者はいませんでした。
十二人は黙って歩き続けました。
町を離れ。
野原を越え。
さらに遠くへ。
やがて兄弟は、深い森へたどり着きました。
木々が空を覆うほど生い茂った、静かな森です。
さらさら……。
風が吹くたび、葉のこすれる音が聞こえました。
兄弟は森の中で暮らすことにしました。
城での暮らしとはまるで違います。
けれど十二人は力を合わせました。
「僕は食べ物を探してくる。」
「それなら僕は、ここを片づけよう。」
「薪を集めてくるよ。」
十二人は互いに助け合いながら、森の中で暮らしていきました。
そのころ――。
城では、王妃に赤ちゃんが生まれていました。
生まれたのは、かわいらしい女の子でした。
王女は城の人々に大切に育てられました。
そして月日が流れ――。
小さかった王女は、少しずつ大きくなっていきました。
王女は、自分が生まれる前のことを知りません。
十二人の兄がいたことも。
兄たちが遠い森で暮らしていることも。
何も知らずに育ちました。
ところがある日のこと。
王女は、ふとしたことから自分には兄がいることを知りました。
それも、一人や二人ではありません。
十二人もの兄がいるというのです。
「私に……十二人も兄さんがいるの?」
王女は驚きました。
「どうして今まで、一度も会ったことがないの?」
そして、兄たちが自分の生まれるころに城を離れたことを知りました。
王女は何度もその話を考えました。
まだ一度も会ったことのない十二人の兄。
どんな顔をしているのでしょう。
どんな声なのでしょう。
どんなふうに暮らしているのでしょう。
考えれば考えるほど、兄たちに会いたいという気持ちは強くなりました。
「兄さんたちに会いたい。」
とうとう王女は決心しました。
「私が探しに行こう。」
こうして王女は、十二人の兄を探す旅へ出ました。
けれど、兄たちがどこにいるのか、はっきりとは分かりません。
遠い森で暮らしている。
王女が知っているのは、それだけでした。
それでも歩き続けました。
道を進み。
野原を越え。
森を目指します。
日が暮れると、辺りは暗くなりました。
森へ近づくにつれ、人の姿も少なくなっていきます。
ざわざわ……。
風に揺れる木々の音だけが聞こえました。
「本当に、この先に兄さんたちがいるのかな……。」
心細くなることもありました。
それでも王女は引き返しませんでした。
「会いたい。」
その気持ちを胸に、さらに森の奥へ進みました。
どれほど歩いたでしょう。
深い森の中で、王女は一軒の家を見つけました。
「こんなところに家が……。」
王女はそっと近づきました。
長い旅で疲れていましたが、もしかしたら兄たちのことを知っている人がいるかもしれません。
王女は勇気を出して、家を訪ねました。
すると――。
そこにいたのは、王女がずっと探していた兄たちでした。
「あなたたちは……。」
兄たちも、突然現れた少女を見て驚きました。
「誰だ?」
王女は緊張しながら答えました。
「私は、あなたたちを探してきました。」
「僕たちを?」
「はい。」
王女は自分が誰なのかを話しました。
自分が王さまと王妃の娘であること。
自分には十二人の兄がいると知ったこと。
そして、その兄たちに会いたくて、遠い森まで探しに来たこと。
兄たちは黙って話を聞いていました。
やがて――。
「それじゃあ、君は……。」
「僕たちの妹なのか?」
王女はうなずきました。
「はい。」
十二人の兄たちは、驚いて顔を見合わせました。
自分たちが城を離れたあとに生まれた妹。
一度も会ったことのなかった家族が、長い道のりを越えて、自分たちを探しに来たのです。
最初は戸惑っていた兄たちでしたが、妹の話を聞くうちに、その表情は少しずつやわらかくなっていきました。
「ずっと僕たちを探していたのか?」
「はい。」
「一人でここまで?」
妹はうなずきました。
「どうしても、兄さんたちに会いたかったから。」
兄たちは、妹を家の中へ迎えました。
こうして妹は、十二人の兄たちと一緒に暮らすことになりました。
森での暮らしは、城とはまるで違いました。
便利なものもありません。
食べ物も、自分たちで用意しなければなりません。
けれど妹は、兄たちと一緒に過ごせることがうれしくて仕方ありませんでした。
「今日は私も手伝う。」
「無理しなくていいぞ。」
「大丈夫。私も家族だもの。」
妹は兄たちを手伝いました。
兄たちも妹を大切にしました。
困ったことが起きれば、みんなで考えます。
誰かが疲れていれば、ほかの誰かが助けました。
もちろん、森での暮らしには大変なこともありました。
思うようにいかない日もありました。
それでも十三人は、力を合わせながら暮らしていきました。
長い間、離ればなれだった兄と妹。
生まれたときから、一度も顔を合わせたことのなかった家族。
けれど妹が一歩を踏み出したことで、兄弟はようやく出会うことができました。
そして最後には、ばらばらになっていた家族が、再び一緒に生きていく道を見つけました。
森の中の家からは、十三人の楽しそうな声が聞こえてきました。
長い年月を越えて出会った兄と妹は、それからも互いに助け合いながら暮らしていきました。
おしまい。
登場人物
妹
十二人の兄がいることを知り、兄たちに会うため遠い森まで探しに行く少女。長い旅にも負けず、自分から家族に会いに行こうと行動します。
十二人の兄弟
妹が生まれることをきっかけに城を離れ、遠い森で暮らすことになった十二人の王子たち。森では兄弟で力を合わせながら生活しています。
王さま・王妃
十二人の兄弟と妹の両親。王妃に新しい子どもが生まれることになり、それをきっかけに十二人の兄弟は城を離れることになります。
教訓
家族とのつながりは、離れて過ごしていても大切にできる。
会えない時間が長くても、相手を思う気持ちまでなくなるとは限らない。
大切な人に会いたい、何かを伝えたいと思ったとき、自分から一歩を踏み出す勇気が新しいつながりを生むことがある。
親子で話したいポイント
妹は、どうして会ったことのない兄たちを探しに行こうと思ったのかな?
十二人の兄たちは、妹が突然やってきたとき、どんな気持ちだったと思う?
自分の家族の好きなところはどんなところ?
家族と一緒にいて「うれしいな」と思うのはどんなとき?
離れている家族や大切な人に、伝えたいことはある?
保育士向け活用ポイント
家族や兄弟姉妹について考えるきっかけとして活用できる物語です。
ただし、家庭によって家族構成や生活の形はさまざまなので、「兄弟がいること」や特定の家族の形を前提にするのではなく、「自分にとって大切な人」「一緒にいるとうれしい人」といった広いテーマにつなげると扱いやすくなります。
また、妹が会ったことのない兄たちを思い、自分から探しに行く展開から、「大切な人に気持ちを伝える」「会いたい人を思い浮かべる」といった活動にも発展させられます。


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